「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「それなりにサンプルが集まった事で、ある程度、実験が始められそうな状態になりつつあるな」
「ええ。これもまた、マエストロの手腕あってこそです。
「そういうこったぁ!!」
「礼には及ばん。貴下の実験を進めると共に、芸術製作のインスピレーションをも得られそうなのだ。協力しない手は無い」
「フフフ……助かりますよ、非常にね……」
マエストロの所有している複製の軍勢を利用したゴルコンダは、テロ組織「
ただでさえ議長であるリエから公的にOKを貰う前から数人程度拉致していたのに、本格的に許可を貰えてしまえばもう怖いもの無しと言わんばかりの勢いだ。
「いやはや、本当に許可が取れて良かったですね。でなければもし仮に先生にコトが露見した際、敵対することは免れなかったでしょう」
「ああ。今の先生と敵対する事だけは避けなくてはならない。名誉顧問である事を抜きにしてもな」
「……さて。時間が勿体ないですから、データを採取していきましょうか」
「まずは────そうだな、まずは『共通点』から洗っていこう。種族的特徴から『吸血鬼の神秘』に関する情報が微塵も得られないなんて事は無いはずだからな」
「ですね、そうしましょうか。それから共通点毎に生徒をグループ分けして更に深堀りしていくという流れで実験を進めていくとしましょう」
「そういうこったぁ!」
◆
「なーんか最近、張り合い無いわねー……」
「
「そぉだけどさー……」
ある日の統治委員会──トップ2人こと委員長の
スズは校内の自動販売機のアイスを舐めながら、ルビーが器用に整えていく盆栽を眺めていた。
「……あんた、よくやるねぇ……そんな器用に……」
「盆栽も中々上手いでしょう?」
「ハッ。盆栽とか、おっさんかっつーの」
「剪定も得意なので、盆栽も得意なんですよね」
「どういう理屈よそれ」
事件やトラブル、書類仕事が無い時なら、2人はいつもこんなものである。こんな安穏とした時間はそれこそ数ヶ月ぶり──そう言えてしまうくらい、最近は後処理やら仕事に追われていて、スズもまた飂熾冘巫髏の居ない日常を密かに噛み締めていた。
しかしそんな安穏とした時間も──飂熾冘巫髏の降臨によって、再び壊される事になる。
ピーンポーンパーンポーン⤴︎♪
「あ……?
「技術開発部、また実験するんでしょうかね。まだリンコさんリハビリから復帰したばかりなのに……」
「どうせ、そのリンコの発案でしょ?」
「まぁそうでしょうけどね」
「てか
「無かったハズですね」
「はぁ〜……余計な仕事増やしてくれたなぁ〜……」
技術開発部が実験をする際には、統治委員会への申請が最低でも3つ必要である。
まずは実験の許可願いの申請。それから、実験に使う場所の使用許可の申請。最後に、統治委員会の立ち会いを求める申請。これらは、彼女達が安全に実験するのに、そして、他の生徒に危害が及ばないように警戒する意味で必要な事であった。
それが無いのであればまず実験は認められない。
ハドマ学園において、校内放送とは技術開発部の実験が行われる際の告知にしか使われていなかったお陰で、チャイムが鳴った時点で2人はそのように解釈したのだった。
しかし、実際は────。
『あー、あー。マイク入ってるよね?』
「「ッッッ!?」」
放送から聞こえてきたその声は、放送部の声や、まして技術開発部に属する部員の声ではなかった。スズもルビーも友人として、もしくは敵として──よく聞き覚えのある、あの生徒の声だった。
『ハロハロ〜、前副議長の
「アイツ、放送室にッ……!!」
「先輩黙って!」
「!」
『────早速、本題に入ろっか!スズ、ルビー。あんたら、うちの手下達さっさと牢屋から出しな。いつまで拘束してるつもり?部下達と、もうずっと連絡つかないんだけど?』
「「…………は?」」
『てなワケで!放送終了5分以内に、統治委員会の特別牢に攻め込むから、その予告ね!んじゃっ!』
ピーンポーンパーンポーン⤵♪
「……嘘でしょ?アイツ……って、放送室!」
「放送室に行ってもルーシィさんは居ませんよ」
「あ?何で分かんのよ、行ってもないのに?」
「今の放送、録音した音声を流してるだけですよ。所々、変なノイズがあったし、声がくぐもってた。新設されたばかりの校舎の放送設備です、あんなに音が変質してるのはおかしいんで」
「え……ノイズとか全然分かんないんだけど……」
「吸血鬼は地獄耳なんで聞き分けも得意ですよ」
「……分かった、じゃあどうする?」
「とりあえず、一旦は特別牢に向かいましょうか。部下数人の為だけに、ルーシィさん自らが来るとは思えませんが──あの人も自ら動くタイプですし、可能性はゼロじゃない」
「そーね……そーしますかっ!」
校舎とは別に、離れのように敷地の端にポツンと建っている統治委員会管轄の特別牢。スズ達の他に何人もの統治委員の生徒がやってきていて、牢前で集合する。
「先輩っ!」
「飂熾冘巫髏のヤツらを誘き寄せる為に、敢えて、長期間捕らえていたんですね!?」
「流石です、ルビーさん!」
「いえ、その……私達も何の事か分からないんです」
「「「え……?」」」
「せいぜい3日後には釈放してますし、何日も連絡つかないだなんて、そんなの有り得ないハズです。ルーシィさんは何か勘違いをしている──または、私達をここに集める為だけのブラフでしょう」
「ちょい待ちルビー!ブラフの可能性があんなら、何で素直に来たのよ!?」
「トーンはマジトーンに聞こえたので、ホントに、勘違いしてそうだなって。これは勘ですけどね」
「ッ……」
次の瞬間────裏門の方から、爆音が轟いた。
「何っ!?」
「爆発……まさか!」
スズとルビーは真っ先に現場へ向かおうとする。しかし裏門方面からわらわら避難してきた何人かの統治委員の生徒と途中で合流を果たし……。
「い、委員長ぉ〜っ!」
「来ました、ヤツです!」
「雑魚を
「雪だるまに翼が生えたようなヘイロー……!間違いありません!『寒空の悪魔』……
「…………なんですって……!?」
先日の決戦の前に、副総長であった
その情報を共有した結果、こうして誰が来たのかすぐに伝達できるようになったのは良いが……。
「どっどどどうしましょうっ!?レッドウィンター部隊の幹部……なんですよねっ!?」
「狼狽えない!とりまあんたらは牢を防衛してな!あたしとルビーでハナシ付けてくる!!」
「「了解ッ!!」」
スズ達が裏門方面へ向かうと、既に飂熾冘巫髏のレッドウィンター部隊は敷地に侵入してきていた。その先頭に立つはレッドウィンター部隊を率いる、寒空の悪魔こと寒崎マフユ────。
「あんたら、止まりな!」
「どもども〜、統治委員会の委員長さん。これまた手薄い歓迎ですねぇ、副委員長さんとの2人とは」
「何しに来たのよ?」
「およ?……うーん、その発言はおかしいですねぇ。時間になったら総長からのメッセージを流すよう、ハドマ部隊には指示が出ていたハズですけれど」
「ええ流れてきたわよ、だから聞いてんの!」
「?放送を聞いていたのなら分かるのでは?私達はあなた方が捕らえているというハドマ部隊の生徒を解放しに来たんですが?」
「だから、それは勘違いなのよ!別に捕らえてたりしないから!捕らえてたとしても長くて3日後には解放してるしっ、そもそも、今のあの牢には、中に誰も居ないわよ!?」
「んん……よく分かりませんが、まぁ、いいですよ。どっちでも。ええ。総長は、捕らえた構成員達は、飂熾冘巫髏を誘き寄せる餌に使われてる可能性まで考慮されてました。まだ捕まえてないだけにしろ、本当は捕まえているけど嘘をついているにしろ──とりあえず牢をブッ壊せば済む話ですので」
「ッ!?」
「さぁ、皆さん──
「バッ……!!」
マフユの指示によって、ロケランを構えたレッドウィンター部隊の面々。彼女が手を振り下ろすのと同時に、弾は放たれ……統治委員会の特別牢は一瞬で爆発四散してしまった。
「あぁ……新設されたばかりなのに……近くの植木も剪定したのに……」
「ルビーはそればっかりね……」
「……およよ?変ですね、誰も出て来ないですねぇ?逃げ惑ってるアレは、統治委員会の子でしょう?」
「だから誰も居ないっつってんでしょーがァ!!」
「うーん。とりあえず退散しまぁす」
「逃がすと思います?」
「逆に聞きますけど──逃げられないと思います?あの大決戦以降、未だレッドウィンター事務局から逃げ続けている……精鋭中の精鋭である私達が」
「「……ッ!?」」
「まぁ、追いたいならどうぞ。足が吹っ飛んでも、私達は知りませんけれどね。それでは、近いうちにまたお会いしましょう。チャオ♪」
ひらりと手を振ったマフユは、くるりと背を向け駆け出す。周りの部下達もそうするかと思いきや、スズ達に向かってロケランを連発し始めた。
「きゃあっ!?」
「先輩ッ!!」
スズとルビーはまんまとロケランの連発によって足止めされてしまい、マフユ達、レッドウィンター部隊の逃走を許してしまった……。
次回────論ずる少女たち