「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「────うん。連絡は受け取った。リエの演説があってこそだろうね。私の説得だけじゃルーシィを動かせなかった。──うん、うん。連邦生徒会にも申請済みさ、安心して。だからしばらくはそっちの問題に集中できるよ。私の時間とか気にしないで。リエはハドマの事に集中して大丈夫だからね」
◆
「流石は、ゲヘナバカマコトの手配した業者ねぇ。こんなガッツリとゲヘナ風にされちゃあ、ハドマの風情がボロボロじゃないの……」
再建されたハドマ学園を見て、ルーシィは呟く。正門から堂々と校舎に向かう彼女の背中にはもう、迷いなんてモノは微塵も見られない。
そもそも「迷い」なんてある方が変な話なのだ。こうしてルーシィがハドマ学園に向かうのだって、傍から見れば「自分の学園に登校しているだけ」。ただそれだけの事に、迷う事などあるはずも無い。
ふぅ、と息を吐き、生徒会室に乗り込もうと歩を進める。しかし────。
「あっ、総長!?」
「うぇッ!? 嘘ッ!?」
「アイエエエ!? 総長!? 総長ナンデ!?」
昇降口に到達する前でさえもこの有り様なのだ。ルーシィが「総長」としての顔を公に晒して以降、彼女がハドマ学園に行かないようにしていたのは、まさにこれが原因として挙げられる。
ハドマ学園の生徒の7〜8割が飂熾冘巫髏だったあの頃、もしも学園に近付けばこうなっただろう。吸血鬼部隊が組織を抜けた事により現在は5〜6割程度に落ち込んでも、それでも半数が飂熾冘巫髏の構成員なら、こうして騒ぎになるのは必然である。
そして、構成員が騒ぐのにも、理由があった。
飂熾冘巫髏はハドマ学園とゲヘナ学園との併合を目論み、それに失敗した──下っ端の知識はそれで止まっている。つまり、飂熾冘巫髏とハドマ学園は未だに抗争中なのだ。
実際、停戦中とはいえ名実共に抗争中ではある。
そんな構成員はと言うと、自らがこうしてハドマ学園に通い、日々を過ごしている事実については、やはり「敵情視察」や「戦闘配置につく為」と認識している。
そんな「敵地」にボスが現れたらどうなるのか? とうとう新たな戦闘が始まるか──と考えるのだ。
「違う、違うよ! ちょっとリエに用があるだけで別に戦いに来たとかそういうんじゃ……」
「居たぞ、飂熾冘巫髏の総長・針村ルーシィだ!! 捕らえろ捕らえろ、捕まえろ〜ッ!!」
「ッ!!」
騒ぎを聞き付けて駆け付けてきたのは、ゲヘナの風紀委員会にあたる委員会である、統治委員会だ。ルーシィに抵抗の意思は無い、構成員が戦闘態勢に入ろうとしても静かにそれを制する。
「逃げてください総長、ここは私達が!」
「いい。大人しくしてな」
「えっ、なんでっ……」
「私の方が、アイツらに用事があるの。探す手間が省けたって感じ。丁度いいわ。だから、余計な事はしなくていいから。いつも通り過ごしてな」
「そ……そういう、事なら……」
「お気を付けて! 何かあれば呼んでください!」
名も知らぬ構成員に見送られて、ルーシィは統治委員会の生徒に捕縛される。牢屋が再建中だからと部室の方に連行されていくが、そこでは、ポテチを食べながら書類仕事に勤しむスズの姿があった。
「ただいま戻りました、委員長ッ! 飂熾冘巫髏の総長、針村ルーシィを捕縛しましたッ!」
「はいはい、お疲…………は?」
「はろはろ〜。元気にしてた? スズぅ。アンタの部下に捕まっちゃったよー」
「……は? ルーシィ……よね? 本物なの……?」
「本物本物、モノホンよ。リエに用があって来たんだけど、昇降口で上履きにする前に捕縛されてさ。お陰で土足のままなんだけど、勘弁してね?」
「……何の用?」
「リエが先日の全校集会で言ったと思うんだけど。飂熾冘巫髏が、チンピラだかスケバンだかの叛逆に遭ってる。だけど、飂熾冘巫髏だけじゃなくって、本拠地とも言えるハドマ学園までその危機にあると見てるわ。だから……」
「力を貸せ──と?」
「まぁ……言い方にトゲがあるけど、そうなるね」
スズの嫌味な言い方にムッとするも、要約すれば確かにそうなるので、否定はできずに、肯定する。スズはフンと鼻を鳴らして、ウェットティッシュで油に汚れた指を手入れする。
机の下に置いてあるらしいゴミ箱に投げ入れると頬杖をついて、捕縛され跪かされているルーシィを真っ直ぐに見据える。
「あっそ、勝手にすれば? ──けど残念。あたしとリエは考え方が違うの。残念だったわね?」
「というと?」
「チンピラ共が確定で敵視してんのは
「ッ、でもハドマ学園の半数以上が飂熾冘巫髏よ? もしチンピラと飂熾冘巫髏が全面戦争になったら、確定で学園も巻き込まれる! 共同戦線を張る方がより確実に学園を守れるでしょう?」
「『学園を守れる』とか、どの口が言ってんのよ。その『学園』を、一瞬でもゲヘナ学園と併合させたアンタが、それを口にしていいとか思ってんの?」
「……!」
「飂熾冘巫髏だけじゃチンピラ共に勝てないから、学園の力を借りようってんでしょ。知ってるわよ。だから門前払いよ、アンタの事はね。リエになんて話しに行かせない。行かせた所でシエルがアンタを食い止めるでしょうけどね……」
「っっ、まさか──シエル先輩も……っ!!」
「そ。普段はムカつくけど、シエルもリエとは違う意見。で、
「でもっ、それじゃ組織も学園も負ける! スズもシエル先輩もチンピラの物量を知らないからそんな浅はかな事が言えるのよッ!!」
「アンタの組織なんか負けてもどうでもいいから。あと、学園が負けるって事は無いでしょ。なんならシャーレの先生とか連邦生徒会に救援要請をすればいいんだから」
「救援要請ッて……」
「──あのねェ、ルーシィ。こっちは正当な組織を運営してんの。だから、シャーレだとか連邦生徒会という強力な
「〜〜〜〜〜〜〜ッッ……」
「ルーシィ。アンタが学園に乗り込んできたのが、ルビーが撮影で居ない今日で良かった。テキトーに報告書を作って、シエルに提出しとくわ」
「書類の捏造でもするつもり?」
「副議長時代のアンタも、同じことしてたでしょ。つーか私、捏造はしないわよ? 内容の取捨選択をするってだけ。書類に書く内容自体は全て事実よ。アンタと一緒にしないでくれる? ルーシィ?」
「……っ」
「改めて尋問する必要も無いわ。今の会話の内容を適当に抜粋してちゃちゃっと書類にまとめましょ。時間を作っとくようシエルに連絡して〜っと……」
書類を書き始めようとしたその時、統治委員会の部室の扉が開かれる。そこには、眉毛を釣り上げた生徒会長こと議長──
「話は聞きましたわ、スズさん」
「ゲッ、リエ……なんちゅータイミングの悪さ……」
「リエ……!」
「議長であるこの私の意に反し、ルーシィさんとの協定を結ばない方針で、コトを進めるつもりのようですわね。どういう事です? 学園の危機には共に手を取り合い、危機を乗り越えるようにと、先日の集会でお話ししたと思いますが?」
「いやだって──学園の危機って、そんなん最悪の場合はって話でしょ!? 飂熾冘巫髏がチンピラに狙われるなんてのも、ハッキリ言えば飂熾冘巫髏の自業自得よ! どうしてわざわざテロ組織を助けるような方向で考えてんのよ! 学園を危機に陥れるなんて、そんなん、リエとルーシィの方じゃん!」
「為政者というものは、常に『最悪のパターン』を想定し、それへの対応策を用意しておくものです。そう、まさに、以前のルーシィさんが何重もの策を張り巡らせていたようにね」
「だからァ! 連中の中じゃ、敵認定されてんのは飂熾冘巫髏だけなんでしょうよ!? それなのに、飂熾冘巫髏とハドマ学園が公に和解したとなりゃ、対チンピラの為に手を組んだも同然だし、連中から敵認定された『疑惑』じゃなくて『確定』で敵認定されるのよッ!? わざわざそんな無駄なリスク、背負う必要があるって言うの……!?」
「リスク──ええ、確かに、公に飂熾冘巫髏と和解なんてしてしまえば、それはもう多大なるリスクを背負う事になるでしょう。──しかし、スズさん。こうも考えられませんか?」
「!?」
「事前に手を組み、共に作戦を立てておくことで、確実に戦火に備える事ができる、と。──もし仮にスズさん、そしてシエルさんの考えるように彼女達飂熾冘巫髏と和解しないまま日々を過ごすとして。ある日唐突に、飂熾冘巫髏を倒そうとハドマ学園に押し寄せてくるチンピラに、対処できますか?」
「だからっ、私達も常に備えてればいいじゃん!」
「そうです、それが最善です。……で? 当然ながら飂熾冘巫髏の皆さんも参戦すると思われますけど、そんな状態で果たしてまともに戦えるでしょうか。連携もままならず、バラバラになったハドマ学園の生徒による同士討ちがそこかしこで発生する未来が見えますけどね、私には……」
「っ……!」
「ただでさえ、一般ハドマ生と飂熾冘巫髏の生徒の小競り合いがポツポツと発生している状況ですよ? そんな事、統治委員長であるスズさんが、知らないハズがありませんよね? ──それとも有事の際は誰もが何も文句を言わず一丸になる……とでも?」
「そんな都合良くは……いくと思ってない、けど」
「そうですわね。人心というものは不可思議なものです。真に恐れるべき敵が現れようと、真の意味で一つにまとまる事は九分九厘、不可能です。それは思想、願い、欲望、様々な要因から来るものだとは思いますけれど。だからこそ、事前に手を組む事で真なる『戦火』に備えておこうとしているのです。例えほんの少しだけだろうとも。完全な0よりは、ずっとずっと、可能性は高まるものですわ」
重ねて飂熾冘巫髏との和解を望むリエの言葉は、ウニやイガグリのように刺々しく尖っていたスズの心を、ほんの少し緩和させた。
それでもスズは、心からは認められないでいた。飂熾冘巫髏の事はずっと追ってきていたのだから、そう簡単に和解などというヌルい決着をつけられるワケがなかった。
「──だったら勝負しよ、リエ。飂熾冘巫髏と和解するのか、否か。白黒ハッキリ付けようじゃん」
「白黒ハッキリも何も、和解する方針で、と集会で周知しておいたのですけどね。別に構いませんわ、そうまでしてルーシィさんを拒みたいのであれば、それもまた信念です。であれば、この私の信念で、あなたの信念を打ち砕くのみですわ」
何発かルーシィに発砲するリエ。すると捕縛する縄が切れルーシィの手足に再び自由が与えられる。
「あっそう、2vs1って事ね。議長のクセに卑怯なマネをするじゃないのよ」
「いいえ? 平等に2vs2ですわ?」
パチンと軽快に指を鳴らすと、リエと同じように統治委員会の部室にやってくる1人の少女。スズと同じく飂熾冘巫髏に手を貸すつもりなど無いと表明しているという、副議長・
「私はスズ側だけど……いいんだよね、リエ?」
「ええ。どうしてもそうしたいと言うのであれば、仕方がありません。話がずっと平行線なのであれば解決する手段は一つ。戦い、
「リエ……どうしてそこまで……私を……」
「過ちを赦し、生徒を束ね、学園を守る事こそが、議長である私の務めだからです。飂熾冘巫髏に所属していようと、ハドマ学園を退学していなければ、ハドマの生徒である事に変わりはありません。私はいつも、あなた方を待っていました。──だから、あの飂熾冘巫髏大決戦の後も、飂熾冘巫髏の生徒を停学や退学になどしていなかったのですよ?」
「……ッ!」
「リエは綺麗事ばっかし言ってンじゃあないわよ。実際に現場に出て治安維持をしてんのは、あたしら統治委員会! 上で書類ばっか作ってるような連中の中身が空っぽの机上の空論なんかで、邪魔ばっかしてくるんじゃあないわよッ!!」
「目を覚まさせてあげますわね。どちらの選択が、長い目で見てよりハドマの為になるのか──骨身に沁みるよう、じっくりと……ね。ルーシィさんも私と同意見のようですしね」
「言ってろ! ヤるよ、シエル! 手ェ貸しな!」
「はいはい、指揮は任せたよっ!」
そしてそのまま、統治委員会の部室にて、4人の少女による銃撃戦が開始したのであった……。