「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
何の変哲もない──変わり映えのない日だった。
私はいつも通りに執務室で仕事をしていた、そう本当にいつも通りに。書類の提出期限に追われて、誤字脱字の確認をカヤとのダブルチェックで行い、期限が近い分からドンドン、ドンドン進めていた。
期限が近い仕事ももう少しで完遂する、そんな時だった。
ガシャアァァァッ!! と凄まじい音と共に、執務室のガラスが割れた。廊下側ではない、屋外側の窓だ。
「ッ!?」
「何事で……ッッ!?」
音のした方を見るとそこには1人の少女が居た。足元には大小を問わずガラス片が散らばっている。
極めて丈の短いスカートを履き、ユウカのようなムチムチの太ももを惜しげも無く晒して、歩く度に揺れる豊満な胸を隠そうともしなければ、手などで押さえようともしない。寧ろ見せ付けるかのように腕を組み、胸を押し上げているようにすら見える。
それでいて、谷間を露出させたりする事はなく、制服自体はきちんと着ていて、無駄な露出は無い。見せないエロスを心得、そう
カヤなんてその少女の出で立ちを見てすぐに顔を引き攣らせ、椅子を倒しながら立ち上がり私の背に隠れてしまう。
──私はその少女に、見覚えがあった。
「君は…………あの時、ゲヘナ学園で会った……」
「飂熾冘巫髏ハドマ部隊幹部、萌山ライムでーす。どーお? 刺激的♡……な登場だったでしょ?」
「……
「え〜? だぁってぇ、シャーレって連邦生徒会の下部組織でしょ? そんな所に、追われる身なのに正面から乗り込むバカ、居なくなーい? 自動通報システムとかありそーじゃん♡」
「そんなのは無いから……安心しておいで」
「ま、どっちでもいいんだけどサ。どっちにしろ、もう来ないと思うし」
「え……?」
「ねェ……先生? ちょっとお願いあるんだケド……聞いてくれる?」
自分に対して怯えを見せるカヤに気付きつつも、素知らぬ顔で執務室を歩き、机に座る。セクシーに足を組み、白いパンツをわざとらしく覗かせる。
「……内容による、かな。何にせよ、窓を突き破って押し入ってくるくらいだから……決して穏やかな内容じゃあないのは、私でも察せるけどね」
「ンフッ♡ まぁ、それもそーね。端的に言うと、今の飂熾冘巫髏は結構なピンチに立たされててさ。チンピラ、スケバン──その類の奴らと全面戦争になっちゃいそうなのよね」
「!?」
「けど、数的に圧倒的に不利だからさ。レイコさえ居てくれたら人数差なんて無視できたんだけどね。レイコが抜けちゃった以上は、どうにか別な作戦を打ち立てるしかなくて。それで先生の力を借りたいワケ。……どう? 納得、してくれたかな?」
「……」
飂熾冘巫髏はテロ組織だ。ハドマ学園を乗っ取りそのままゲヘナ学園すらも乗っ取った実績がある。レッドウィンターのお遊びみたいなクーデターとはレベルが違うクーデターをしてくる組織だ。
レイコが飂熾冘巫髏に加入していた頃は、確か、そのチンピラだかスケバンだか──そういう奴らも支配下に置いていたはずだ。しかしレイコが抜けた影響で支配を抜け出し、反旗を翻してきた──と。おおよそ、そんな流れなのだろう。
だからそこに力を貸してほしいと、こうして声を掛けてきたワケだ。果たして……。
「……分かった」
「ヘェ? この前、飂熾冘巫髏大決戦で真正面から敵対してたってのに……アッサリ了承するのね?」
「今のは『了承の分かった』じゃあないよ。今のは
『話は分かった』の意味ね」
「あ、そぉ。じゃあ、どうする? 助けてくれる? 可愛い生徒の頼みよ〜?」
「……」
了承するのは危険だ。仮に了承するにしたって、少なくとも、今この場で即決するべきではないのは確かだろう。果たして私は、この問いにどう答えるべきなのか。
「……っ」
「ねェ。……その、後ろの元代行……ビビってんの? やたらガクブルってない? 大丈夫?」
「自分のヤラカシで、連邦生徒会内でハドマ学園の立場を悪くしてしまった負い目があるから。それでこんな反応になってしまっているだけ。君が──」
「ああ! そういえば元代行って
「……そうなの?」
「ええ、そういうの興味無いのよ。シエルだったらキレそうだけど、私はそこんとこどうでもいいし。というか、学園の立場が〜とか言うタイプの奴が、ウチの学園発祥のテロ組織の幹部なんて、ヤるワケないでしょ?」
言われてみればそうだ。学園それそのものの立場などを気にするような人は、秩序側に立つだろう。それこそ、リエやシエルのように。
消極的だったり、学園の立場というものに興味が無い者は中立に。そして学園や社会的評判を堕とす事を目論む者はこうして反秩序側に与するものだ。
こうやって飂熾冘巫髏という組織に加担しているライムのような者は、その時点で学園の立場などを良い意味では気にしないというのは明白だ。
改めてカヤのことを聞くまでもなかった。
「……カヤ、仕事に戻ってていいよ。私は、ライムと少し話してくるから」
「……はい」
「その間に、ガラスの業者を手配しといてくれると助かるよ」
「分かりました、手配しておきます」
「よろしくね。……行こうか、ライム?」
「んふっ……仮眠室とかかな?♡」
「休憩室。この時間だったら誰も居ないだろうし、ゆっくりお茶やコーヒーでも飲みながら話そうか」
「とかなんとか言ってぇ、ホントはエッチなコト、期待してるんでしょ〜♡」
今回は本当に期待していない。仕事している人の近くで話ばかりするのがあまり心象が良くないので離れたい、というだけの事。
足取り軽やかなライムと休憩室に移動し、適当にジュースを出しつつ、小さなテーブルを挟み彼女と向かい合う。潤んだ瞳は自然と上目遣いで真っ直ぐ私を見上げてくる。
ギャルっぽい容姿の割に化粧っ気は薄く、化粧の腕より生まれ持った造形で勝負してやる、みたいな気迫すら感じられる。
「──それで? 飂熾冘巫髏に力を貸してってことだったね?」
「えぇ、そう。チンピラとかスケバンとか、まぁ、そういう不良達が組織に反旗を翻してる。きっと、七囚人の栗浜アケミの活動再開がキッカケだろうと私達は見てるわ。強力なバックがなきゃ、派手には動けないからね……」
「ッ……!!」
「知ってる? その七囚人はヘルメット団のせいで矯正局にブチ込まれるコトになったのよ。だから、そいつを慕うチンピラやらスケバンと──チクったヘルメット団は、まさにバッチバチなのよ。そしてヘルメット団は、色んな支部をユウナに潰されて、ユウナに対して恨みを持ってる」
「……」
「スケバンとヘルメット団もバチバチだけど、もしユウナが飂熾冘巫髏に居ると分かれば、下手すると両陣営の『ユウナ潰し』と『飂熾冘巫髏潰し』──この2つが上手いこと合致して手を組みかねない。可能性の話でしかないけれど、どちらにしても私達飂熾冘巫髏にとっては大ピンチよ。ハドマ学園をも巻き込みかねないレベルで、ね」
「ハドマ学園を巻き込む……!?」
「チンピラ側にゃ、
ライムの言う「頭がイイの」、もしかしなくともニヤニヤ教授だろう。七囚人の中で一番マトモで、話が通じそうだからなのか栗浜アケミとそれなりにやり取りをしているようだった。
この前、アウトロービーチで繰り広げたアリウススクワッド&便利屋68との戦闘でも、中々大変な苦戦を強いられたし。*1
それでも、栗浜アケミ戦はちょっぴり苦戦した。かなりの強者と言える。ワカモよりかは話が通じるタイプだったから、まだいいものの。確かサオリとアルはアケミに目を付けられていたっけ……。
──思考を戻そう。
ともかく、ライムのハドマ部隊を特定できているという事は、その活動拠点がハドマ学園だという事なんかも把握済みと見ていいだろう。ライム、いや飂熾冘巫髏もそう考えて動いているようだ。
リエ達に助けを求めれば?──などと言えれば、それで話は済むが……まぁ、普通に考えて無理だ。
飂熾冘巫髏の今の規模からしても、ヘルメット団だけ、スケバン達だけだろうと、圧倒的な数の差で不利なハズだ。今の飂熾冘巫髏は、風前の灯火だ。ゲヘナ学園を乗っ取った頃の力は、既に……。
「──1つ、聞かせて」
「どーぞ?」
「私が助太刀する事で飂熾冘巫髏を助けたとして。いや、助けられたとして。それで何が変わるかな? 私には、暗い未来しか見えない。ヘルメット団とか敵に回したら、かなりマズイ状態だよね? 現在の飂熾冘巫髏はさ」
「……鋭いわね。私達にはもう、そんな兵力は無い。これまでどれだけレイコに甘えてたかってことを、最近になって思い知らされまくってるわよ。ホント虚しい……無力さを思い知らされてばかりだわ」
「……」
「そーねぇ……スケバンなんかの敵から飂熾冘巫髏を助けられたら、か。テロ行為できるだけの力はもう組織にはないだろうし、テロ組織じゃなく、ただの不良集団の飂熾冘巫髏に成り下がるだけ……かな」
「……そっか」
「何が言いたいの?」
「君がここに来て、私に助力を求めるのは──君の独断じゃない、と見ていいのかな? ルーシィが、組織の未来をも見据えて、シャーレの先生に助力を求める事を君に許可した……と」
「まァ……そーなるわね」
頭が痛くなるくらい用意周到なあのルーシィが、私に頼る事を許可したのか。今回ばかりは、彼女もお手上げ──裏切ったハドマ学園に頼るくらいならシャーレの先生に頼ろう、と。
「──そっか。話は分かった」
「……協力、してくれる?」
「それについては保留でもいいかな? こちらも、それなりに都合というものがある。ライムも承知の上だと思うけれど、シャーレは、連邦生徒会の下部組織なんだ。おいそれとテロ組織に助力するワケにいかないからね」
「先生の立場からしたら……当然の選択よね」
「だけど、関わりを持った以上、ルーシィ達も私の生徒だ。テロ組織だから──なんて理由で見捨てるつもりは毛頭ない」
「……はァ? 矛盾してませーん?」
「してるよ。保留にしたい理由が、まさにそれだ。だから、連邦生徒会にも言い訳できる、大義名分を探しておく」
「!!」
「こればかりは『分かってくれ』としか言えない。私としては君達を助けたい。が、私の立場がそれを許してはくれない。正当な理由も無く、テロ組織に与するような事をすれば、全て終わりだ。だから、対外的にも言い訳できるような大義名分、言い訳、建前──と呼ばれる類のモノをこちらで用意する。そうすれば『シャーレの先生』として堂々と君達を助ける事ができる」
「……信じていいの?」
「信じるかどうかは君次第だよ。ルーシィと違って殆ど関わりが無かった君を相手に、無責任に『私を信じて』とは言えないからね」
「……チッ」
小さく舌打ちをしたライムは、残ったジュースを一気に飲み干し立ち上がる。一瞬身構えるが、特にこちらに手を出すという事は無く休憩室の出入口に真っ直ぐ向かう。
話は終わりだ、と暗に伝えたから、帰るつもりのようだった。
「──私のモモトーク、ブロック解除しとくようにルーシィに伝えておいて」
「え? ……なに、ブロられてんの?」
「色々あってね。ずっと未読だから多分されてる」
「ふーん? まぁ、先生って変態だって聞くしィ? 色々考えたい時に変態メッセ来ないようにブロックしてるのかもね〜♪」
「変態って……そんな事ないんだけどな……」
そして数日後、ブロックを解いた頃だろうからとルーシィにモモトークを送ってみた。それから少しやり取りを重ねていき、今度はルーシィと1対1で会う事が決まった……。