※この作品はR-18です。

「先生!もっとあたしらに構って!」   作:アキラゼミ

53 / 185
第8話:吸血鬼の神秘

 

「いやぁ〜!まさか飂熾冘巫髏の総長、ルーシィに相談を受ける事になるとはねー☆」

 

「わざとらしい演技はもういいよ。リンコ先輩」

 

「……演技ぃ?なんの事かな☆」

 

「無駄にキャピキャピした振る舞い。半オクターブくらい高い声。演技じゃないなら、何なの?」

 

「……フー。遊び心が無いね☆」

 

「今はそんな暇、無いから」

 

「……」

 

 部室内の適当な椅子を指で示して、座れと促す。ルーシィがそれに座るのを見届けると、リンコも、同じように手近な椅子を取り寄せて腰を下ろす。

 

「……。何の用かな?テンちゃんそろそろ買い物から戻ってくるだろうから、手短にね」

 

 いつも見られる、リンコのニコニコした微笑みが消え失せた。凛々しさすら感じられる程の真っ直ぐ過ぎる視線が、ルーシィを真正面から見据える。

 一瞬だけたじろぐものの、自分は一大テロ組織の長なのだと深呼吸1つで持ち直す。そしてリンコと同じく、真正面から彼女を見据えて「相談」する。

 

「私の部下が次々と消えてってる。どこを探しても見つからない。……リンコ先輩、どうすればいい?」

 

「……」

 

 リンコは腹の中で笑っていた。

 自分がリエに向かって「研究者を名乗るヤツらに飂熾冘巫髏の吸血鬼を差し出せばいい」などと助言したとも知らずに、自分を頼ってきたルーシィが、あまりにも滑稽に見えたのだ。

 要は今のルーシィは、問題の解決を願い、問題を起こした本人を頼っているのだ。リンコからすれば滑稽だと言わざるを得ないだろう。

 今にも口から零れ出しそうになるその嗤(わら)いを別の笑いへとすり替えて見せた。

 

「あっはははっ!知恵者ルーシィが私を頼るか〜!私を頼るからには、めぼしい所は探したんだよね?まさか、探しもせず来るワケないもんね?」

 

「ええ、可能な限りね。レッドウィンター部隊とかゲヘナ部隊も動員するし、トリニティ部隊の方にも声掛けてみるつもり。虱潰しに探すしかない、とか思ってるんだけど……あまりに非現実的だよ」

 

「そーよねぇ。それで見付かるとも思えないし」

 

「……?なんでそう思うの?」

 

「飂熾冘巫髏はテロ組織でしょう?方々(ほうぼう)から恨みを買ってる自覚、無いの?」

 

「っ!」

 

「怨恨の線とかも無くはないだろーしィ〜……あぁ、飂熾冘巫髏も資金難だから、集団でアルバイトでもしてるんじゃないかな☆」

 

「はァ……?戦闘と乱闘しか頭に無いような連中が?アルバイト……?意味分かんない。私がハドマ学園を転覆したからってこんな無意味で曖昧なやり取りでテンコが帰ってくるまでの時間稼ぎをするつもり?それとも、何?テキトーに茶ぁ濁そうとしてる?」

 

「やだなぁ、私なりに真面目に答えてるんだよー?信じるかどうかはあなた次第……ってヤツだけど」

 

「もういい。そもそもハドマ学園を裏切っておいてハドマ学園の先輩に頼るのが間違ってたかな」

 

「私、ハドマ学園の学生なら平等に接するよ☆」

 

「それを知ってたから先輩を頼ってみたんだけど。ま、いいや。さよーなら」

 

 荒くれ者の吸血鬼達がバイトなんてするか──と呆れ返ったルーシィは、ほんのりと真実を匂わせるリンコのアドバイスを捨ておき、部室を出ようと、扉のノブに手を掛ける。

 

「ていうか先輩、その目は何?失明した時……自分で引き抜いて食べたって聞いたけど」

 

「あははは!百鬼夜行だかどこかに伝わる昔話じゃあるまいし!食べてなんかいないよ?まぁ折角だし解剖はしたけれど──それだけ!これは義眼だよ、お手製のね☆」

 

「……見えてんの?」

 

「見えてるよ〜、ルーシィの困惑した顔♡」

 

「あっそう……」

 

 結局、リンコが答えにも近い返答をしていたとは気が付かずそのまま技術開発部の部室を後にする。万事休す、どうしたものかと物思いに耽る彼女だがすぐに新たな手段を考えついた……。

 

 ◆

 

「──ふぅ。ハドマの財政は相も変わらず凄まじいですわね。何故こんな事態になってるのでしょう、まるで分からないですわ……。かつての先輩方は一体何をしたのやら……」

 

 アビドス高校とは違い、ハドマ学園には借金した過去は無い。しかし常に財政難であった。けれどもその理由は未だに不明。横領されていたのは過去の話、けれども今も横領され続けているかのように、財政難は継続していた。

 過去の記録を遡りながら、いっその事、どこかに借金していた過去があればよかった、とさえリエは思っていた。それなら話の辻褄が合わなくもない程手痛い財政難だから。

 

「ドンパチやった後でさ、いちいちその場所を補修するからじゃない?明らかに技術開発部に多めに金流れてるじゃん。金の流れを川で例えるなら、技術開発部に流れるのが本流でそれ以外の部活や委員会全部に流れるのが支流みたいなもんだよ」

 

「しかし学園の美しい景観は維持したいですし……。それに技術開発部に流れていると言ってもそれでもまだ足りていないくらいですから。計算上、採算も合ってますし……マイナスの部分は彼女達の会社での利益で補っているようですしね」

 

「まあ、荒れ果てた外見の学校よかマシか……?てか何より教員ロボを飂熾冘巫髏に破壊された件、アレ割とデカイんじゃない?安いモンでもないでしょ。連邦生徒会もロクにフォローしてくんないし……」

 

「ええ、アレがかなり尾を引いているのもあるかと思います。それと……学園崩壊に伴うプレハブ校舎の建設でしょうね、直近ですとこれが一番大きな出費でした」

 

「あー……誰かさんが暴れてくれた時のね〜」

 

「……っさいなぁ。あん時は飂熾冘巫髏だったんだししゃーないでしょ……」

 

「あはっ、反省の色全くナシで笑うんですけど〜。しゃーないで済めば警察(ヴァルキューレ)は要らないでしょ」

 

「済んだ事を言っても仕方ありませんわ。一先ず、飂熾冘巫髏の戦力が大きく削れた今、以前よりかは財政面を気にする余裕が作れたと思います。今後はより深く、主にその辺の事柄について会議を重ねていきましょうか……」

 

「そーだねぇ。現に、マフユ?の襲撃以降は音沙汰無いんでしょう?スズから連絡とかも何も無いし。アイツらの面倒見てくれるとかいう謎の研究者様様だよね〜、マジで助かるわー」

 

「ええ、本当にそうですわね。なんと言いますか、ゴルコンダさんに頭が上がりません。ハドマ部隊の中でも特に実働部隊的な役割を持つ吸血鬼の方々を引き受けてくださったんですから……」

 

 ──その時。生徒会室の扉が吹き飛ばんばかりの凄まじい勢いで開かれる。そこに居たのは、ハドマ学園の裏切り者であり、前副議長で、飂熾冘巫髏の総長こと、針村ルーシィだった。

 

「聞いてたわよ、リエ……ッッ」

 

「ッ!?ルーシィさん……!?」

 

「あんた、私の部下を研究者か何かに渡したって?一体どういう事か説明してもらおーじゃない!!」

 

 思わぬ所でのルーシィの登場、当然ながら4人は本気で焦り、レイコ以外の3人などは、武器に手を伸ばしルーシィとの戦闘に備える。

 

「るッ……ルーちゃ……」

 

「久しぶりィレイコ、だけどあんたに構ってる暇は無い。……リエ、あんたに聞いてんのよ。私の部下に何したって……?」

 

「……それは」

 

 リエが返答しようとしたその瞬間、1発の銃声が生徒会室に轟く。副議長シエルによる発砲だった。シエルの弾丸は天井にめり込み、パラパラと天井の欠片が降ってくる。

 

「別に言う必要ないでしょう、リエ。私らハドマの一般生徒にとっちゃ飂熾冘巫髏は邪魔なの。誰かが引き取ってくれるってんなら、喜んで差し出すよ。邪魔者を差し出して何が悪いの?恨まれるような事してる自分達が悪いんでしょうよ?」

 

「……良心の呵責ってのは無いんだ?」

 

「それ飂熾冘巫髏のボスやってるアンタが言うの?横領して組織に金を横流ししたクセにさ。ライムを生徒会に送り込んで、自分も生徒会に加入してさ。良心の呵責は無かったんですかぁ〜?」

 

 シエルの挑発的な言葉にも、ルーシィは眉ひとつ動かさない。その目は真っ直ぐにシエルを、またはリエを見据えていた。

 銃は持っている、しかしトリガーに指は掛けずに構えもしていない。敵対心は無い────言葉には出さずとも態度でそう示しているようだった。

 

「ま、無いよねぇ。……んで?まさか1人でノコノコ来たワケじゃないでしょう?」

 

「…………1人よ。戦いに来たワケじゃないからね。部下の行方を知りたい、それだけよ。知ってんなら教えてもらうよ」

 

「誰が教えるか、バーカ。てか私らも知らないよ。研究者に預けたっていうかさ?お金払ったりバイト扱いにするっていう条件で預けたからさぁ」

 

「……は?バイト扱い?どういう事よ……?」

 

「先生からのアドバイスだよん。生温いよねぇ〜。テロ組織の構成員とか無給でこき使えばいいのに。なのに労働っていう形に落とし込むように言って、研究者もその提案にノッてくれたんだよ。だから、行方不明の飂熾冘巫髏の吸血鬼は今頃、研究施設か何かで治験みたいなバイト中ってワケ」

 

「……何が何だか分からない。何がどうなってんの?治験?研究施設……?意味が分からない……」

 

「吸血鬼の種族的な特徴だとか、そういうの色々と研究して、世の為人の為になるのなら本望じゃん?迷惑な奴にも使い道があるんだなぁ……ってさ?」

 

「────ッ!」

 

「ルーシィ、あんたの事もあの研究者に差し出してやろーか?研究方法も用途も不明な、怪しい怪しい研究だけど♡」

 

「……レイコやルビーをソイツに差し出さないのは、飂熾冘巫髏じゃないからって事かしら?」

 

「よく分かってんじゃん?ルビーもレイコも役職があって、仕事があって、今はもう忙しくしてんの。ルーシィというか飂熾冘巫髏みたいな暇人な連中と違うのよねー」

 

「……あっそう。その研究者ってヤツについて教える気ィ無いんなら、もう用は無い」

 

「はいはーい、バイバ〜イ♡」

 

 シエルはルーシィを捕まえようとはせずに、背を向けたルーシィをそのまま追い出そうとする。が、かつて寝食を共にしていたレイコは、思わず、今は敵対しているにも関わらず、ルーシィが離れるのを手を伸ばして引き止めてしまう。

 

「ルーちゃんッ……」

 

「……レイコ」

 

「ッ」

 

「……どーなのよ、失楽園は。楽しくやれてる?」

 

「…………楽しい、よ。聖園ミカとの折角のバトルを止めようとするリエはめっちゃウザイし、いちいち飂熾冘巫髏の頃の話を持ち出して私に絡むシエルはダルイし、アンナはどこかイヤらしい視線だし──計算や書類の整理もクソッタレだよ。本当ならもう辞めちゃいたい。お世辞にも、飂熾冘巫髏と違って私にとってオイシイ環境じゃない。──でも多分、今までが私にとって都合良い環境だったんだって。ルーちゃんが、そういう甘い環境を、私の為に用意してくれてたんだってやっと気付けたから……。今の環境も……悪くないかな……程度には思ってるの」

 

 レイコの言葉を聞き──リエは驚愕し、シエルはどこか安心した様子で、アンナはしょんぼりと肩を落としている。まさかウザがられていたなんて、と本人はその自覚が無かったのだ。アンナも同様だ、まさか自分がそこまでライムに染められているとは微塵も思っていなかった。

 しかしその話を聞いて、ルーシィは静かに口元に笑みを浮かべた。飂熾冘巫髏やルーシィにとっては最悪の裏切り者であるハズのレイコのことを決して責めず、そればかりか……。

 

「そ……。レイコが楽しくやれてるんなら良かった。肩の荷も1つ下りたわ」

 

「ルーちゃん……」

 

「もう『ルーちゃん』はやめな。今は敵同士だよ。あんたは行政側で私はそれに反旗を翻すテロ組織のボス。幼馴染だろうとも、その構図は変わらない」

 

「……やだね。ルーちゃんはルーちゃんだ」

 

「ワガママなトコは変わんないわね」

 

「それが私だからね」

 

「……レイコはそれでこそだよ」

 

「元とはいえ、部下達を差し出したのは……ごめん。逆らえる状況じゃなかった、なんてのは言わない。私には組織(失楽園)の序列とか関係無いし。だけど、もしも私らみたいな、粗野で野蛮なヤツっていう吸血鬼が研究の役に立ったら──吸血鬼のイメージアップも図れそうだなって。乱暴なだけの連中じゃないってアピれそうだなって……そう思ってさ」

 

「レイコもその研究者について知らないでしょ?」

 

「知らない。知ってたら居場所くらいは教えたとは思うけど。リエやシエル(センパイ)の妨害なんか関係無いし。だけど……ごめん。私もリエ達もアイツらの事は何も知らないし──私なんか、我が身可愛さに元部下を差し出しただけだし……」

 

 らしくない程ウジウジと縮こまるレイコ。普段はスズすら上回る程の傲慢さだというのに性格が全く違うかのようだ。

 しかし、彼女のこの様子を見て、全員が悟った。普段の勝気なレイコはある意味、虚勢を張っているようなもので──幼少期を共に過ごしたルーシィに見せている今の彼女こそが、真のレイコの姿だと。

 ワガママなのは素だ。しかしそれを軽視したり、鼻で笑ったりするのは「作った」性格。後悔したり後で自分の行動を省みる弱さを見せるその姿こそ、本物の彼女だと。

 

「もういいよ。レイコには弱音なんか似合わない。今までみたいに、笑っちゃうくらいにワガママに、女王様みたいに振る舞ってな。まぁ、部下達には……生きてさえいりゃ、またどっかで会えるでしょ」

 

「……ごめん」

 

「いいっての。今のレイコは行政側。行政側の頭を悩ませるテロ組織の構成員を、どうにかしてくれるヤツが現れたら──きっとテロ組織の構成員なんか差し出すのは普通だよ。私だって、今も副議長なら総長命令として部下を研究者に差し出してたはず。そうするのはきっと、ハドマの副議長として自然な行動だから。……そうでしょう?リエ議長?」

 

「ッッ」

 

 完全に2人の世界に入っているな──と遠目から見ていたリエは、唐突に自分に矛先が向けられて、一瞬だけ頭がパニックに陥りそうになる。

 しかしルーシィの言う「未だにルーシィが副議長として活動していたら」というIFの世界を脳内で夢想してみる。

 ────学校を守る為にという理由で吸血鬼達を研究者に差し出すと決めたのだ。それを考えると、副議長としてのルーシィも賛成しそうではあるし、確かに、そうするのが「自然な行動」だと思えた。ルーシィの思惑のままに。

 嗚呼、やはりルーシィには騙されてばかりだと、リエは自嘲の笑みを浮かべる。

 

「……ええ。確かに、以前のルーシィさんの立場ならそうするのが自然だと思いますわ。私もきっと更にあなたへの信頼を深め、騙された事でしょうね」

 

「でしょうね。私はそういうやり方でリエ議長(あんた)から信頼を得ていったんだから」

 

 背中を向け、生徒会室の扉に手を掛ける。

 

「……次に会う時は敵同士だよ。レイコ」

 

「……いいの?そんなコト言って。ルーちゃん、私に勝てた事……1回も無いじゃん。昔ッからさぁ」

 

「そーね。もし仮に、私とリエ、シエル、アンナ、アスカ、スズ、ルビーが組んだところでレイコには勝てっこないよ。テンコとリンコ先輩が居てやっと勝負になるレベルじゃないの?──でも、私には、私以外の手足がある。それを忘れないで」

 

 背中で語るようにそう言ったルーシィは、以降、目も合わさず生徒会室を出て行った……。

 

 ◆

 

 ──その頃、ゲマトリア本部から離れた実験場、通称「教室」にて。

 思想教育BDを睡眠学習として頭に刷り込まれた生徒からの聞き取り調査や、血液検査等々の地道な実験や検証などを進めていたゲマトリアの3人ことマエストロ、ゴルコンダ、デカルコマニーは……。

 

「うむ。げに美しきかな、二重螺旋構造……フフッ。この美しさは先生も理解してくれるに違いない……」

 

「……これは────!!」

 

「どういうこった!?」

 

「?どうした、お前達……?」

 

「まさか……まさか(・・・)、吸血鬼の(・・・・)弱点とはッ(・・・・・)!!」

 

「ん……?何か分かったのかね?」

 

「これを見てくださいマエストロ……!あの生徒達の遺伝子組成を……!!」

 

「そういう、こったァ!!」

 

 遺伝子組成のデータを紙として印刷したモノを、紙が破れんばかりの凄まじい勢いで机に叩き付けるデカルコマニー。それを見たマエストロは既に無い目が飛び出そうな気がした。

 

「全く同じだと……?まるで遺伝子そのものをコピーアンドペーストしたかのように一部の狂いもなく?まさかクローンだろうか?──誰が一体、何の為にそんな事を……いや有り得ない!毛髪や身長なんかの明確な身体の違いがあるではないか!」

 

「そうです。そしてこの特定の遺伝子組成は、同じヘイローの生徒のみならず──連れてきた吸血鬼の生徒全員が、100%……完全に一致していました」

 

「なん……だと……!?」

 

「しかしマエストロ、結論を焦らないでください。お見せしたこの遺伝子組成、一致しているのは全員ですが、コレは、全体の半分程度です。大体ですが5割程度でしょうかね。それ以外は、別人のようにバラバラだと言って良いでしょう」

 

「……?どういう事だ?一体それが何を意味しているというのだ……?」

 

「ここで1つ、思い返してみましょうか。吸血鬼が有するという、種族特有の弱点ではなく『能力』。まさに現在、我々が研究しようとしている、彼女達特有の『秘儀』を……」

 

「────まさか。今ここに居る彼女達は、全員、生まれながらの吸血鬼ではなく──『吸血鬼により後天的に吸血鬼化させられた存在である』と!?」

 

「そうでもなければ、何故クローンでもない全員が全く同じ遺伝子の組成を有する事になるでしょう。全員が同じ物を与えられたからこそ全員が同じ物を有している。そう考えた方が辻褄は合うのでは?」

 

「……では彼女達の有する『吸血鬼化』の『秘儀』の正体というのは……『己の遺伝子を他者に埋め込み、己のクローンとする能力』……になる、のか……?」

 

「……恐らくは貴方の言葉通り、もしくは……それに類するものである、と推測できます」

 

 ──そして彼女達がアレルギーに似た「弱点」を有する理由を「クローンとしての脆弱性だ」としてゴルコンダは言葉を続けた。

 体細胞を利用して生まれたクローン動物は、死産だったり早死にする確率が通常の動物よりも高い。病気に罹患する確率も高いとされている。

 その「クローン体の脆弱性」が日光や火、流水、銀などの「弱点」として現れているのでは──と。

 

「だが、彼女達の来歴を聞いても、さも『自分達は生まれながらの吸血鬼である』と取れるような発言しか無かったように思えるが……」

 

「恐らくは──己の遺伝子を他者に埋め込むことで肉体を変質させるのが『秘儀(吸血鬼化)』の正体だとすると、その謎もある程度は氷解すると思っていましてね」

 

「記憶というモノは、脳ではなく、細胞そのものが覚えていると……?確かに生物によってはそうとしか思えぬ実験結果を残していたりはするがな。故に、細胞が変質させられたら、同時に、有する記憶をも変質してしまう……?」

 

「そうです。己の来歴と、己を吸血鬼化させた者の記憶、それら2つの記憶が矛盾無く混ざっているのでしょう。そして、細胞を変質させた代償なのか、同じ物を恐れ、または苦手とするようになった」

 

「……神秘でも恐怖(Terror)でも何でもないな……」

 

「しかしながら『己の遺伝子を埋め込む事で他者を自分と同種の存在に作り換える』という種族由来のこの能力は、『神秘』と呼んで差し支えないかと」

 

「記憶をも塗り替えてしまう神秘……?いや違うな。まさかこれは……」

 

「『記憶』とは、その者の人格や精神の形成に対し多大なる影響を及ぼします。細胞が変質したことで記憶も変質し、それにより連鎖的に精神をも変化を起こし……有する神秘は吸血鬼(・・・・・・・・・)として上書きされた(・・・・・・・・・)。吸血鬼の神秘の本質は、《他者の神秘を上書きする神秘》……なのでしょう」

 

「……なぁ、ゴルコンダ。我々はとんでもないモノに手を出しているのではないか?」

 

「禁忌に触れんばかりのシロモノでしょう。ですが今更、それを恐れる我々でしょうか?」

 

 ゴルコンダの嬉々とした声に、マエストロは首を横に振って答えた。

 

「彼女達のこの神秘を利用し──私は、過去最高の作品を仕上げて見せよう」

 

「協力しますよ、マエストロ」

 

 しかし、実験の準備を始めようとしたその時──2人は、見落としていたある事実について、同時に気が付いた。

 他者の細胞を変質させる、記憶を変質させる──といった仮説があまりに突飛で、しかもそれでいて辻褄が合っている仮説が思考を奪っていたからこそ気が付けなかった、重大な事実。

 それ自体は、実にシンプルなものであった。

 ──彼女達を吸血鬼化させた「真祖」とも言える存在。本物の吸血鬼(・・・・・・)が、今もこの広いキヴォトスのどこかに、確かに存在しているハズだと。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。