「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
時間が無い時、人は、何かに祈るものだろう。
遅刻しそうな時──納期が迫っている時。まるでナツみたいな事を言うかもしれないが、人生というものは、時間に追われるものなのかもしれない。
そんな時、人は祈るものだ。
どうか、時よ止まってくれ……と。
または、時よ巻き戻れ、やり直させてくれ……と。
今の私はまさにそんな気持ちだ。やり直したい。戦闘前に戻りたい。時よ止まれ、考えさせろとさえ叫びたい。
残り10秒。
再度EXスキルを発動させたロードは縦横無尽に室内を飛び回りながら銃を乱射して、誰彼構わずに攻撃を続けている。私も、アロナバリアが無ければ既に何発も被弾して死んでいただろう。
残るHPゲージは9本のみ。
弱点というか、攻撃が効く有効範囲が狭いので、レイコやリエなど、強力な範囲攻撃を2、3発程度当てられれば、問題無く勝てるハズなのだ。
それなのに、今使えるスキルは、よりにもよって回復、バフ、デバフなどなど。
残り9秒とちょっとで回復する分も考慮しても、使えるコストは、多くても20にも満たないだろう。レイコのEXの消費コストは10、リエは8。これで倒せるかどうか……会心が出ればワンチャンあるか、というギリギリのラインだ。
レイコのEXはロードに相殺される危険がある。それなら安全策を選ぶという意味でもリエのEXを選ぶのがいいだろう。
問題は表に出ているスキルカードにリエのものが無いこと。つまり、コストを消費してスキルを使用しながら、次にリエのスキルカードが前に出る事を祈らなくてはならないのだ。
レイコでもいいんだ、範囲攻撃なのだから。だが相殺されないようロードにスタンを掛け、その上でレイコのEXを使わなければならない。
そして現在、表に出ている5枚のスキルの中にはスタン系のスキルは無く、スタンのスキルを有するクロノとマフユは私の指揮下に無い。それでいて、さっき使ったばかりで彼女達のコストがまだ回復は望めないのが何より酷い。最悪な条件だけが綺麗に出揃ってしまっている。
────戦闘終了まで、残り9秒。
「了解!『
コスト4を消費し、ロードに攻撃力の990%分のダメージを3回。
ロードは軽装備、アンナは爆発。思っていたより大きめにダメージが入ってくれた。HPゲージは、残り7本半。
そして、アンナのEXを使用したことで表に出たスキルカードはルーシィのもの。当たればスタン、当たらなければコストを5無駄にする。
……一旦、見送りだ。
「はいっ!4人共、いっくよ〜!!」
アスカの回復は範囲回復だ。FRONTとMIDDLEの生徒、またはMIDDLEとBACKという2つの地点ならアスカのスキルが有効な範囲だ。
戦場におけるあのバラけ方を見るに、どうやら、あの4人はFRONTとMIDDLEが2人ずつ。それなら4人もまとめて回復できるから、極めて効率的だ。私の指揮下に無くとも、回復やバフならばできる。そういうシステムだ。
そして消費コストは3。合計7。
アスカの次に表に出たスキルは…………。
────戦闘終了まで、残り7秒。
アコとヒマリの2人によるバフだったら安心感もあったんだけどな。総力戦の常連じゃないか。
「はいっ!『
残り4秒。
「『
バフ無し、自己バフも無し。だけど今は、スズに頼るしかない。──今レイコのスキルが表に出た、だけど先にレイコが出ていてもコストが足りなくて使えなかったな。
「……かなり危なかったが私の勝利だ、先生……」
残り0.000秒。マエストロが勝利を宣言する。
ロードのHPゲージは1本にも満たない半分だがミリ残しと呼ぶには残り過ぎている。
奥歯が砕けそうな程に強く強く噛み締める。
シッテムの箱はいつも通り、DEFEATの文字が……
戦闘時間は既に0:00。それなのにまだ戦闘画面。アロナとプラナに声をかけようとした、その時。
「────『
「え」
「は?」
「何が起き……」
戦闘終了直後────トリニティ部隊第1幹部、クロノのサブスキルが発動。その瞬間に、ロードのHPゲージは初めから無かったかのようにキレイに消し飛び……。
『お疲れ様でした、先生。戦闘終了です』
『まさに友情・努力・勝利!ですねっ!!』
『アロナ先輩……ジ〇ンプじゃないんですから……』
『あはは……。でもでも、勝ちは勝ちですよっ!』
『はい。本来であれば、そうなるはずでした』
『クロノさんのサブスキルの効果です!普段は何も効果を発揮できないスキルですが──撤退ではなく時間切れで任務失敗した場合に限り「敵全体に対し攻撃力2,400%分のダメージを与え、敵全員を倒せた場合のみ時間切れは無かった事になる」って効果があるようです……!!』
『恐らくは、クロノさんの神秘が……そういう権能を有しているのでしょう』
『無法なスキルですが、クロノさんは、素のHPが低めです。FRONT担当なのに……』
『ですので、普段は時間いっぱい戦場に立つ事すら難しいはずです。今回は途中参戦、スタン多めで、しかも敵の攻撃は個人に集中するものではなく範囲攻撃が主だった事で、クロノさん1人が常に攻撃を受け続ける事がなく……』
名は体を表す──という言葉がこの世にはある。彼女の名は「時計クロノ」──恐らくは時間を司る神秘を有しているのだろう。
それが意図してか意図せずかこうして発揮され、私達は救われた……。
「……やっ、たの?先生……?」
「やめてください先輩、それフラグ発言ですよ」
「最後の攻撃って誰……?」
「マトイじゃない?あ、マフユ?」
「レティ!アンタわざと外してんじゃないのッ!?この私よ!アイツにトドメをブッ刺してやったわ!少しくらいは感謝することねっ!!」
各陣営、ギャアギャアと騒がしい。しかし今は、その喧騒さえも愛おしく思えてしまうくらいに酷く安堵している。
スズに憎まれ口を叩いたり、冗談を言ってみたりからかったりするシエルすら、今は穏やかな表情でリエとタッチしている。
ふとゲマトリアの方を見やると──マエストロがゴルコンダを抱えて、デカルコマニーがヘイローの消えたヴァンパイア・ロードを背負い退散していく姿が見えた。まぁ、詳しい事は、後でモモトークで話を聞けばいいか。
私達も、そろそろ、ここから退散するとしよう。
「っ!あ、アンタが……せ、先生ってヤツよね……?ふふ、ふふんっ!先生が私に感謝してくれたんならこれで帳消しよ!トリニティでの
「ま、まだ私とマトイは停学明けてない!明けても行く気なんか無いけどねーだっ!べーっ!」
べッ、と舌を出してルーシィの方へと駆け寄る。スズは、飂熾冘巫髏の幹部に手柄が奪われたと強く地団駄を踏んでいて、ルビーやその他のメンバーはそんな彼女を宥め……そしてハドマの代表、リエは。
「……ありがとうございました、ルーシィさん。もしあなたが幹部の方を呼んで下さらなければ……きっと私達は、この戦いに勝つ事はできませんでした」
「そーよそーよ!ルーシィのお陰なんだから、もう飂熾冘巫髏を捕まえようとすんのは止め……むぐっ」
「嬉しいけど、礼を言われる筋合いは無いかなァ。私ら飂熾冘巫髏としちゃ部下を取り戻す為の戦いに等しい決戦だし。寧ろ──リエ。あんたやレイコが主にアイツの体力を削っててくんなきゃ、クロノのトドメも無意味だったよ。……だから、
「ルーシィさん……」
「…………さぁ、さっさと部下を回収して、ここから撤退するよッ!スズは、メンタルさえ復活すりゃあすぐに追ってくるからねッ!」
「「「「了解、総長っ!!」」」」
「マフユ、
「既に。外で
「オッケー、じゃあさっさと
リエもスズも今は逃げる飂熾冘巫髏のメンバーを追う気力も無いらしい。それとも、今だけは特別に見逃すとか──きっと、そんな所なのだろう。
「あ、そーだ。先生、ちょっといい?」
ルーシィにチョイチョイと手招きされる。彼女の方に行ってみると、ヒソヒソと耳打ちをされる。
「幹部陣に先生の連絡先、教えてもいい?悪用とかしないからさ?」
「ん!今日はありがとねっ!部下も取り戻せたし……これで組織を再建できるかな!」
「え〜?それって本心ですかァ〜?……なーんてね。まっ、ガチでキヴォトス中から追われないようには気をつけようかな?……そんじゃ、またねっ!」
「はーいっ!」
シャーレの「先生」として──テロ組織のボスや幹部、更にその下の部下を見逃すってのは、かなりヤバいんだろうとは思う。
だけど、今くらい良いんじゃないかな、と思う。私は仕事だの任務だのに従うだけの人間じゃない。心がある、情がある……1人の男なんだから。
「……けど、研究の結果っての、まだ……」
「先輩。……いいんです、もう。自分の事は、自分で知っていきますよ。……ね、レイコ?」
「──フンッ。雑魚な私に話しかけないでくれる?自分がどんだけバチクソマヌケなカエルだったのか思い知らされて、ガチでイラついてるんだ……ッ」
「か、カエル……?あんた何言ってんの……?」
「うるさいうるさいッ!雑魚なんじゃ意味無いの!もっと強くなんなきゃダメなのにっ……もっ、と……強くならなきゃ……うぅ……うわああぁぁん……!」
泣き出してしまった。シエルとリエが慰めるが、レイコは更にわんわんと泣き叫ぶばかりである。
「……確かに、レイコは……いえ。私もまた、彼女と同じく……カエルなのかもしれませんね」
「え。あんたもレイコも何の話してんの……?」
「……井の中の蛙、という事ですよ。キヴォトスは、まだまだ私達の知らない事柄で溢れている。最強を目指すレイコは、ヴァンパイア・ロードと出会い、自分がどれだけ酷く驕っていたか思い知らされた。ハドマ学園での『最強』なんて、無意味なのだと」
「っっ!」
「ふふ……今の話、スズ先輩にも刺さる部分があるんじゃないですか?
「う、う、うっさいわねっ!もう名乗らないわよ、レイコに勝てないんだし!てか、リエにも勝てないだろうし!口が裂けても言えないっつーの!!何が
『井の中の蛙、大海を知らず』よ!くそっ!」
「それがいいですよ」
「……それもそうかもしれませんね」
「原文通りじゃないと意味ないでしょ」
「いえいえ。ポジティブな意味も付け加えた方が、人生は楽しく過ごせますよ?」
「あんた、あたしより若いのに人生を語るか……」
こうして、ハドマ学園の面々も、ハドマ学園へと帰る事になった。
タンクを務めてくれたテンコや、アンドロイドをダメにさせてしまったリンコにはかなり強く負担を掛けてしまった。時間を掛けてケアをしなくては。
「……先生。この度は……私達の不手際でありながら先生のお手を煩わせてしまい……」
「……ふふっ。では、お言葉に甘えて……そう、心に留めさせて頂きますわね」
────こうして、ハドマ学園の生徒に束の間の平和と休息が与えられる事になったのであった。