「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「ッッ、はぁっ、はぁっ……」
「……。これで、思い留まってくれましたか?」
「っ……なんでよ、どーして……こんなッ!」
ヴァンプ遺跡の地下で行われたホシノvsモルモ、その戦いはホシノの勝利に終わった。
なんて事は無い。ルビーやレイコなんかが援護をする暇も無いくらいの息をつかせぬ猛攻を仕掛け、モルモの攻撃態勢を切り崩したのだった。
こと武器の性能だけで言うなら、SG2丁持ちのモルモの方が、SGとHGを持つホシノより攻撃力だけは上回っているものの……。
継続的な速度、瞬間的な速度、立体的な機動力はモルモが勝っているが硬さや瞬発力、そして天賦のモノであろう戦いの勘というものは言うまでもなくホシノが圧倒的に超越していた。
モルモは自身の強さを、空崎ヒナを1とすると、自身は8割程度と評している。結論から言うなら、その見立ては実に的確なものであった。
そんなヒナと同じ土俵で戦えるホシノを相手に、モルモが勝てるハズが無かった。
「力で屈服させて、でしたね。私達が勝ちました。なので私達側の言う事を聞いてもらいます」
「ッッ」
「す、凄いよホシノちゃん!」
「私達の援護、あまり必要ありませんでしたね……」
「んね。……ハドマ最強なんてまるで意味無いわね、聖園ミカもだけどトップ連中ってどうしてこう……。空崎ヒナも不意打ちの強襲でしか倒せなかったし、道のりは長いわねー……」
モルモを打倒できたことで、一同に流れる空気が弛緩する。それくらいに、ルビー達に比べ圧倒的に強いモルモを相手にして立ち回るホシノの戦い方が圧倒的で、彼女の敗北が決定的に見えたからだ。
「……先輩。もう、諦めてくれますか……?」
「どーしてッ、諦めなくちゃいけないのよ……たかが本人に負けたくらいの事で!」
「「「「……ッ!?」」」」
「小鳥遊ホシノ相手なのよ?負ける事なんか戦う前から分かってた!つーかこの程度で私のメンタルが折れるとでも思ってるワケ!?こんなんならダチが殺された時の方がよっぽど折れたし、キレたわ!!でもね────本人に負けられてスッキリしたわ、もう今回の人生には未練も無くなったッ!これで、心置き無く『儀式』を始められる……!!」
「なっ!?まッ、まだ諦めて……」
「『ゲヘナの魔女』なんて畏れられたこの私の力、魅せてあげるわ!!」
フラリと立ち上がると、血飛沫を上げながら深く自分の腕に牙を突き立てる。ボタタタッと勢い良く血が流れ出し、遺跡の床を汚していく。
流れ落ちた彼女の血が一気に霧散していき赤黒いオーラのようになり、彼女の周囲に収束していく。そのあまりの勢いに一同は顔を覆い隠すしかなく、ホシノさえ腕を盾に眼を覆うのでやっとだった。
風が収まり目を開けるとそこには、衣装が変わり
「……何年ぶりかしら、
「まさか、これは────もう1人のシロコちゃんみたいな『反転』……ッ!?」
「……違うわぁ……。これは『反転』じゃあなくて、自然な姿に戻っただけ──そう、言わば『回帰』。昔から生き続ける私だからこそ体得できた……」
「何なのよ、それ……ヘイローも割れてるし、もう、何が何だか……どうしろってのよ……!?」
「割れたヘイローを元に戻す方法なんか聞いた事もありません……こんなの、どうしろと……」
「はわわわ……せ、先輩……ほ、ほほホシノちゃん、どうしよぉ……!?」
(『色彩』による反転は可逆性が無いって、先生が前に言ってた。だけど『回帰』ならもしかしたら、元に戻せる……?でも、どうやって……)
「ホシノちゃぁんっ!」
「ッ!……モルモさんがまだ暴れるようだったら私が止めます。そうでないなら──」
「だァれが暴れるってのよォ。バカねぇ。この姿になったからって大して強くなったワケでもなし──小鳥遊ホシノ、アンタに勝てるとは思ってない」
「……なら、何の為に?」
「儀式の為よ、言ったでしょう……?止めたいのなら好きにしなさい、だけどもう全ては始まっている。後はただ──時の流れに、身を任せるだけ」
「時の流れに……?」
傷が塞がった左腕に再び噛み付く、しかし今度は先程のような噛みちぎるような噛みつきではなく、蚊が吸血するような、牙を差し込むだけの穏やかな噛みつきだった。
「嗚呼……やっぱり自分の血って慣れ親しんでるだけあるわ。下手なフルコース料理より美味しいと──ファミレスの安い料理のような安心感があるって、私の口が感じてる……」
口元から血を垂らすモルモは、どこか謎の色香を放っている。うら若き乙女が、性欲に抗えない男を色仕掛けで騙して堕とし、その生き血を啜り、男を枯れ果てさせた後のようにも見えてしまう。
(どうやら、時間経過で『儀式』が完了するみたいだね。でもどうやって止めれば……気絶させる?)
「待ってホシノちゃん!!」
「!」
「先生を呼ぼうっ!先生だったら、なんとかできるかもしれないっ!!」
「でもユメ先輩っ……流石に危ないです!誰が先生を守るんですか!」
「私が守るよっ!」
「!?」
「この盾だって元は私の盾なんだから!自分の盾の使い方くらい、戦えなくてもちゃんと覚えてるよ!だからホシノちゃんは、モルモ先輩を止めてッ!」
「私とレイコも、先生やユメさんを守ります。盾はありませんが先生より強靭な肉体はありますから。ましてや私達も吸血鬼、頑丈さは折り紙付きです」
「肉の盾ってヤツよね。だから、さっさとモル姉を止めなさい、ホシノッ!!ルビーはハドマのトップアイドルなのよ、下手に傷なんか残させたら絶対に逆恨みしてやるんだから!」
「……うへ〜……注文が多くておじさん困っちゃう。まぁ……こういうのもたまには悪くない、か」
再び銃を構えるホシノ。こうして第2ラウンド、ホシノとモルモ*テラーの戦闘が始まった。
◆
「────え?」
空が、赤く染まった。
プレナパテス達が襲来したあの日のように。
シロコが連れ去られたあの時のように。
ザワリと心が沸き立ち、足が震える。
大した事では驚かないと思っていた自分を強めに殴りたくなるくらいに足が震え心は警鐘を鳴らす。
色彩が来た。黒服の言う「二度目の襲来」が、今ここで起きた。
どうして、なんで──声にならないそんな言葉が頭の中でひたすらにグルグルと駆け巡る。
そんな空に驚いてなのか空が赤く染まった直後にモモトークの通知音が鳴った。真っ先に私に連絡をしてきた生徒は……。
「ルビーから連絡…………えっ?」
彼女から送られてきたのは、アビドス砂漠にあるというモルモの実家という、つい先程私が解読したばかりの古語で名前が書かれた遺跡の写真、そしてそれの位置する座標──「モルモさんのヘイローが割れて様子がおかしくなりました」の文字。
「ッ……カヤ!!」
「はいはい分かってます。『出張』──ですね?」
「物分かりの良い秘書で助かるよ……!」
「連邦生徒会──リン行政官達からの連絡は適当にいなしておきます。私だと話が通じないと分かれば先生の方に直電するかもですから、それについては把握しといてください」
「じゃあ、適当にいなすんじゃなく『原因の対処に向かった』って言っといて!」
「把握しました」
天井裏に増設してある私専用の武器庫を下ろし、その中にズラリと並べておいた、ゴルコンダ特製のインスタント転送装置を幾つか手に取る。
1つは既にシャーレの座標が登録してあるモノ。緊急脱出なんかに使えるものだ。残りは何にも登録していない、まっさらな状態のモノ。
そんなまっさらな状態の装置の1つに、たった今ルビーに送ってもらった座標を入力。──なんだか海抜が低いような気がするが、カタコンベのような地下か何かだろうか……。
「それじゃ、行ってきます」
「せいぜい死なないでくださいね」
ちょっぴり手を震わせながらコーヒーを口に運ぶカヤを尻目に、転送装置を起動。
──と同時に、流れ弾が頬を掠める。
「ッ!?」
『先生っ!?』
『バリアの準備が完了しました。──先生、唐突に移動しないでください。今のは下手をすれば死んでいたかもしれません』
『そうですよぉっ!準備ってものがあるんです!』
「ご、ごめんプラナ……アロナも……」
危ない。今のはちょっと危なかった。
──けれどもそんな危機感も薄れ、別な危機感が芽生えてくる。濃いピンクのオーラを纏い、赤黒いドレスのようなものを身に纏ったモルモが、2丁のSGを武器に、髪を結んだホシノと渡り合っているようだった。
「先生っ!」
「危ないわよ、こっち来なッ!」
「先生、
送られてきた座標は、アビドス砂漠の「ヴァンプ遺跡」のモノだった。つまり、ここはその地下だ。
どうしてそこにルビー、レイコ、ユメ、ホシノ、モルモが居るのかはさておき──ともかく、ユメが構える盾のバリアの範囲内へと、スライディングで入れさせてもらう。
「あっぶなー……!あんた、生身で来るとかフツーに危ないでしょ!?防弾チョッキすら着てないし!」
「それよりどうやってこの速さで来たんです?私が座標を送って1、2分後に……というか、あの穴から飛び降りてきました?そうは見えませんでしたが」
「状況っつっても……」
「モルモさんが言うには……『回帰』した、と……」
「な、なんていうか、上手く言えないんですけど、アレが本当のモルモ先輩らしくて!何回も、13年で1ループしてる?とかって……」
「あ、そーだ!モル姉は『自分の記憶を封じ込めて5歳まで若返らせる儀式』を始めちゃったのよっ!18歳になったら記憶を取り戻す?とかなんとかで!でも今回の人生は燃え尽き症候群になったから記憶取り戻すのもいつもより遅かった?とか!」
「すみません先生、レイコも混乱しているんです。今その事を言っても意味ないですよね。ただ、今のレイコの言葉は本当です、モルモさん自身が言った言葉ですので。──ですので今は、ホシノさんに、モルモさんを止めてほしいとお願いを……」
「「「えっ?」」」
モルモのヘイローは割れている。割れたまま形を保っているから、死亡を意味する方のヘイロー破壊ではない事だけは分かった。
つまりアレは、シロコと同じ、テラー化だ。
しかし、シロコは色彩と接触する事で「神秘」が反転し、自身の本質、裏側たる「恐怖」になったと聞いていたが。黒服達の話とも合致していたし。
……でも。
モルモは『色彩』に頼る事なく、まさか、自力で自分の本質──『神秘』を、力を引き出せるとでも言うのだろうか……?
「はい」
「そーよッ!」
「そうみたいです……っ!」
「はいっ!」
「モチロンよ!!」
「頑張りますっ!」
『今回の編成はコチラです!』
今回はイベント戦闘にも近いようなものらしく、最初からパーティが決定されていた。私、レイコ、ルビーの3人だけが編成されていてユメはこの中に居ない。──戦闘できる状態じゃないからだろう。こればかりは仕方ないものだ。
しかしだからと言ってユメ1人を放置はしない。ユメだって、私の生徒なんだから。