「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
第1話:集会
「────朝っぱらから全校集会とかダッルぅ〜。何ヶ月ぶり? ね、サボっちゃおーよ、テンコ?」
「あんたさ、統治委員長の自覚は無いワケ? この学園の『統治委員会』ってのはゲヘナで言う『風紀委員会』みたいなモンでしょ? その委員長サマがサボるはヤバいって。危機感持った方がいいって」
「それ正論? 私、正論嫌いなんだよね。あんたも元は飂熾冘巫髏で──幹部補佐とかいう立場だったクセして、私相手に正論カマして勝手に気持ち良くなってんじゃねーよ、オ゙ッエー」
「なッ……そ、そりゃあ……資金調達の為とはいえ……で、でも、それとこれとは……」
「つーかさ、私に正論カマす前にまず制服を着な。メイド服なんかのままで、よく教室に居れるよね。部のユニフォーム的なモノでもないしさ。リンコの趣味でしょ、それ? テンコも大変だねぇ……」
「だからッ、それとこれとは話が違うって……!」
「そーそー。サボりはダメだよ、スズちゃん♪」
「……レイラ……。飂熾冘巫髏を辞めたからって随分調子がいいみたいねェ。まさかそっちから
統治委員長を務めるスズ、技術開発部の副部長のテンコ、元・飂熾冘巫髏の吸血鬼部隊の一般兵こと博愛レイラは、共に2年生で、同じクラスである。
以前までの「ルビー以外の吸血鬼は飂熾冘巫髏」というあの時代、レイラは当然ながら学校の授業はサボッていた。
飂熾冘巫髏と正面から対立している統治委員会、ましてやそこの委員長と同じ教室になど、居られるハズがないからだ。
「私が居るときゃ学校自体をサボってたあんたが、この私に『サボりはダメ』、ね。ふんッ、笑えないジョークね」
「ふふ、まぁ元から前線にはあまり出なかったし、参加もしないテロ行為への罪悪感はそんなに……」
「あんたら吸血鬼ってのはその辺が欠如してんの。生来の野蛮さを存分に奮って結構な事だわ、全く。どうせこの後の全校集会っつーのも、飂熾冘巫髏に関する事なんでしょ?」
「さぁ……私はもう飂熾冘巫髏じゃないから……」
「ちっ……秘密基地の場所でもゲロりなさいよね」
「あ、知ってる限りルビーちゃんに伝えてあるよ」
「まッ……マジ??」
「マジマジ、大マジ〜。だけど、そもそも私よりも先に組織を抜けたレイコに教えてもらってたみたいだから、私が教えても無意味だったけどね」
「ったく、レイコといい、あんたといい──自分が所属してた組織を簡単に抜けて、その内部情報まで素直に吐けるモンかねぇ……?」
「アビドス、ゲヘナ、ハドマって感じで住む土地もコロコロ変えてきたみたいだからね。だから多分、そういうのに『執着』すらしないんじゃないかな、私達『吸血鬼』ってのは……」
「フンッ……とんだ蝙蝠野郎よね」
「ふふっ……」
「ほら、スズ達も行くよ。そろそろ集会だよ」
◆
ハドマ学園の全校集会、それは校長先生がお喋りするようなものではない。そう、生徒会長──議長である
千人規模では無い学園だが、それでも、体育館に生徒全員は収容できない。
真夏の日差しの中────屋外での集会である。
「皆さんおはようございます。
「「「「────ッ!?」」」」
生徒は知っている。議長、我猛リエの「挨拶」の長さを。トリニティ出身の者にとっては、それこそ文字通りの「いつも通り」の挨拶だが、それ以外の出身の生徒からすれば「死ぬほどダルいお嬢様校の謎文化」という認識でしかなかった。
そんな中で行われた挨拶の省略。これまでの集会からは考えられないものだ。それだけに、皆の頭にこの言葉が過ぎった。「今回は
「──ハドマ学園に籍を置く皆さんならご存知──我が校が発祥である一大テロ組織──
これまでの「ルビー(&レイコ)以外の吸血鬼は飂熾冘巫髏」といった認識を改めろ──と、リエは暗に伝える。実際は「吸血鬼調査隊ヴァンピール」という形でルビーとレイコの支配下にあるのだが。
「飂熾冘巫髏は、かつての我が校を転覆するなど、確実に我が校に牙を剥く組織です。本来であれば、総力を上げて全力で捜査し、そして全力で叩くべき存在なのかもしれません。しかし私は、かつて同じ生徒会として、組織の長である
そしてこの辺りで、大体の生徒は察した。
天気や季節などの挨拶を省略しただけで、実際は挨拶してるようなものじゃないか? ……と。
飂熾冘巫髏がハドマ学園、生徒会組織の失楽園に牙を剥く存在だというのは、ハドマの生徒であれば誰もが知っている事だ。なんなら一般市民さえもが噂程度で知っていそうな情報だというのに。改めてこんな場で話す必要など微塵も無いのだ。
一部の生徒は体調不良を訴えその場で座り込み、または倒れる者も出始めたが、それでも話は続く。
「そんな折、確かな筋から、ある話がありました。かつて『吸血鬼部隊』と同様にレイコさんの直属の部隊であった『チンピラ部隊』──。レイコさんの支配が外れた現在、チンピラの皆さんはどうなっているのでしょう?──通常であれば未だ総長からの支配はあるものと考えますし、特段、余計な事など考えないでしょうが今回は違います。飂熾冘巫髏の
『チンピラ部隊』は、現在──飂熾冘巫髏に対し、反逆を起こしています」
息を飲む音が、そこかしこからリエの耳に届く。
「連邦生徒会長の失踪時に脱獄を果たしたという、かの『七囚人』の1人である
静かな校庭に、ごくりと唾を飲む音が響く。
「チンピラは『お礼参り』という文化を持つという話が有名ではありますが、今回の『チンピラによるお礼参り』は飂熾冘巫髏のみならず、その矛先は、我がハドマ学園そのものに向かう可能性が高いと、私はそう考えます。なにせ、飂熾冘巫髏の『ハドマ部隊』構成員は全員がハドマの生徒なのですから、ちまちまと組織のアジトを探すより、ハドマ学園を襲った方が効率的でしょう?──チンピラがそれに気が付くのも時間の問題。非常に心苦しいですが、ハドマ学園の生徒の皆さんには、学園が戦場になる覚悟を持っていて頂きたいのです」
リエの話は続く。
学園が戦場になる覚悟について──有事の際には生徒会を始め、七天魔が前線に立つようになる事。更には、学園を守る為には飂熾冘巫髏と手を組む事なども視野に入れているという、学園を転覆された過去を持つ生徒会から出たとは思えない発言など。
口には出さずとも心の中で反対する生徒は居た。しかし、言い出せない。ハドマ学園そのものは実力主義とも言える構造だ。議長であるリエはハドマにおいては2番目や3番目に強い生徒。一般生徒ではまず確実に勝てない。まず間違いなく、為す術なく敗北するのみである。
「──故に。先程も述べた通り、我が学園が危機に晒された暁には飂熾冘巫髏と手を組み、これを撃退する事も視野に入れてはいるものの。飂熾冘巫髏と手を組むには、条件があります。──それは組織の長であるルーシィさんから我々に歩み寄る事です。我々からではなく、飂熾冘巫髏からの譲歩があって初めて、我々は手を組む事ができるのです」
組織に属している生徒は「あ?」「ざけんな!」などと声を上げ、ブーイングを飛ばし始める。が、リエは素知らぬ顔で言葉を続ける。
「『チンピラ部隊』は、およそですが、千人近くの規模があったそうです。だからこそ、キヴォトスの各地で騒ぎを起こすなどの陽動作戦に利用できた。想像できますか? 千人。千人なのです。我が校は飂熾冘巫髏に所属している生徒を含めても、到底、千人には及びません。更に、吸血鬼の生徒が組織を抜けた今でも、全校生徒の半数は飂熾冘巫髏です。仮にハドマに攻め入られたら? 全校生徒の半数と七囚人の1人が率いる千人が、ぶつかるとしたら? もはや、勝ち目などあるはずもなく──まんまと、チンピラに蹂躙されるのでしょう」
「飂熾冘巫髏には他の部隊だってあるんだよ!!」
「チンピラなんかに負けるもんか!!」
「舐めやがって、似合わねえ白ロリの巨乳ババァ!!」
「心無い罵声まで聞こえますが、まぁいいですわ。見る限りルーシィさんはこの場にいらっしゃらないようですが、用意周到なルーシィさんのことです。部下に通話状態にさせるなどして、私のこの話も、全て聞いていることでしょう。──つまり、まぁ、そういう事ですわ。私は、再びルーシィさんと手を組む事も吝かではないと考えています。来たるべき脅威に備え、今一度、お考え願います。──では、以上で、本日の全校集会を終えますわね。これから始まる1時間目のみ、短縮授業でお願いしますわ」
◆
「──ふぅん。リエってば、飂熾冘巫髏と組む事も辞さない構えなのね。学園を転覆してきた敵と手を組むって公言するなんて、何を考えてるのかしら? 相変わらず、お嬢様は何を考えてるか読めないわ。まさか本当に言葉通りの意味なの?」
「……」
「で、どーすんの、ルーシィ? あのチンピラ共、てか主にスケバン共、かなり調子乗ってるわよ?」
「聞くまでもないでしょ。喧嘩売ってきた奴等とは全面戦争よ。七囚人? 伝説のスケバンだって? そンなモン私達には関係無い。こっちにはユウナが居るわ。矯正局から自力で脱出してきたユウナと、外部からの手引きを受けて脱出した七囚人などではまるで『格』が違うのよ。そうでしょ、ユウナ?」
「そーよ。アイツら七囚人は、『ニヤニヤ教授』を名乗るヤツに手引きされて脱出した。狐坂ワカモを筆頭にね。私はその時、そのニヤニヤ教授から声を掛けられなかったってのもあるけど、狐坂ワカモやその他大勢に『便乗』して逃げるのがムカつくから脱出しなかったのよ。どうせ自力で逃げられるし」
「『ニヤニヤ教授』──名前だけ聞いた事あるわ。犯罪コンサルタント、だったわよね。結構な報酬を要求されるハズだけど──七囚人の中に、ソイツに依頼したヤツが居るっての?」
「そうじゃないわ。誰かに依頼されて手引きしたんじゃなく、ニヤニヤ教授自ら七囚人を解放した、と矯正局の囚人達は見てる。前払い制なのよね、噂によれば。収監されているのに、いつニヤニヤ教授と連絡を取るの? ……って話でしょ?」
「──へぇ? なら、こう考えられるんじゃない? そろそろ自分は捕まると察した七囚人の誰かさんはニヤニヤ教授に
「ライムにしては悪くない発想ね。私の見立てとは違うけどね」
「なら、ルーシィの見立ては?」
「ニヤニヤ教授は、犯罪コンサルタントとして活動していくうち、自分からもアクションを起こしたくなった。その為の駒として、矯正局に収監されつつ今も脱出しようと虎視眈々と機会を狙っている者に蜘蛛の糸を垂らした。これ幸いとばかりに糸を掴み導かれるがままに脱獄した7人こそが『七囚人』。そして『脱出させてあげたでしょ?』という
「「……そんなんで釣れるかしら、七囚人って」」
「実情はどうでもいいけれどね。もしこれ以上牙を剥くのなら、その牙を叩き折り、引っこ抜くだけ。それが私達──
「そうね、ルーシィ♪」
「私ゃまだまだ新参者だけど、副総長とかいう責任ある立場にさせてもらったし、責任は果たすわよ。前任者の尻拭いは不快だけど、まぁ、いいわ。前回ろくに仕事をこなせず破壊を
「それでいいわ、ユウナ。じゃあライム、幹部陣がそろそろ
『集会』を始めましょう」
ハドマ学園での集会が終わると同時に中継の為の部下との通話を切り、幹部陣が出揃った会議室へと移動する。
ルーシィ率いる飂熾冘巫髏、そして、リエ率いるハドマ学園──両陣営が交わる日は、果たして……。