「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
第1話:ゲマトリア、ハドマ学園に接触する
────ハドマ学園。悪魔と天使が共存する上、ゲヘナより民族大移動を果たした悪魔「吸血鬼」をキヴォトスで一番多く保有する学園である。
そしてその吸血鬼の99%以上が
主にハドマ、トリニティ、次いでゲヘナ、レッドウィンターなど、あちこちに飂熾冘巫髏の構成員は潜んでいる。ハドマ学園などはその最たるもので、構成員は、全校生徒の実に6割以上を占めている。それでも普通に登校しているのは、誰が構成員かが未だに不明瞭であることが主な要因だ。
ヘルメット団のように、特定の衣装や目印となる物が無いのが特に大きい。構成員は基本的に自らの制服で行動している。だから特定できるのは「その学園の生徒」という情報だけなのである。
その点、組織の幹部陣を除き、構成員の吸血鬼に関してのみに言及するのなら、実に分かりやすい。
飂熾冘巫髏の元副総長である
言うなれば、この2人以外の吸血鬼は全員が敵、全員がテロ組織の構成員なのである。
────しかしある日を境に、吸血鬼の構成員が少しずつ、ほんの少しずつ、減りつつあった……。
◆
「────これが新しく建ったハドマ学園ですか。成程、万魔殿の圧力で建っただけの事はある。少々ゲヘナ寄りのデザインになっているようだ」
「そういうこった!」
飂熾冘巫髏大決戦を経て、大戦前にゲヘナ学園と併合されたハドマ学園は再度ゲヘナ学園と分かたれ大きく成長を遂げた。
しかしそんな所に、探究者集団「ゲマトリア」の一員であるゴルコンダ&デカルコマニーの2人が、ふらりと現れた。
「ふむ。『先生』を通して視ていましたが、中々に複雑な学園のようだ。トリニティとゲヘナがああも対立している中、この学園では両種族の諍いも殆ど見受けられない。ただただ、この学園がそういった校風なのか、それとも────どちらにせよ稀有な環境と言わざるを得ませんね」
飂熾冘巫髏は主に悪魔の生徒が加入して、天使は飂熾冘巫髏には加入していない。だから表面的には両種族の諍いが目立たないだけなのでは──と予想していたゴルコンダだったが、すぐにそれは違うと察する。
校門から観察できる範囲だけでも、飂熾冘巫髏の構成員である吸血鬼らしき外見の生徒と見るからに天使の生徒が仲良くしている様が目に入るからだ。
今のハドマの生徒にとって「2人以外の吸血鬼は飂熾冘巫髏」というのはそれなりに有名で、これは統治委員会のメンバーでなくとも知っている事だ。それならば、そんな生徒と仲良くするのなら、同じ飂熾冘巫髏の者でないと道理に適わないだろう。
「……ふむ。では、接触を試みましょうか?」
「そういうこったぁ!」
彼が校門より向こう側に足を踏み入れようとしたまさにその時。ゴッと硬いモノがデカルコマニーの背中に突き付けられる。
「どッ、どういうこった……!?」
「あぁ?それはこっちのセリフ。アンタ、
「おっと。まさかデカルコマニーが背後を取られるなんて。中々の手練れのようですね」
「こちとら、実力主義社会の統治委員会で、ずっと委員長を
「フフ、それはやめてあげてください。不死でも、痛みはあるものですから」
「あー?何をワケの分からん事を……」
デカルコマニーの背後を取った少女、統治委員長である
頭の無いデカルコマニーと、絵画のゴルコンダ。見るからに怪しい2人組だがロボ店員や二足歩行の獣人が跋扈するこのキヴォトスでは、そこまで特異でもないようにスズには見えていた。
しかしスズの姿を直接視認したゴルコンダは声を漏らして感嘆した。
「ほう……本当に透明な翼だ。まるで虫の羽。今にも羽音が聞こえてきそうです」
「あ?」
「いや失礼。私は──研究者集団『ゲマトリア』のゴルコンダと申します。こちらは、私の肉体を代行しているデカルコマニー。よろしくお願いします」
「そういうこったぁ!!」
「あぁそう、よろしく──じゃなくて!研究者?がウチの学園に何の用よって!」
「そうでした。えぇと、生徒会長さんに折り入ってお話があるのです。もし宜しければ生徒会長さんへアポイントを取って頂きたいのですが……」
「生徒会長ね。まぁアポ取るくらい別にいいけど。どうせ居るだろうし、ちょっと待ってなさい」
「ええ。よろしくお願いしますね」
それから暫くして生徒会長である
呼ばれた本人であるリエは、誰だろうかと2人を見てただただ首を傾げ、眉をひそめるのみである。
「はじめまして、ハドマ学園の生徒会長さん。私はゴルコンダと申します。しがない研究者の1人、と思って頂いて構いません。こちらは私の肉体を代行しているデカルコマニー。以後、お見知り置きを」
「そういうこった!」
「?……研究者の方、ですか?研究者がハドマ学園に何の御用でしょう?」
「えぇ、少々ご相談したいことがありましてね……。我々の研究を次の段階に進めるには、ハドマ学園の生徒さんの協力が不可欠なのですよ。それについてまずは学校の代表である生徒会長さんに先にお話をさせて頂きたいと思いましてね」
「研究に、我が校の生徒の協力が?イマイチお話が分かりませんわね……。ともかく、お入りください。紅茶でも飲みながらゆっくり────えぇと、紅茶お飲みになれます……?」
「ええ、デカルコマニーなら飲めますよ」
「そういうこったァ!!」
「そ、そうでしたか、失礼致しましたわ」
頭の無いデカルコマニーがどうやって飲むんだとツッコミを入れたいリエとスズであったが、一応は客人である為、そんなストレートな疑問は口にせず彼らをハドマの校内へ招き入れる。
生徒会室──ではなく、新設したばかりの新しい応接室である。ゲヘナ学園の議長、羽沼マコトから援助を受けての建設なので極めてゲヘナ学園寄りの内装となっている。
客人として迎えた以上、彼らの対応はリエに任せスズは統治委員会の仕事へと戻って行った。
「────えぇと、我が校の生徒に協力を頼みたいという事でしたが?お2人?は、一体、どのような研究をなさってる方なのでしょう?」
「特に──コレだという固定のモノを研究しているワケではございません。言うなれば神秘、そして、崇高、
「はぁ……」
「異能、とも申してみましょう。無から有を生む、または召喚するなど、道理では説明のつかない事を解明してみたい。あなた方『生徒』は道理に適わぬ事象を何食わぬ顔で現実のものとしている。我々はそれを知りたい──そう、ただ知りたいのですよ」
「────ッ!」
道理では説明のつかない事。彼の言った
彼女のEXは、溢れる神秘を押し固め氷山と成し敵にぶつける──というもの。リエは、その原理を理解していないし、知りもしない。それどころか、このEXだって「なんかできるから」使っている。本能で「自分はこれができる」と知っているだけで具体的には何も知らない。それが実情なのだ。
蜘蛛が親蜘蛛に教わらずとも巣を張れるように。燕が親に教わらずとも飛行が可能なように。リエも本能で己の神秘を理解し、使用していた。
「……協力とは、具体的には?」
「ハドマ学園は、今のキヴォトスで一番『吸血鬼』という種族を有しているハズですね。『吸血鬼』の生徒の協力をお願いしたいのです」
「はあ、確かに我が校は悪魔の中でも吸血鬼が多いですが……」
よりによって吸血鬼ですか、とリエは天を仰ぐ。
確かに、ハドマ学園は多数の悪魔を有している。更には悪魔の中でもまた「吸血鬼」と別に称される固有の種族を、キヴォトスで一番多く有している。
しかしだ。統治委員会の副委員長の
生徒会からの呼びかけなど、応じるハズがない。彼女達は実際にハドマ学園を転覆した
しかし、眉間に皺を寄せて、渋い顔で唸るリエを差し置いて、ゴルコンダは話を続ける。
「『悪魔』でない者さえ、吸血鬼という『悪魔』の一種である者に変化させる事ができるその技能──いえ、ここは『秘儀』と呼ばせて頂きましょうか。そのような秘儀を、我々は他に知りません。生徒の有する『神秘』と悪魔化は果たして真に共存し得るものなのでしょうか?『
「……??」
「更に、それは『色彩』により『
『神秘』が元に戻せるかどうかの検証にすらなると私は見込んでおりましてね……フフフ……」
「???」
成績優秀なハズのリエですら、ゴルコンダが何を言っているのか、どこに笑う要素があったのかと、心の底から疑問に思い、懐疑的な視線を向ける。
それを受けてか、ゴルコンダは安心させるような優しい声色で言葉を続けた。
「要は──『吸血鬼は吸血鬼以外の者をどうやって吸血鬼に変化させているのか?』そして『それらは他の現象に応用できないか?』──を研究したい。だからこそ『種族・吸血鬼』の生徒さんのご協力を依頼したいと、こうしてハドマ学園にお邪魔させて頂いたのです」
そう言い替えられ、リエはようやくゴルコンダの目的が分かったような気がした。しかし──やはり吸血鬼の生徒に協力を求めるのは現実的ではない。
リエがゴルコンダの依頼にOKと答え、
「──その実験の協力相手に、ハドマ学園を選んで頂いた事は、感謝致しますわ。しかしながら、その実験に協力するにあたり、大きな問題があります」
「……お聞かせ願えますか?」
「まず第一に、ハドマ学園の吸血鬼は、その大半、数にして99%以上がテロ組織に加入しており、我々生徒会の呼び掛けに応じるハズなどありませんわ。まして、外部の方の実験になど……尚更、応じるとは思えませんの」
「……ああ。飂熾冘巫髏……でしたかね」
「外部の方にまで知れ渡っておりますのね。全く、恥ずかしい限りですわ」
「あれだけ報道されれば、そうもなりましょう」
「うっ……」
「では、飂熾冘巫髏ではない吸血鬼の生徒さんは?先程の言葉通りに受け取るなら、1人以上は組織に加入していない生徒さんがいらっしゃるハズです」
「それは──たった2人しか居ない上、仕事が常に立て込んでおりますので、できるなら、彼女達には何もしないで頂きたいですわ」
「そう、ですか……成程、成程……たった2人……」
重苦しい沈黙が流れる。デカルコマニーすら声を上げなくなる程の重い空気だ。やがて、ようやっとリエに掛ける言葉を見つけたのか、「では──」とゴルコンダが口火を切る。
「その飂熾冘巫髏の構成員の吸血鬼の生徒さんを、我々が預かる────というのは如何でしょう?」
「……はい?」
「手の付けられない問題児……なのでしょう?」
「ッ!」
「飂熾冘巫髏大決戦はシャーレの先生率いる生徒が無事に勝利を収めたものの──飂熾冘巫髏としての組織的な活動は、未だに継続中のハズです。今後はゲヘナ学園との併合以外のまた別な方法で何らかのアプローチをしてくる事でしょう」
「……はい。我々も、そう見ておりますわ」
「思想教育などと物騒な事は言いません。そして、テロ組織としての活動を停止させる位の事であれば無理な教育や躾などは不要です。今の彼女達に必要なのは時間であると私は考えます。彼女達が仲間と群れず、己を顧みる時間を強制的に与える。やがて彼女達も大人しくなる事でしょう。しかし現状は、あなた方生徒だけの力では無理がある────」
「……はい……」
「どうです?ここは、私達ゲマトリアを利用して、飂熾冘巫髏の生徒を強制的に矯正してやるのだ、と思えば。生徒会長さんも、少しくらいはそれで気が楽になりませんか?」
「……確かに、それは、有難い申し出ですわ。実際にかなり助かるのでしょう。しかし私は、彼女達にも青春を味わってもらいたい。あんな破壊活動でさえ彼女達にとっては青春の一部であると思うのです」
「そのお考え自体は尊重致しますよ、リエ議長殿。他人を尊ぶのは大切な事です。しかしね議長さん。大切な『青春の一部』が、あのような破壊活動で、本当に良いのですか?他学区にまで、甚大な被害を及ぼしかけたのに?」
「────ッ!!」
「他人を尊ぶお考えは正しいです。しかしそれは、時に諸刃の剣となるのですよ。実際、飂熾冘巫髏を放置すれば、第二次飂熾冘巫髏大決戦が起きる事は火を見るより明らか。次もトリニティに侵攻するかゲヘナを取り返そうとするか、ミレニアムなのか、はたまたレッドウィンターなのか──それらの事はまるで分かりませんが、ね……」
「ッッ……」
「今一度お聞きしましょうか、議長さん。彼女達を上手く
答えは、沈黙。それしか、リエにはゴルコンダに返せるものが無かった。
飂熾冘巫髏の構成員は今もかなり多い。当然だが一介の生徒会長に御しきれるハズなど無い。
手早く制圧できる自信があるだなんて、どうして言えるだろう。ついこの前、シャーレの先生からの手助けを受けてやっとトリニティを守れたのに。
これ以上他の学区に侵攻されない自信?そんなのあるハズが無い。レイコが抜けてから本拠地を移転させた今の飂熾冘巫髏は、新たな本拠地も不明だし正確な構成員の数もずっと不明なのだから。
「……いずれも無いならば、問題児を私共に預ける、いえ、
「……」
「生徒会も新しく立て直したばかりでしょう。新規役員を2人も補充して、欠員を埋めたばっかりだ。そんな状況、私から見ればまさに『付け入る隙』に思えてならないのですよね、敵にとっては……」
「…………」
「ハドマ学園を──ひいては他の学園及び自治区を守る為に。果ては、彼女達自身の将来も見据えて、どうか、懸命な判断を願います」
────リエの判断や、如何に。
次回────強制更生計画