「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
ゴルコンダの
最後の関門だ、あの立て看板のような何かしらの妨害工作はあるだろうと読んでいたが、その読みは見事に外れた。
何の変哲もない、スポーツの大会に使われがちな大きな体育館のような建物──こんな所で、彼らは一体何をしようというのか。よく分からない。
「……みんな、こっちだ」
「さっきから思ってたけど、先生、やけに迷い無く進むよね。初めて来たんじゃなかったの?」
「初めてだよ。でも、なんていうか、
「ふーん……?」
「何よスズ、先生のこと疑ってんの?先生、生徒はハメても、生徒を嵌めるような事はしないでしょ。私みたいなテロ組織の関係者を除いてさ」
「ハメてとか嵌めるとか、ワケ分かんないわね……」
「あはは、純粋なスズには難しかったかな?」
「お生憎様、あたしは昔から純粋な女の子なのよ。あたしの統治委員会だって、あんたの組織みたいな乱れ方はしてないしね」
「平時は怠惰でだらしない────という意味では乱れていますが、確かにレイコから聞いた限りでは飂熾冘巫髏のような乱れ方ではありませんね」
「こっちはみんな仲良しなの。それこそ私のような復讐心とか、世を騒がせたいとか、単純に暴れたいだとか──普通の生活が難しいヤツらの受け皿にもなっている分、皆が心で繋がりやすいのよ」
「ふん、どーだかね。まっ、自分の組織に対する、その自己肯定感だけは認めたげる。それだけはね」
「あらどーも♪」
「……先生と行動するこの時間が終われば、今度こそ飂熾冘巫髏、潰しに行くわよ。本当だったら今すぐそうしたいのに。ボスと幹部がここに居るんだし、あんたら捕まえればそれで終わりなのよ」
「じゃあどうしてそうしないのかな?」
「リエ達の不始末をどうにかしてやる、手伝いよ。そうすりゃ、少なからずリエ達に恩を売れるしィ?ルーシィもそれに手を貸してくれるってんなら利用してやるってだけよ」
「……なんて、この羽虫は悪ぶってますけど。実際、議長達に恩を着せるつもりはそこまでありません。というより──恩返しされる事を期待してません。というか、期待するものでもないですからね」
「そう、さっすがルビー、ワカッてるわ。あたしを
『羽虫』呼ばわりしたのはクソムカつくけど」
一部はこのようにいつも通りのような雰囲気だ。しかしアンナやリエ、アスカは敵の急襲を恐れてかビクビクしている。テンコは、睨むように全方位を後方から警戒していて、会話にはあまり参加せず、それでいて完全に平然としていそうなのはリンコ、アガリ、ライムなど。
アスカとアガリは姉妹にも関わらず、才羽姉妹や春原姉妹のような距離感ではなく、少しとはいえ、見えない壁があるような妙な距離感なのが見ていて少し胸に来るものがある。
いつか、和解というか、もっと姉妹らしく楽しく仲良く会話できるようになってもらいたいものだ。
「……何の音だろ」
「風の音じゃないのー?隙間風的なアレ☆」
「そう、か……でも窓も無いんだよな、ここ……風が入ってくるとして、何処から……?」
入口の扉からなら、風も入ってくるし、隙間風の音も聞こえてくるだろう。しかしここは、入口から遠く離れ、結構、建物の奥に進んできている地点。建物のサイズから見ても、また別の出入口が私達の近くにあるとは思えないのだ。
「窓無いのは変だねぇ……。照明でしか明かりを確保できないっていうのは非効率的にも程があるしね。あとテンちゃん?そういう大事な事はお姉ちゃんに教えてよねー」
「窓くらいで言う必要あるのかと思って」
「大ありだよぉ……全くもう」
唸り声、叫び声のようなモノが断片的に聞こえたようにも思えたが──私の考え過ぎだったらしい。別にそれならそれでいい。不安は募るが……。
「どうしたのレイコ?レイコっ!」
「ルビー!しっかりしな!」
「……なんか……気持ち悪い……」
「……同感です。胸焼けのような、この不快感……。本当に、気持ち悪い……ッッ」
主戦力とも言えるレイコとルビーの2人が、胸を押さえてその場に膝をついてしまった。他の生徒に周辺の警戒をさせつつ、スズ、ルーシィはそれぞれ私と共に2人の介護にあたる。
「どうしたの、2人共?何があったの?」
「あの音を聞いてから……気持ち悪くて……ッ」
「掻き回されるような、内臓を熱せられるような……見えない手で頭を揺さぶられるような……吐きそうで吐けないような感覚です……」
「「ゔぇっっ……!!」」
ただの隙間風のような音に聞こえるのに、2人はその音を聞き、ビチャビチャと嘔吐してしまった。
この2人に共通するのは《吸血鬼》であること。レイコの超強化された超音波がルビーにだけ効果があるのと同じように、この音は吸血鬼にだけデバフ効果を与えるのだろう。
「……ともかく、ここは……」
ここはセリナやハナエに助けてもらおうと大人のカードを使おうとするも、何故か、あの2人は召喚できなかった。ミネ──セナ──ダメだ。
ハドマ学園での救急医学部や救護騎士団に当たる生徒を召喚しようとも思ったが私達はその子の事を知らない。……知らなくては召喚もできない。そうだ知らないどころかガチャで迎えてすらいないのに、どうして召喚できると思ってしまったのか。いや、それならセリナ達を召喚できないのもおかしい。
私達がここに来るまでにバリアはあったが、編成していき条件を満たした事でバリアは破壊された。外部の者も今は出入りできるはずなのに……。
「……ライム。ここに残って、2人を頼めるかな」
「えっ、私?……まぁそんくらい別にいいけどォ……私、
「大丈夫でしょ。信じてるよ」
「……ったく、ホントお人好しなんだから……」
ライムに2人を任せて先に進もうと立ち上がる、しかしレイコとルビーは似合わない程の憎々しげな重く暗い目で睨み上げ、ズボンの裾に掴みかかる。
「ふざけ、んな……ッ!置いてくつもり……!?」
「この先にあるモノは……きっと、私が追い求めてた真実……!自分の、吸血鬼の真実……ッ!!」
「元部下を差し出した、落とし前をつけンのは──元副総長の、私の役目なんだ……」
「私は、自分の血族の事すらもろくに知らない……。彼女達を連れ戻すついでに研究成果を見る資格は、私、いや、私達にこそあります……!」
「「だから私は絶対に行かなくちゃッッ!!」」
2人共、理由は違えども、先に進む理由があり、覚悟ができているらしかった。スズはそんな彼女を止めようとするも、ルーシィは……。
「……そっか。覚悟が決まってるってんなら……もう行くしかないよね」
「ルーシィ!?止めるっきゃないでしょうよ、何で行かせんの!?」
「本人の希望ならそうすんのが一番っしょ。下手に押さえ込んだって、後で不満が爆発するだけだよ。総長として荒くれ者達を束ねてる私だから分かる。不満ってのは──心に大きな穴を作るものなんだ」
「……っ!!」
「それに……。レイコは元より、ルビーだって、先に進めば今より苦しくなるであろうこと、とっくに、予想できてるし覚悟もしてんでしょ?違う?」
「当然です。でないとあんな事、言えませんよ」
「ほらね。まぁ吸血鬼ってアホみたいにタフだし、大丈夫でしょ。何年も間近でレイコを見てきたから吸血鬼のタフさはよく知ってる。袋叩きにされても数分後にはケロッとしてるんだ。そうでしょう?」
「トーゼンッ!」
「私はそこまでではありませんけど──タフさは、まぁ……スズ先輩と同等以上かな、と……」
「「ッッ…………!!」」
「ほらもう、めっちゃ苦しそうな顔してんじゃん!この先、きっと戦闘になる!そんなんで戦える!?無理でしょうよッ!?」
「いーや……それでも行く!」
「絶対、先輩の足でまといには、なりません……ッ」
今にも吐いてしまいそうな顔をする2人の前に、スッと手が伸びてくる。手の中には2粒の錠剤が。その手の主は、ハドマの相談役──リンコ。
「胸焼けと吐き気くらいならすぐ治まると思うよ。この薬のお代は〜、『戦闘に勝利する』事で払ってもらおうかな☆」
リンコの薬を飲んだ2人はみるみるうちに復活。市販の薬なのかリンコの調合した薬なのかは教えてくれなかったものの──安全面は保証するとのことだったから、リンコを信じてみる事にしよう。
◆
「聞けば聞くほど不気味に聞こえるわね。なんか、気味が悪すぎて鳥肌立つわ」
「ホラー映画で幽霊とかが唸ってそうな声ですね」
「ホラー映画……なんかもう余裕じゃん、あんた」
「えぇまぁ……リンコ先輩のお陰ですね」
ある程度進むと、大きな扉の前に出た。重厚で、そう簡単には開かなさそうな扉。私はこの扉に対し見覚えがあった。ゲマトリア大聖堂のものと、同じ造形だった……。
「……この声の主は、この扉の向こうに居るね」
扉に触れると、声の振動でビリビリと震えているのが分かる。この声の主はまず間違いなくこの扉の向こうに居る。そしてきっとその者と戦闘になる。
「皆、準備はいい?」
「「「「「はいっっ!!」」」」」
皆の元気な返答に頷き──扉を開けた。その扉の向こうは、闇を塗りつけたように真っ暗で……一筋のスポットライトがある人物を照らしていた。