「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「ギリ……終わっ、たぁ……!!」
「ふぅ〜。お疲れ様、テンコ。シャワー浴びて少し仮眠するといいよ」
「うん゙……そーさせてもらう……」
AM4:55。ほんのり太陽が見え始めた、少し冷たい風と共に程よい涼しさを感じる、夏の早朝。生徒達は、自ら設定した5時という納期に間に合いハドマ学園第1校舎の屋上に寝転がっていた。
中でも熱心に作業していた副部長のテンコなどは既にグロッキーの様子だった。フラフラなので私が彼女を背負い、屋内に戻る事にした。
私と一緒に技術開発部を手伝っていたルビーは、統治委員会の副委員長という事もあってか途中から会議の為に抜けてしまったものの、私は、最後まで手伝いを続けられた。1人1人が疲労によりダウンしていく中、テンコはよくやったと頭を撫でたい。
「……仮眠室、直行で……お願い……」
「シャワーはいいの?」
「んなの気にしてたら、寝る時間……が……」
「……それもそうだね。このまま寝よっか」
「ゴメンね、せんせ……朝まで……付き合わせて……」
「好きで手伝っただけだから、気にしないで。徹夜なんて慣れっこだしね」
「……ねぇさんみたいな、こと……言わないで……ょ……」
それっきり、テンコは私の背で眠ってしまった。
屋上での設置作業のみならず、リンコが昼の内に製作したモノを屋上まで運んで、設備の方を微調整するなどの作業もあったので、やる事が多かった。
リンコもこっちの作業に来れたらとは思ったが、リンコはリンコでレッドウィンター部隊のマフユと通話しながら作業をしていたので、屋上での作業に手を貸すことはできなかったらしい。現に、彼女も徹夜したのとか……。
◆
簡単な朝食を済ませた生徒達は、交代で屋上から四方の見張りをしながら過ごしている。様々な部や委員会の生徒が学校に集まり篭城戦のような戦いに備えようとしている────。
まだまだ、開戦は半日以上後だというのに、その緊張感は大変なものだった。
私や技術開発部の生徒達が仮眠から起き出す頃、試運転の緊張も相まって、場の雰囲気は険悪とすら言える程にギスギスしていた……。
「物々しい雰囲気ですわ。ここは一つ、全校生徒と到着済みの飂熾冘巫髏の皆さんを外に集めて、音楽でもかけて体操してみましょうか!」
「流石に反感買うからやめときな〜? ていうか、これから
「そうでしたわね。……大丈夫ですの?
「なぁに? リエってば私達の技術力を疑うの?」
「そういうことでは……。ただ、徹夜での作業だったようですし、不備などが……」
「起きないよ。アレの設計者は私で、作業責任者はテンちゃんだもん。私達の組み合わせでトラブルや事故が起きた事……これまでにあったっけ♡」
リエには分かった。目隠しに隠されてはいるが、今のリンコは、口だけではなく目も笑っていると。彼女が自身の技術に自信を持つのは今に始まった事ではない。金が無いなら無いなりにやりくりして、それでも、ミレニアムにこそ及ばないが、努力して技術を高めてきた。だからこそ自信が持てるのだ。自身が参戦する戦闘にまで応用しているのだから、それは相当なものだと言える。
それに思い至り、リエは自身の浅慮を謝罪した。
そしてリエとリンコ──3年生2人は、何人かの技術開発部の部員を連れ立って、第1校舎の屋上へ上がった。
眼下に広がる校庭では、リンコの代わりにテンコが率いる技術開発部の生徒達が点在している。
「もしもしテンちゃーん? おめめパッチリ〜?」
『起きてるよ。
「えっへへ〜、まだ義眼モードじゃないからね〜。それで、
『もちろん。重りも指定の位置に置いた』
「オッケー。周囲に部員以外は誰も居ないね?」
『うん。うちの部員も、監視人にしてるヤツ以外は溶接工場と加工場で追加の作業させてる』
「いいよいいよ〜。……じゃあ……試運転シよっか」
『こっちはいつでもいいよ』
「じゃ、1分後に第1射ね。狙いは正門の真ん中。門は開けておいてね」
『門と門のレールの保護は?』
「そんなの、技術開発部ならすぐに直せるでしょ? 端材からチョチョイと作っといて、夜までに」
『人使い荒いな〜……』
「まぁいいじゃない。この試運転と残りの作業さえ終われば、開戦までは暇も同然だよ?」
電話越しにテンコの溜め息が。リエは苦笑しつつ屋上にドンと備えられた、ブルーシートに覆われた大きな何かに目を移した。
「これが……リンコさんの言っていたモノですか」
「そうっ! 名付けて『ハドマ式簡易列車砲』っ♡ じゃーん♡♡」
「…………!?」
簡易列車砲と言うだけあって、本物よりは小さいものの──それでも十分な威力がありそうなことは見て取れた。そして、もしも暴発すれば建物自体が甚大な被害を受ける事になるという事も。
「リエに運んでもらったレールは見ての通り
(レールが────内回りと外回りの二重構造……? これは一体……?)
「この列車砲に難点があるとすれば、狙うところが校舎に近いほど着弾までに時間が掛かるってとこ。これ厄介だよね〜」
「……? 何故ですの?」
「見ての通りだよ。砲身を下に向けられないから。例えば、校舎から一番遠い正門を狙うのなら、水平投射に近い斜方投射みたいな軌道を描くんだけど、校舎から1、2m程度の地点を狙うとしたら、鉛直投げ上げ的な軌道になるんだ。まぁ、発射の勢いも殆ど殺されるからね〜……」
「なるほど……それはまた……」
「火薬量での調整は、練習に時間も掛かるでしょ? 火薬量の配分を調整するシステムも組み込むには、時間が足りなかった。だから敵が校舎に近付かないように、皆には頑張ってもらいたいかな〜……」
「近付きさえさせなければ……って事ですのね」
「そゆこと! 花火より複雑だからちょっとね〜。あっ、それとね、とあるサンドボックス系ゲームを参考にして〜、TNTトロッ……」
『姉さん? もう1分過ぎてるけど何かあった?』
「あっ。ご、ごめーん、あと1分だけ待ってっ!」
『ったく……』
試運転の準備は設営時に既に完了していたので、砲弾の代わりのモノは装填済み。あとは起動して、狙いを定めて発射スイッチを押すのみである。
「着弾予測地点、正門中央。自動制御装置オン!」
座標を指定し、砲身の角度の誤差を自動で修正。発射ボタンを押すとカウントダウンが表示される。
「7秒掛かるんですのね」
「そういう設定にしたの。あと発射もオートだし。マニュアルだと、誤差修正した瞬間にドカーンとかできるけど。それはまぁ後で部員に演習させるよ。とりあえず試運転はオートとマニュアル、両方ね。まずはオートで──いくよ、テンちゃん♪」
『いつでも』
テンコがそう言った途端、列車砲が模擬用の弾を発射──火薬少なめ威力控えめで、緩やかな曲線を描いて正門に着弾。着弾部分のコンクリートは爆ぜ周辺に破片を撒き散らした。
技術開発部の生徒達は成功を喜び、拳を握る。
『ナイス、姉さん』
「計算通り……だねっ☆」
『補修する必要ある? どうせ今夜荒れるでしょ』
「ダメダメ! 着弾跡みたいなのがあったら敵にも
『何か大砲みたいなのがある』ってバレるし!」
『そうかなぁ、ハドマも治安は良くないしあんまり違和感無いけどね。まぁ、いいや。マニュアルでの試運転が終わってから1時間、学園に残った部員に練習させるよ? 私の兵器の仕上げもあるし……』
「はーい。じゃあマニュアルも、イッきまーす♡」
◆
「うぅ……ん…………はッ!?」
ドォン、ドォン──と戦車が弾を放つような音で目が覚めた。場所は仮眠室。まさかと血の気が引く感覚がしたが、外から差し込む陽の光に目が眩んでまだ夜ではないと瞬時に理解できた。
戦闘中だからこんな音がするのか、と思ったが、どうやら演習中らしい。
「おはよ、せんせ。試運転、出遅れたわね」
「……スズ」
「テンコがさ。『先生グッスリだったからそのまま寝かせてきた』ってね。テンコをベッドに置いて、先生、そのまま床に倒れて寝たらしいわよ?」
「あはは……殆ど徹夜だったからね……」
「ったく。……はい、バーガーとポテトと、コーラのセット。朝からジャンクフードだけど大丈夫?」
「……誰がこれを?」
「そりゃあ、アスカ達よ。美食研究会対策委員会。お菓子ばっかり作ってるっていうだけで、料理全般デキなくはないからね。まぁ作る頻度が少ないから腕は……それなりだけど。でも、食えなくはないわ」
「あ……買ってきたんじゃないんだね」
「何よ、生徒の手作りよりも市販のが良かったの? 近くの店は避難のせいで閉まってるし、往復の時間とかお金が勿体ないからって作ってくれたのよ?」
「あぁいや、地雷で囲まれてるって聞いたからさ。危険を犯してまでそっちに行ったんじゃないかって少し不安になったんだ、ごめんね」
「あぁ、そういうこと。学園を中心に半径1キロの地点はどの方向も囲まれてる。今は、2、3周目を設置中よ。確か今回は……1.5と2キロ地点ね」
「地雷の炸裂を合図に戦闘配置に就くって決めてたハズだけど、更に地雷を追加する事にしたんだね」
「ええ。まぁ、数はそんなに多くないから、大通りメインで設置するってさ。爆薬や火薬については、リンコが使う分も必要だしね」
「リンコが? 屋上に設置した列車砲以外になにかあったっけ?」
「あれ、聞いてないっけ? 今回のリンコの発明は列車砲だけじゃあなくって、そのレールを活用して発射する……TNTトロッコよ」
◆
「────全くもう! クロノってば、ほんっとに色々やらかしてくれたわね! 集合が半日遅れよ! 間に合わなかったらどうするつもり? 戦犯よ?」
「ネットスラングの方の『戦犯』ね♡」
「ライム。言わんでいいから」
「わ、悪かったってば〜……。そ、その分、ブラックマーケットで火薬とか弾薬とか色々奪ってきたからそれで許して〜……」
「ンなとこ行ってるから遅くなるんでしょうよっ! マフユ達はユウナ連れてくるの忘れるし、クロノは正義実現委員会に追われる、ゲヘナ部隊は事故る、マトイはクロノの援護に行かざるを得なかったし! 勘弁してよね、本当にさぁ〜……」
マトイとマフユを除く幹部達はショボンと凹む。マフユは地雷や爆弾の設置中、マトイはアビドスのブラックマーケットに出張し、ユウナを連れ戻しに行っている。ユウナは無一文。それ故に交通手段を持たないからだ。
ライムも、飂熾冘巫髏の生徒への指導誘導くらいしか仕事らしい仕事をしていない。後は統治委員会などと一緒にバリケードを作る程度だ。
しかしライムの本領は、これからである……。