「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
博愛神社は、ハドマ学園から程近い、小高い山の頂上にあるようだった。登山装備こそ必要無いが、そう気軽には参拝できそうにない……。
神社の方には私とスズ、リエ、ルーシィの4人で向かう事にした。レイアの回復は早いとはいえ一応保健室に行かせて、きちんと手当てを受けさせる。
神社への案内は不要だった。というのも、彼女の神社自体は秘匿されておらず、神社名で検索すればヒットするくらいには、普通に世に知れ渡っているからだ。地図アプリでも経路が出てくる。
あと10分も歩けば神社に到着するであろう距離に差し掛かった頃、山頂の辺りから
「銃声──スズッ!」
「はいはい、ちょっと急ごっかぁ。リエ、代わりに先生おぶって!」
「もちろんそうしますわ。先生、舌を噛まないよう歯を食いしばって。私に掴まってくださいませ」
「え、ええッ!? いやそんな……」
「──失礼、抱えますわッ!」
「ッッ!?」
銃声を聞いてスズとルーシィは加速。スズからの声を受けたリエは私を小脇に抱えて超加速。
そうだった。お淑やかな雰囲気と、お嬢様風味ですっかり忘れていた。リエは、トリニティで言うとティーパーティーのミカ、そしてシスターフッドのヒナタのような怪力担当の人物だった。
EXスキルの時、片手で氷山をブン投げるリエが怪力じゃないワケがなかった。そんな生徒だから、そりゃ私のことなど片手で持ち上げられるハズだ。
まるでヘルメットを装着せずバイクに乗った時のような勢いで、凄まじい暴風が顔面を叩く。今すぐ風避けの為のバイザーが欲しいくらいだ。
まともに言葉も発せぬまま、急加速したスズ達に追いつき、そのまま山頂にある神社へ到達。階段を数段飛ばしで跳ぶように走ってきたからか、スズもルーシィも、そして私を抱えるリエも汗がスゴイ。その熱にアテられ、私もまた汗をかく。
やがて、最上段のそばにある鳥居を潜って頂上に到達すると、銃痕だらけの境内に到着する。
「お? 総長に統治委員長……議長も居ンじゃん」
「あと先生も居るじゃん、やほ〜」
「統治委員長ォ? 直々に私達を捕まえに来た?」
そこには、チンピラ達を叩きのめした後らしい、旧吸血鬼部隊の生徒達が居た。多少の傷はあるが、皆、大体無事らしい。レイアの言う通り、レイラもその場に居た。チンピラの1人を踏み付けにして、ポーズを決めている。
「何となく状況わかったけど、とりあえずレイラ、説明をお願いできる?」
「見ての通り、襲ってきたから返り討ちにした所。それより、お姉ちゃんは? 少し前に1人で学園に向かったと思うんだけど……」
「保健室で寝かせてるから大丈夫だよ」
「なら良かった〜。──ねぇ総長? 飂熾冘巫髏のチンピラ部隊が野に解き放たれた結果、うちの神社襲われ始まったんだけど。瓦も銃痕だらけ、障子も壁も穴だらけになっちゃったよ。どーしようねぇ? 総長として、オトシマエ……つけてくれない?」
「言いたい事は分かるけれど。勝手に飂熾冘巫髏を抜けた
「……ふーん……」
レイラの冷たい視線がルーシィを貫く。確かに、吸血鬼部隊はレイコとルビーによって引き抜かれただけだ、ルーシィに楯突く権利は無いと言える。
蝙蝠野郎と揶揄される事もあるが、性質からして仕方ない所もある。吸血鬼でない生徒からの理解は得られないかもしれないが……。
ただ、組織を脱退したレイコのことをルーシィが特に責めないのは、こういう日和見主義なところを理解していたからなのだろう。個々人の性格による部分ではなく、種族特有の本能に近いものだから。
「──ヴァルキューレを呼ぶ。山の下あたりまで。そこでチンピラの子達を引き渡そうか。吸血鬼部隊だった皆も、下山して、一旦ハドマ学園に来てね」
「待って先生、それじゃ誰が神社を守るの?」
「私の友人達に話を通しておくよ。チンピラ部隊とやり合うのなら、吸血鬼部隊だった皆の──君達の戦力は、とても貴重だ。10人だろうと手放せない、貴重な戦力なんだ。だから、情報共有とか、戦力を整えるといった意味でも、一旦はハドマ学園に集合してもらいたい」
どうする? どうしようか? と旧吸血鬼部隊の生徒達はどよめく。今の今までチンピラ達の襲撃に遭っていたのに持ち場を離れてと言われたワケだ、動揺する気持ちも分かる。
しかし先程の言葉の通り、戦力が惜しい。今は、一箇所に戦力を固めたい。
──等と、動揺する生徒達を説得している間に、パトカーのサイレンが聞こえてきた。サイレンは、山の麓で鳴り止む。
「え、ヴァルキューレもう来たの? 誰が呼んだ? 先生、まだ呼んでなくない?」
「呼んだよ。生活安全局じゃなくて、公安局をね。動きが早いのも、公安局だからかもしれないね」
「公安局……ですか? 物々しいですわね……」
「ただのチンピラ問題じゃないからね。学園が絡む問題だから、公安局に話を通してみた。
「成程……確かに学園規模の問題なら……」
「……さっ。皆、チンピラの子達を担いで、さっさと下山してヴァルキューレに突き出そうか。これが、ハドマ学園の反撃の第一歩だよ」
公安局──その言葉を聞いてルーシィはピクリと肩を震わせる。
ゲヘナ学園のクーデターに成功して私と対談したあの時、公安局を呼んだんだった。そうだ、カンナ率いるヴァルキューレの生徒達とで、ゲヘナ学園でルーシィを追い詰めたんだ。あの時は結局ライムの妨害に遭って逃がしてしまったが。
──なんにせよ、カンナは仕事が早くて助かる。どんな生徒とも、モモトークは交換しておいて損は無い。縁というものは、どういう場面で役に立つか分からない。
◆
「──護送車、1台で何とかなりましたね。人数を前以て伝えて下さって、助かりました」
「助かったはこっちのセリフだよ。ありがとうね、カンナ。……これからも頼る事になると思うけど」
「構いません。それがヴァルキューレの仕事です。遠慮は不要です」
「そう言ってくれると助かるよ。ありがとう」
「いえ。──ところで、先生の背後に隠れている、その赤髪のポニーテールの生徒は……まさか」
「うん。だけど、事情はモモトークで伝えておいた通りだよ。『学園と協議して解散保留中』だから、ゴタゴタが終わるまでは何にも言わないでくれると助かるかな」
「どちらにせよ
「アハハ……それもそうだね」
チンピラ達を公安局に引き渡し、カンナとそんな会話をして、皆でゾロゾロとハドマ学園へと戻る。道中、歩きスマホは良くないと理解はしつつ、彼に急ぎの連絡を飛ばす────。
◆
◆
「さて。飂熾冘巫髏以外の主な戦力はハドマ学園にまとめたけど。どうしたものかなー。リエ議長は、何か案ある?」
「宣戦布告なども、何も無いんですものね。正直、こちらはこれ以上、動きようがないかと。私達からあちらを攻めるワケにはいきませんもの」
「だよねぇ。てか、そもそもアジトが分からない。攻めようがないしね」
「なんにせよ、ルーシィ。飂熾冘巫髏の他の部隊の連中も近くに常駐させときなさいよ。いざって時に
『遠くに居るから間に合いませーん』なんかじゃあ話にならないわ?」
「それはそう。まぁ、その辺は総長としてこっちで部隊を動かしておくよ」
チンピラ、スケバンを入山禁止に指定した事で、彼女たちは攻撃目標を喪失したからだろう。この日以降、チンピラたちが表立って飂熾冘巫髏への敵対行動として行動する事は、とんと無くなった。
博愛姉妹も神社で平和に過ごせるようになった。
しかしそれから数週間後──事態は動き出した。