「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「やぁ。ちょっと久しぶりだね、ルーシィ」
「こんな駅チカのカフェに呼び出すなんて。一応、私まだお尋ね者だから、雲隠れ中って事にしてるんだけどなぁ」
「急を要するって話だったからね。ライムを通してじゃあなくて、ルーシィと
「もしヴァルキューレが通り掛かって見付かったら庇ってよね……」
ライムから飂熾冘巫髏の危機について聞いてから私なりに色々と考えてみた。
飂熾冘巫髏は、ハドマ学園を一度転覆し、すぐに転覆され返したとはいえゲヘナ学園すら転覆した。ヘルメット団ですらも、学園の乗っ取りというのは成し遂げた事がない、極めて大規模なテロ行為だ。
そんなテロを起こした組織に力を貸すなんて事、連邦生徒会の下部組織に当たるシャーレの先生が、つまり私がしていい事ではない。明らかに「上」に対する謀反になるからだ。
ルーシィ達も私の生徒だ、私はそう思っている。だから助けてあげたい。それは本心だけれど、私の立場がそれを許してはくれない。そして「先生」の立場が無ければ、生徒を助ける事はできない……。
八方塞がりに思えるこの状況にも、一筋の光明が見えた。
「それで……話ってのは……?」
「ルーシィも考えてる通り、
「ッ!? た、助けて……くれるの?」
「それを答える前に。まず──ルーシィがこの件について、どういう認識を持っているか確認したい。ライムから、私が彼女に話した事を聞いたかとか、その他諸々も含めてね」
「話は聞いたよ、しっかり。先生の意見としては、
『テロ組織だろうと助けたいと思ってる』けれど、先生の立場上は、テロ組織に与する事はできない。だから『建前を用意したい』……だったよね」
どうやらあの後、ライムから話を聞いたようだ。舌打ちなんかもしていたし、怒りのままに私の話を曲げて伝えてしまっていないかと心配していたが、杞憂だったらしい。
尤も、飂熾冘巫髏の存亡に関わる重大な事だし、曲げて伝える方が、飂熾冘巫髏にとっては損にしかならないのだろうが……。
「そんな建前が、本当に存在するの? どうすれば連邦生徒会側──秩序側に立つ先生が、テロ組織に力を貸せるような言い訳ができるって言うの……?」
「話を急ぐね。まだ紅茶1杯目だよ?」
「急がなくちゃならない案件だからよ。だから話は早く進めたい。こっちが先生に頼ってる立場なのは分かるけど、でも、悠長にはしてられなくて……」
「
「は? ……なっ……え? まさか、またヴァ……」
「ヴァルキューレは呼んでない。君を捕まえても、どうせユウナが救出するだろうし。そうじゃない。君は──
「ッ!」
「頭が良いルーシィなら分かるハズだ。君はまず、誰に、何をしなくてはならないのか」
「……分かったよ」
ピクと唇を震わせたルーシィ。私の言葉に少々の間を置きつつも、固い決意を込めた目で頷くと──机の下に潜り込んだ。
「……ん? 何か落とした?」
「違うでしょ。……先生の舐めろって事でしょ?」
「はッ!? ど、どういう……!?」
「白々しいなぁ〜。『君はまず誰に何をしなくてはならないか』って言ったのは先生でしょ。──てか勃起してないじゃん。
「ストップストップ、戻って! 勘違いでフェラはやめて……!?」
「え、違うの? ……パンツ越しとはいえ、ちょっとニオイでムラついたんだけど……」
「
「ちぇ。……それで? 私が済ませなくちゃならない
『禊』って、何よ?」
ニオイを忘れる為か、それとも緊張で乾いた口を潤す為か、一気に紅茶を流し込んだ。ふぅ、と軽く息をつくと、ふんわりと紅茶の香りが漂ってくる。
「私から言わないとダメかな?」
「先生らしくないくらい、ヤな言い方。意地悪して楽しい? 楽しいよねぇ、テロ組織の長相手だし」
「意地悪してるつもりは無いけれどね。ならいい、簡単に言おうか。──リエに、謝りなさい」
「………………はっ?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔で、素っ頓狂な、上擦った声を漏らす。これまでの彼女からはまるで想像もつかない表情差分だ。理知的で、狡猾で──どこまでも先を読んでいるかのような行動ばかりのルーシィも、こんな顔をするのか。漫画か何かなら顔の横に「キョトン」と書き文字がありそうだ。
「心を込めて謝れ、とまでは言わないよ。でもね。ハドマ学園が発祥のテロ組織の長が、自分達が散々迷惑を掛けたハドマ学園の長に謝罪する。それにはきっと、意味があるよ」
「ッッ、私がリエに謝罪したら、先生が力を貸してくれるって言いたいの……?」
「その問いには、どう答えるべきだろう。さっきも言った通り、私は連邦生徒会側の人間だから君達に力を貸すワケにはいかない。これは前以てハッキリ言っておく。ルーシィ達には力を貸せない」
「ッ!!!」
「確かにルーシィ達を助けたいと思ってる。でも、これはハッキリ言えば私個人の『お気持ち表明』に過ぎないんだ。それだけでルーシィ達を助ける事はできない。……決して、ね」
「だったらどうして! 私をこんな所に呼んでッ! 期待させるような事ばっかり言って……!!」
「……」
「意地悪、嫌味ばっかり言って、何なの!? 何がしたいって言うのよ? 意味が分からない、時間の無駄だったッ! もう帰る、お金は払わないよ!」
椅子に掛けていた上着を掴み、怒りのあまりに、力強い足音を隠そうともしない。床に八つ当たりをするように、強く踏み締めて店を出ようとする。
「お金は結構だよ。でも、今のルーシィにはもう、あの頃のキレは無いね」
「はァ!? 意味分かんないんですけど!?」
「焦りから来るものだと思うんだけど。どうやら、酷く視野狭窄になっているように見えるよ」
「!?」
「『その行動を起こした結果、こういった理由からこう発展し、こうなる』──そこまで先を読んで、巧みに作戦を立案して学園を乗っ取った、あの頃のキレはどうしたの?」
「……ッ、意味、分かんないしッ……!! 帰る!! モモトークも、またブロるからっ!!」
「ご自由に。飂熾冘巫髏の未来はルーシィの双肩に懸かってるよ」
「言われなくとも……ッ」
期待を裏切られたと感じたからか、下唇を噛み、軽蔑するような冷たい眼差しを最後に私に向けて、ルーシィは去っていった。店を出てすぐにスマホを取り出したのを見るに、もうモモトークはブロックされたのだろう。
それならそれでいい。代わりに、この後、彼女が冷静になって私の言葉の意味を考えてくれるよう、ただただ静かに祈るばかりだ。
◆
「────な〜んて言うのよ! 我慢できなくて、店を出てきちゃったわ……!」
「あはは〜……まぁ、期待してたのにハッキリ『力を貸せない』なんて言われちゃあ、ねぇ……」
「期待しただけ損よ、全く! 先生がダメだったらまた別な作戦を考えなくちゃだ……あーもうっ!」
アジトに戻ったルーシィは、事のあらましを全く包み隠す事無く幹部に話す。それはもう、全てを。録音こそしていなかったものの、録音していたかのような凄まじい精度で記憶し、話して聞かせた。
ライムやレティ、クロノは「まぁまぁ」と彼女を宥めたり、もしくは同調して怒りを燃やしている。しかし、マフユやマトイのような冷静な幹部達は、ルーシィの話を聞いて何やら考え込んでいる。
「……マフユ、何か思い付いた?」
「あ、いえ。特には、何も。ただ『先生はどうしてそんな事を言ったんだろう?』と……」
「嫌味のつもりか何かでしょ? 『テロ組織如きが連邦生徒会側の私を頼って来るな』っていう」
「うーん。ヌルくて、でも生徒想いで、ドスケベなあの人が……そんな事を考えますかねぇ」
「知らないわ、あの人が考えてる事なんか。ねぇ、マトイ? マトイもそう思うでしょ?」
「…………? あ……はい。……なんでしょうか?」
「ぼ、ボーッとしてるんじゃないわよ……」
「ボーッとしてたんじゃなくて、えっと──もしも先生の言う通り、総長がリエ議長に謝罪したら、の事を考えてみました」
「……あっそう。それで?」
「総長から歩み寄るならハドマ学園側も力を貸してくれると思います。それは、先日の集会で議長自ら公言なさってたそうですけど、そうしたら、全てが丸く収まるんじゃないかな、と……」
「ッ……」
「ま、そーよねぇ。マトイの言う通りだわ。だって今のハドマ学園勢力には、旧吸血鬼部隊もレイコも在籍してるのよ? それに加えて七天魔、失楽園。ルーシィ──あんたが頭下げるだけで、この戦力が実質的に味方になるのよ? 謝らない手がある?」
「ライムまで……そりゃそうだけどさッ────」
ルーシィが悔しさに表情を歪め反論しようとしたその時、ルーシィを除き最も頭のイイあの生徒が、ポンと手を打った。
いつもの飄々とした態度で。全てが分かったと、傲慢なまでのセリフを吐き捨てんばかりの表情で。
「──あァ。成程です。全て読めましたよ。先生の狙いも、先生が思い描いている絵図も……全てね」
くふふ、と含みを込めた笑いを漏らす。隣では、自分も全てわかっているぞ、と言わんばかりの顔で新参者のハユもニコニコとしている。
「やはり先生は一筋縄ではいきません。もしも仮にこの通りだとすれば、確かに、総長──あなたは、酷く視野狭窄になっていますよ」
「……はあ?」
額に青筋を浮かべた彼女は、静かにキレた。