「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「こうして宝探しするの、何年ぶりかな〜♪」
「2年ぶりです。先輩、2年も寝てたんですから。ホント、お寝坊さんな先輩です」
「えへへへ〜。それにしても、不発に終わった地図なのに、ほんとに綺麗に保存してたんだねぇ」
「思い出は……決して不発じゃありませんから」
「ホシノちゃん……」
「ユメ先輩……」
「ハイハイハイ!ストップ、ストーップ!!」
「「!?」」
「なァに抱き合いそーな雰囲気を醸し出してんのよアンタらはァ!これからアビドス砂漠にあるっつー遺跡に行くんでしょーがッ!?」
「うへっ!?そ、そーだったねぇ……」
「ご、ごめんねレイコちゃん、ついつい思い出話が盛り上がっちゃって〜……」
「ったく。昼間からイチャコラするんなら、人目につかない所で……ホテルでも行きなさいっつーの」
「「ごめんってば〜……」」
アビドス砂漠にあるという遺跡に向かう一行は、砂漠に向かう前にホシノの家に立ち寄って、地図を確保する。それを見たユメとホシノは、しみじみと2年前の話をするが、レイコはウンザリという顔、ルビーは「私に関係無いし」とでも言わんばかりの何食わぬ顔でスマホの地図と照らし合わせている。
「その遺跡というのは、この地図で言う
「あれ?ねぇホシノちゃん、あの遺跡、私が寝てる間に砂に埋まっちゃったの?」
「2年間立ち寄ってないので、よく分かりません。ただ、数ヶ月前までは、カイザーPMCがアビドス砂漠に滞在していたので……下手をすると、カイザーPMCが遺跡に何かした可能性も……」
「うーん、遺跡が壊されてる可能性かぁ」
「でも、カイザーPMCが滞在してた地点と遺跡はまるで別方向ですし、単に地図アプリの製作会社がアビドス砂漠に大して踏み入ってないだけっていう可能性もあると思います。よく見ればその地図──線路や大オアシス駅なんかも入ってませんし」
「そっか、そうだよね……ちゃんとした装備が無いと私みたいに砂漠で遭難しかねないもんね……」
「ゔっ」
「ホシノちゃん!?」
ユメの命懸けの自虐ネタに、ホシノは今にも嘔吐しそうだった。ユメ本人は単純に自分とアプリ製作会社の者を重ねて想像しただけで、自虐ネタとすら思っていないのがタチ悪いものである。
「大オアシス駅……?そんなのが砂漠の中に?」
「も、元々はあちらこちらに線路を開通させるはずだったから、その名残りみたいなね……」
「アビドス……思ってたより規模が大きいんですね。物理的な話じゃなくて中身が、です」
「そーそー!アビドスって凄いんだよぉ!なにしろキヴォトスの全ての民はアビドス由来だ、なーんて言い伝えがあるくらいなんだからっ!」
「それでしたら初めてお会いした時にホシノさんに教えて頂きました。確か『我ガ起源ハ砂漠ニ有リ』でしたか。そんな感じの言い伝えがあるとか?」
「そうそうっ!」
「え、なになに、私だけ除け者?何の話か教えてよルビー?」
「──ホシノさんがアビドスに入学する前の、更に前の校舎の頃のお話です。そこにあった資料の中に
『全てのキヴォトスの民はアビドスが起源である』という意味合いの記述があったようです。そして、その中に『吸血鬼』の記載もあったそうですよ」
「え……マジ?そんなら、先祖はゲヘナからハドマに民族大移動したんじゃなく、アビドスからゲヘナ、それからハドマに移動した──ってコトなの?」
「その資料が正しいのだとすれば、ですが。そしてアビドス発祥でゲヘナに移動したか、ゲヘナの前にどこかを経由して、そして私達の知る歴史に至ったという可能性も否めません」
「うーん、地味に気になってきた。でもま、私達が知りたいのはあくまでもルーツそのものであって、歴史全部ではないしね。ルビーもでしょ?」
「はい。知りたくないと言えば嘘になりますけど、歴史全てだとキリがありませんからね。ある程度の割り切りは、きっと必要です」
「そーね。違いないわ」
そうこう話している内に、遂に住宅地帯を抜けて砂漠地帯に突入した。車椅子だと車輪が砂に取られこれより先には進めなくなるので、ユメはホシノが背負う事に。
そうまでして連れてくかとレイコはブーイングを飛ばしたが、ホシノとユメは頑として譲らず……。
ここまで来れたのは2人の協力あってこそだ、とルビーもレイコを窘めて、ようやっと先に進む。
「遺跡遺跡……どの辺だろ?」
「この地図だと、あまり市街地の端から距離があるようには見えませんね。縮尺の問題でしょうか?」
「えっとね、遺跡と言えば遺跡なんだけど、実際はちょっとしたピラミッドみたいな感じなんだよね。ねっ、ホシノちゃん?」
「そうですね。体育館くらいのサイズでしたっけ、そんな感じのサイズ感のピラミッドがあって──でも入口の時点でユメ先輩が罠に引っ掛かり上から岩が落ちてきて、入口が封鎖されちゃった、と」
「ひぃん……おマヌケな先輩でごめんねぇ……」
「体育館って、結構サイズあるわね。でもそんなのどこにも見当たらないけど。どこを見ても砂、砂。砂しかないわ」
「砂漠化によって砂に埋もれているのかもですね。小さな砂丘みたいなものがあったら、それが遺跡の可能性もあります。威力が弱めの爆弾でも使って、小さな山を破壊していきましょう。──ユメさん、ホシノさん、構いませんか?」
「うん!この辺は建物もオアシスも無いし〜……」
「カイザーもとっくに離れてるし、爆弾くらいなら問題は無いと思うよぉ。ただ、爆弾を使うなんて、いざ遺跡を見つけたときに破損しててもおじさんは知らないよ?」
「そうですね。砂を吹き飛ばす程度の、本当に最弱クラスの爆弾を使っていこうかと思います。人手も数もまだ足りないので、私達の部下を呼ぼうかと。では、レイコ、そちらは頼めますね?」
「任せな〜。多分あんまし遠くには居ないハズよ、割と一緒に行動させてたから。あ、近くのブラックマーケットに居るって。座標送ったから多分すぐに来てくれるよん」
「ありがとうございます。ユメさんとホシノさんは地図と現地の照合をお願いできますか?」
「任せてっ!」
「あいあいさ〜」
元・飂熾冘巫髏吸血鬼部隊、現・吸血鬼調査隊の面々がアビドス砂漠の特定の座標に集結を果たす。100と少しを超えるこの人員で牽制にすら使えないような弱い爆薬を使用して砂の地面を掘っていく。
やがて人員の一人がピラミッドを発見し、全員がその周辺を手で、もしくは爆破やスコップなんかで掘っていく。途中、ユメも参加しようとはしたが、ホシノから窘められて大人しく待つ事に。
「たった2年でここまで砂に埋もれたんだ……。少し寂しくなるね」
「入口を露出させる為だけに……はぁ、既に2m近く掘りましたよ……。レイコもバテバテです」
「…………………………」
「ごめんね、私達も手伝えたら良かったんだけど」
「いえ。ユメさん達は案内役なので。案内役の方に砂掘りさせるワケにはいきません。ホシノさんも、同じ意見のようですよ?」
「うへっ!?ま、まぁ、そうだね。──全くもう、ユメ先輩は自分が動きたがるんですから。そんなのリハビリを終えてからにしてくださいね」
「うーん、ごめんねぇ……もっとリハビリ頑張るね。ところで──私達が2年前に来た時は、この入口も階段の途中にあるみたいに見えてた、よね?だから実際はもう少し下まで埋まってると考えると……」
「アビドスの砂漠化は思ってる以上に深刻ですね。後で、先生達に報告しないと」
「……だねっ!」
ユメが「入口」と呼んだそれは、階段に作られた横穴のようなもので、2mも進まないうちに壁へとブチ当たっていた。これのどこが「入口」なのかとツッコミを入れたくなるルビーだったが、そこで、先程のホシノの言葉を思い出す。
「──ユメさんが罠に引っ掛かり、それに反応して
「そ。見ての通り、完全に封鎖されてるってワケ。当時は宝探しに来てたから、手持ちはツルハシだけだったのもあって、ピラミッドというか何かしらの遺跡っぽいから、破壊するのは阻まれたし……」
「……コレをどう見ますか、レイコ?」
「あー?……そんなもん、フツーに持ち上げればいいでしょうよ……私は疲れたからルビーやってよ……」
「これ持ち上げられます?ビクともしませんけど」
「バカ言ってんじゃないわよ。吸血鬼に関する遺跡だったら吸血鬼に対処できない罠なんか置かない。第一、それは『吸血鬼以外』を除く為の装置よ」
「何故そこまで言い切れるんです?」
「コレと同じモンが
「ッッ……!?そ、それじゃ、この遺跡を作ったのはリンコさん率いる技術開発部……?」
「違う違う違う、何でそうなんの。地下迷宮だって設計したのは飂熾冘巫髏の吸血鬼よ。遠くない内に自分達だけの秘密基地にするつもりだったからね、自分達に有利な設計にするに決まってるでしょう?リンコの部下にだって吸血鬼は居るんだしさ?」
「……てことは、つまり」
「吸血鬼の遺跡で正解ってワケ。ところで、入口の上の看板みたいなの、変な絵?模様?みたいなのが描いてない?アレ、何なのかしら?」
「模様というより、古語っぽいような気もします。誰か、アレ読めますか?」
首を横に振るユメとホシノ。レイコはもちろん、その他の吸血鬼達も同様であった。仮に古語だったとして、そう簡単に読めるハズが無い。それこそ、古関ウイのような知識人、専門家などに尋ねるべき案件である──が。
この中で唯一、ホシノだけは、あの文字のようなものに見覚えがあった。
「それ、古語で間違いないと思うよ。前に、先生が古語の勉強で読んでた資料に、似たような文字?か模様?……みたいなのが書いてあったハズだし」
「え。先生、古語を勉強されてるんですか……?」
「ゲヘナの、とある生徒の影響で……って言ってた。今にして思えば、さっき言ってたモルモさん?って生徒の事なのかもしれないね」
その瞬間、今後の方針が決まった。
調査隊の隊長であるルビーは全体に指示を下す。その他大勢の末端の吸血鬼には遺跡全体の発掘を。
ホシノとユメには先生への連絡を。
そして自分とレイコは、入口を封鎖するこの罠を物理的に持ち上げ、排除する。
「あ、もしもし先生?うん、ちょっと緊急かも〜。ううん、トラブルがあったワケじゃないんだけど、ちょっとおじさんのお願いを聞いてほしくてさ〜。先生って確か、古語の勉強してたよね?そこでさ、ちょっと解読をお願いしたいものがあって──」
「これ全部掘るのぉ!?」
「暑くて干からびそうだよォッ!」
「さっさと終わらせてさっさと帰ろ!やってられんこんなクソみたいな作業なんて!!」
「そーだそーだ!帰りにブラックマーケット寄って普段は買えないアレコレ買ってやろ!!」
それぞれが役目をこなす中で、疲労から復帰したレイコを伴い、ルビーは入口の前に立つ。
隙間風すら微塵も無い、ピッチリと閉ざされた、ピラミッドらしき遺跡の入口。これをどう動かすと言うのだろうか。
常人ならまず破壊しようと考えるだろう。実際、それが一番の有効打となるのは間違いない。しかし実行するのは遺跡へのダメージとなりかねないので今回はNGだとすると。
「やっぱコレも持ち上げるしかない、か」
「いきますよ」
「せーのでいくわよォ。せぇーのッ!!」
2人の吸血鬼によって持ち上げられた「壁」は、まるで発泡スチロールでも持つかのようにあまりに呆気なく持ち上がり──遺跡内部へと続く暗い暗い廊下を、2年ぶりに外気に晒したのであった。
◆
その頃、D.U.の風紀委員会支部では……。
その「キヴォトス唯一の幼女ではない吸血鬼」が熱に倒れ床に伏せっていた。ルビー達がアビドスに向かい始めた頃に急に熱が上がり、倒れたのだ。
「ッ……はぁ……はぁっ…………うっ……」
「らしくないな、モルモ。悪い物でも食べたのか?凄い熱だぞ。インフルエンザかと思ったが、そんな季節じゃないしな。……まぁ、ここ最近ずっと徹夜で仕事したりしてたし、単なる体調不良だと思うが」
「ごめんね、イオリちゃん……面倒、かけて……」
「いつも戦闘でカバーしてもらってるし……。別に、この程度なら何も問題ない。それより早く復帰して仕事をこなしてくれたら、それでいいよ。そろそろこの風紀委員会支部も無くすんだろ?確かマコトを唆した、ルーシィとやらの件が片付いたからって。だからさっさと残った仕事も終わらせなくちゃだ」
「そー、ねぇ……。ヒナちゃん、迷ってたなぁ〜……支部があった方が、先生、守りやすいし、って……。イオリちゃんは……どっち派、かな……?」
「そりゃあ先生を守りやすくなる環境は助かる事もあるけど。だけど、私はゲヘナ風紀委員会なんだ。いつまでもD.U.に居るワケにはいかない。最終的な判断はヒナ委員長に任せるけどな」
「……そっか。それ聞いて、少し安心したかも……」
「そんな事はいいからモルモは寝てろ。熱が下がるまでは隔離だからな!何か欲しいモノがあったり、何かあったらすぐにモモトークしろよ!」
「はぁーい……」
しかしそれからしばらくして、何の音沙汰も無いモルモの様子を見に彼女の部屋を訪れた時──既に彼女の姿は無かった。
書き置きのメモと、全開に開け放たれた窓だけが彼女が支部を飛び出してどこかに去った事を克明に告げていた。