「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「最寄り駅がここで……アビドス高校まではまだ少し距離があるようですね……」
「見渡す限りの砂、砂、砂!マジで何も無いじゃんアビドス!何でまだ生徒がいるのよ、しかも5人!マジでバカなんじゃないの!?」
「まぁまぁ……。よく分かりませんが、学校や土地に愛着があるんですよ、きっと」
「民族大移動とかしてきた私達吸血鬼にゃイマイチ理解できないわ……。1つの土地に固執する理由が、マジで分からない……理解不能よ!」
土地柄、種族柄、そしてその生態柄、相容れない部分はきっと、お互いにある。非常にデリケートな内容だ、レイコはズバズバと簡単に口にするがその一言が余計な争いを生む事をルビーは知っている。
彼女の意見を真っ向から否定はせず、ただただ、シンプルに「そういう事もある」と受け流す方向でやり過ごす。
駅を出るとそこには迎え&案内役としてルビーのバイト仲間である黒見セリカと、その先輩の十六夜ノノミの2人が出迎えてくれた。
「やっほ、ルビーちゃん!」
「セリカさん……!唐突だったのに対応して頂いて、すみません。ありがとうございます」
「いいのいいの!……えっと、こっちの子は?」
「あ、はい。こちらは私と同族の……」
「
「く、黒猫耳……」
「ドタプンおっぱいって、まさか私ですか!?」
「他に誰が居るっての。貧乳貧乳控えめドタプン、とんだアンバランスさだわ」
「えっと〜……。セリカちゃんの先輩の十六夜ノノミです、よろしくお願いします……ね……?」
「……フンッ!」
ケッ!とノノミの両胸を睨む。コンプレックスがあるワケではない、しかしここまでたわわに実った胸が目の前でユサユサと揺れていると、思う所など特に無くとも何かしら言いたくなるものである。
誰より信頼を寄せるモルモよりも大きいサイズの胸は、レイコにとって未知の領域だからだ。夢魔の末裔を自称する幹部、ライムよりも大きい。
「すみません、レイコはこういうヤツでして。周囲全てが敵みたいな態度ですけど、人見知りみたいなモノですのでお気になさらず。『わからせ』られた腹いせみたいなものです」
「腹いせって……」
「あはは……」
「ンなこたァどうでもいいでしょ?アビドスに私達吸血鬼に関する手掛かりがあるって聞いてわざわざD.U.経由してまで来たんだかんね?」
「う、うーん。サクッとルビーちゃんから聞いてはいるけど、私達じゃそういうの分からないからさ。先輩なんかも居るし、とりあえず学校まで来る?」
「そうさせてください。レイコも黙ってついてきてくださいね」
(このノノミっての、ひょっとしたら、ライムよりおっぱい大きい?とんでもないわ、アビドス……)
道中もノノミの胸をチラチラと見ては顔を赤らめながら、アビドス高校へとやってきた。そこには、データに無い「6人目」の生徒が居た。
「お久しぶりです、ルビーさん」
「改めてようこそ、アビドス高等学校へ!」
「調査協力だったっけ?まぁセリカちゃんのバイト仲間ちゃんのお願いだからねぇ〜……。おじさんにも手伝える事があったら言ってねぇ」
「ん……歓迎する。望むなら入学すればいい」
「誰がこんなクソ暑……ムグッ」
「種族的に、私達は暑い・寒い環境が苦手なので、すみません……。それより、その────」
「?」
レイコとルビーの目は同時に、ホシノの目の前の
「6人目」のアビドスの生徒に向けられる。事前に調べた情報では、アビドス高校には5人しか居ないという事だったが……。
どこからどう見ても彼女はアビドス生だし何よりヘイローがアビドスの校章と極めて酷似している。これでアビドスの生徒じゃない方が驚きだ。
その生徒は、自分の足で立てないのか、車椅子に座っている。当然その車椅子のハンドルを握るのは他でもないホシノである。
「えーっと……?あ、ひょっとして私かな?アビドス生徒会長、梔子ユメだよ!ヨロシクね!」
(おっぱいデカッ……!ライムやノノミより!?)
「事前に調べた情報だと、5人しか居ないという話だったのですけど……?」
「んーとね、それは──」
「まぁ何と言うか、色々とゴタゴタがあったんだ。まさかユメ先輩が復学する事になるなんて、微塵も思ってなくってね。生徒のデータの更新については先生にお願いしておいたから、近々ユメ先輩の事も公になると思うよ〜」
「復学……?」
「あれ……確か、ホシノさんって3年生でしたよね?ユメさんは、ホシノさんの先輩さん……?」
「まぁまぁ、それは良いとして。2人共、暑い環境苦手なんでしょ?しっかりとクーラー効いてるよ、中に入ろうよ♪」
「あ……そうですね。お邪魔します」
ホシノにサラッと回避されてしまい、流されるがままに2人は対策委員会の会議室へ移動。そこで、セリカを通してではなくルビー達の口から、改めて事情を説明した。
どうして出自を知りたいと思ったのか。
どうしてアビドスに流れ着いたのか。
ゲマトリアとの関わりがあった事や、それ関連の事件──それら全て事細かに説明し、アヤネは全て記録していった。
長かった話が終わる頃にはシロコとセリカは軽く放心状態に、ノノミとホシノはうつらうつらと船を漕ぎ、アヤネは手を痛めていた。
そんな中、ユメだけが唯一、話を聞きながら思案するような素振りを見せていた。
話しているのもルビーだけなので、話す側であるレイコもウトウト──というより寝落ちしていた。
「──とまぁ、おおよそですが、そんな流れで今に至るというワケです。長々とすみませんでした」
「ううん、いいのいいの!────それにしても、ルビーちゃん達は本当に『吸血鬼』なんだねぇ……。前の学校の資料でしか見た覚えが無かったよぉ」
「えぇまぁ……吸血したり、誰かを吸血鬼化させる、なんて事も可能ですよ。試してみますか?」
「そ、それはいいよぉ……」
「吸血鬼は回復が早いです。ユメさんのその身体も一旦吸血鬼化する事で回復するかもしれませんよ」
「ッ!!」
「……まぁ、考えておいてください。私の施す、この不完全な吸血鬼化は……可逆性があるものですから」
「そー……だね」
リハビリ中の車椅子生活とはいえ、こうして自立できないせいで、戦闘するどころか日常生活ですらホシノに負担を掛けている現状──そこを見抜いたルビーの悪魔的な視点は流石と言わざるを得ない。
現実問題として、ホシノはそれ自体を負担になど感じていないし、ユメもそれは知っている。しかしそれはそれとして、ホシノへの申し訳なさは強い。
ルビーは「言い過ぎたかも?」と己の発言を軽く反省していたが、今度はユメの方から、ルビーへの追求が始まった。
「確かにアビドスは『そういう伝承』があったって話だけは聞いてる。だけど校舎の移転を繰り返した過程でその資料は失われているの。移動時は『学校機能の維持に必要なだけの荷物』しか持たなかったそうだから、学校と直接的な関係がない『伝統』はその時に砂の下に置いてきてしまったんだと思う」
「そう、ですか……」
「──それにしても、ゲヘナじゃなくってアビドス出身の吸血鬼の子なんて居たんだね?」
「ええ。レイコにとってはある意味で師匠みたいな存在らしいんです」
「アビドス出身の子なら、年代が合っていれば私も知ってるかなぁ……。あぁでもアビドスって広いし、そうもいかないよね。ちなみに、なんてお名前?」
「フルネームは──
「盛宮……?」
「……流石にユメさんとは年代が合いませんよね」
────否。大いに否である。
事故により2年間意識不明であったユメと、己の意思で留年を繰り返しているモルモ。どういう因果なのか、両者は奇跡的に、世代が殆ど被っていた。
そしてその時期は、全盛期に比べ遥かに荒廃した現代のアビドス。人数も少なくなっており、田舎と呼んでも差し支えない程に寂れた現代のアビドス、世代さえ被っていれば知っている可能性は高い。
「……もしかして、おっぱい大っきい、ピンクの長い髪の子だったりする……?」
「え。そ、そうですが、どうして……」
「やっぱり!中学生の時の先輩だ〜!」
「!?」
「ゲヘナに行くって聞いてたけど、そっかぁ!何があったか分からないけど、ルビーちゃんも知り合いという事は……今も元気に学生やってるんだね!」
「……失礼ですが、ユメさんはお幾つですか……?」
「んーと、17歳の時に遭難して2年間寝てたから、今の実年齢は19歳……になるのかな?」
「……それなら、モルモさんは20歳かそれ以上?」
「だと思う!先輩、元気にしてた?」
「え、えぇ、まぁ……」
「そっかー、良かったぁ!中学の頃にはもう、人数かなり減ってたからね……。モルモ先輩なんて、特に目立つから覚えやすかったよね!」
「はは……あはは……」
確かに目立つ。嫌でも頭に残るだろう。ピンクのロングヘアー、零れそうな程に大きな乳房、三重にピンクのハートが重なり、そのハートに翼と尻尾が生えたかのようなヘイロー……目にも頭にも残る。
「そっか、そうだよね。モルモ先輩も吸血鬼だって言ってた気がする!モルモ先輩の出身地となれば、確かに吸血鬼に関する情報はあるかもだね!でも、地域の図書館とかは殆ど埋まっちゃってるからね……うーん、どうしよっかなー…………うーん……!」
漫画か何かのような困り顔になったユメはうーんうーんと頭を悩ませ何かを思い出そうとしている。その間ルビーはアビドス自治区内の大きな図書館の位置を調べ地図と照合してみるも、ユメの言う通り現在は砂に埋まってしまっている地点だった。
他の図書館、または資料館か何かが無いか検索。しかしやはり、その大半が砂の下である。
砂漠化が深刻すぎる──とルビーが下唇を噛んだその時、ユメはポンと手を打ち声を上げる。
「────あっ!そうだ!ねぇ、ホシノちゃんっ!起きてホシノちゃん!」
「むにゃ……なんれすか、ゆめせんぱぃ……」
「ホシノちゃん、私との宝探しに使った宝の地図、まだ持ってたりする?もう、捨てちゃった……?」
「宝……探しぃ……?」
むにゃむにゃと、子供のように口をモニョモニョさせながら、目を擦りながらホシノは目を覚ます。すっかりノノミに寄りかかり熟睡していたようだ。実に柔らかそうなおっぱい枕である。
「ほら、私とホシノちゃんで、あちこちに宝探しに行ったでしょ?その地図、まだあったりしない?」
「え。……ま、まぁ、ユメ先輩との思い出の品ですしもちろん保存はしていますけど……」
「よかったぁ!確か、前に宝探しに行った時にさ、あったよね?危険なトラップがあるからって探索を諦めた、よく分からない遺跡?みたいなの……」
「────あー……ありましたね。確か、ユメ先輩が足元の紐に引っ掛かって、岩が落ちてきて、通路が完全に塞がれたハズです。もちろん、銃器や爆薬で破壊する事は可能でしょうけど……」
「それだと遺跡自体が壊れちゃうからってことで、その遺跡の宝探しは諦めたんだったよね?」
「ですね」
トラップ──遺跡──基地、吸血鬼の身体能力。それらが瞬間的に脳内で繋がり、答えが導かれる。スーパーコンピュータのような演算が行われたその結果、ルビーは隣で眠るレイコを叩き起こした。
「いでっ!?な、何よルビー!?叩かなくてもいいでしょ!?」
「分かりましたよレイコ、次に向かうべき場所が。アビドス砂漠のどこかにある遺跡です、そこに私達吸血鬼に関する情報があります!」
「何よそれ、そんなとこに探しに行けって?砂漠の中に遺跡っつーだけでもかなり胡散臭いのに?」
「探しに行けってワケじゃないけど、何か手掛かりくらいならありそうだなって……。地図もあるけど、これくらいしか力になれなくって、ごめんね……」
「いえ、ユメさんが謝る事ではありません」
「ホント疲れるわー。わざわざハドマからゲヘナに行って、D.U.経由してアビドスまで来たのにさぁ。宝を探しに来たワケじゃないんだけど?」
「ひぃん……」
「レイコ、それ以上はやめてください。わざわざ、私達と話す為に時間を作ってくださったアビドスの皆さんに失礼です」
「……ケッ」
「すみません、レイコは少し暑さでイラついているようです。気にしないでください」
「うん、大丈夫だよ。ホシノちゃん、あの地図、今どこにある?」
「私の家にあります」
「それじゃ、ちょっとホシノちゃんの家に寄って、地図を取ってきて宝探しの続き、しよっか!」
「ユメ先輩も行くんですか?危ないですよ」
「何かあったら、守ってくれるんでしょ?」
「そりゃあ……も、もちろん、守りますけど……///」
「じゃ、行こっか!」
辛うじて意識を保っていたアヤネに、ノノミ達のことを任せることにして、ルビー、レイコ、ユメ、ホシノの4人はアビドス高校を出た。
ルビーとレイコは、今度こそ
──そしてユメとホシノにとっては、2年ぶりの宝探しであった。