※この作品はR-18です。

「先生!もっとあたしらに構って!」   作:アキラゼミ

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第13話:狂気

 

「……うへぇ〜……なんかもうめちゃくちゃだね」

 

「こーゆーのを、カオスって呼ぶのかもね。まさかこのハドマ学園が吸血鬼で埋まる日が来るなんて、誰が想像したかしら」

 

「天使の子にも吸血鬼の翼が生えてて……うわぁ」

 

 第1校舎の屋上から、校庭にて訓練や準備に励む生徒達を見下ろす。

 前述の通り、吸血鬼特有の肉質で大きな翼を持つ生徒がそこかしこに居る。元は百人ちょっとくらいだったハズなのに、パッと見で野外に出ている子の半数、少なくとも三百は居るであろう生徒の大半は吸血鬼のように見える。

 これを見るに、少なくとも飂熾冘巫髏の生徒達は軒並み吸血鬼化していると見ても良さそうだ。

 統治委員会はもちろん、前線に出る生徒も同じく吸血鬼化している。それくらいしないと千人規模のスケバンという物量に対抗できないから、らしい。

 可逆性があるという事で、戦闘の為の吸血鬼化に同意している生徒達は、吸血鬼化した上で前線へ。吸血鬼化に反対の生徒は守備、援護を担当したり、技術開発部の吸血鬼が前線に出る代わりにリンコ達技術開発部の補佐を担当するという布陣らしい。

 

「リンコの『兵器』は、この列車砲だったんだね。しかも爆弾を乗せたトロッコ──を発射する装置も並行して作ってたとは……」

 

 私がリンコに任された作業は、トロッコの車体を構成するモノらしい。私が切った鉄板を、リンコが溶接で繋ぎ合わせ、その他色々と手を加えトロッコという完成系に持っていったとか。

 リンコ曰く「使い捨てだからザックリした構造で大丈夫」とのことらしいが……。

 

「簡易的だろうと、屋上に列車砲なんてのを載せるとか……相変わらず、リンコはどうかしてるわね」

 

「相変わらず……?」

 

「相変わらずでしょうよ。こう言っちゃ悪いけど、リンコが失明した理由もバカ、アホ。天体望遠鏡で太陽見て失明しちゃいました、とか。しかも、治る可能性が無いので義眼を入れる為に失明した眼球をくり抜きました──とか頭おかしいわ」

 

「でも義眼を入れる為に失明した目を摘出するのはありふれた選択だと思う。失明した人にとっては、そういうのも選択の1つでしかない。だからあまりそう『狂ってる』とか言ってはいけないと思うよ」

 

「摘出手術を自分でやった────と言っても?」

 

「…………はっ?」

 

「ハドマでイチバン狂ってんのはね。裏切り前提で入学して生徒会まで登り詰めたルーシィでも、ただひたすら強さを求めて暴れ回るレイコでもないわ。絶対……絶対に、リンコなのよ」

 

「……」

 

「頭は良いし、仕事は早いし、顔も広い。ある程度カリスマ性もある。戦闘だって私くらい──いや、ぶっちゃけ私より強いわ。レイコに次いで、リエとしのぎを削るくらいにはね。だからレイコが最強(トップ)とするなら、ハドマで2番か3番目の強さよ」

 

「七天魔に返り咲いたのは知ってるけど、そんなに強いんだ……」

 

「理想論を語ってばかりの、脳内お花畑でお嬢様なリエと違って、ゲヘナ出身なのに妙に落ち着いててリアリスト。なのに誰とでも話が合うくらいには、世間一般的な考え方や常識を持ち合わせているの。それがリンコよ」

 

「それだけ聞くと、かなり優等生……だけどね」

 

「実際に優等生よ、かなり。活動資金の為とはいえ一時期飂熾冘巫髏に加入してた事さえ除けば、絵に描いたような優等生よ。ホテル経営だけじゃなく、家事代行サービスの会社なんかも経営してるしね。発明とか、そういうの(・・・・・)がぶっ飛び過ぎてなければ、ホントに……ただの優等生だってのにさ……」

 

 目を焼いて、それを摘出した──それだけでは、幾ら口が悪めのスズでもリンコに対して狂気的だと言いはしないだろう。ここまで言うからには過去に何かあった──そう思わせる「何か」が、あったんだろう。

 気になるのは気になるが、それは、今すぐスズに追求する事ではない。またの機会にしよう。

 

「あれ……先生とスズ? 逢い引きなら、屋上以外でヤッてくんない? これから実験で使うから」

 

「て、テンコ!? あんたなんで……」

 

「生憎、逢い引きじゃないよ。統治委員会の会議に行けなかったから作戦を共有してもらってたんだ。まさか、可逆性があるとはいえ、吸血鬼を量産する方針でいくとは思わなかったけどね」

 

 メカメカしい翼を背中に備えたテンコが、屋上に現れた。よく見てみれば、リュックのような肩紐が見える。背負うタイプの翼らしい。

 

「……実験って、背中のソレ?」

 

「そ。姉さんと共同開発した反重力ウィングだよ。飂熾冘巫髏に居た頃、レイコがよく『モル姉(ねえ)』って人の話をしててさ。なんでも、飛べる翼があって、空を飛びながら爆弾をバラまいてくる戦法で、あのレイコすらも手も足も出ないくらい強いんだって。だから、私も飛ぼうと思って作ってみた」

 

「はぁ?? あのレイコすら手も足も出ないって、何よそれ……ウソくさ……」

 

「レイコの師匠らしいよ。ゲヘナの生徒だって」

 

「ブッ飛んだ師匠ね。師匠がそんなんだから弟子のレイコが最強厨になっちゃったんじゃないの?」

 

「かもね」

 

 ケラケラと笑いつつ紐に繋がったボタンを押す。すると反重力ウィングが大きく展開して、こういう機械ならではの駆動音を鳴らし始める。

 

「それにしても、『作ってみた』って……。実際に、作れるものなんだ……」

 

「ま、ホテルや会社の利益を開発費に回したから。技術開発部がミレニアムに劣ってるのは資金面だけだからね? 技術があっても予算が無いから。でも今回は会社の利益を利用してやったからね。お陰で儲けも消えた。すっからかんだけど……完成した」

 

「……私はさ。テンコ達なら普通に戦っても勝てると思ってるんだ。テンコ達も、そう思ってるでしょ? なのにどうしてわざわざ資金を投入してまで……」

 

「スケバン撃退の為、なんてのは対外的な大義名分でしかなくて……私だって技術開発部だし。姉さんの使いっ走りだけじゃない。発明してこそだからさ。上手くは言えないんだけど……こういう時しか普段はできない開発ができないからね。この機会を、利用したんだ」

 

 そういえば、キヴォトスに来る前に、こんな話を聞いた覚えがある。戦争は技術を発展させる、と。

 例えばインターネットなども大元の由来は戦争で発展した技術だ、とか。日常生活に溶け込んでいる様々な道具や技術は、戦争の中で生まれ、そして、こうして日常に馴染んでいるのだ。

 戦争の際に技術が発展するというのは、例えば、少しでも戦争を有利に進める為に何かを効率化した結果だったり、相手を上回ろうと研究に研究を重ね開発していった結果だったりなどなど……。

 ともかく、戦争が悪い事であるのは間違いないがこうした副産物もある────という話がある。

 テンコの「普段はできないが、こういう時だから機会を利用した」という旨の発言も、恐らく……。

 

「うわ、浮かんだ……すご……」

 

「浮かぶのは室内で実験済み。問題はここから──高度の変更と体重移動による方向転換──」

 

 ゲームのコントローラーでも操作するかのような鮮やかな手付きで、片手で操作をしていく。するとふわりと更に高度を上げ身体を傾けるとその方向に動き始めた。

 まるでトンボのようなホバリングも可能。ただし急停止だけが厳しいらしいが……。

 

「ふぅっ。片手は操作で塞がっちゃうけど、まぁ、こんなもんでしょ。私の武器がSG(ショットガン)で良かったよ。ガトリング的なヤツだったら片手じゃ無理だった」

 

「……リンコと大差無いわ。あんたも大概よテンコ。こういう時に嬉々として動くのは、『技術者』ってヤツのサガなのかしら?」

 

「そいつはどーも」

 

「大して褒めてないけどね」

 

「知ってるっつの。──そんで? スズは吸血鬼化しないワケ?」

 

「しないわよ。私は、素である程度は強いからね。テンコこそ、そんなの背負うんだから吸血鬼になるワケにはいかないわよね。大丈夫なの?」

 

「どうせ、上空からの支援がメインだしね。いざとなれば戦場に投げ落として自爆させるから大丈夫」

 

「自爆機能(そんなモン)つけてんの……? バカなの?」

 

「これだから脳筋のスズは。全く分かってないね。これも一種のロマンなんだよ? 効率だけを求める発明なんてのはナンセンス極まりないよ──って、なに笑ってんのよ、先生?」

 

「ふふっ……ううん、なんでもないよ」

 

「「?」」

 

 ウタハ達も似たような事を言っていたっけ……。

 生まれ育ちも学区も違えど、やっている事が同じだったら、発想が同じ方向に向かうのも仕方ないのかもしれない。

 自爆機能──ロマン、か。

 別の学区の子も同じ事言ってたよ、とウタハ達に言ったら、彼女達はどんな反応をするのだろうか。

 驚くだろうか。それとも、同じ結論に至ったかと笑ったり、同族意識を覚えるのだろうか。

 物作りに関してトコトン強い信念を持つウタハ達だったら、きっと────。

 

 ◆

 

 夕方。太陽も沈み掛けて、暗くなりつつある街。地域住民の居ないハドマの自治区は、酷く寂しげに見えた。

 事故などの紆余曲折を経て、ゲヘナ部隊も無事にハドマ学園入りを果たし、戦力は整った。持てる力全てをこの戦いに注ぐ、と言っても過言ではない。少なくとも、ルーシィやリエはそう思っている。

 

「──来たか」

 

 PM6:30

 ハドマ学園を囲う、三重もの地雷地帯(マインベルト)。その最も外側の地雷地帯が、起爆した。

 それに気付いたのは、吸血鬼の生徒たちだった。

 静まり返った街中から響いてくる地雷の炸裂音。吸血鬼でない者も、屋外にさえ居れば聞こえてくるくらいあちこちで作動しているのが聞いて取れる。

 

『全校生徒、及び、飂熾冘巫髏の皆さん。敵が地雷設置区域を突破しました。ただちに、配置についてください。繰り返します──』

 

 見張りから報告を受けたアンナの放送が入る。

 戦闘配置についている生徒はそこを動かず、まだ配置についていなかった生徒は慌ててトイレに行き急いで配置に急ぐ。

 やがてスケバン達の鬨の声が聞こえてくるまでになってきた。

 そして、開戦直前のPM6:55──とうとう、七囚人・栗浜アケミの率いる超大勢のスケバンが、ハドマ学園の門前に到達した。

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