「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
スケバン達との決戦の前日────。
私はこの日、トラブルや緊急事態等に備える為、朝も早い内にシャーレを出て、始発でハドマ学園に来ていた。
その空気は、とてもじゃないが朗らかに挨拶などできない程に重く……酷く、ピリついていた。
今日はヴァルキューレの主導で、学園周辺の地域住民の避難誘導なんかもある。私は学園に常駐するとはいえ、何かあればすぐに動けるように、備えておかなくては。
「ほらそこッ、もっとキビキビ動くッ! さっさとバリケード積み上げんのよ!!」
「委員長ぉ、もう
「あァ!? ……ったくもうっ……ルビー!!」
「ま……待ってくだ、さい……
「〜〜〜〜ッ、もしもしリンコ!?
統治委員会は学校を囲む塀を更に強化している。吸血鬼ではない一般統治委員を、ルビーに一時的に吸血鬼化してもらって体力的に絶大なバフを得る、というドーピングにも似た凄まじいやり方で、凄い速さで作業を進めていく。
ただし、私も以前経験した通りだが、ルビー達の一時的な吸血鬼化は代謝する事により解除される。つまり汗をかけばかくほど、解除が早まる。
だから熱心に作業すればする程、バフが解除するまでのリミットが早まるワケだが──そんなことを言っていられる場合ではない。
だからこそ、ルビーをはじめ、吸血鬼の生徒達がバフ要因として酷使される事になってしまうのだ。ただでさえパワー要員な吸血鬼の生徒はあちこちで酷使されているというのに……。
「──はいルーシィ。あぁ、マフユ? どしたの? あ、1周目は仕掛け終わった? 分かった、じゃあそのまま生徒会に連絡して。放送してもらうから。それじゃ、引き続きヨロ。──はいはい、クロノ? 今度はどうかした? ……はぁ?
「…………大変そうだね、ルーシィ……」
「あー、先生。来てたんだ、朝早いね」
「明日が本番だからね。今日、私も何かできる事があればと思って。今日は、
「ん〜、そーだね。んじゃ、クロノのバカがま〜たやらかして、ちょっとイラついてるからさ。相手になってもらおーかな。あとでエッチしてくれる?」
「はは……全部が終わった後でね」
「はーい。てか、
「あはは……」
ヒフミとアズサ、改めてスゴい事やったんだな。アズサはアリウスで訓練してた過去があるんだからまだ分かる。分からなくもない程度とはいえ、まだ理解の範疇にある。……ヒフミは何なんだ……?
「はいはい、こちら総長ルーシィ。今度はレティ? まさかとは思うけど、ゲヘナ学園から戦車を盗もうとして失敗して逃走中〜、なんて言わないわよね? 違う? はあ、シンプルに事故ったの? 損失は? サイドカー付き大型13台って──あぁもう、地味にデカイ事故ね、何をやらかしたの? …………バカ? 公道でスリップストリーム狙って暴走するなよ」
電話をブツ切りすると、ルーシィは大きな大きな溜め息をついてその場に座り込む。今のやり取りでゲヘナ部隊が何をやらかしてくれたのか分かった。何というか、聞いただけでちょっと頭が痛くなる。
「サイドカー付き大型……って、バイクか何か?」
「飂熾冘巫髏ってお金無いじゃん。だから、戦車が買えない代わりにやっすいバイクを買わせたのよ。戦車部隊ならぬバイク部隊って感じでさ。バイクを乗りこなせるのがレティくらいだからゲヘナ部隊の指導を任せようとしたんだけど……」
「練習中に事故った、と?」
「ううん、練習はもう終わってるの。ゲヘナ部隊の全員で
「あちゃー……」
不良少女がバイクに乗る、か。そういえば、前にヴァンパイア・ロードと戦った時は、あの場所に、レティがマフユを、クロノがマトイを後ろに乗せてバイクで現れたんだったか。クロノも、ああ見えてバイク乗れるのか……。
「何でバイクに乗らせようと思ったの?」
「正面からの戦闘だけじゃあ、向こうの方が統率が取れてるだろうから不利になると思ってね。ゲヘナ部隊には、バイクでの戦場の撹乱をお願いしたいと思ってたのよ。サイドカーに乗ってるヤツが爆弾や銃で攻撃もするの──ほら、誰しもバイクになんて轢かれたくないでしょ? かなりダメージあるし」
「成程ね……」
イヤらしい撹乱の仕方だ。ゲヘナの生徒くらいにヒャッハータイプというか、頭のネジが外れているような生徒なら、ルーシィの言う戦法も執れるハズだろうし、スケバンもそんな撹乱は嫌がるだろう。
成程、戦場の秩序を乱すという意味では正解だ。下手に爆弾を投げ込むよりもダメージを与えられるだろうし、手段の一つとしては悪くないだろう。
『生徒会より全校生徒の皆さんに連絡です。現在、飂熾冘巫髏レッドウィンター部隊幹部より「地雷の設置が完了した」と、連絡が入りました。よって、現時刻をもちまして、学園を中心とする半径1キロ圏外への移動を原則禁じ、移動の際は飂熾冘巫髏、技術開発部、または統治委員会の案内のもとで移動するよう、お願い致します。繰り返します──』
「……聞いたね、先生?」
「うん。アンナの声だ。さっきマフユから受けてた連絡が、まさにこれなんだよね?」
「そっ。だから先生、学園から離れちゃダメだよ? 先生にとっては簡単に死ねるダメージだろうから」
「1キロ圏外に行く時には案内が必要なんだよね。飂熾冘巫髏、技術開発部、統治委員会は地雷の設置箇所、共有してるって事でいいんだよね?」
「いいよ。因みにだけど、設置箇所はリンコの発案なんだ。それを、私が飂熾冘巫髏に、テンコが技術開発部、スズが統治委員会にそれぞれ共有してる。設置自体は爆薬の扱いが飛び抜けて上手いマフユに任せた。レッドウィンター部隊はこういう時に凄く有能だからね」
「……トリニティ部隊には何を任せたの?」
「武器の入手。トリニティはお嬢様学校でしょう? 一般生徒だろうと、貧乏人なんてのは居やしない。だからその資金力を存分に奮ってもらおうってね。クロノはと言うと、何を血迷ったか、戦車の強奪を企んだみたいなんだけど……」
「他の子さえ機能してればリカバリー可能、かな」
「まぁそうね。まぁ、マトイを行かせたから、剣先ツルギなんかが出張って来なければ逃走はできる。戦車なんか、乗り手が殆ど居ないんだから無くても構わないのに……全くもう……」
「クロノは、ちょっと突っ走っちゃう所があるね。必ずしも悪いことじゃないけど、悪い方に出ちゃうパターンが多い……って感じか」
「そーね。悪いヤツじゃないんだけど……」
クセが強い子ばかりだと、組織を束ねる方が苦労しそうだ。カスミみたいにトップもブッ飛んでるとあまり苦労はしなさそうだが、ルーシィにカスミのムーヴを求めるのはあまりにも酷だろう。
「あ、電話。──はいもしもし」
『おはようございます、先生』
「あ、おはようカンナ。今日もよろしくね」
『こちらこそ、よろしくお願いします。ところで、地域住民の避難区域について、
「まさか、何か懸念点でも……?」
地域住民の避難は
第一次避難の範囲は、学園を中心にして、およそ半径1キロ半。地雷や爆弾を仕掛けたり坑道を用意する都合などから、少し広めに、そして少し早めに避難してもらう予定になっていたのだ。
これから始まる第二次避難は、学園を中心として半径1キロ半〜2キロ半圏内の住民が対象だ。
今回の抗争は、学園を挙げての戦争になる。地域住民に気を遣う余裕など無いと判断し技術開発部の全力
『それが──スケバンがどこから攻めてくるのかも分からない状況である以上、もっと広範囲の住民を避難させた方がいいのではないか──という話が、ポツポツと出ていまして……』
「それは『彼女達の狙いはハドマ学園だから、学園そのものから離れれば戦火に巻き込まれる事はないだろう』って結論が出てるハズだよ。アンナが記録してくれたノート、カンナも見たでしょ?」
『勿論、拝見しました。ただ「敵の言う事を素直に信じるのか」と返されてしまうと何も言えなくなるという報告が……。これには私も同意です』
「まぁ、あの時の話し合いに呼んだのは、各地域の代表者だからね……危惧する人もそりゃ居るか……」
たった2週間ぽっちで地域住民1人1人と話して了解を得る、なんてのは土台無理だった。だから、範囲内の各地区の代表者に絞って呼び、話し合いの機会を設けた。
ヴァルキューレ生活安全局の中務キリノにも同席してもらい、こちらもハドマ学園代表としてリエ、書記のアンナ、飂熾冘巫髏の代表としてルーシィ、連邦生徒会の代表として私が参加しての話し合いをしたのだ。
──本当は、
しかし地域住民にも「生活」というものがある。ましてや学園の近くには商店街などもある。
それを知っているから、おいそれと「一週間分の商売は諦めて避難してほしい」などとは言えない。しかし、それを補填できるだけの金銭援助は流石に難しい。そこまでの負担は、連邦生徒会も背負ってくれないだろう。財務室長のアオイに相談しても、かなり渋い顔をされた。
だから、地域住民との協議の結果、彼らの避難は一週間前ではなく二日前から行う事になったのだ。
それなのに──それなのに、第二次避難を目前に控えた今、その話が出るだなんて……。
「そうだ。因みに、それを言ってきたのはどの辺にお住まいの住民の方かな?」
『聞いた住所から計測するに──ハドマ学園から、直線距離で……およそ5.5km、ですね』
半径5.5km圏内となると、どれ程の人口だろう。人口が均等に分布してるとして、面積は約95km²、うち第一次避難で避難させたのは、たった7km²の地域の人だ。今日これから始まる第二次避難だけで昨日の12倍以上の住民を避難させるのはあまりにも無謀過ぎる。
単純計算だとしても、これ程の面積に住んでいる住民を全て避難させるなど……。
「──あまりに無謀過ぎる。避難経路も避難場所も確保できない。周辺の学園とかに協力を求めるにも遅すぎた」
『トリニティ程ではないとはいえ、やはり、学園や駅の周辺です。人口もそれなりに集中しています。範囲内の住民全員に説明した上で避難させるなど、どれだけできるか……』
あの「色彩」の襲来の時は、説明するまでもなく世界の危機だったから、説明などしなくとも全員が危機感を持って行動し、避難した、と聞いている。
しかし今は、あくまでハドマ自治区単品の問題。もっと言えば、自治区単位ですらなく、ハドマ学園のみの問題だ。一口に避難誘導などとは言っても、あの時のようにはいかないのだろう。
「──希望者だけ、にしようか。避難場所は、後で座標を送る。物資さえあれば、きっと数万人単位で収容できるはずだ」
『恐怖を煽る知らせ方さえしなければ、各々の家に留まってくれる住民も少なからず出るでしょうね。しかし、避難場所にアテがあるのですか?』
「1つだけね。とりあえず座標を送る。キリノ達に伝達して。広報と避難経路については……」
『問題ありません。全てこちらに任せてください。先生は、そちらの問題をお願いします』
「……頼りにしてますよ、局長さん」
『こちらこそ』
ヴァンパイア・ロードとの決戦場所、「教室」。マエストロがそう名付けたあの大きなスタジアムは当然ながら誰も使っていない。テクストロードも、私が生徒を編成した際に取り払われているようだし地域住民を避難させるくらいはお手の物だろう。
まぁ、その辺については、ゲマトリアのグループチャットにモモトークしておくとして。
あの「教室」の座標をカンナにモモトークで送りそれをカンナを中心にしてヴァルキューレ内で共有してもらう。追加の避難先の手配についてはもう、これでいい。
「──ふぅ。……あれっ」
ルーシィは自分の仕事に戻ったようだ。私よりもひっきりなしに電話している。色んな所に構成員を忍ばせていたようなルーシィだから、その頭脳さえ復活してくれれば、ルーシィほど頼りになる生徒はこのハドマには居ないだろう。
今回も、ルーシィを頼りにしたい所だ。
「あれ、先生じゃん。もう来てたんだ」
「おはよう、テンコ」
「おはよ」
資材を抱えたテンコが登校してきた。いつも通りシンプルな白黒のメイド服だ。
そしてその背後からは、ゾロゾロとテンコに従う技術開発部の部員達が遅れてやってきた。皆一様に何かしらの資材や機材を運んでいる。
「どうしたの、それ?」
「新兵器の製作に使うんだってさ」
「新兵器って……。というか、そんなお金あったの? まさか……リンコのポケットマネー?」
「姉さんと私のポケットマネーも、あるにはある。3割は、マトイ達トリニティ部隊の財布だけどね。でもマトイ、ルーシィから連絡もらったとか何とか言って、何故かトリニティ向かっちゃったけどさ」
「あぁ、その件ね。クロノがトリニティでちょっとやらかしちゃって、マトイはその援護に向かう事になったんだ」
「げッ、またクロノか……しょうがないヤツ……」
その言葉から察するに、クロノは過去にも問題を起こしてきたのだろう。尤も、クロノ自身がどこか愛されキャラみたいな所があるから、糾弾されたり追放されたりみたいな事が無いんだろう。
テンコはとうに飂熾冘巫髏を抜けている。しかも話を聞くに在籍期間は長くないハズだ。それでも、彼女にそんな反応をさせるのなら──彼女の愛され体質も中々のものだ。
ライムと交わったりして自信をつけたという話は聞いているが、それが相当効いているに違いない。
「……荷物運び、手伝うよ」
「あ、ありがと……。でも、大丈夫。議長も手伝ってくれてるからさ。先生は先に姉さんの所に行って。部室に居なきゃ、加工場か溶接工場に居ると思う」
「分かっ……!?」
技術開発部員に紛れて、白ロリのリエが現れた。その肩には小さな山を載せている。リエは何の山を運んでるんだ、アレは。……H鋼?
「あぁ、あれはレール。材質は
「レール……?」
「兵器を使うのに必要なんだって。でも凄いよね、吸血鬼でも2、3人は居なきゃ一度に運べないよ、あの量は。でもリエ議長、怪力だから。下手したら本気のレイコくらい……」
「逆に、同じ『吸血鬼』なのに別枠扱いのレイコがブッ飛んでるだけなのでは……」
「ははっ、それはあるかもしんないね」
そこでテンコと別れ、彼女の言う通り、リンコを探しに技術開発部のテリトリー内を軽く歩き回る。
部室──居ない。しかし削るような金属加工音が聞こえてきたので、溶接工場ではなく加工場に居るだろうと踏んで向かってみる。
そこには、目隠しを外して特製の義眼を装着したリンコが居た。加工した金属板を手で大きな機械に運んでいる所だった。
「およよ? 先生だ〜、おはよーっ!」
「おはよう。……何か、新兵器を作るんだって?」
「んまぁ、新兵器って言えるようなモノじゃないと思うけどね。
「ほう……?」
「──あっ、そーだ、先生さえ良ければ手伝って! テンちゃん達には屋上での作業をお願いしてるの、でもこっちも人手が欲しくって!」
「あ……そうなの?」
「リエに頼も〜と思ったんだけど、リエにもリエの仕事があるだろうから、あんまり頼めないでしょ? 先生は主に指揮担当だから、今日は時間あるかなと思ったんだけど〜……ダメ……?」
瞳を潤ませ、上目遣い。こういうのに弱いのだ、私という生き物は。こんな状況で断る方法など私は知らない。
「……わかった、いいよ」
「わー、ありがとぉ〜っ! じゃあね、じゃあね! ホイスト*2とシャーリング*3の使い方を教えるから部室にある予備の作業着に着替えてきてくれる?」
「え゙ッ……」
「大丈夫、もう加工する
「え、待って、これ何枚!? 何枚切れば終……」
「じゃ、任せたからねっ!」
「……はい……」
不意に始まった講習会&肉体労働。人手不足感が否めないが、生徒達を守る為だと自分に言い聞かせ全力で彼女の教えを吸収した。
エンジニア部との交流が功を奏したらしく、専門機械の詳細な説明や用語の追加の解説などは、殆ど不要に等しかった。彼女も「新入生に説明するより楽で助かる」と、酷く喜んでくれた。こればかりは解説女王・コトリに感謝する他に無い。
そして一通りの説明を受けた私はリンコと別れて作業を開始。何度か指を切断しそうになった*4が、幸い、大きな事故も無く作業を終える事ができた。
そして、その日の晩────。
「──今日は十四夜。いよいよ明日だ……ルビー」
「……はい」
決戦前夜、ハドマ学園第2校舎の屋上にて──。フェンスに身を預けながら、ほんのりと色を持った月を眺める。雲一つない夜空というワケではない、しかしこうやって夜空を眺めるのは、どこか風情があると感じる。
アロナとプラナにも生で見せてあげたいくらい、闇に染まった空では満月に限りなく近い月が爛々と輝いている。己の存在を世界に知らしめるように、私はここに居ると声にならない声で叫ぶように。
ほとんど満月に見えるこの月さえも、まだ完璧な満月ではない。完璧な満月は明日の晩に見られる。燃えるような橙色に染まった、綺麗な満月が。
ふと、隣にやってきた彼女に視線を戻す。どこか雰囲気が硬い。纏う雰囲気もそうだが、指を絡ませモジモジしたりと、様子が妙だ。
「……緊張してる?」
「初めての撮影の時くらいには……緊張してます」
「そっか。そりゃあ相当なものだね……」
「ええ。
ふわりと、シャワー浴びたてらしいいつもよりも熱いルビーの頭に手を置く。くすぐったそうに頬を緩ませ、私の手を掴むと自分の頬にあてがう。
「フー……」
今頃、各陣営の長たちは明日に向けた調整や最終確認をしている頃だろう。私もこの後、作戦に穴があったりしないか、ルーシィと見直さなくては。
「満月の前は、
「? ……ええ。満月が
月が満ち欠けするように──人々の栄華もまた、満ち欠けするのだろう。
キヴォトス1だったハズのアビドスが廃校寸前に追い込まれているように。ゲヘナと通じて、姉妹校として共に成長したハズのハドマが、いつの間にかゲヘナに置いていかれたように。
連邦生徒会幹部として権力を振りかざした者が、その栄誉ある地位を追われたように。智将であると自覚しつつ、その重責に潰され泥濘に嵌るように。
「ああああッ、もうッ! 進捗75%ォ!!」
「ちょっと休もーよ、テンコさぁん!」
「これ以上は作業効率も悪いってば!」
「甘ったれんな! 姉さんも先生も1人で作業してくれたってのに私らはノルマも達成できてない! 明日の朝には試運転できるようにさせるって分かってる!? 遅くとも、5時までには終わらせるよッ!!」
「「「「い、イエス・マムッ!!」」」」
「
「どうやら少し切羽詰まっていますね。専門的な事だから、素人は手伝いにくいのがまた……。ホテルの運営にも人員を割いてるので、3班に分かれてるんですよね、今の技術開発部……」
「後で手伝いに行こっか」
「そうですね。荷物や道具運び程度だったら素人もできるでしょうし。少しは時短になるでしょう」
──明日はスケバン達との決戦、本番だ。
明日で全ての遺恨を消し去ってやりたい。全てを終わらせ、なんでもない日常に戻したい。今だってゴルコンダのテクストのバリアがあるお陰で神社も無事なだけ。それが無ければ、どうなっていたか。
「……明日を、スケバン達の満月にしてやろう。一度満ちた月は──後は、欠けていくばかりだ」
「それなら、ハドマ学園の現状は、さながら今日の月のようですね。この後は、満ちてくばかりです」
人は、そして人の営みというものは、月のように須らく満ち欠けする、移ろいゆくものなのだろう。
────それでも、欠けた月は再び満ちるのだ。
明日の決戦の勝利を以て、ハドマ学園の復権への1日目としよう。