「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「やぁ、久しぶり。ビーチでのイベント以来だね」
「あなたは、シャーレの先生、でしたか。その節はどうも、お世話になりましたわね。──何故、私の居場所を? ヴァルキューレの連中でも引き連れていらっしゃるのかしら?」
「私1人だよ。少し君と話がしたくてね。人探しが得意な人に、色々と手伝ってもらったんだ」
「そういえば最近、やたらとヘルメット団の連中が近くをチョロチョロと嗅ぎ回っていましたけれど。アレのことでしょうか?」
「……さてね。時間は大丈夫かい?」
「放浪の身ですもの、有り余ってますわ」
「そりゃ良かった。……いや、良くはないね」
ある日、キヴォトスの某所にて──スケバン達のトップとして有名な七囚人、栗浜アケミに会いに、彼女の元を訪れた。
彼女の居場所を探すのには、アケミの言う通り、サオリを通じてヘルメット団に協力を要請した。
やはり彼女達の情報網は侮れない。ものの数日で七囚人の隠れ家を見付けてしまうのだから、本当に恐ろしい。そんな精度で動けるなら、もしも本気でテロを起こそうと思えば、いつでも本格的なテロを起こせてしまいそうだ。
「お茶でも出しますわね、お待ちになって」
「あいや、結構」
「ふふ……七囚人の出すお茶を口にするなんて、危険ですものね」
「あぁいや、そういう意味じゃないよ。ごめんね。それなら、頂こうかな」
「冗談ですわ。──ここはあくまで隠れ家ですし、持ち歩きが楽なボトルや缶のモノしかないのです。未開封ですので安心なさって」
「ありがとう、いただきます」
自販機やコンビニか何かで買ったらしいよく見るメーカーの、ペットボトルの紅茶を差し出された。ナギサに飲ませた事あるような、無いような……。
冷蔵庫も無いような環境だからか冷たくはない。常温になってしまってはいるが、そんな事はもはやどうでもいい。とりあえず彼女に会えて、話せる。それだけでこの時間に価値があると言っていい。
「それで、シャーレの先生ともあろうお方が、私に何の御用でしょう? ただ事とは思えませんが?」
「アケミは、
「──知ってるも何も。スケバンの皆さんが敵対視しているテロ組織ではありませんこと? 確か──天使・悪魔が棲み分けずに入り乱れる混沌の学園、ハドマ学園が組織の拠点と伺っていますけれど」
「……そこを攻撃する意思は?」
「ありますわ。とは言っても、私は、ハドマ学園の皆さんに個人的な恨みがあるワケではありません。私を慕って下さる皆さんが、暴力によりその組織に不当に支配されていた──と聞いています。私は、それが許せませんの……」
それを言われると、何も言えなくなってしまう。
レイコの圧倒的な「暴」によってスケバン部隊は運用されていた、それは事実だ。そこは事実だから言い訳のしようが無い。無いが可能な限り屁理屈を捏ねくり回してみようとは思うが……。
「その組織、実はハドマ学園を拠点に活動しているワケじゃない……んだけど、知らなかったかな?」
「なんですって……? それは本当ですの?」
「組織の長と、一部の構成員がそこの学生っていう意味なら正しいよ。でも、そこを拠点に活動してるワケじゃないんだよ。考えてもみて。ハドマ学園は一度その組織に乗っ取られているんだ。今は何とか取り返した状態。──そんな状態で学園に留まって活動なんかできると思う? 四面楚歌でしょう?」
「……ふむ」
「その組織の構成については、スケバンの子達から聞いてるかな?」
「ええ。ハドマ学園の生徒を束ねた組織だとは」
「間違ってないけど、それは情報に偏りがあるね。スケバンの子達は、ハドマ学園の生徒を主体とした部隊に所属してたから、勘違いしてしまったんだ」
実際は、副総長であるレイコの直属だったから、ハドマ主体と勘違いしてしまったのだろう。しかもレイコの直属と言えば、吸血鬼部隊もそうだった。そう、吸血鬼部隊は純度100%ハドマ学園の生徒。
スケバンの子達の有する情報が偏るのも仕方ないというもの。
とりあえず今はハドマへのヘイトを薄めなくてはならない。尚且つ、他の学園にヘイトが向く前に、そのヘイトを消さなくては。復讐など無茶な事だと考えさせる事ができれば重畳だ。
そして、アケミを通じて、スケバンの子達を説得してもらう。それで8割方は収まるはずだ。
「……どういう事ですの?」
「飂熾冘巫髏は、キヴォトスの各学園に手を伸ばし組織を拡大させている。ハドマ学園だけじゃない。規模だけならヘルメット団に次ぐ組織だと思うよ」
「なんと……」
「正直、アケミの力を以てしても、復讐は無茶だ。もちろん──学園そのものと敵対するとなれば私や連邦生徒会も君達の敵に回ると見てもらっていい」
「……」
「動かない方が懸命だ。また捕まってしまう」
「先生は、私を説得しに来たんですのね」
「そうだよ。一度捕まって、やっと出られたんだ。また騒ぎを起こして、また捕まる必要なんか無い。どうかな……ここは一つ、考え直してくれない?」
「無理ですわね」
「即答かぁ」
「ええ。先程も申しましたように、私は、個人的な恨みの為に動くワケではありませんの。スケバンの皆さんの恨み辛みを、屈辱を晴らす為に動くのみ。私が捕まろうと──知ったこっちゃありませんわ」
「ッ……」
「ですので、先生。私の敵に回ると仰るのであればそれはそれで構いません。それが、あなたの歩む道という事なのでしょう? ──ですので、あなたがそうするのであれば、私も同じようにします。私は私の道を歩む……それだけです」
「……そっか」
「話は終わりです──速やかにお帰りください」
筋肉質な極太の手で重々しく入口を示す。彼女の表情は、清々しいまでにスッキリした表情だ。
迷いなど、微塵も無い。学園や、連邦生徒会──世界すら敵に回そうとも、私は私の道を歩むのみ。そう言っているように見えてしまう。
ここまで覚悟を見せられてしまっては、私はもう説得を諦めるしかない。……なら、次善の策だ。
「──最後に1つ、いいかな」
「なんでしょう」
「決戦はいつ? 君達は、いつ動くつもり?」
「いつでも。話が界隈に広まり、遠くないうちに、各地のスケバン戦力が集う事でしょう。そうすればすぐに動くつもりですが……何故?」
「アケミがそのつもりなら、こちらも、全力を以て相手しようと思ってね」
「ふふっ、おかしな事を言うのですね。この私が、敵戦力の集結をわざわざ待つとでも……?」
「待ってくれるでしょ」
「!」
「だって君──
「……っ!」
「そうでもなければ、各地のヘルメット団が一堂に会すイベントの最中に乗り込まないよ。一網打尽にする為だろうと、どう考えてもリスクの方が勝つ。敵の本拠地に乗り込むようなものだからね。だけど君は、真正面から戦って正々堂々とヘルメット団を打ち破りたかった。……違うかい?」
「………………」
「違うなら、仕方ないか。……邪魔したね」
戸に手を掛け、この隠れ家を後にしようと背中を向ける。すると、砲弾のような太い声が、ドスンと私のか弱い背中を貫いた。
「────次の満月の夜」
「……!」
「開戦は、午後7時。飂熾冘巫髏の総長が籍を置くというハドマ学園に、総攻撃を仕掛けますわ」
「……了解。信じるよ」
「
やっぱり、アケミは素直で良い子だ。
普通は、連邦生徒会側の人間である私が隠れ家に訪れたら、焦ったり逃げる素振りを見せるだろう。幾ら私が「話がしたくて」などと言っても、実際はヴァルキューレが到着するまでの時間稼ぎ、なんて展開を考慮するのが普通だ。
まぁ、アケミの場合は「包囲すら突破できる力が自分にある」という、ある種の自信の表れなのかもしれないが……。
なんにせよ、ここまで素直に話を聞いてくれた。次の満月の夜、午後7時に開戦──彼女の言葉を、信じる事にしよう。