「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
ヒナが懸念していた通り、飂熾冘巫髏の手によるゲヘナ学園への侵攻は極めて速やかに行われようとしていた。
連邦生徒会による記者会見が行われた日の夕方、ヒナの命令にて厳戒態勢を敷いている風紀委員会の本部に、予定外の来客が訪れる……。
「いっ、委員長!報告ですっ!」
「何かあった?」
「そ、それが、本部の外に『旧ハドマ学園生徒会の副会長・針村ルーシィ』を名乗る生徒が来まして。なんでも、『ヒナ委員長に是非ともご挨拶を』と、部下も連れず……1人で」
「!!」
「……委員長、ハドマ学園生徒会副会長って……」
「ええ、生徒会長が意識不明だった間にマコトとの調印式を執り行ったという、あの副会長ね。学園の運営に自信が無く、連邦生徒会からの打診の通りにゲヘナ学園に委ねたと見る事はできる。でも……」
「タイミングがタイミングですしね」
「そう。ゲヘナ学園との併合に反対する生徒会長が不在の間にとっとと調印を済ませようとしたように見えて仕方ない。何ならその生徒会長が意識不明に陥った学園崩壊の事件だって副会長とやらの計画の内かもしれないし」
「……どう対処しますか?」
「急な訪問って事で、失礼を承知でこのまま入口で対応するわ」
「!?」
「ただし─────……」
「……!」
「私は大丈夫だから。あと、アコも来て」
「は……はいっ!!」
そんな会話、手配を2、3分で済ませたヒナ達はルーシィの待つ本部の入口へ急ぐ。
扉を開けるとそこには確かにルーシィ1人だけがそこに居て、部下など引き連れている様子は無い。人懐っこそうな笑みを浮かべて、ヒナの顔を見ると同時に、にこやかに話しかけてくる。
「ハロハロ〜、こんにちはヒナさん!初めまして!旧ハドマ学園生徒会副会長、針村ルーシィです!」
「はろは……?こんにちは。風紀委員長、空崎ヒナ。よろしく」
「はいっ!よろしくお願いしますっ!」
「……1つ、聞きたいのだけど」
「はい、何でしょう!」
「あなた、生徒会の副会長だったのでしょう?何故マコトとの調印に──併合って結論に至ったの?」
「っ!……それは……」
────カァン!!
突如として鳴り響く甲高い金属音。目を丸くするルーシィ、対して何食わぬ顔のヒナ、アコ。ヒナの額には、薄く、擦り傷のようなものが出来ていた。
「……は?」
「──悪いわね。生憎、その程度の銃弾なら私には効かないのよ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!?だからって金属音が鳴るなんて……どんな頭蓋骨してん……ギャッ!?」
アコが指を鳴らす、同時に今度はルーシィが頭を押さえてその場に蹲る。予め待機させていた、風紀委員会のスナイパーが彼女を撃ったのだった。
それを皮切りにして、風紀委員会の生徒が一斉にルーシィに銃口を向けて取り囲む。
「旧ハドマ学園不正併合の疑いで、針村ルーシィ、あなたを連行する。洗いざらい吐いてもらうわよ」
「……全てお見通しってワケね?」
「全てではないけれど、大体は読めてる。あなたが学園を崩壊させ、生徒会長を行動不能の状態にして実権を手にした上で、マコトと調印式を行う事で、曲がりなりにも規定通りに、規則に則って、両校を併合させたんでしょう?」
「あぁそう、そこまでバレてちゃあ仕方ないわね、もう実力行使でいくしかないわッ!!」
「「!!」」
「レイコッ!!」
「アイアイサ〜♪」
ルーシィの呼び掛けに応じて、レイコが現れる。その手にはやはりマシンガンとスナイパーライフルという異色の銃器が握られていた。
レイコが何処かにSRを発砲すると「うっ!」と小さい呻き声が上がる。ルーシィを狙撃した、風紀委員会の生徒だった。
それを見たヒナとアコは同時に違和感に気付く。レイコが手にしているソレは
「……成程、マコトと取引したのね?併合してすぐにゲヘナ学園の銃器が支給されるハズがないもの」
「ええそうよ、
「ルシュフェル……?」
「私の組織の名よ。ハドマを乗っ取って、ゲヘナと併合し────ゲヘナをも乗っ取る為のねェ!!」
「「ッ!!」」
ルーシィの言葉と同時に、彼女の隣からレイコが激しくマシンガンを発砲。
戦闘開始──ヒナが最前線でレイコとルーシィと撃ち合い、アコとチナツがヒナをサポートしつつ、他の風紀委員の生徒を前線に送り込む。風紀委員会本部を前にして、遂に、両組織が衝突した。
「目には目を、歯には歯を。雑魚には雑魚を──!あんたら、総力戦よォッ!!」
ルーシィの声に合わせて、本部近くの建物から、ワァワァと飂熾冘巫髏の構成員が溢れ出してくる。その数、実に80人は超えている。風紀委員の生徒は現在、5、60人程度。
数では負けているものの、質では上回っている。チンピラや、ただのテロ組織構成員などと比べて、伊達に訓練を重ねていない。
ましてや最近は風紀委員会に副委員長が設置され後進の育成にも力を入れ始めた風紀委員会である、それなら尚更、質は高まりつつある。
「ヒナ委員長に続けー!!」
「行けぇ!新武器の性能見せてやれぇーっっ!!」
「敵の武器はゲヘナの支給品!そんなに強くない!今の内に攻めろ攻めろー!!」
「量産型風紀委員なんぞに負けんなぁぁーッ!!」
「『
「「「ぎゃああああああ〜〜っっ!!!」」」
アコやチナツのサポートを受けたヒナは、まさに無敵と言うべき暴れっぷりを発揮する。飂熾冘巫髏構成員を容赦なく蜂の巣にして、後方で指揮を執るルーシィ、レイコに進撃していくヒナだが構成員が肉の壁となりヒナの前に立ち塞がる。
そこでルーシィは、構成員に向けて新たな指示を飛ばした。
「あんた達ィ!『
「ねっさ……!?」
「……もう少しの辛抱だ!行けぇッ!!」
その瞬間、構成員達の動きが変わった。風紀委員全体への攻撃だったのが、ヒナ周辺の風紀委員への攻撃に切り替わる。構えも何も無いところに急激に攻撃対象が切り替わってしまっては、風紀委員達は為す術なく打ち倒されてしまう。
そして、ヒナ周辺の風紀委員が倒されて生まれたその空間に、再び風紀委員が駆け付けて囲む前に、構成員達が一気になだれ込みヒナを囲んでしまう。
「怯むな怯むなッ!風紀委員長がどんなもんだ!」
「副総長に比べてみろ!逃げたいヤツは死ね!!」
「副総長の準備が整うまで、耐えるんだぁぁッ!!飂熾冘巫髏、進めェェェーーーッッ!!!」
「「雑魚同然!雑魚同然!!雑魚同然!!!」」
自ら声を張り上げ、ますます密集する構成員達。その様子はまさに、スズメバチに群がるミツバチのようで、ルーシィはそんな構成員達を見て、密かに頬を緩ませていた。
当然とも言うべきか、ヒナは集中砲火を浴びても大したダメージは受けない。寧ろブンブンうるさいハエ程度にしか思えなかった。さっさと一掃したいくらいだった。
しかしヒナのEXスキルは、強くとも連続しては使えないのが玉に瑕である。だからこそ溜めるまで耐えなくてはならない。
「チッ。塵も積もれば、か。……チナツ、回復!」
『…………』
「?……チナツ、応答!」
そろそろチナツによる回復ができる頃のはずだと感じたヒナは、回復させるようにとチナツに無線で指示を飛ばす。
しかし、チナツからの返答は無く、同じく無線を聞いていたアコが悲痛な声を漏らした。
『委員長ッ、本部にもル・シュ・フェルの連中が!そちらに増援を送れません!!』
「増援はもう要らない、それよりチナツは?」
『恐らくですが、本部へと侵入した敵の対応の為に別働隊の指揮をしているか、もしくは────』
「……やられた、とでも言うの?」
『ッッッ……最悪の場合は……!!』
「後方支援の者まで狙うだなんて、随分と汚い真似してくれるじゃない」
『どう、なさいますか……このままでは……』
「アコは迎撃の用意。人員を集めて。もしそちらに敵が向かえば私への支援は切っていい、自分の方に集中して。何があっても本部の中枢は守り通して。悪いけれど『死守』よ」
『りょ、了解っ!!』
ヒナのHPも段々と削られてきた。そんな中で、集中砲火の浴び具合を見て、ルーシィは構成員に、最後の指示を出した。
「あんた達ッ!『海開きの陣』ッッ!!」
「「「うわあああああああああっっ!!!」」」
「?」
ヒナを取り囲んでいた構成員は、一気に左右へと散っていく。すると構成員が左右に退けた事により生まれた1本の道の間を悠々と歩く者が、1人。
「……!!」
ヒナがEXを使用した上でチナツの回復を求めるという事は、それだけ準備期間があったという事。それならば、それとイコールで、レイコもレイコでコストを溜められる時間が経過していたという事。
左右に引いたのは、シンプルに、レイコのEXの範囲外へと逃れる為。余計な人員を減らさないよう気を付ける為の、ルーシィの配慮であった。
「『
「「「……ッッ!?」」」
レイコを中心にした特大円形範囲内の全員に対し特大ダメージ。風紀委員達の多くは倒れるがヒナは持ち前のタフさで耐える。
そしてギリギリ倒れなかった風紀委員達は、銃の違和感を口々に訴え始める。
「委員長っ、銃が!銃が使えません……!」
「攻撃できません!」
(私の銃もダメだ──引き金が引けない?不具合?いや、これは「銃での攻撃」を阻害する効果──!一体何秒?壊れたワケではないのは体感で分かる、そんなに長くは無いハズ。効果範囲が広いスキルは範囲と引き換えに効果時間が短くなりがち────それなら、今は銃しか攻撃手段は無いと思わせて、次、
ヒナは風紀委員の誰より頑丈で、誰よりタフだ。それこそ、突然変異とか、生まれもってのバグとかそういう言われ方をしても仕方ないくらい、誰より飛び抜けて頑丈だ。
だからこそ、たった今こうやって受けたレイコのEXスキルを、もう一度なら耐えられると、自分でそのように計算していたのだ。
「……60秒……」
「?」
「今よ飂熾冘巫髏!!『熱殺蜂球の陣』ッ!!」
レイコのEX効果が切れない内に、範囲外に退避していた構成員がルーシィの指示で再び風紀委員を蹴散らし、ヒナを孤立させようとする。
「……!」
引き金に乗せた指から伝わる感触が、変わった。先程まで動かなかった引き金が動くようになった。攻撃が──できるようになった。
「アコ、今いける?」
『むっ無理です!すみません!こっちも……』
「わかった。ならそれでいい、そちらに集中して。
『
「「「ぎゃあああああああああ〜〜!!!」」」
ヒナのEXが、構成員達をぶっ飛ばした。遂に、互いの末端を担う生徒達が尽きてきて、大将のみを残すばかりとなった。
紅色の瞳をギラつかせて、レイコはヒナに迫る。手には相変わらずマシンガン、スナイパーライフルという異色の組み合わせ。
ヒナはそれらを共に警戒しながら迎撃する事に。
「80ッ、秒ォッ!!当たれぇぇぇぇぇッッ!!!」
「さっきから、あなた、何をカウントしているのか知らないけど。銃弾も殆ど当たっていないし、もう終わりよ」
「終わりはそっちよ!!『
「…………っ!?」
ルーシィのEXが炸裂。元からHPが少ない風紀委員の生徒はともかく何度も全方位からの袋叩きに遭っていたヒナにもクリーンヒットしてしまう。
残りHPが多ければスタンする時間も長く、逆に少なければ短い──今のヒナは後者であった。
故にそこから逆算して、たった3秒でスタンから脱したヒナのHPは少ないと飂熾冘巫髏側に露見。遂に、更なる集中砲火を浴びる事になってしまう。
「くっ…………後から後から、しつこい……!!」
「後方支援とも分断した!切り込み隊長も不在!!委員長の動きが鈍ってる今だ!畳み掛けるよッ!!勝つなら今、この場でよ!!レイコ、準備──」
「だ〜れが、不在だってぇ?」
「ゲヘナ風紀委員会切り込み隊長……現着だッ!」
不敵な笑みと共に上空から降ってきたのは、風紀委員会副委員長である盛宮モルモ。そして、最速の切り込み隊長、銀鏡イオリ────!!
幹部2人のいきなりの現着にルーシィとレイコは揃って攻撃の手を止めてしまう。けれども2人は、驚きを示した直後に、銃を取り落とす程のあまりに強烈な衝撃を受けた。
「ッ!?る、ルーちゃ……あ、あれ……って……」
「う……うそ、でしょ?モル
「……あれ?あんた達、もしかして────」
次回────ルーシィの誤算