「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
私がハドマ学園に到着した時には、もう、全てが遅かったようだった。
記者会見の終わりを待たず、続きはスマホで視聴する事にして、シャーレの自動操縦のヘリを使用しハドマ学園へと向かった。特急なんぞ使っていては乗り換えだの何だのの問題で時間が掛かるからだ。
「なんだ、これ……雪?氷……?」
プレハブ校舎の一角が大きく崩れていた。しかも空気中にはキラキラとダイヤモンドダストのように日光を反射する粒子状の物体が輝いていて、地面はガラスの破片か氷か何かで白く染まっていた。
とにかく今はリエ達を探さなくては、と思ったがあの瓦礫に押し潰されている生徒が居ては大変だ。だからその確認の為にもまず瓦礫の元へ急行した。
「ッ!?リエ……みんな!?」
そこには、ボロボロの状態で4人が倒れていた。いや、よく見たらサエも倒れている。部屋の隅ではアンナが同じく倒れており、瓦礫の向こうには薄くヘイローが透けて見えるので、アスカだけどうにか意識を保っているのが見て取れた。急いでアスカの元へ駆け付けるも、彼女の様子がどうもおかしい。
「アスカ……アスカッ!!」
「……せん……せい?」
「何があったの?これは……!!」
「……ルーシィが、ね…………裏切ってて……」
「ッ!!」
見れば、リエ達が倒れている辺りには液晶らしき破片もある。恐らくテレビで記者会見を見たのだ。そしてルーシィが正体をバラしたのか、それとも、バラすつもりは無くとも露見したのか……。
どちらにせよ、ここでリエ達とルーシィの戦いが起きていたであろう事は、まず間違いない。
「
「な……アスカの、妹……!?」
妹──名前は聞いていないものの、入学と同時にアスカの設立した美食研究会対策委員会に加入し、それにつられて、クラスメイトで友達の樫田サエも加入した……という流れは聞いていた。
すると、サエも────いやしかしあそこで気絶している所を見るに、サエは飂熾冘巫髏ではないのだろうか。
飂熾冘巫髏は正体不明のテロ組織、総長も幹部も誰も彼もが顔を、正体を隠して行動していたのが、ここにきて凄まじい効力を発揮しやがった──と。
「……何が起きたのか、教えてくれる?」
「ごめんなさい…………先生。少し……1人にして」
「っ!……わかった。大変な時にごめんね」
「ううん、謝らないで。私が悪いの。だから…………先生は、何にも……何にも、気にしないでね」
「?……うん……」
妹までもが裏切り者となれば、姉としてはもう、気が気でないのも仕方がない事なのかもしれない。今のアスカの事は、きっと、私なんかにはどうにもできないのだろう。
肉親に裏切られた痛みというのは、きっと友達に裏切られたソレよりも辛いものがあるはず。だから今の彼女を慰めてくれるものは、時間だけだろう。
今の私は、時間がアスカの気持ちに整理をつけてくれると……解決してくれると、願うしかない。
「さて、と。この前よりはマシそうだし私にも治療できるかな……道具は
いや、待て。流石に、そこまでアレらの道具への造詣は深くないか。理解が深くなければ、マトモな品質にはならない。コンドームやローションでさえギリなのだから医療品はやめておいた方がいいか。
「……大人しくプロの手を借りるか……」
またまた、ハナエやセリナなどの救護騎士団と、セナなど救急医学部を大人のカードで呼び出した。急に呼び出すのは本当に申し訳ないとは思う。だが傷だらけの状態で放置はしたくない。
というか大人のカードって、こんなにポンポンと使っていて良いのだろうか。まぁいいか、生徒達の為に使ってるんだから、正解の道ではあるだろう。
◆
「……そう、か……ルーシィ自ら明かしたんだね」
「ま、それに少し近かったかな。ルーシィの事は、よく知ってるつもりだったけど……まさか、あんなに悪い顔をする女だったとはね」
「相変わらず、チクチク刺すような攻撃でしたね。大技らしい大技とかもあまり無いクセに、厄介な事この上ない」
「チッ。アイツらを取り逃したのは、あんたら統治委員会の責任じゃないわ。私の腕が鈍ってたから。スズの言う通り、書類仕事ばぁ〜ッかやってるから雑魚になっちゃったわ。……悪かったわよ」
「別に……シエルのせ……シエル先輩のせいだとは、思ってないから。……負けたのは、私も同じだし」
「敗北は1人の責任ではありません。全員ですよ。ですよね、スズ先輩」
「ええそう。強いて言うなら、私がツインテ綺麗に結べてなかったのが敗因かしらね〜!あーあ、私がこんなヘマしなきゃあ、アイツら潰せてたのに!」
「…………」
「ちょっとは庇いなさいよ!?」
「──いえ。スズさん、ルビーさん、シエルさんのせいではありません。全ては、私のせいなのです。ルーシィさんの本性を見抜けず迎え入れ、尚且つ、2人を仕留めきれなかった、私の未熟さ故に……」
リエは身を縮こめるばかり。先程話を聞いたが、校舎を潰したのはリエの技によるものらしかった。2人の事も同時に押し潰したがレイコに破壊され、脱出され……今に至るのだそう。
そこはまぁ納得できた、筋も通っている。しかし私は更なる疑問に襲われていた。
「スズ。ツインテ綺麗に結べてなかった、って──こんな時に冗談は言うものじゃないよ」
「じょ、冗談じゃないし!事実だし!」
「スズ先輩は七天魔で最強にも最弱にもなる──と以前にお話した事を覚えてますか?」
「うん」
「スズ先輩の戦闘モードはツインテール。しかし、それが綺麗に2つに分けられていない場合、満足に強さを発揮できないんです」
「えぇ……!?」
「綺麗に分けられていない場合は全力の7、8割と見積もっていいでしょう。しかし綺麗に分けられた場合は、十二分にその強さを発揮してくれます」
「……ウソ……」
「あの弱さが演技でないなら、大マジです。なのでこれは事実ではあるのです────が、スズ先輩、さっきの戦い、普通に綺麗に結べてませんでした?私から見たら、綺麗だったと思うのですが」
「っ、うっ、うっさい!下手だったのよ!」
「そーですか。まぁそれならそれでいいんですよ。同じ戦いで二度も同じ言い訳は通じませんし、もし今のお話が嘘でないのなら、次のルーシィさんとの戦いでは本気を見せて下さるのでしょうから」
「ッ!!……っ……ええ、そうよ!次で仕留める!」
きっと──スズは、先程の戦いで十二分に本気を出せていたのだろう。けれど、それでもこうして、圧倒的な力の差で捻じ伏せられてしまった。
辛い現実から目を背けたいのだろう。仕方ない。最強を自負していた自分が、こうもアッサリ倒され後輩や先輩に負けた姿を晒す事になったのだから。
「そういえば先生、アスカは?さっきからアイツの姿が見えないんだけど」
「うん……アスカは、1人になりたいって言うから、今はそっとしておくことにしたよ。救護班の手配もあったからね」
「ん?待って。あたしらは気絶させられてたけど、アスカは無事だったって事?」
「無事と言えば無事、かなぁ。アンナ共々、かなりボロボロではあったからね。アスカにも同じ治療は受けてもらいたかったんだけど……」
「…………」
「……スズ先輩?」
「いや……なんか妙だなって思って。レイコって結構容赦無いタイプじゃない?なのに、アスカだけ……?同じく後方支援のアンナさえ気絶させられてたのにアスカだけ無事ってのもな……」
「そりゃあ、アスカ先輩の方が頑丈ですし……」
「さっきのリエの話によるとアスカの妹のアガリが裏切ってたのよね?」
「だからってアスカ先輩まで裏切ってるとでも?」
「有り得なくは無いでしょ」
「有り得ません。もし裏切ってたなら、それこそ、あの戦闘中に裏切ってた方が確実だったでしょう。リエ先輩だけアスカ先輩の回復を受けていなかったというのはシンプルに範囲の問題ですし、それならリエ先輩を仕留める絶好のチャンスだったはず」
「そう、よね……。現にあたしらなんかは、アスカの回復を受けてたからこそルーシィので足止め喰らう事になったものの、でも、それがリエがブッパするキッカケだったんだしね。そうよね、別にアスカが裏切ってるなんて事は無いか」
「そうですよ。疑り深くなりすぎです」
「……そーよね。ごめん」
ルーシィの件があったら、疑り深くなってしまうというのも仕方ない。寧ろ今のは、裏切りと仮定しそれを否定できるだけの材料を論理的に考えられるルビーの方が凄いくらいだ。
──サエなんか、親友に裏切られていたと知って目覚めてから今まで泣き通しだというのに……。
「うう……アガリちゃぁん……うえぇぇん……」
「よしよし、大丈夫よ……しっかり捕まえてあなたに謝らせるから……ね?」
「だって……アガリちゃん達が学校を壊したなんて、そんなの…………矯正局行き確実じゃないですか!?どうしてこんな事に……」
「それは……飂熾冘巫髏を捕まえれば、分かる事よ。流石に、ここ最近のは
「つっても、アイツらどこ行ったのよ……?最後まで意識が残ってたアスカなら見てたかもだけど、連絡つかないみたいだし。リエも見れてないんでしょ?アイツらが逃げるとこ」
「ええ……レイコさんにやられましたから……」
「チッ、何なのよあのバケモノ……!どこまで削れば倒れるのよ……!!」
「彼女は余程、打たれ強いのでしょうね。ただただ鍛えるのにも限界はありますからね。素で強い、と思っていた方がいいでしょう。それに加え、私達と違って、どの武器も扱える器用さまである。まさに彼女は『規格外』が服を着て歩いてるようなもの。恐れ入りますよ、本当に……ッ」
同族──同じ吸血鬼だからこそルビーはレイコのヤバさをこの場の誰よりも理解している節がある。しかしそれは、最前で撃ち合っていたスズも同じ。彼女の異常すぎるタフネスと、あまりにも突出した短期決戦型という彼女の戦術が恐ろしい程に綺麗に噛み合って初めて生まれる化学反応────。
「ねぇ、ルビー?」
「どうしました、先生?」
「他の吸血鬼の子達とかにも、声を掛けてみるのはどうかな?私の生徒にも1人、吸血鬼の子が居るんだけど、確かに、その子も飛び抜けてタフだった。継戦能力だけなら、ゲヘナの風紀委員長も超えてるくらい。……ルビーもかなりタフな方だよね?」
「ええ、まぁ……。私もタフな方だとは思いますし、私達吸血鬼は、生まれ持った『日光』という弱点があるのと引き換えにこのタフネスを得ているものと思っていますが……他の吸血鬼はアテになりません。時間を使ってまで、わざわざこちらから話し掛けるまでもありませんね」
「それはどうして?」
「吸血鬼は軒並み飂熾冘巫髏に加入してるから──ただそれだけです」
「────ッ!?」
「私もこれで一応思春期の女の子ですから、あまり深くは聞かないでください。──ただ、それぞれ、コミュニティのようなものがあるんです。だから、それくらいの事なら私だって知ってます。私以外の吸血鬼が……既に敵だということくらい……」
「待って、ルビー……だからあんた、統治委員会への志願者も全部ブチのめして門前払いしてたの?」
「ええまぁ。──アガリが美食研究会対策委員会に加入したのも、恐らく姉のアスカさんを勧誘する為でしょう。吸血鬼が志願してきた時点で、私自らが門前払いしていたのは────スズ先輩、あなたが飂熾冘巫髏に勧誘されないようにする為です」
「…………バカね。あたしがそんな勧誘に乗るハズが無いでしょ?」
「それは……そうですが。ですが……先輩は、ずっと私だけの先輩で良いんですよ……これだからドンカンクソバエは……」
「あー?なんか言ったァ?」
「……何も」
スズとルビーの湿っぽさは相変わらずか。いや、ルビーからの一方的なものか……?
それはまぁ一旦置いておくとして。相変わらず、ハドマではブルーな気分に陥る事が続く。流石に、ヴァルキューレが割って入れる域を超えているとも思えるのだが……。
「──実は私も、何度も何度も勧誘されてまして。まぁ七天魔の1人ですし、レイコを除けば吸血鬼で最強は私でしょうから、スカウトしたくなるのも、分かります。でも、例え私以外の吸血鬼が敵に回り裏切り者と後ろ指を指される事になっても────私は、統治委員会に残り続けます」
「……ありがと。助かるわ」
「!?……スズ先輩が素直に礼を……熱あります?」
「あのねぇっ!礼くらい普通に言うわよ!それよりアスカ、早く戻ってきなさいよ……!何だかんだで、アスカのお菓子を食べると回復できるし……」
治療も終わり、そう愚痴を言い合ったり、今後の作戦を考えたりなどしている中──急に、アンナがワッと声を上げる。
「あっ!アスカさんからメッセージ来ましたよっ!七天魔グルです!…………えっ……?」
「「「「────ッッ!!」」」」
共に七天魔をサポートする立場にあるアスカに、自分が気絶から目覚めてからというもの常に連絡を取ろうとし続けていたアンナは、真っ先にアスカのメッセージに気付く。
その時は全員、パッと表情が明るくなった。
しかしそのメッセージを見た瞬間、明るくなった表情も、急転直下。一瞬で凍り付くことになった。
次回、絶望の淵に立たされて。