「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「もう1回言ってみなさいよ、マフユ……!」
「何度だろうと言ってあげます。『今の総長は視野狭窄になっています』とね」
「ッ!!」
「ルーシィッ!!」
マフユの胸倉を掴もうと手を伸ばしたルーシィ、しかしそんな彼女を止めようとライムがガッチリとホールドする事で、どうにかルーシィは止まる。
力ではライムに敵わない。幼馴染であるが故に、ルーシィはそれを身体でよく理解しているからだ。
そしてその間も、マフユは平然とした顔で眼前のルーシィを見据えていた。
「あなたは別に『謝れない病』じゃないでしょう。場合によっては下手に出る事すら作戦に組み込めるハズです。それなのに、何故、我猛リエに対しての謝罪はそうまでして拒むのです? 先生も『心から謝る必要は無い』って事を言ったのでしょう?」
「それ、は……」
「──せっかく成し遂げたゲヘナ学園との併合を、アッサリと無かった事にされたから──でしょ? 全く……ルーシィが考えそうな事だわ」
「ッ、でも、ライム……!」
「そこにばかり思考のリソースが割かれてしまい、先生の言う通り、視野が狭くなっていますよ。少し冷静になって考えてくださいよ。総長がリエ議長に謝罪した場合に起きる事を……」
「…………」
自分は冷静だ、とルーシィはずっと思っていた。
しかしそれは誤りだった。思い違いだった。真に冷静な人は、自分は冷静だと常に考えたりしない。寧ろ、常にそう考えている事は、冷静でないことの裏付けであるとさえ言えよう。
「やっと落ち着きましたかね?」
「……まだ、分からない。でも、マフユの言う通り、考えてるよ。『自分がそうした場合』の事を」
「私じゃなくって、先生の言う通り、ですね。少し負けず嫌いな所が強まりました? それはそれで、ちょっと良くないですねぇ」
ルーシィは夢想する。思考を深層まで巡らせる。その姿は、何重もの予備策を練って、ハドマ学園を転覆する作戦を立てていたあの頃の彼女であった。
「──私がリエに謝罪する。リエは集会で公言した通り、飂熾冘巫髏と協力する構えだから、そうして手を組んで、ハドマ学園の戦力も含めチンピラ達を打倒する──って感じ? ……になるのか」
「……それ、本気で言ってますか? 総長?」
「は?」
「『本当にそれだけか?』と聞いているんですよ。頼みますよ。これ以上、失望させないでください。そんな、小学校低学年の子供が考えるレベルの浅い内容しか考えられないワケじゃないでしょう?」
「ッ……!?」
「あァでも──総長って、元副総長の戦闘がどんなモノなのか、知らないんでしたよね。それだったら仕方ないかもしれません」
「……は? 私が……レイコの戦闘を知らないって? 何を意味の分からない事を……アンタらよりよっぽど長い付き合いだし、よっぽど知ってるわよ!」
同じくルーシィとレイコと幼馴染であるライムもその言葉に同調する。確かに、マフユなんて、ここ1年未満の付き合いだ。小学生の頃に知り合って、高校生に至る現在まで付き合いのあるルーシィやらライムの方が、レイコの事をよく知っている。
そんな当然の摂理、あまり頭の良くないクロノやユウナさえ内容を100%理解した上で首肯できる。
しかし、それすら理解して呑み込んだ上でも尚、マフユはルーシィ達を全面的に否定してみせた。
「いいえ絶対に知らないハズです。何故なら総長、そしてライムさん──あなた達は──コテンパンに負ける・ひたすら無双し続ける、両極端な戦闘しか知らないからッ!!」
「「…………ッ!?」」
「ねェ──そうでしょう? 子供の頃は、吸血鬼の怪力だって、普通の高校生レベルでしょう。だから子供の頃は敗北だって経験しまくってるハズです。でも吸血鬼としての技能やら身体能力を使いこなすように鍛えていった結果──とうとう生み出された凶悪なまでの、『破壊音波』という、種族の特有の技能を昇華させた超必殺技。さぞ、あの人の無双に拍車が掛かった事でしょうねェ……」
「「……」」
「あの必殺技を生み出したその瞬間から最近までの数年間、ずっとずっと負け知らずだったハズです。そうですよね、総長?」
「……そうよ。モル姉に師事して、種族の技能をただひたすらに鍛えて、レイコは無敵になった。子供心ながらに、キヴォトスで覇権を握れるって確信したものだわ。……そのつもりは無くとも、可不可だけで言うなら『できる』と思ってた。だって、ゲヘナと併合する時だって結局、負けてなんかないし……」
「えぇ、そうです。確かにあの人は基本的に無敵、ハドマ学園最強は未来永劫、揺るがないでしょう。持久戦さえ──レイコの猛攻すらも持ち堪えられる敵さえ、現れなければ……の話ですけれどね」
「どういう意味?」
「文字通りの意味です。レイコが『無双』するには理由があったんです。勝負を急がないと、反動から自分がダウンしてしまうという……ね」
「あァ……EXスキルの暴発についてなら知っ……」
「これまで、
ルーシィとライムは目を剥いた。
戦闘が長引きEXが暴発するという場を目にする機会はこれまでに何度かあった。それだけ彼女達は長い付き合いだから。
しかし、暴発し続けた「その後」を見る機会は、ただの一度たりとも存在しなかった。相手が弱く、何回かEXをぶつけるだけで倒せてしまったから。そう──
「なんですって……? レイコにそんな……」
「いや! そんなの聞いた事ない! レイコが私に隠し事なんて、してるハズが……!」
「そりゃ『ルーちゃんは私を最強に導く為に色々と手を尽くしてくれてる』と思ってたんでしょうし、自分の弱い所なんて、見せたくは無いのでしょう。本人からすれば……」
「待ってちょうだい。マフユはそのレイコの弱点についてどうやって知ったの? 私とルーシィさえ、知る機会は無かった。ましてやマフユが、マフユのレッドウィンター部隊が、レイコとそんな持久戦ができるとも思えないんだけど」
「ええ。これは、アビドスの方に聞いた情報です。以前、話しましたね。私、アビドスで賞金首として捕まったって。先生のお陰で助かってから──情報交換程度ですけど、少し話すようになったんです。成り行きとはいえ、先生の指揮下で、レイコと共同戦線を張った生徒さんが……アビドスに居ましてね。酷く長期戦になったそうで、レイコはギリギリまで粘ったものの……『反動』でダウンしたそうですよ」
「そんな……」
「そんな事が、有り得るっての……?」
「まぁ、信じられないなら信じないで構いません。私とて、実際に目にしたワケではないですからね。正直、疑ってさえいます。その戦闘相手の技によるスリップダメージじゃないか、とさえ思いますよ。ですが、勘違いしないでください。──少なくとも先生は、レイコについてはそういった認識を持って動いている。その前提だけは頭に入れてください。そして、長い注釈になりましたが、レイコの弱点を前提として把握した上で、先生からのあの言葉を、今一度……紐解いてください。何か、見え方が少し、変わってきませんかね?」
レイコの弱点についての真偽は、どうでもいい。そんな事は最早、問題ではないのだ。
問題は、発言者である先生が「そうであると認識しているという事」である。何故なら先生がそうと認識しているという事は、先生の言葉は「それ」が前提に置かれた発言だからだ。
「──視点っていうか、前提っていうか。もし私があんな考えを先生に話してたら、先生の目に私は、どう映ったのかしらね。さぞや、マヌケなサリーに見える事でしょうね。前提条件を知らないんだから的外れに決まってるのに」
「くふ、確かに。レイコの弱点を知らず、レイコは無敵、レイコさえ居れば〜とか思っていなければ、そんな作戦は立てませんからね」
「ええ。ありがとう、マフユ。あんたのお陰で目が覚めたわ。やっぱり、参謀って重要ね。──先生の言いたい事も、やっと……やっと理解できたよ」
晴れやかな目だ。怒りで淀んだ目ではなく、迷いなどが吹っ切れたかのような、綺麗さっぱりした、清々しいまでの清らかな目だった。
「改めて聞きますけど。千五百人との戦闘がたった100秒で終わるとか……思ってませんよね?」
「思ってない。暴発も加味すれば千五百人だろうと倒せるだろうとは思ってた。でもダウンするのなら話は根本から変わる。本当にダウンするかどうかは置いといて、先生はそういう認識だって言うなら、先生の言葉も、理解する方向性が変わってくる」
「……なら、総長……あなたがやるべき事は?」
「────やるべき事は、決まった。ハドマ学園に行ってくる。もちろん……私1人でね」
次回────禊。
ルーシィがアジトを出てからは、マトイとマフユはクロノ、ライム、レティ、ユウナへの内容の説明に追われたようです。
なおアガリ、ハユは内容が分からずに、ポケ〜ッとしている模様。