※この作品はR-18です。

「先生!もっとあたしらに構って!」   作:アキラゼミ

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第10話:抗争の下準備

 

「──というワケで、彼女達との決戦は次の満月の夜、午後7時に開戦って事で話がまとまったよ」

 

「「「「どういうワケですか(なのよ)!?!?」」」」

 

 アケミとの交渉の結果をハドマ学園の陣営と共有すると、予想した通り、誰もが驚愕に顔を染めた。普段は大きな声を上げないルビーやリエですらも。

 事のあらましを説明すると、リエは頭を抱えて、スズは背もたれに全体重を預けて全力で脱力し──ルビーは困惑で顔を引き攣らせ、ルーシィは何やら考え始める。

 アンナは顔を青く染め、シエルはケラケラ笑い、レイコは涙を流す程にゲラゲラと大笑いしている。

 

「いや〜、先生ってばやるねぇっ! たった1人で敵の大将のトコに乗り込むとかマジヤバいって!」

 

「全くです……ヒヤヒヤさせないでください、心臓に悪いですわ……」

 

「もし攻撃されたらどうするつもりですかぁ……」

 

「でも、先生が危険を冒してまで敵陣に乗り込んでくれたからこっちもそれに備える事ができるんだし感謝しなくちゃ。……でしょ?」

 

「いやルーシィ(あんた)がそれを言うなよ」

 

「元はと言えば、ルーシィさん達のせいですしね。とはいえ事実ではあります。何の備えも無いまま、ある日突然、スケバンやチンピラ達の集団が学園を囲んで総攻撃を仕掛けてくる──考えただけでも、ゾッとしてしまいます。夜ですし、人も少ない時間です。きっと、為す術なく校舎は破壊され、容易く乗っ取られた事でしょう」

 

 ルビーの言葉に誰もが黙り込んでしまう。もし、あのままの空気で「その日」を迎えていたら学園はどうなっていたか……想像できたのだろう。

 きっと、ルビーの言葉通りになっていた。

 

「……ところで、次の満月っていつよ? 月齢なんてよく分かんないんだけど……」

 

「十五夜ですよ。ちょうど2週間後ですね」

 

「へぇ、よく知ってるわね。テンコみたいに、天体観測の趣味でもあったっけ?」

 

「吸血鬼なので、本能的に。生理の周期よりも簡単且つ正確に分かりますよ」

 

「あ、あんたね……そういう事は言わんでいい……」

 

「? ……でも────その日で良かった」

 

「えぇホントに。都合が良くて、助かるわ〜」

 

「え? ……え? 何よ、何を言ってるの?」

 

「皆さんご存知の通り、私とレイコ──吸血鬼は、夜行性です。昼間はかなり力が(・・・・・・・・)制限されています(・・・・・・・・)」

 

「だから、開戦が夜ってだけでも有利に働くのよ。飂熾冘巫髏大決戦の時に、ルーちゃんが深夜0時に開戦って設定したのだって、吸血鬼部隊が本領発揮できる時間が夜だからだし。あとゲヘナ部隊幹部のレティも、夜に力を発揮するタイプだったっけね」

 

「しかも月齢によっても発揮できる力はそれなりに左右されます。中でも最も力を発揮できるのが──満月なんです。人によっては新月って子も居ますが大抵は満月ですね」

 

「相手がそれを知ってるかどうか分かんないけど、ハドマ学園勢力にとっちゃあ極めて有利な条件よ。飂熾冘巫髏大決戦の時より力が発揮できる環境だと言ってもいい。絶対に負けてらんない。真正面から叩き潰してやるわ……!!」

 

 ゴッ、と拳を突き合わせるレイコ。不良漫画等に登場する番長や喧嘩自慢のキャラみたいだ。

 しかしこの2人の言葉を聞いて、自分達に有利な状況であると察した生徒の空気が僅かに弛緩する。アンナなどはまさに、ほっと胸を撫で下ろしている状態だ。レイコは自信満々といった様子で、スズも気が抜けたのか背もたれに背を預けている。

 危機感を抱いていそうなのはやはり、ルーシィ、リエくらいだろうか……。

 

「──それで、ルーシィ。他の部隊の皆はいつ頃にハドマ自治区に呼べそう?」

 

「ゲヘナ部隊はすぐにでも動けるみたい。だけど、トリニティ部隊はどうだろう。学園から監視があるワケじゃないらしいけど、ちょっと動きにくいって話は聞いてる。部活でも委員会でもないのに数多く集まると、周囲からの目が厳しくなる、って。停学食らった連中が集まっていたら、そりゃ奇異の目で見られるかもだけど……」

 

「その辺、ちょっとトリニティらしいね……」

 

「だね。レッドウィンター部隊については、各地のブラックマーケットで装備を整えてから来るって。だから1週間後〜10日後くらいが目安かな。途中でユウナのことを拾ってくる手筈だよ」

 

「分かった。ところで、ハドマ自治区に呼び寄せた飂熾冘巫髏の生徒達は、どこに滞在させておくの? 抗争当日に大移動させるワケにはいかないでしょ、移動でもかなり疲れるし」

 

「そりゃもちろん、リンコの運営するラブホだよ。そこに泊まらせてもらうようリンコに頼んである。2軒あるから、300人程度だったら余裕だしね」

 

 そうか。リンコ率いる技術開発部は飂熾冘巫髏に対しても敵対しないで「中立」を保っているんだ。だからリンコとテンコが飂熾冘巫髏を脱退した今も飂熾冘巫髏としての身分を隠さず、堂々とホテルを使用させる事ができる──。

 

「ルーシィさん──リンコさんは元・飂熾冘巫髏、そして技術開発部が『中立』を唄っている以上は、彼女の運営する施設を利用するのは正しいと言えるでしょう。しかし……」

 

「まさか、文句か何かあるのかな? リエ議長?」

 

「文句(・・)? ありませんわ、そんなモノは。あるのはただ漫然たる疑問(・・)のみ」

 

「疑問ですって……?」

 

「ええ。──公正な宿泊費を払えるだけの余裕が、今の飂熾冘巫髏にあるのでしょうか……?」

 

「「「「────ッ!!」」」」

 

 今度はルーシィを含む全員が顔を強ばらせた。

 きっと、この場に居る誰もが心のどこかで薄らと思っていたのだ。学園を上げての抗争なのだから、料金なんか気にしてる場合じゃないと。

 気にしなくともいい、とすら思ってる生徒だって中には居るだろう。私すら頭から抜け落ちていた。リエの指摘が無ければきっと気付けなかった。

 

「当然、ありませんわね。そんな余裕があるなら、決戦の際に戦車を多数揃える位の事はできたはず。型落ちした安い戦車など、その辺にありますもの。300人の宿泊費よりもずっと安いですわよね?」

 

「ろくな砲手が居なかったから買わなかっただけ、かもしれないよ?」

 

「可能性は低いかと。レッドウィンター、ゲヘナ、トリニティにまで根を伸ばしておいて。ましてや、千人単位の組織で、戦車を使える生徒が居ないと? 今のこのキヴォトスに、戦車の使い方すら知らず、ろくなパフォーマンスができない生徒が、どれほど居るのでしょうね……?」

 

 ルーシィは下唇を噛んで目線を逸らす。それしかできなかった。決戦当時はそれこそ、千人以上もの巨大組織だった──それなのに戦車を買わない理由なんて、資金不足か使い手不足の2択しかない。

 ゲリラ戦術を得意とする傭兵集団か何かならば、移動に不利だから買わない、という選択もできたしそういう言い訳もできただろう。だが飂熾冘巫髏はテロ組織。それも、武力を掲げる組織。わざわざ、戦車を用意しない手は無い。

 幾ら、戦車特攻を持つレイコが寝返っていても、どの部隊も戦車を用意してこないというのは多くの敵と戦う想定だと不利にしか働かないだろう。

 現に、あの決戦では、レッドウィンター部隊のみ戦車を使用していた。しかしそれは、彼女達が籍を置いているレッドウィンター連邦学園から奪った物なのである。

 ゲヘナ部隊、トリニティ部隊に、わざわざ戦車を持たせない理由など無い。

 

「尤も、失楽園に潜入していたお二方は資金を横領していたのですから、飂熾冘巫髏そのものが資金を必要としているのは明白でしょう? なにも、否定することなど無いのですよ……?」

 

「…………そーなんだけどさぁっ。やっぱちょっと、恥ずかしいじゃん……資金難です、なんてさ……」

 

「はぁ……。気持ちは分かりますけれどね。変な所で意地を張ったって、仕方がないでしょうに……」

 

「うっ……」

 

「──この際、仕方がありませんわ。ハドマ学園の防衛の為、他学区の方の力を借りる──そう考え、ハドマ学園は公式に、連邦…………」

 

 リエが言葉を切る。ドタバタと、忙しない足音が生徒会室の分厚い扉の向こうから聞こえてくる。

 足音から判別するに人数は多くない。1人、いや少なくとも2人は居るであろう忙しない足音の主を迎える為、私を含め、全員が扉の方に視線を移す。

 次の瞬間、小爆発でも起きたかのような勢いで、厚い木の扉がバゴンッ! と吹き飛び床に倒れる。

 そこに居たのは技術開発部の部長と副部長こと、砂田(さた)リンコとテンコ……砂田姉妹だった。

 

「ねぇねぇリエ〜、居る〜!? 次の抗争の時ぃ、飂熾冘巫髏の外部部隊の拠点を私のホテルにしたいなんて言うのよ、ルーシィが〜ッ!!」

 

「……! 待って姉さん、先生が居──」

 

「トーゼン、私達だってそんな資金は無いしさぁ! 学園守る為って建前で〜、連邦生徒会に申請して、経費で落とせたりしないかなぁ!?」

 

 懐からプリントを1枚取り出す。あれは──経費申請書らしい。

 リンコは、先の言葉通り、飂熾冘巫髏の他学区の生徒達をホテルに泊める為の資金について、それを連邦生徒会にどうにかしてもらおう、と言うのだ。

 それに気付いた私達は、天啓を得た気分だった。寧ろ、どうしてそれを早く思い付かなかったのか。そうすれば、こんなに悩まずに済んだというのに。

 ──と考えていると、返事が無い事に首を傾げたリンコは隣のテンコに問う。

 

「……あれれ? おっかしぃなぁ。ねぇテンちゃん、生徒会室、誰も居ない?」

 

「先生もルーシィも含めてみんな居るよ、その上で姉さんに対して呆れて黙ってるよ」

 

「えぇ〜っ!? そんなぁ〜!」

 

「だから待ってって言ったのに……はぁ〜……」

 

「テンちゃんが私を止めるのが弱いんだよぅ……」

 

「はあ゙ァん!?」

 

「んひゃあっ、ごめんごめん、今のは冗談だよぉ! それで──リエ? 飂熾冘巫髏の子が泊まる期間、費用は経費で申請したいンだけど。いいよね?」

 

「──良いもなにも。今、私が言おうとしていた事そのままですわ」

 

 こうして、私の口添えもあり資金問題は解決──飂熾冘巫髏の全勢力が、ハドマ学園、及び自治区に集結する事になった。

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