※この作品はR-18です。

「先生!もっとあたしらに構って!」   作:アキラゼミ

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シエル編第2話:あんたのせいで

 

「おはよー先生、朝からお疲れ様〜」

 

「おはよ、シエル。今日はよろしくね」

 

「シャーレの当番かぁ、緊張するなー♪」

 

「まぁ今日は初めてだから、色々と見て終わるとは思うけどね」

 

 ────今日のシャーレの当番は、ハドマ学園の副生徒会長こと副議長、弖使魔(てしま)シエル。併合される危険性が無くなった現在、連邦生徒会対策委員会を解散して手持ち無沙汰となったので、飂熾冘巫髏(ル・シュ・フェル)の総長と発覚して生徒会をクビになったルーシィの、言ってしまえば後釜である。

 

「ところで、シャーレってシスター雇ってんの?」

 

「シスター……?雇ってないよ?」

 

「あれ、そうなの?さっき金髪のシスターが花壇に水やってたけど。じゃあアレもどっかの生徒なの?シスターだし……トリニティとか?」

 

「金髪?──その子は生徒じゃなくて、シャーレの私兵だね。他にも3人居るけど、後で紹介するね」

 

「そんなの居んの!?おっかなー……。でもでもっ、シスター服を着せるなんて、先生の性癖見たりって感じだね☆」

 

「私の性癖、ではないかな……」

 

「はいはい♪」

 

 それからシエルには執務室の中を好きに見学させ仕事についてサラッと教えていく。その中で、机の上のモノに何やら興味を示したらしい。

 

「ヤケにパソコン多いねぇ」

 

「何人かでパソコンを使うような作業もあるから、自然と増えちゃうんだ」

 

「ふーん……あれ、この『秘書席』って?」

 

「あぁ、そこは私の専属秘書の席だよ。当番の子はあっちのパソコンを使ってね」

 

「専属秘書……?そんなの居るんだ」

 

「特設──というか、割と最近になって設置したんだけどね。ちょっとここの所、色々と忙しくって」

 

「成程ね、先生も大変だー。その秘書さんは今日はお休み?」

 

「今日は少し遅出。昨日が遅かったから今日は少し長めに休ませてるよ。ついでに、ちょっとお使いに行ってもらってる」

 

「そういうのアリなんだ、働きやすそうでいいね。秘書さんが羨ましいや」

 

「多分、そろそろ来るとは思うけど────」

 

 すると、まさに噂をすればというヤツだろうか。連邦生徒会──リンちゃんから密かに受け取ったであろう書類の束を抱えたカヤが執務室に帰還した。

 

「おはようございます……はぁ、おッも……」

 

「うわ、何それ。提出分、ちゃんと提出した?」

 

「しましたよッ、全部!これは新しい書類です!」

 

「嘘でしょ……。今日は新人教育あるからそこまでの時間は取れないって言ったのに……」

 

「そこまで急ぎでもないらしいです、しかしどれも期限はありますよ。とりあえず先生でなくとも処理できる書類は私がやりますので。……えー、初めてのあなた。早く仕事覚えて手伝ってくださいねっと……あーもう何ですかこの量は……」

 

 ドゴンッと轟音を立てて、カバンに入った書類の山を机に叩き付ける。音で分かる、かなりの量だ。ランドセルに入れた方が持ち歩きやすいレベルの。

 しかし、カヤの登場を見たシエルはその瞬間から既に全身を硬直させていた。

 そしてカヤが彼女を一瞥して席に着くが、彼女は拳を握り、ワナワナと震え出した。

 

「……まさか……不知火カヤ……?」

 

「はい?」

 

「なんッ、で……あんたが、ここに居んの……?」

 

「何故って──ああ、そういう意味ですかね?私が死んだ、行方不明だ、というのは悪質なデマです。私は当初の予定通りにシャーレの先生に拾われて、連邦生徒会を追われてからも普通に過ごしてます」

 

「あっそォ。……ざけんじゃないわよッ!!」

 

「ひぃッ!?ぎゃふっっ!」

 

 一歩で大きく距離を詰めたシエルは、椅子に座るカヤの胸ぐらを掴み、グイと持ち上げた。カヤよりシエルの方が背が小さいが、カヤの足が浮くくらい腕を上げ、カヤをぶら下げている。

 

「シエル!?何やって……」

 

「来ないで先生ッ!これは、コイツと私達ハドマの問題なのよッ!!」

 

「ハドマの問題……?」

 

「────ッ!!?先生!この生徒、ハドマ学園の生徒なんですッ!?なんで私を避難させなかったんですか!?こうなる(・・・・)から私は行かないって、先生がハドマ学園に行く前に言ったでしょう!?」

 

「もうハドマ学園の問題は終わったから大丈夫だと思って……」

 

「問題は終わっても遺恨は残るでしょう!?本当、何処までも甘い人ですねェ……あぐぁッ!!」

 

「ヘェ〜〜〜〜〜〜ッ?あんたが起こした問題を?

『遺恨』で済ますんだぁ??反省の色、無しィ?」

 

「痛い痛い痛い゙ッ、首締まっでまずっで……」

 

「お前のせいでッ!お前のせいでッ、私らハドマは連邦生徒会内での発言権を失ってるんだッての!!どう始末つけてくれんの!?2年も連邦生徒会内で過ごしてたのに、お前のクーデターに巻き込まれたお陰で!今更、下っ端に逆戻りしたんだよッ!!」

 

「あうっ……」

 

「何とか言えよッ!七神リンの方がマシだったよ、併合を勧めてくること以外はな!あんたがあの時、七神リンをこき下ろしたせいでッ!あんたが、変に連邦生徒会内で台頭したせいで!私達ハドマ学園の生徒のみならず、あんたの部下達は、軒並みそれに巻き込まれたんだ!!」

 

「……ッ」

 

「あんたのせいでハドマの立場が悪くなったのよ!あんたのせいで部下の立場どころか部下の出身校の立場も悪くなったっての、自覚してんのッ!?」

 

「……あ」

 

 あれは確かハドマ学園に向かう前の事だ。カヤがヤケにハドマ学園について詳しかったから、それは何故なのかと尋ねた事があった。

 私のそんな質問に対して「防衛室長時代の部下にハドマ出身の生徒が居たからだ」と言っていたのを思い出した。それに加え「私が行けばボコられる」という事も言っていた覚えがある。

 アレは……そうか、こういう事だったのか。

 

「そッ……げほっ、ゲホッ……」

 

「あぁ!?何だって!?」

 

「シエル。締められてちゃ話したくても話せない。カヤの話を聞く為にも、手を離しなさい」

 

「……チェッ。先生に感謝しなよね」

 

「ゲホゲホッ、ゴホッ……!!」

 

 シエルに手を離され、床にへたり込む。シエルは変わらず、極めて冷たいゴミ以下のモノを見る目でカヤを見下ろしている。

 カヤは涙目になり、許しを乞うような目で彼女を見上げ、ポツリポツリと話し出す。

 

「かつての部下達については、本当に申し訳ないと思っています……。私がカイザーコーポレーションと手を組み、七神リン行政官に代わってキヴォトスを統治しようとしたばかりに、統治どころか、逆に、世間を更なる混乱に陥れてしまい……ッ」

 

「『申し訳ない』?よくもそんな思ってもない事をツラツラと言えたもんだね〜。私らバカにすんのも大概にしろよッ!?」

 

「ひっ……!?」

 

 カヤの顔面を蹴ろうと足を振り抜く────が、すんでのところで私の手が彼女の足を掴みカヤへの暴行を食い止める。

 

「……なに、先生。邪魔すんの?」

 

「締め上げるだけならともかく、これ以上の暴行は見過ごせない」

 

「暴行……?違う違う。これは、制裁(・・)……ね?」

 

「法規に則っていない以上、単なる私刑だよ」

 

「ふぅん……?超法規的措置っつーことで、特例的にシャーレに引き取るようにした先生がそれ言うの?先生こそ法規に則ってないんじゃなぁい?それともまさか『私が法規だ』とでも────」

 

「私が法規だ(・・・・・)。──カヤは私が引き取ると決めた。恨む者が多いと分かっていて、敢えて引き取った」

 

「はぁ?マジで何でよ?意味分かんないんだけど。そいつがどれだけ多方面に迷惑掛けたか、先生なら分かるでしょうよ?」

 

「カヤのやろうとした事は、治安の維持と統治だ。手段は最悪だった、でも治安を良くしようと考えた彼女の思想だけは──それだけは肯定したいんだ」

 

「はぁ???ごめん、マジで理解できない。思想がどうあれ手段が間違ってたらそりゃ罪じゃん。悪を許せないからって犯罪者を殺したら犯罪でしょう?裁かれるべき悪でしょうが?先生はそういうヤツを庇ってんのよ?その辺のこと、分かってんの?」

 

「分かってる。これは私のエゴだ、独善だ。当然、批判も覚悟してる。カヤのせいで連邦生徒会内でのハドマ学園の立場も悪くなった──っていう話は、今ここで初めて知ったけれど……」

 

「でしょうね、だったら庇い立てとかできないわ。んじゃ、それ知ったんなら退いてよ。元(・)とはいえ、連邦生徒会対策委員会の委員長としてそいつの事は最低限、ボコらないと気が済まないのよッ!!」

 

「……でも、カヤも反省してる──」

 

「どこがよ!?コイツのどこが反省してるって!?さっき先生に向かって何て言ったかもう忘れた!?コイツは、さっき先生に向かって『なんで私を避難させなかった』とかほざいてたのよ!?こうやって被害者から報復されるって分かってるからよッ!!また逃げるつもりかよ、不知火カヤァッ!!!」

 

「げふっ……!?」

 

 私の手を振り切り、カヤの脇腹に蹴りを入れる。こうなると予め分かっていたら、今日だけはカヤを呼ばなかっただろう。自分の認識のあまりの甘さに反吐が出る思いだ。

 

「やめるんだシエルッ……!」

 

「はぁ?先生が悪いんじゃん、コイツを庇うから」

 

「復讐は新たな憎しみを生む。確かに復讐は良い、気分はスッキリするし心機一転、新たなスタートを切れるだろうね。だけど決してそれだけじゃない。必ず連鎖していく」

 

「知ったような口を────」

 

「ゲヘナ学園での抗争がまさにそうでしょ?」

 

「!?」

 

「ただの生徒会への逆張り集団だった失楽殿でも、行き過ぎた手段を選んだせいで一夜にして滅びた。これで終わったと思ったらその陰に隠れていた者が逃げ出してハドマの生徒会に成り代わった。今回のルーシィの暴走だって、元はと言えば終わりの無い復讐が原因だったでしょう?──その被害を受けたハドマ学園の副会長である君が、また──今度こそ止まったハズの連鎖に、新たに手を加えて、今一度負の連鎖を再開させようとしている」

 

「ッ……」

 

「無条件で許してくれ、とは言わないよ。確かに、カヤは裁かれるべき所から逃れたとも言えるから。だけど、行き過ぎた暴力は、絶対に間違ってるよ」

 

「………………」

 

 私も以前、そっちに心が転がり落ちそうになった経験があるからこそ、実感や確かな確信を持って、彼女にそう言える。私も、シエルと同じなんだ。

 

「…………ごめん、やっぱ納得いかないわ。帰る」

 

「シエ──」

 

「モモトークもブロるから。私の頭が冷えるまで。そんじゃ先生、またどこかで。……んじゃ」

 

 平坦な口調で、背中を向けながらそう言い放ったシエルは、執務室を飛び出して行ってしまった。

 私は────どうするのが正解だったのだろう。




次からはアスカ、サエ、レイコの誰かです。
この3人が終わり次第、Vol.2のストーリーに。
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