「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「────
「悪い物など食べたら相談なんかしませんよ」
「あはははっ、それもそーだ♪」
ゴルコンダとデカルコマニーへの返事は後日──という事にして、今日は一旦帰らせた。それから、彼らを帰らせた直後、リエは少々相談相手を求め、1人の少女を呼び出した。
リエは、親友のシエルにすら言いにくい事柄は、彼女に相談をする事に決めていたのだ。このハドマ学園で知らぬ者は居ないとされる、ハドマの誰もが必ずどこかで世話になっている少女に…………。
「お忙しい中、申し訳ありませんわね」
「いーのいーの。
「ッ……しかし……」
「もー。辛気臭い顔してそーだなぁ。気軽に頼ってくれていいのよー?
「それは……ご遠慮させて頂きますわ。あなたの事もありますし……」
ハドマ学園の誰しもが必ず一度はお世話になった経験のある相手が彼女である。彼女はハドマ学園で知らぬ者は居ないとされる技術開発部の部長──。
「ふーんだ。まぁ、いいや。それでそれで?今回のお悩みは何かな?」
「実は──とある研究者の方から、自分達の研究の協力をしてくれないかと、打診を受けまして──」
相手の名前、そして所属は明かさない。あくまで相談だけ。本決めではないが、アドバイスのようなモノが欲しかった彼女は「吸血鬼」達の協力が必要という事だけを掻い摘んで話した。
初めは懐疑的な表情だったがリエの話を聞く内に段々と表情が緩んでいき……。
「なーんだ、それなら簡単じゃない。吸血鬼なんて野蛮な連中、研究者?とかいうソイツらにぜーんぶ押し付けちゃえばいいじゃん☆」
「か、簡単って……あのですねぇ……」
「簡単でしょ。議長は手を汚さずにハドマきっての問題児とサヨナラバイバイできるしさ?」
「いやしかしそれは……」
「そ・れ・にっ!もし吸血鬼のヤツらをそいつらに預けたら、どうなると思う?」
「どうなるか……ですか?ふむ……?」
「
「……ッ!!」
ニッと歯を見せて笑い、人差し指を立てる彼女。それを聞いたリエは、天啓を得たような気がした。
目の上のたんこぶどころじゃない程に、ハドマにとっての邪魔な存在──飂熾冘巫髏。トリニティに謝罪行脚に行ったばっかりのリエとしては、早々に解体してしまいたい敵対組織である。
「飂熾冘巫髏の吸血鬼はレイコが統率してたけど、今はそのレイコも抜けてるしさ?頭になる統率者が居ないだけでも纏まりにくいってのに、ましてや、レイコの圧倒的な『暴』が失われた。飂熾冘巫髏を潰すとしたら──吸血鬼をそいつらに預けて戦力を削いだ、その時しか無いんじゃないかなぁ?」
「っ、確かに…………そうでは、あります、けれど」
「その研究者ってのが、本当なのかよく分かんない所だけが疑わしいけど──まぁ少なくともカイザーコーポレーションよりかは誠実かもね?組織の長にこうしてコンタクト取るくらいだしね」
「え。カイザーコーポレーションは大手ですよ?」
「それだけ負の実績も色々あるからね〜。こちとら技術屋もやってるから、リエよりかは色々と情報も入ってくんのよ。……リエは、世間知らずでお人好し過ぎるのよ。人一倍ね」
「そう……なのでしょうか……?」
「中学卒業までトリニティ自治区に居たんだっけ?それなら、トリニティ出て3年も経ってないよね。最近は、お嬢様感覚も薄れてきてるみたいだけど。でも、お人好し過ぎるとこは変わんないねェ」
「……」
「ま、リエは私達悪魔と違って天使だし?根本的に相容れない悪魔とも仲良くやっていきたいとかいう真面目ちゃんだからね、飂熾冘巫髏の構成員の事も心配したくなるのも分からなくは無いけど。でも、少しくらい肩の力、抜いちゃいなよ。害悪な連中も研究の役に立つんだなぁ────くらいの気持ちで気軽にOKしちゃえばいいよ」
「……うーん……」
「まぁこんなの私個人の意見だけど。最終決定権はリエにあるし精々悩むといいよ〜。じゃーねん☆」
ヒラヒラと手を振って、彼女は軽やかな足取りで沈黙に包まれた生徒会室を後にした。
◆
研究者を名乗る謎の男がハドマ学園に訪れ研究に協力をと打診を受けたので相談に乗ってほしい、とリエに呼ばれた私は、ハドマ学園へ足を運ぶ事に。
新たに建設されたハドマ学園はどこかゲヘナ風の造形で、どこか実家のような安心感がある。やはりイオリやヒナ、イロハとの逢瀬の為にと、ゲヘナに通いまくったからだろうか……。
生徒会室で話したいとの事だったので、呼ばれた通りの時刻に生徒会室へと向かう。
そこには、議長のリエ、副議長のシエル、書記のアンナ、会計のレイコの4人が一堂に会していた。
「あっ、せんせーじゃん!やほーぃっ!」
「こんにちは、先生……♪」
「しばらくぶりだねェ♡」
「お待ちしておりましたわ、先生」
4人の反応はそれぞれ異なるが、いつも通り私を歓迎してくれているのは共通しているようだった。有難く、用意された席に腰を下ろし、早速ではあるものの、早々に会議をスタートさせる。
「先生には前以て薄らとだけお話をさせて頂いたのですが……実は先日、このハドマ学園に『研究者』を名乗る人物が来校されまして。その方が仰るには、
『研究を進めるには吸血鬼の生徒の協力が必要だ』というお話でした。その為に、まずはハドマ学園の長である私に許可を求めに、来校されたそうです」
「私ら吸血鬼の協力ゥ?なぁんか胡散臭いなぁ〜。悪魔の中でも粗野で野蛮とか言われる私達が素直に研究とやらに協力するとでも思ってンの?」
「相手の方は飂熾冘巫髏の存在もご存知でしたわ。飂熾冘巫髏の構成員の多くが吸血鬼であるとも──恐らくは、ご存知だと思われます」
「っ!」
「尤も、ニュースを視聴すれば一般市民の方々でも知り得るような事しかお話していませんでしたが。とにかく、私は、どのように返答したものかと──今も、悩んでいるのです」
リエが言葉を切ると、途端に生徒会室がシーンと静まり返り、書記であるアンナがペンを走らせる、どこか忙しなく頼りない音だけが鼓膜を震わせる。
私を含め誰からもこれと言った意見が出ない中、リエが更に言葉を付け足す。
「一応、他の信頼のおける方に相談はしましたが、その方は『OKすればいい』といった意見でした。理由としては、その研究者さんに飂熾冘巫髏に所属している吸血鬼の生徒達を預ければ、飂熾冘巫髏の戦力低下に繋がり、飂熾冘巫髏を倒すキッカケにもなるのではないか────と。飂熾冘巫髏を倒す、チャンスになる。おおよそ、こんな意見でしたわ」
「……ははーん。それ言ったの、誰か分かったよ」
「流石はシエルさんです……」
「うーん。確かにハドマ部隊は大半が吸血鬼だし、吸血鬼を研究者に押し付けたら、ハドマ部隊だけは割と楽に潰せるようになるかもしんないね。しかもハドマ部隊は総長であるルーちゃんの直属の部隊。飂熾冘巫髏の戦力を削ぐなら割と良い作戦かもね」
「作戦としては素晴らしいと思いますわ。しかし、幾ら飂熾冘巫髏に所属しているからと、生徒達を、その研究者の方に差し出すというのは気が引けて。先生は、どのように思われますでしょうか……?」
「人体実験をするとか、危険な事をするとは、何も言ってませんでしたわ」
「そりゃそんな事は言わないでしょうよ。人体実験なんてすると知ってて生徒を差し出すようなクズな議長に見えなかったから黙ってただけじゃない?」
「右に同じ〜。敵対してた私を生徒会に入れるとかまさにそうだけど、リエってお人好しだしね。てか吸血鬼に協力してもらえるとしてさ、その研究者は何について研究するワケよ?」
「『吸血鬼による吸血鬼化を、何か他の事柄に応用できないか』等です。そんな事を仰ってましたわ」
「ほぇ〜。吸血鬼化を何かに応用、ねぇ。身体強化だったり、バフに使えるようになりゃ便利かもね。研究してもらえるなら、研究してもらっちゃえば?私は協力する気無いけどね、そんな暇無いし」
「ええ、レイコさんやルビーさんにはそもそも協力してもらおうと思っていません。レイコさんはまだ会計の仕事を始めたてでまだまだ忙しい状態です。ルビーさんも日々、統治委員会やモデル業などで、常に忙しくされてますもの。ですので研究者の方に委ねる事になるとしたら、必然的に、レイコさんとルビーさん以外、つまり飂熾冘巫髏所属の方というお話になると思うのです」
「カブトガニよろしく、軽く血を抜かれる事とかはあるだろうねー。先生はどう思う?」
神秘の探求とかだったら絶対に反対した。普通に死に直結するだろうから。しかし種族特有の特徴の研究となると、神秘とかの研究というよりも薬学や医学的な研究がメインとなるのだろう。
それに加えて「吸血鬼」とは今のキヴォトスではかなり希少とのことだから、それらが集まっているハドマ学園に目をつけるのは自然な事と言える。
──正直、私としては、それだろうと反対したいというのが本心だが。
「……人体実験とかなら反対したいところだね……。どうもこれらのワードにあまり良い思い出が無い」
「でも先生、ルビーの『他者の吸血鬼化』の訓練の相手になってたんでしょう?先生が既に人体実験に協力してない?」
「私はいいんだよ。何かあっても自己責任だから。だけどこの場合、生徒達はそうもいかないでしょ?飂熾冘巫髏に所属にしてようと研究に協力するかを判断するのは各個人であるべきだ。その研究者には
『長の私ではなく、研究対象各個人に許可を求めるように』みたいに言ってみたらどうかな」
「そうですわね……」
「『命の危険が無く』、『アルバイトの範囲』且つ
『内容に応じた報酬をきちんと払う』──みたいな条件を提示してみて。まるで『治験のバイト』にも思えるけど『この条件が飲めないならハドマ学園は一切協力致しません』……で良いと思うよ」
────実はつい先日、アビドスにてセリカから
「かなり稼げそうなバイトを見付けた!」と教えてもらったのだ。
それが所謂「治験」のバイトだった。あぁ成程、キヴォトスにも治験のバイトはあるんだなぁ──と素直に受け取った私だったが、セリカも私のお姫様なのでそのバイトに応募するのをやめるよう強めに説得したのだが……。
今度はハドマ学園にそういった話が来たらしい。
「分かりましたわ。ありがとうございます、先生。そのように言ってみますわね」
「ところでその研究者が返事を聞きに次に来るのはいつなの?良ければ私も同席したいんだけれど」
「それが……『日を見てまた来ます』としか……」
「そっか。分かった、何かあったらまた言ってね」
それから数日後──リエから連絡をもらった。
例の研究者が再びハドマ学園に来校したらしい。リエは私からの助言通り、危険が無い範囲、尚且つバイト扱いという事にして正当な報酬を払うという条件を提示したそう。
すると研究者はまさかの快諾。寧ろ「テロ組織に資金を提供する事になりかねないが」と、学園側を心配するような素振りも見せたそう。
支払いを渋るようにも受け取れたからと、リエは毅然とした態度で対話に臨み「そもそも更生させる為にあなた方に預けるようなものだから」と大元の理由を突き付け、相手もそれに同意────。
こうして「吸血鬼強制更生計画」が幕を開けた。
◆
「フフフ……」
「上機嫌だな、ゴルコンダ。何かあったのか?」
「ええ、まさに。──ハドマ学園の長から、許可が下りたのですよ。適当に『不良生徒に私共の実験を手伝わせつつ更生させてみませんか?不良生徒達を私共に押し付けるつもりで。ね?』といったような意味のお話をしてみただけなのですけどね」
「うぅむ。ゴルコンダとデカルコマニーでハドマに赴いたのだろう?」
「そうです」
「そういうこった!」
「お前達など明らかに不審者だろう。自校の生徒を素性の知れない相手に預けるなど正気とは思えん。ハドマ学園の長はそんなにも頭が弱いのだろうか?それとも藁にも縋る思いだったのだろうか……?」
「そういえば『バイト扱いにして報酬を払うなら』なども言われましたね」
「まさか……治験と思われているのではないか?」
「そうかもしれません。ですが私としては構わないですよ。寧ろ報酬を払い命の危険を与えないだけで長の公認を頂けるのですから、安いものです」
「そういうこったぁ!!」
「よもや、許可を得る前に数人、既に拉致しているなどとは思うまいな……」
「ええ、少々手荒い真似をしてしまいましたが──大丈夫でしょう。新作の思想教育BDの実験台──失敬、被検体が欲しかったものですから」
「モロに実験台と言ったな」
「フフフ。……そういえば、黒服は何処へ?」
「アビドスだ。
「そう──ですか。それでは、黒服には可能な限り知られないよう慎重に行動した方が良さそうです。当然……『先生』にも、ね」
「そういうこったぁ!!!」
「……だな」
次回────技術開発部、見参ッ!