「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
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ルビーに呼ばれた私はハドマ学園の第1体育館へやってきた。鍵は開いているから好きに入っていいとのことなので、遠慮なくそうさせてもらう。
しかし何やら様子が変だ。ルビーではなく体育館そのものの様子がおかしい。まるで、中で映画でも見たり、スクリーンに映像を投影しているように、内部が暗い。どうやら、体育館内に設置されているあの分厚くて黒い遮光カーテンをしているらしい。
体育館内は普通に電灯を点けているらしく、外と変わらない明るさだった。尚更、何故カーテンなど閉め切っているのか分からない。
「ルビー、居る?……あ、居た」
「あ、先生。早かったですね」
「たまたまだよ。さっきまで、ゲヘナ自治区内での仕事があったものだから」
「成程です」
体育館らしくバスケットボールのゴールリングが幾つも設置されていて、ルビーはその中の1つに、何度も3ポイントをキメていた。普通に上手い。
私に気付くと、体育倉庫らしい近くの扉を開けて無造作にボールを投げ入れる。ボールの籠なんかが中にあって、そこにシュートで入れたんだろう。
私も学生の時分にはよくやった。寧ろ、ボールを片付けるのに「置きに行く」者など居るだろうか?大抵は、籠があるなら「投げ入れる」だろうな、と何となくだがそう思っている。
「それで、特訓っていうのは?まさか体育とか?」
「えぇ、まぁ……体育と言えば、体育ですかね」
「?」
「ですが、これは……保健体育かもです……♡」
「────ッ!?」
ハドマ1の美少女モデルのルビーと行う保健体育なんて、そんなの、セックス一択だろう。喜び勇みスーツを脱ぐが、当のルビーは……。
「あ、別に脱がなくても結構ですよ」
「着衣がお好みなのね!?」
「??……まさかとは思いますが、先生……
「!!」
「全く────
「ゔっ♡」
唐突な美少女吸血鬼モデルの耳元囁きASMR、助かるゥ〜……♡
◆
「あ。……はぁ。少しは落ち着きました?先生?」
「お陰様で……ふぅ」
「なら良かったですが……」
体育館近くのお手洗いを借りて「処理」した私は冷静になった頭で体育館に戻る。その間、ルビーは今度はバレーボールでサーブの練習をしていたが、先程と同じように、床にスパイクを打つようにして体育倉庫にボールを返却していた。
「それでですね、保健体育かもっていうのは、実は私の生態に関わる事だからでして」
「ルビーの……って事は、吸血鬼のって意味?」
「はい。吸血鬼は、交配だけでなく吸血する事でも同族──いえこの場合は『眷属』と呼ぶ方が語弊が無いでしょう。吸血で眷属を増やせるワケですが、実は、生まれつき備わっている機能にも関わらず、速く走るのと同じように、ある程度とはいえ研鑽が必要らしいんです」
「成程、だからそれに付き合って欲しいと」
「はい。私がコレを苦手としているのはスズ先輩に聞いているでしょう?」
「あー……うん」
やたらボロカスに言ってたから記憶に残ってる。確か3日くらい吸血鬼化したままなんだったっけ。だけど私の場合はそうなると困るんだよなぁ……。
「可逆性があるって事は聞いてる。でもその技術の終着点は、本物の『眷属』を完成させる事でしょ?それだと特訓に付き合ってる内に、ルビーの技術の向上に伴って、私も、本物の吸血鬼になっちゃうと思うんだ。それだと色々と都合が悪くてさ……」
「──先日、ゲヘナ学園の風紀委員会と、交流会を行いまして。その場で、風紀委員会のモルモさんに吸血鬼の技能について、軽くご指導を頂きました。少なくとも注入するエキスの量で調節できますし、私の技術が成長しても先生の事は本当の吸血鬼にはしません」
「うーん……」
これはどうするべきだろう。もしも「私は人間をやめるぞ!ミカーッ!!」状態になったとしたら、それはきっと大変な事になるし、なによりルビーが色々と思い詰めてしまうかもしれない。
「……先生。どうしても、ダメ……ですか……?」
「うっ」
もしもの時の事を考慮して頭を悩ませていると、上目遣いの彼女がうるうるした瞳で見つめてくる。見ているだけで吸い込まれそうな真紅の瞳が、私を真っ直ぐ、逆らえぬ可愛さを帯びて見つめてくる。こんなの、どう逆らえと言うのだ────。
◆
「──それで、どうやって『吸血鬼化エキス』?を私に投与するの?ホントに吸血しながら?」
「吸血しながらです。私達の吸血には2パターンがあります。1つは食事の為の。もう1つが、眷属を増やす為のモノです。前者はただ血を吸うだけで、後者は血を吸いつつ己のエキスを注入するんです。その使い分けは本能で理解し生まれつきできます」
蚊みたいなものか。蚊も、血を吸うだけじゃなく自分の唾液を注入する。それが痒みの元になるのは有名な話だ。吸血鬼の場合はそれが、痒みではなく吸血鬼化として表れるらしい。
「じゃ……いただきますね、先生の血……♡」
「っ……」
首に噛み付くらしいので、首元を大きめに露出し彼女に差し出す。大きく牙を剥き出したルビーは、私に抱きつくように手を回して身体を固定すると、ズブリと深く牙を突き立てた。
一瞬だけ鋭い痛みが走った。しかし次の瞬間には痺れるような甘い感覚が噛まれた部分を中心にして全身に広がるようになった。
「あッ……?なっ……何、これ……ッ」
じんわりゆっくりと、私の身も心も浸食してくるような快感の波に襲われる。
手コキされるような一気に押し寄せてくる波ならどれだけ良かっただろうか。こんなにもじんわり、じんわりと──沈没していく船舶の中で、どんどん酸素が減っていくような感覚に近いかもしれない。
あまりにゆっくり襲い掛かってくるから、いっそ一思いに
「……♡ はぁ……あ゙っ…………クッ……うぅ……♡」
「ぷは……っ。先生の血、濃いですね。しかも少し、ドロッとしてます。あまり健康的ではない味です。でも、嫌いじゃない……寧ろ好きかも、です……♡」
ペロッと噛み跡を舐めて、垂れた血を舐め取る。不意に熱い舌で首を舐められて、背筋がビクビクと震えてしまった。
「なんで、噛まれて気持ちイイの……っ……」
「そういえばまだ言ってませんでしたね。吸血鬼に吸われるの、気持ちイイんですよ。子孫を残す為の行為であるセックスが気持ちイイのと同じですね。私達にとって、眷属を増やすのは第二の生殖行為と言えます。気持ちイイのは、ある意味で当然です。まぁ、セックスと同じだと言っても、私はまだ処女なんですけどね」
「ゔっ……♡♡」
ルビーが処女だという情報を得た直後、反射的にルビーを抱く腕に力が籠る。
「っ……先生、力が強くなってます……?」
「え」
力が強くなった自覚もあまり無いまま、背中に、ムズ痒さを感じる。やがてワイシャツやスーツ等を突き破り、肉厚で力強さのある悪魔の──吸血鬼の翼が、私の背中から生えた────!!
「えっ……えええええっっ!?ちょっ、私、これっ、人間やめてない!?」
「おぉ……眷属化で翼まで生やせたの、初めてです」
「ええっ!?いつもはどうだったの!?」
「せいぜい力が強くなり、牙が伸びて、私と同じく眼が紅くなり、日光に弱くなる程度でした。元から翼が生えてるからとかではなく、新たに翼が生える等も無かったです。翼が無いリエ議長の事も以前、少し吸血鬼化させた事がありますし、それは確かなハズです」
「ルビーも割と色んな子に手を出してるね!?」
「七天魔って、横の繋がりは割と強いので……」
「そういう問題かなぁ……?」
「まぁ、何にせよ──体育館の遮光カーテン、予め閉めておいて正解でしたね。もしも開けていたら、吸血鬼化と同時にジリジリと焼かれていましたよ」
「ヒェッ」
「一気に焼けることはないと思いますけどね。私、少し苦手な程度ですし、今の先生はそんな私の眷属ですから」
「……?弱点は眷属に引き継がれるの?」
「ええ、大体の場合はそうですね。私は日光だけが苦手なんですけど、人によってはニンニク、流水、銀、行った事の無い場所、炒った豆──などなど。人によって苦手なモノは様々ですし、複数のモノが苦手な場合もあります」
「十字架は?ファンタジーだと十字架もよく弱点とされてる事が多いけれど」
「十字架は平気です。基本的に皆、無宗教なので」
「無宗教」
「日光が弱点なら焼け、酷ければ爛れます。最悪の場合は蒸発するように消えるとか。まぁ単なる伝説レベルですが、そう聞いた事があります」
「ひっ……」
「ニンニク、銀、炒った豆は……まぁ大した事ないと思います。アレルギーのようなものですし、程度があるようですが、最悪死ぬとはいえ酷くても重症で済みますから」
(それもかなりヤバくない……?)
「問題は流水ですね。シャワーを浴びられないのはもちろん、川にも近付けません。橋を渡るにしてもかなり高い橋でないと渡れません。もっと言うなら雨すらもダメです」
「え……じゃあそういう子はどうしてるの?」
「簡単な話ですよ。シャワーを浴びられないので、バスタブにお湯を溜めて、慎重に入り、風呂の中で身体を洗うんです。髪を洗うのさえ、風呂の中で。髪を流すのも、ゆっくり潜って、石鹸が流れるまで手揉み洗いするんです」
「……大変、だね……」
「日光と流水は生活に支障が出まくりですからね」
「もし流水に触れると、どうなるの……?」
「大きく分けて2択です。身体が動かなくなるか、逆に、手が付けられないくらい大暴れするかです。前者なら誰かが運ぶか放置するしかありませんし、後者なら体力が完全に尽きるまで放置してひたすら暴れさせるか、どうにか気絶させるか、ですね」
「た、大変だね、吸血鬼って……」
「大変ですよ。ただその分、他の平均的な悪魔の方よりも膂力はありますし、特殊な技能もあるので、感謝してる子もそれなりには居ます。私もその1人ですから。それに、種族特有のアレルギーみたいなものだと考えれば、少しは我慢もできますよ」
「アレルギー……かぁ」
それにしたって随分と致命的だ。花粉症の生徒が春と秋に苦労していたりするし、それと似たようなものなのかもしれない。どちらにせよ大変だな。
「どうですか、先生。身体の具合は。いつもよりも力が出てる感じ……しませんか?」
「と、言われても……」
「試しにバスケットボールでも投げますか。片手でコートの端から反対のゴールに入れてください」
「それは流石に無理じゃないかな!?」
「いいからやってみてください、私の眷属なら余裕ですから」
「は、はい……」
ルビーからパスをもらってボールを投げてみる。すると私の投球で、ド派手な音を立てて、ボードがへし折れてしまった。
「わ……わぁ……やっちゃった……」
「……先生、加減が下手なんですね……」
「い、今のはちょっと力を入れ過ぎたかな……!」
試しにダンクシュートしてみたら、思ったよりもジャンプが高くなってリングに身体をぶつけるし、力の制御ができない化け物みたいな体験ができた。できればもう体験したくないところである。
◆
なお、不完全な吸血鬼化についてのみ、その人の代謝にて解除されるのが早くも遅くもなるようだ。
この時の私はルビーと体育館で運動したお陰で、汗として排出したからなのか、ものの数時間で人に戻る事ができた。
その後、シエルやリエなどに過去の経験について深掘りして得られた結論によると、誰よりも解除が遅かったスズは日光を恐れて室内に引き篭っていたから、それだけ解除も遅かったらしい。
思ったよりも気軽に人と吸血鬼を行き来できると知った私は、若返りの薬よりずっと、ルビーによる吸血鬼化にハマる事になった……。
次回────遂にルビーと結ばれ……!?
Q.ドロッとしてて健康的じゃない血なのに、なんでそれが美味しいの?先生補正?
A.ポテチって美味しいでしょ。ジャンクフードも。健康的じゃない食べ物だと頭では分かっていても、また食べたくなる。世にある美味しいモノの多くはきっと健康的じゃない。先生の血はルビーにとってマクドナルドのようなジャンクフードなのです。