「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
トリニティ総合学園の正門前の大通りをひたすら真っ直ぐに進んだその先に、飂熾冘巫髏の本隊が、時が来るのを今か今かと待ち受けている────。
ゴルコンダ&デカルコマニーにその報せを受けた私は、ハドマ学園の主力生徒を率い、彼等に送ってもらった地点へ急行する。
遥か後方からは爆音や銃声が聞こえてくる。今もきっと学園外では風紀委員会や便利屋やアリスク、学園内では正義実現委員会がそれぞれの部隊と交戦しているのだろう。
人数は多くとも、戦闘経験なら彼女達の方が上。それに加え、トリニティ部隊の過半数──学園内を担当していた方は、既に正実の手によって拘束済みらしいので、きっと、こちらに分があると言っても過言ではない。
「幹部すら捨て駒にするのか……。ルーシィのヤツ、堕ちるとこまで堕ちたわね……!」
「捨て駒というか陽動作戦?が主な気がしますね」
「どちらにせよ同じ事よ、本命は自分なんだから。全く、そのクセ人を惹きつける要素はあんのよね、アイツ……。フツーに腹立つわ」
「悪魔の甘言、とでも言うんでしょうかね。彼女の口車に上手くノセられた結果『飂熾冘巫髏』という巨大な組織が誕生してしまったような、何となく、そんな感じがします。カリスマがあるというより、単に、口が上手いんでしょうね」
「悪魔のあんたがそれを言うか」
「吸血鬼です」
「大別したら悪魔でしょうがよ」
「スズ先輩こそ。立派な悪魔でしょーに……」
「ふーんだっ。所詮、私のカリスマはルーシィ以下ですよーだ。ケッ!」
「まぁ……それは認めざるを得ませんね」
「んなっ……!?」
まぁまぁ、とスズを宥めつつ目標地点へ。しかしその時、懐の中でシッテムの箱が振動したのを胸で感じ取り、移動しつつシッテムの箱を取り出す。
画面を起動させると、アロナとプラナが机の上でグッタリしているのが表示される。
どうしたのかと冷や汗のようなものが飛び出す。反射的に意識を箱の中にダイブさせて、シッテムの箱の教室にログインする。
「どうしたの2人共っ!?何かあったの!?」
「えへへ〜……大仕事が、あったものでぇ……」
「え?」
「な、何とか、決戦の前に機能実装の準備が整って良かったですぅ……ふぃ〜……」
「結構、疲れました……アロナ先輩も、私も、かなりヘトヘトに……なってしまいましたが……」
「で、でもっ、先生の事はバッチリ守りますっ!」
「ちょっと待って、話が見えないよ。どういう事?機能実装って?決戦っていうのは、これから始まる飂熾冘巫髏との決戦だっていう意味だと解釈しても良いんだよね?」
「そうですぅ……はひぃ……」
「……ギュッと、してください……復活します……」
「え、あ、うん……」
「あーっ!プラナちゃんばっかりズルいですよぉ!私にも、私にも〜っ!!」
プラナとアロナが可愛くハグをせがんできたのでギュッと抱き締めてみた。数秒間そうやっていると目が死んでいた2人も即座に復活。アロナなんかはいつものキラキラの目で、机の上に登らんばかりの勢いでピョコピョコとジャンプするくらい元気に。
「それで、機能っていうのは?」
「はいっ!今回新たに実装するのは『スイッチングシステム』です!!」
「スイッチング……システム……?スイッチ……何かを切り替えたりするのかな?」
「肯定。戦闘の前に予め複数の部隊を設定しておくことで、戦闘中でも、先生の任意のタイミングで、それらの部隊を入れ替える事が可能になります」
「!?」
「ただ、任意とは言っても、一度入れ替えたら次に入れ替えられるようになるまで1分クールタイムがあるので……」
「いやいやそんなの気にならないくらい破格でしょその機能!神機能では……?」
「しかぁし!この機能の追加だけで終わらないのがアロプラクオリティですっ!!──この機能の追加だけで、スーパーAI姉妹のアロプラが、こんなにぐったりと疲れると思いましたか〜っ!?」
「恐らく先輩とは姉妹ではありませんが……」
「超超超〜っ、超大型アップデートなので!今回は更にもう1つ、大きなお知らせがあります!!」
「おおっ!?」
「プラナちゃん!ドラムロールスタート!!」
「ダカダカダカダカダカダカダカ〜…………ジャンッ……?」
「「先生も本格的に、部隊に編成ができるようになりました!!」」
「…………ッ!?」
口をあんぐり開けてしまう程に驚いてしまった。私を部隊に編成可能に──いや待って、この子達は一体何を言っているのだろうか……?
「いやぁ〜それなりに苦労したんですよぉ?先生、自分で戦いたい欲が強いんですから……」
「っ!」
「先生の『戦闘欲』を安全に発散させるには──とアロナ先輩と繰り返し議論してきました。そして、その結果が今回の追加機能です」
「生徒さんを指揮しつつ、自分も前線に立てます。勿論、先生の身は私達が全力で守りますから、安心してくださいねっ!」
「先生の身を守りつつ先生の強さを発揮させるにはやはり先生の戦型はTS──タクティカルサポートだろうと、結論付けました」
「これは、先生がハーレムを作ってきたからこその結果です!胸を張ってくださいっ!先生も、安全に前線に出られますよ!」
「ッ……」
「ただし、どの戦闘でも可能ということではなく、今回みたいな特殊な戦闘だけなんですけど……!」
「十分過ぎるよ」
夢みたいな話だ。特撮のヒーローみたいに、弱い私も、前に出て戦いたかった。でもキヴォトスではそんな望みは叶わない──ハズだったのに。
「本当に……安全なの?」
「はいっ!アロナバリアは無敵ですから!先生には怪我1つさせま……」
「そうじゃない。私の怪我はどうでもいい。意識があれば
「問題ありません!なんなら、
「!!」
「部隊に編成可能な『先生』は2種類実装します。先生が改めて
「2種類?それって別衣装みたいな?」
「それに近いと思われます」
「スイッチングシステムと先生の実装に10分近くの時間が必要です。その間は、もしルーシィさん達と出会ったとしても、戦闘開始してはいけません!」
「会話などで時間稼ぎをお願いします。それでは、シッテムの箱──アップデートを開始します」
プラナの言葉を最後にして、私の意識は強制的にシッテムの箱からログアウト。画面は真っ暗で何も反応しない。今頃この中でアロナとプラナが……。
「──ッ!……先生、見えてきました。前方450m、このまま直進です。ルーシィさんが隊列の前で──真正面で待ち構えています」
「え」
ルビーは走りながらそんな事を言うが、さっぱりよく見えない。確かに結構先に黒っぽいモヤらしい何かがあるようで、街灯に照らされて、夏の道路によく見られる陽炎のように揺らめいているのは少し見えなくもないものの、普通に遠すぎて何が何やら判別できたものではない。
「あ。……私、夜目が効くんです。吸血鬼なので」
「あぁ、成程……」
「先生も吸血鬼になってみれば分かると思います。結構、便利ですよ……?」
「吸血鬼化って可逆性あるの!?そういうのって、不可逆性じゃないかな!?」
「まだ吸血鬼として不完全……未熟者ですので……」
「あー!こらルビー!先生のこと、絶対に吸血鬼にするんじゃないわよ!?めっちゃ不便なんだから!先生が吸血鬼になったら致命的だっての!」
「え、なになに……何があったの……」
「コイツの吸血鬼化、太陽にスゴく弱くなんのよ!マジでもう二度と勘弁なのよ、日光を浴びただけで全身が痒くなるアレ!ハンドクリーム如きじゃあ、到底カバーしきれないあの絶望的な痛痒さ!晴れの昼間には全く外に出られなくなるのが、軽く3日は続くのよ!マジ勘弁なんですけど!ガラス越しでも日光は日光だから、当たると痒くなるし!!」
「……そこまで言わなくても……」
「てか首を噛まれるのも痛いし、二度とゴメンよ!デメリットがメリットを打ち消してるのよ!」
「……」
スズのアンチ吸血鬼化っぷりに誰が見ても分かるくらいにショボンとしてしまった。こんな、顔文字みたいなショボン顔が見られるなんて……。
スズの発言的に、彼女はルビーによる吸血鬼化の経験がありそうだ。
首筋に噛み付く……って、めっちゃエッチでは?
「ん〜、でもまぁ、身体能力やら素の再生力やらが上がるのはシンプルに良かったよねぇ♪」
「シエル先輩……!」
「それが短時間のバフとして使えればいいんだけどルビーってばまだそこまでの制御はできないから、まぁ、仕方ないとこはあるよ。寧ろルビーはレイコ以外だったらハドマの中でもトップクラスじゃん?よくやってる方だと思うよ〜?」
「〜〜〜〜〜っ、そ、そりゃ確かに、まぁ未熟ではあるけどっ?その他大勢よかマシではあるけど!」
わちゃわちゃしながらも、段々とルーシィ達との距離が縮まってくる。このまま進めば、数分後には真正面から睨み合う事になる。
「ハンッ。どーやら戦車もあるみたいだね。アレは私に任せて、あんなの秒で壊せるから」
「わかった。任せたよ、レイコ」
しかし──真正面に堂々と立つルーシィが私にも視認できる距離になった、その時。ルーシィの頭を飛び越え、何者かが隊列から飛び出してきた。
肩に細長い金棒を乗せ、牙を見せる獰猛な笑みを湛えた、太い金髪ツインテールの少女。バリバリの戦意しかなさそうなあの笑顔は────。
「博愛レイコってぇのはあんたね、白いの!」
「……何よあんた?誰?」
「あれ、ニュースとか見ないの?私のこと、かなり大きく報道されてたけど────まぁいいわ。私は百鬼夜行を停学中の
まさか、ここに来てユウナが立ち塞がるとは……。ルーシィのカリスマというか話術で外部にもツテを持たれるのは普通に面倒だ。
唯一ラッキーだと思える事があるとすれば、まだルーシィの魔の手がヘルメット団やチンピラにまで及んでいない事くらいか。
レイコが言うには、飂熾冘巫髏の傘下には確かにチンピラなども居るが、ルーシィではなくレイコに従っているのだそう。だから問題は無いらしい。
「────ルーちゃん!何で急にトリニティ攻めるなんて言い出したの!?」
「裏切り者と言葉を交わすつもりは無いわ」
「ッ戦争なんて間違ってるでしょうがよ!?てか、そもそも私達、復讐する側じゃん!まるで
「……ユウナ。来る前に言った通りよ」
「はいはい。あの白いのを潰したら、トリニティは潰し放題、ブッ壊し放題ってワケね♡♡」
「構わないわ。堕天使ルーシィの名の下に……!」
「だてんし?ってぇのはよく分かんないけど、街を壊せるんなら、ヤル気もアガるってモンよッ!!」
「────ッ!!」
ユウナvsレイコの戦闘が、始まった。戦車による援護射撃もある。ユウナもレイコも銃より近接攻撃主体なところがあるので、相性自体は悪くはない。しかし、パワーではやはり、ユウナが上回っているようだ。
「レイコ、単独で戦っちゃダメだ!私が指揮する!従ってもらうよ!」
「あぁ!?援護射撃があろうと、1人くらい私なら片付けられるっつーの!舐めてんの!?」
「一旦冷静になって考えるんだ!レイコの強さを、誰よりも知っているルーシィが選んだ相手なんだ!レイコを倒せる自信があるから──」
「うっさいなぁ」
「ッ!!」
舌打ち混じりにハンドガンを発砲するルーシィ、その弾丸は私の胸元に向かって────。
「っ……」
「スズ!!」
危なかった。咄嗟にスズが庇ってくれなければ、きっと死んでいた。今はまだシッテムの箱のアプデ途中で、アロナバリアは働かない状態。ギリギリ、九死に一生を得たようだ。
「当たってないわよね、せんせー……?」
「あ、あぁ……ありがとう、スズ……助かったよ」
「ッ、ルーシィッ!あんた、今、マジに先生のこと撃ったわね……!?」
「どーせ死なないと思うしィ、実際、無事じゃん。こっちにはこっちの計画があんのよ。邪魔されたら嫌じゃん?だから先生、さっさとリタイアして?」
「……ルーシィ。大人しくしろ──とは言わないよ。どうせ無駄だろうしね。だけど、抵抗するのなら、タダじゃ済まさないよ」
「だったら何だっての?やってみなよ。こちとら、レイコやアスカの裏切りでずっとはらわた煮えくり返ってんのよ!」
「君の暴走を見かねたから組織を飛び出したんだ。レイコ達の想いに答える為にも、絶対にここで君を止める。……これ以上、君の手を汚させはしない」
「ッ!!ユウナ!さっさとレイコをブッ倒しな!」
「言われなくとも……!!」
その時、シッテムの箱が再起動を果たす。しかも起動と同時に編成画面に移行している辺り、やはりアロナとプラナは有能だ。
どうやらレイコの事は固定で編成する必要があるらしい。それならそれでいい。総力戦のときと同じようなパーティで構わないだろう──と思ったが、ツルギとモルモは今も前線で活動中な上、ナギサはセーフティハウスに避難中だった。
編成も出撃も一応できるようだが、今その3人をこちらに呼んでしまうのはちょっぴり都合が悪い。それならその3人の代わりの3人を選んで……。
「────よし。総力戦じゃないしこれくらいでも勝てるハズだ」
第1部隊にレイコ、コハル、ミカ、私、ヒマリ、水着シロコを編成。念の為の第2部隊にはハドマの生徒を編成し、レイコと合流して戦闘を開始する。
「せ……先生っ!?」
「先生が前線に出てきちゃダメじゃんッ!?」
「問題無いよ。今の私ならね」
「「……!?」」
「もう少し溜めて…………ヒマリ!お願い!!」
『天才美少女ハッカーの真髄、お見せしましょう』
ヒマリのEXで、ミカにバフをかける。続けて、ミカのEXでユウナに大ダメージを与えHPバーを大幅に消し飛ばしてやる。
「ッッ……そのピンク頭とは前にも会ったわね……!また私の邪魔をしようっての!?」
「ツノ生えてるクセに記憶力イイね☆」
「あ゙ぁ゙ッ!?ふざけてンじゃ──」
「余所見してんじゃあないよッ!!」
「がはっ……!?」
ミカが煽り、それにノッたところをレイコが隙を突いて攻撃を与えていく。EX以外でも、こうして的確にダメージを与えていくが────。
「『
その瞬間、地面を突き破ってビナーが出現した。少し小型化しているようだ。ミカは、コハルと私を抱え咄嗟に回避、レイコも無事に回避したようだ。しかしユウナや飂熾冘巫髏の陣営はそうもいかないようだった。
「ぎゃああああぁぁっ!?何なのよコイツ!?」
「コイツは確か──ビナー……ってヤツ……!?」
「モル姉に聞いた事ある!
ルーシィの指示でレッドウィンター部隊の戦車隊がビナーに砲撃を浴びせる、しかしビナーに大したダメージは通せないらしく、飂熾冘巫髏はどんどん蹂躙されていく。
「ねぇ、先生?これ、どうなってるの……?どうしてビナーがアビドスじゃなくてトリニティに……?」
「……」
「しかも敵対してるのは相手の方で、私達の方には見向きもしないし……」
「……ルーちゃん……」
────成程。アロナの言っていた言葉の意味がやっとわかった。確かにこれはハーレムの結果だ。アイン、ソフ、オウルとの関係があってようやく、私のスキルとして組み込めたんだろう。
しかもスキルの効果を今更ながらに確認したが、ビナーを召喚するのではなくて「デカグラマトンの預言者」をランダムで召喚するスキルらしい。*1
「『
戦闘開始から60秒経過。追い討ちとばかりに私のスキルが発動した。すると上空からヘリでミヤコとサキとミユが参戦。モエの援護射撃も加わり、敵を素早く制圧していく。
彼女達の手際に見惚れていると、ハッと気付いたようにミカが拳をギュッギュッと握る。
「────あ、
「!?……よしっ、ミカ、ユウナにトドメだ!」
「オッケー☆…………あなた達の為に、祈るね☆」
「────ッッ!!!」
RABBIT小隊が帰還するのと同時に、ミカのEXでユウナを倒してしまった。ユウナの気絶を確認し、ビナーも来た穴に戻ってしまった。
これで、残るは、ルーシィの率いる飂熾冘巫髏の本隊だけだ。シッテムの箱は戦闘終了画面────私達の勝利だ。戦闘終了後は、ミカ達は帰還させ、私達の会話ターン。
「……ルーシィ。降参するんだ」
「く……っ!!」
「これでもう分かったでしょう、ルーシィ?先生の指揮には敵わない。助っ人も何も関係無く、ね」
「もう終わりだよ、ルーちゃん。もう、こんな事はやめよう?本格的に始まる前に終わりを宣言して、平和に終わらそう?」
「うるさいッ!!やると決めたら、最後までやり通すのよ!総員ッ、敵を叩き潰しなッッ!!」
ルーシィの指示を受けて、飂熾冘巫髏の本隊が、とうとう動き出す。本番は、これからである。
次回────存在しない記憶