「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
第1話:博愛家の少女たち
4:00
朝も早く太陽も昇りきらない内に、屋外に異変を感じた少女は目を覚ます。
少女は、落ち着いていた。屋外に行ったり、外に顔を出す前に、まずは窓から外を見る。枕元に常備している日焼け止めを薄く手足、顔などに塗ると、同じく常備しているARを手に取って行動を開始。
指先でこじ開けるようにして襖を静かに開ける。そこには明らかにハドマ生ではない生徒が居た。
(……チンピラ?いや……ただの不良かな)
ヘルメット団などの組織的な者達ではないと判断した少女は、襖をブチ壊さんばかりの勢いで開けて寝間着のままで飛び出す。
「「!?」」
「あんたら、この神社に何の用かしらぁ!?こんな朝早くにゃ祈祷もお祓いもやってやんないよッ!」
「やべっ見付かった!」
「1人くらい関係ないだろ?さっさとぶちのめして賽銭もらっちまおーぜ!」
「それもそうだ!やい、この神社の巫女!大人しく賽銭を寄越しな、そうすりゃお前にもこの神社にも手は出さないでおいてやるよ!」
「こんな朝早くにさ、痛い目に遭いたくないだろ?怪我の手当なんかしてたら、学校に遅れちまうぜ?ウチらは学校なんか無いけどな!ギャハハハハ!」
「そーそー!巫女さんは学生なんだろ〜?ハドマの学生だって、調べはついてンだよ!」
「だったらどーしたよドブカス」
──NS「悪魔の巫女」、発動。
銃など使うまでもない。懐から取り出した大幣で銃を構えた2人組の頭を、ビシバシと打ち据えた。
「ぎゃッ!?」
「イデァア゙ッ!!」
2人は、賽銭泥棒らしかった。
無論──自分の家である神社に手を出そうとした2人に憐憫を垂れる程、この悪魔──吸血鬼少女は決して優しくはない。
「はぁ。あと1時間は寝られたってのにね。無駄に早く起こしやがって。睡眠の邪魔をした罪は重いよクソ泥棒。……よっこいしょ、っと」
「ヒィィィィイッ!?」
「どどっ、どこに連れてく気だァ!?」
少女の家は神社である。それも、小さい山の上にある小さな神社だ。2人の襟首を掴んでズリズリと引き摺って歩く少女は、境内に続く神社の入口──階段の前に立つ。
「おいおいおい待て待て待てッ!?流石に階段から落とすのはライン超えて──」
「そぉ?私達の生活費にもなってる賽銭を盗む方がライン超えてるでしょ。餓死させるつもり?」
「そっ、それは──」
「も、もしも落としやがったら、ヴァルキューレに駆け込んでやる!そんな事になったら、この神社の名前も地に落ちるぞ!」
「賽銭泥棒の話をマトモに聞くほどバカじゃないと思うけど──まぁ、いいかな。うちの神社の名前が地に落ちる前に、あんたらを地獄に落とすから」
「「ヒィイイイイッッ!?」」
「そんな脅迫めいたセリフは、私達悪魔にとっては挨拶にもならないよ。そんじゃ、バイバイ」
「「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁ…………」」
2人を階段から投げ落とし、少女は欠伸を1つ。
「たかが666段の階段、死ぬわきゃないでしょ。てか、どーせ途中の踊り場で止まるし。──あ〜あ無駄に早起きしちゃっ……」
キュンッ、と彼女の足元を銃弾が掠める。
弾の出処を見れば、神社の屋根に彼女の妹であるレイラが笑顔で座っていた。手にはお揃いのAR。それで少女──自身にとっては姉のレイアの足元を撃ったらしかった。
「……何のつもり?レイラ?」
「おねーちゃんってば、お寝坊さんだな〜って♪」
「あー?賽銭泥棒のせいで、無駄に早起きしたとこなんだけど?」
「ううん、寝坊だよ。朝ごはん、完成してるもん。お姉ちゃんが起きた時、もう隣に私が居なかったの気付いてなかったの?」
「……え、待って何時?今、3時じゃないの?」
「んふふっ、まぁ3時のアラームは私が止めたし、仕方ないか♪ 今は4時過ぎだよん♪」
「なんで起こしてくんなかったのよ……」
「お姉ちゃんってば、ヨダレ垂らしてグースカピーだったからさ?起こすのがしのびなくって♡」
「ヨダ……はぁ!?私、そんな顔のままであいつらの相手してたっての!?」
「それは大丈夫だよ♡ 私が起きた時に、キレ〜に舐め取ってあげたからさ……♡♡♡」
「キッショ、なんで舐めるんだよ」
「んふふっ……♡ さっ、朝ご飯にしよ!」
「今の話の流れでどうしてご飯にできるのよ……」
少女の名は、
共に、ハドマ自治区で唯一の神社「博愛神社」の巫女をやっている。本人達は自分を半人前、見習いという認識でいるが何を以て「一人前」とするかは依然として謎のままだ。
◆
「……ごちそーさま」
「お粗末さまでした〜。じゃ、片付けたら境内ね。あんまり遅くならないでよ?」
「はいはい。レイラこそ日焼け止め忘れないでよ。さっき、少し焼けてたよ」
「あ、バレてた?ふふっ……」
朝食の後は、境内にて戦闘訓練を行う。その為に朝は3時という早すぎる時間に起床し、ミッチリと訓練を行い、それから登校するのだ。
食事を作るのは交互に。作らなかった方が皿洗いなど片付けを行うという形で役割分担をしている。
◆
4:40
「じゃ、1時間遅れだけど、今日も始めよっかぁ。メンテナンスはOKだよね?」
「銃はね。……レイラ、日焼け止め塗ったよね?」
「大丈夫だよ、もー。心配性だなぁ♪」
2人は共に「日光」を弱点とする吸血鬼である。ただし、レイラよりはレイアの方が症状が重めで、超短時間で皮膚が焦げるように変質する。
市販の日焼け止めは簡単に水で流れるので、海や川などでも、昼間は長時間は遊べない。反面、妹のレイラは少しだけ軽めなので、超短時間でも皮膚が赤くなって熱を帯びる程度で済む体質だ。
しかし、焦げる程の「ガッツリした怪我」の方が吸血鬼としての再生力が働きやすく、治りやすい。レイラのように地味な変質ほど、治るのが遅い。
だからこそレイアは自身よりも軽度なハズの妹を心配しているのだ。
そしてレイラはそんな姉を愛おしく思っている。
「──ハァッ!!」
「まだまだ単調よ、レイラッ!」
姉妹の固有武器は、共に特別製のARだ。通常のARの大半は射程距離が650──2人のは750だ。
「単調で、いい!NS『炸裂の巫女』……!!」
ノーマルスキルが炸裂。地雷にも似た爆発と共にレイアに攻撃力の600%分のダメージ。
「NS『悪魔の巫女』ッ!!」
「っあ……!?」
「ぜやぁああッッ!!」
爆風に乗るようにして高く飛び上がったレイアは空中で身を捻るようにして力を溜め、飛び降りると同時にレイラの脳天を大幣で殴りつける。レイラはARで受け止めようとするがそのまま押し切られ、攻撃力650%分のダメージを受けてしまう。
「ッッ……んぅ〜……ッ!!」
「反撃無し?はい私の勝ち〜。休憩しよ、休憩」
「はぁ〜い」
「さーて、お茶でも飲も──」
突如レイアの足元が爆発を起こし、身体は空中に投げ出される。地雷が埋まっていたらしい。
「んぐっ、こ、これって……」
「仕込み爆弾は
「レ〜〜イ〜〜ラ〜〜〜〜ッッ!!!」
「きゃー♡」
◆
6:00
境内での戦闘訓練を終えたら、掃除などを行う。そうしている内にいよいよ登校時間である。無論、ハドマ学園の授業自体は8時半頃に開始だ。しかしこの2人には、登校前にやる事がある。
「今日は私が東ルートね」
「なら私は西だね〜」
「んじゃ、また学校で」
「はーい♪」
ぶっちゃけ、2人の家である博愛神社は学園からあまり離れていない。しかしこれが2人の「家業」なのである。体力作りの為のウォーキングといった名目はあるが、その実、自治区内のパトロールだ。
当然、ハドマ自治区は多くの自治区に接している細長い自治区なので、全域のパトロールはできないものの──山を降りて、2時間程度の時間をかけて遠回りをするくらいなら、それなりには、マトモなパトロールにもなるというものだ。
「……あ、銃声」
パパパパァン、ドォオオオオォ、ドガァァ──と戦闘の音がレイアの耳に届く。現場に行ってみれば、誰よりもよーく見知った……妹の次によく見知った吸血鬼が、現場に居た。
「ったく、チンピラのクセにいっちょ前に反乱??思い上がりも甚だしいねェッ!群れなきゃなんにもできないザコのクセに……!」
「「「ひぃぃっ!!」」」
「なーにやってんの、レイコ……」
「おはよぉレイア、今日も見回り?真面目だね〜」
従姉妹のレイコだった。大勢のチンピラに囲まれ戦闘になったが……一方的に勝ってしまったらしい。尤も、レイコといえば生徒会長のリエを差し置いてハドマにおいて最強の生徒なので、これが自然な姿なのだが。
「真面目っつーか、これが仕事でもあるし」
「あーそーだった。巫女のお勤め、だもんね?」
「レイコは……こんな朝から何してんの?」
「チンピラが、飂熾冘巫髏を抜けたって──いや、飂熾冘巫髏に反旗を翻したって、この前、ライムに聞いてさ。だからボコってる」
「!?」
「私が飂熾冘巫髏を抜けたから──なのかな。私が抜けて、統率が取れなくなって。横から来たヤツに掻っ攫われて。それで──ハドマ部隊が負けたって言ってたよ」
「そんな……」
「だから、チンピラを見つけ次第、狩ってんのよ。私も飂熾冘巫髏の裏切り者だけど……ルーちゃんから見たら、私もあのクソ共と同じだけどさ。だけど、いても立ってもいられなくて……」
「……そんな事になってたんだね」
「ルーちゃんからは返信来ないけど、ライムとは、今でもやり取りできてるんだ。もちろん、生徒会の情報は流してないけど。普通に幼馴染として、雑談くらいは付き合ってくれてるんだ。チンピラの事もその雑談の中で聞いたくらいでさ」
「飂熾冘巫髏に反旗を翻した、って事はさ。実質、チンピラはハドマと敵対したようなものだよね?」
「そう。だから、もしかしたら──もしかしたら、だけど。この先、ルーちゃん率いる飂熾冘巫髏と、リエ率いる
「……!」
「もちろん、レイアはハドマ学園……リエ側でしょ?組織は抜けたもんね?」
「そ、そりゃ、今更、飂熾冘巫髏には戻れないし、手を組む事になったとしても……そうするけどさ」
自治区のパトロールなんて事をしている2人が、どうしてテロ組織である飂熾冘巫髏に加入したか。
別に、ルーシィの思想に共感したからではない。レイコを「最強」にする為のサポートをしよう、と考えたからでもない。
そう、吸血鬼の本能がここでも絡んできている。
レイアやレイラは、ハドマ部隊ではなくレイコが率いる吸血鬼部隊に所属していた。それだけで既にお分かりだろう。
寧ろ、ルビーが異端なのだ。ルビーはレイコより先にスズと出会っていた。だからルビーは、スズに従うようになっていたのだ。
出会いとは、運命を狂わせる。レイコ、レイアとレイラ、ルビーは……まさにそれが顕著である。
「ちなみにチンピラの事はリエには報告済みだよ。ルーちゃんさえ歩み寄ってくれれば、リエは組織と手を組む事も辞さない構えでいるし。シエルは──まぁ、かなり反対してるんだけどね」
「やれやれ……
「まーね。ルーちゃんとは袂を分かつ事になった。だけど……別なルートで、私は、最強を目指すよ」
「……そっか」
「レイアも、見回りするのはいいけど気を付けて。あんたら姉妹、単独では大して強くないでしょ──なぁんて、これは、私とモル姉以外の吸血鬼全員に言える事なんだけどね♪」
「んぐ!?そ、そういう事、フツー本人の目の前で言うかぁ……??」
「事実でしょ。下手に『あんた強いからチンピラを狩るのも頑張って』なんて言ったら死にそーだし」
「流石にその前に退却するからね!?」
「ふんっ、どーだか。──そんじゃ、私は先に学校行ってるよ」
「あれ、ヤケに早くない?生徒会の仕事?」
「そんなとこ〜。昨日中に終わらせろって言われた書類、実はまだ終わってなくてさ」
「だったらチンピラなんかボコってないでさっさと行きなさいよ……」
◆
8:00
パトロールを終えたレイアはハドマ学園に到着。校門前では妹が待ち構えていた。一歩先に到着し、大好きな姉を待っていたようだ。
「あ、来たね!いつもよりも遅かったんじゃない?何かあった?」
「うん。まぁ、部室行ったら話すわ。とりあえず、部室行こ。リンコもテンコも
無論、レイコから聞いたあの話である。かつては飂熾冘巫髏の副総長で、現在は生徒会の会計であるレイコからのタレコミ。ハドマ学園で一番顔が広く強大な影響力を持って、尚且つレイコやレイア達と同じく飂熾冘巫髏だったという過去を持つリンコに話さない手は無い。
「ぉはざぁーす」
「おはようございまーす」
「おはよ〜レイア、レイラ!朝から部室に来るとか珍しいね?どうしたの?」
「ちょーっと、厄介なネタを掴んでさ。レイラにも話してリンコにも話して、なんて、何回も話すのはダルいから、一括で話そうと思って。──テンコも聞いてよね」
「はいはい……で、どんなネタを掴んだの?」
◆
8:20
レイコから聞いたチンピラ関連の話題を、部活の上層部と共有し、朝の活動はこれにて終了である。
朝礼、そしてこの日は生徒会が主導の全校集会が行われた。それが延長した影響で1時間目の開始が遅れ、短縮授業という事で、日常に戻っていく。
◆
12:30
昼食である。中庭にて、レイラの作ったお弁当をレイラと一緒に食べる。クラスどころか学年すらも違うが、昼休みは基本的に一緒に過ごしている。
「はい、あーん♡」
「あー……」
「んふふっ……美味しい?♡」
「ん、
「良かった、時間通り起きた甲斐があったなー♡」
「いちいち寝坊したこと刺さないで……」
「えへへ……寝坊助のお姉ちゃんが可愛くて♡」
「ったく……」
◆
15:30
「掃除だっる〜。こんなのロボにやらせてよぉ〜。ねぇ、レイアもそう思わない!?」
「そう?掃除なんて毎朝毎晩やってるから、何とも思わないけどな……」
「あーはいはい、レイアって神社の娘だもんね〜。日課として掃除とかしてるんだよね、真面目だぁ」
「別に、そういう規則だし。逆にあんたは、天使のクセに不真面目すぎだよ──シエル」
「え〜?天使のクセにって何?差別か何かかな?」
(ウザ……)
◆
16:00
部活、委員会の時間である。
「よーしっ、それじゃ今週の担当分けといこーか!私とテンちゃんはいつも通り部室──学園担当ね。A班、B班はそれぞれホテル担当でよろしく。日勤担当になった生徒は、公欠届!絶対に忘れないで、生徒会に提出しとくんだよ?」
「「「「はーい」」」」
「C班はハウスクリーニングの会社の方お願いね。依頼はまだ2件しか受けてないから、焦らなくてもいいからね。D班以降は学園に残って資材の確認と調達!──特に吸血鬼の子達には、このあとすぐ、おつかいに行ってもらうよッ!」
「「「え〜ッ!?またぁ〜ッ!?」」」
「「「ぶーぶーぶー!!」」」
「「「私達はパシリじゃないぞー!!」」」
「「「差別だ差別だ〜!!」」」
「だ、だってぇ〜……。吸血鬼の子って力持ちだし、おつかいもいつも早いから、凄く優秀だなぁって、いつも思ってたんだけど……そうだよね、吸血鬼の子ばかりに頼んでたらダメだよね、ごめんなさい……」
「「「「「「行きまァす!!」」」」」」
「え、いいの?でも……」
「「「「力持ちなので!!」」」」
「「「「いつも早いので!!」」」」
「「「「凄く優秀なので!!!」」」」
「わ〜♡ みんなありがと〜♡」
(((まんまとノセられてるなぁ……)))
レイアとレイラ、副部長のテンコは、アッサリとリンコの口車に乗せられる吸血鬼達を冷めた視線で憐れむように見ていた。こういう所もまた彼女達、いや、吸血鬼の性質なのかもしれない。
「D班以降の吸血鬼じゃない子は、資材の確認と、おつかいからみんなが帰ってきたらそれ整理して、その後は待機!────とまぁ、こんなとこかな。テンちゃんからは何かあるかな?」
「公欠届について1つだけ。前にも説明した通り、個人で提出すると書類整理や受理、確認が遅れたり確認漏れが発生する可能性が高まる。日勤の担当が決まり次第、班毎に書類をまとめてから、生徒会に提出するようにして」
「あ、そーだ!確かにそれは大事だね!確かこの前それで確認漏れが起きて軽くトラブったもんね!」
「あの時は姉さんがシエルに勝ったからいいけど、もしリエ議長が相手だったら負けてたし、あのまま欠席扱いになって、泣き寝入りするしかなかった。だから、公欠届の提出はよく気を付けるように!!次にあんな事が起きても、私も姉さんも戦わない。そいつ本人が生徒会に異議申し立てして戦うこと!リエかレイコが来たら、まず間違いなく『確定』で負けるけどね。……分かった!?」
「「「「「は、はいッッ!!」」」」」
生徒会への異議申し立ては基本的に話し合いだ。それが当然だ、武力が全ての実力主義国家のような学園ではないのだから。鉄拳政治ですらない。
しかしそれで埒が明かないと当事者と生徒会側、つまり両者が合意した場合のみ、戦闘による決着で異議申し立てを受け入れるかを決するのだ。
戦場に立つのはそれぞれの陣営の代表者。単なる立場や序列で決めてもいいし、それすら話し合いで決めても構わない。
前回は、生徒会側に落ち度があった。ルーシィが抜けた穴を埋める為に、あくせくしていた時期だ。シエルが副議長に就任、レイコが会計に就任したてホヤホヤ──飂熾冘巫髏大決戦が終わったばかりのあの時期の話だ。
そんな中で書類の確認漏れが発生。リンコ率いる技術開発部は、生徒会に異議申し立てをした。
当然、生徒会側に非があったので、リエはそれを受け入れようとしたがシエルは「忙しかったから」などとハネつけた。リエは彼女を諌めたものの己のミスをそう簡単に認める性格ではなかったが故に、自ら戦う──と言い出したのだった。
リンコ達からすれば「ふざけるな」という話だ。なので確実にシエルに勝てるようにと、技術開発部部長であり七天魔でもあるリンコを代表者にして、シエルと戦ってもらった──という経緯がある。
しかし、だからこそテンコは、部員達に対して、口酸っぱく言い聞かせる。耳にタコができる程に。何故なら、もしも「次」があったなら戦闘狂でありハドマ最強のレイコが出てくるかもしれないから。
そうなれば誰が戦おうとも敗北は免れない上に、戦闘の片付けなんかが文字通り死ぬほど面倒な事になりかねないからだ。
◆
18:30
部活が終わった少女達は帰路に着く。帰りもまた東と西のルートに分かれてパトロールをしながらの帰宅になる。
部活で疲れていても、本来夜行性である吸血鬼にとっては、寧ろ「段々と調子がアガッてくる」頃。朝よりも早いペースで巡回をする。
「クソッ、何なんだよコレはッ!?」
「空っぽとか、ふざけてるな!」
「舐めやがって、クソッ!クソッ!」
「やっぱあの神社ブチ壊そーぜ!?」
「それっきゃないな!舐め腐りやがって!」
「あああああああッッ、もうッ、腹が立つ!!」
「……」
ガツンッ、と何か固い物を蹴飛ばす音が響く。
吸血鬼は地獄耳だ。数百m単位で離れていても、聞きたいと思う音さえ絞れれば、方向や距離、音の種類や人数やその他諸々の情報を得る事ができる。
話し声から、今朝の不良2人と推定。場所は少し離れた所にある空き地。更に「神社」という言葉。これは、何か自分に関する事だとレイアは察した。
夜空に翼を広げ、風と共にふわりと舞い上がる。
速度は遅く、しかも短距離の滑空しかできないが今のレイアにはそれで十分だった。
「────何の話をしてンの?」
「「ッッ!?」」
塀に囲まれた空き地にて、不良は何やら木の箱を蹴飛ばしているようだった。木箱には「賽銭箱」と太く綺麗な字で描かれている。それを見てレイアは全てを察した。
「やっぱ
「や、やい、貧乏巫女ッ!何なんだよお前ん
「1円たりとも入ってねーじゃねェか!クソが!!ふざけてんのか、ドチビ!!」
「……?賽銭が入ってるだなんて、誰が言ったのよ?勝手に勘違いして勝手に期待して、勝手に失望して勝手にキレて──アタマおかしいんじゃないの?」
「な、何をっ!?」
「舐めやがってチビのクセに……ッッ!!」
「さっきからチビチビうっさいな、
「「ほざけぇッ!!」」
2人は怒りを露わにして発砲を開始──レイアはそんな2人を冷めた目で
「はっ?」
「消え──がァッ!?」
優れた身体能力を有する吸血鬼の少女、レイア。たった一度の跳躍で不良2人と距離を詰め、頭上を飛び越え、背後に着地。ここまで1秒未満。そして背後に回った直後、1人の首に牙を突き立てた。
「っ!?くっ、あッ……ひぃっ……!?♡」
「フーッ……。気持ちイイでしょ?不思議だよねェ、首から吸血されると何故か気持ち良くなるんだよ。力も抜ける。人によってはお漏らしする程だよ」
「お゙ッ……♡」
「ひぃッ!?」
口を離し無造作に放り投げると、吸血された方は虚ろな目のまま転がる。1人は、この一瞬で起きた出来事に頭が追い付かず、おぼつかない足取りで、後ずさるしか無かった。
「ほぉ〜ら……大人しく私に血ぃ吸われな?そしたら今は痛めつけないでおいてあげるよ?……賽銭泥棒についても、ヴァルキューレに届け出ないであげる。不問っていうか、無罪放免って事にしてあげるよ」
「ほっ……ほん……と、に……?」
「本当よ、だからさっさと私に血ぃ吸わせなさい?大丈夫、痛くしないから。コイツの反応を見れば、分かるでしょう?」
「あっ…………ん♡」
彼女の言葉を聞き、大人しく首を差し出す不良。レイアはそこに容赦なく噛み付き吸血を開始する。甘い声を漏らす不良、身体の力が抜け始めた頃に、レイアは口を離し無造作に地面に転がす。
「ゔっ、痛ッ……」
「さぁて、ロープ、ロープ……お、あったあった」
「ロープ、だと……?」
「何……?」
「あ、うん。吸血が終わったから、そこの日当たり良さそうな木にぶら下げておこうと思って」
「はっ、はぁあっ!?何言ってやがる!?」
「痛めつけないんじゃなかったのかっ!?」
「
「「────ッ!?」」
「安心して、首吊りさせるワケじゃないから。ただ手足を拘束してミノムシみたいにぶら下げるだけ。ホントに、ただそれだけだよ?」
「信じられるか!何を考えてやがるっ……!」
「ふざけてんのか?──って、スマホ触ってんな!話を聞け!!」
「明日の天気予報を見てただけよ、うっさいなぁ。明日の天気は『快晴』で──明日の日の出の時刻はおよそ4:56。そして──吸血鬼化が解けるのは今から12時間後、つまり推定6:53。あんたらにその意味が分かるかな?」
「はあ……?」
「『吸血鬼化』……だと?」
未だ身体に力が入らない様子の2人の手足を縛りロープで何重も巻き、更にフックや金具など小道具までも駆使して、塀をよじ登り、近くの木に不良を吊り下げた。
「これでよし、と。トイレは我慢しなよ〜?」
「おい!何のつもりだコレは──むぐっ!?」
「ほどけ!下ろせ!さもないと──ング!?」
「私──『日光』を弱点とする吸血鬼なの。日中に活動するには日焼け止めは必須。欠かせないのよ。そんな私の眷属の弱点は……一体何でしょう?♡」
「「!?」」
「あんたらはそこからぶら下がったまま──明日の日の出から吸血鬼化の解除までの約2時間、そこでずっと日光に焼かれ続けるって事よ!!」
「「────ッッッ!?!?」」
「これに懲りたら金輪際、私や私の神社──いや、私達『吸血鬼』っつー種族に、手ェ出さない事ね。今回は火炎放射器で炙られる程度のダメージで済むだろうけど、次は、マジでブッ殺す。骨も残さないくらい焼き殺す。その小さな脳ミソに刻んどきな」
口に布を突っ込み軽くロープも噛ませたレイアは静かに現場を離れた。彼女達が日光で軽く焼かれるようになるまで、残り10時間……。
◆
20:45
「たでーま」
「おかえり〜、遅かったね?どしたの?」
「ちょっと野暮用。……
「あ、賽銭箱。明日部活で作ろうと思ってたのに。もう作ったの?それとも、取り返したの?」
「取り返した。今朝の不良共だったよ」
「えー、また不良?どうせ入ってないのに盗んで、人生棒に振るなんてバカだよねー」
「棒に振るって事は無いよ。ヴァルキューレには、突き出してないから」
「えっ。シメただけ?」
「そ。シメて吊ってきた。明日の朝にゃ、チリチリお肌が焼かれてると思うよ」
「あちゃ〜……やっぱり不良ってバカだよね。素直にヴァルキューレに行っておけば、余計に痛い想いをしなくて済んだのに。自首すればいいのにね?」
「だね。ヴァルキューレに行くって言い出せば私もそんな事はしなかったかもだし。──んじゃ、これ片付けたら風呂行ってくるわ」
「もう夕飯できてるよ〜。どうする?ご飯にする?お風呂にする?それとも、わ・た・し?♡」
「風呂。すぐあがるから食べられるようにしてて」
「んもぅ、お姉ちゃんったらイジワル♡」
◆
21:30
風呂も食事も片付けも終わったなら、それぞれの武器のメンテナンスの時間である。固有武器AR、戦闘に使用し、巫女としての道具である大幣など。それも終わったら、試運転である。
22:30
メンテナンスを終えた2人は再び境内にて立つ。構え、狙いを定め、戦闘訓練の開始だ。腹ごなしの運動としても丁度いい。
しかも前述の通り、吸血鬼とは本来、夜行性だ。朝よりも夜の方が──その身体能力も戦闘におけるスペックも、フルに発揮できる。
24:00
日付が変わる頃に戦闘訓練を終えると2人は再び境内を掃除し、シャワーを浴び、もし小腹が空けばお茶と共に煎餅を頬張ったりする。
それでも単なる空腹ではなく、強い「吸血欲」に襲われていたら、姉妹で互いを吸血し合う。当然、先程不良に施したような、吸血鬼化させる為だけの吸血ではなく、相手の血を貪る為の吸血だ。
その際、やはり「気持ち良く」なってしまうが、場合によってはそのまま姉妹レズプレイに発展することも──決して少なくない。
そんなパターンの時は大抵、早朝のルーティンもできなくなるし、学校にも遅刻する。
だからそんな時は、最初から学校なんかサボり、同族がよくたむろしている所に顔を出すのだった。