「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
開戦前日、深夜のこと────。
「────だから、千人規模のオラオラ系のヤツにどうやって真正面から対抗するっての? 正面からぶつかるとかバカじゃないの?」
「あのタフで厄介極まりない吸血鬼部隊のヤツらが参戦すんのよ? よっぽど焦んなきゃ勝てるって。スケバンだかチンピラだか知らないけどさぁ……」
「ソイツらは前哨戦、あくまでも駒でしかないの! ソイツら統率してる栗浜アケミがヤバイんだって! 七囚人よ、七囚人!」
「今の飂熾冘巫髏の副総長は8人目の脱獄囚よね? しかも、自力で矯正局を破壊して脱出するような、正真正銘のバケモノ。なら大丈夫よ。
「ええ、マフユ達が拾ってくるの忘れたらしいからマトイ達に行かせたけど……っ」
「円状に敷いた三重もの地雷原に、各所に設置したスナイパー、リンコの『兵器』、百鬼夜行きっての怪力乱神、栗浜アケミとの戦闘に燃える
「甘いのよ、それじゃあ……。追加で傭兵を雇いたいくらいには、不安すぎるわ……!」
「大袈裟だっての。でもま、そんだけ慎重だから、これまで飂熾冘巫髏はやってこれたのかな?」
「ええそうよ。だから私は、私の直感を信じてる。あと、この際だから言わせてもらうけどね、スズ。あんたら統治委員会、これまで
「────ッッ!!」
「先輩!!」
議論とすら呼べない言い合いがヒートアップ──覆しようもない実績を突き付けた上で、したり顔でスズを煽るルーシィ。
煽り耐性の無いスズは咄嗟にSMGを構えるが、少し前にスズ自身の呼び掛けにより作戦会議に参加していたルビーの手により取り押さえられる。
「っ、離しなさいよルビーッ!! ブッ放さなきゃ気ィ済まないわッ!!」
「私達の力で飂熾冘巫髏を捕まえられなかったのは事実なんですから受け入れてください! というかその煽り耐性の無さをどうにかしてください!」
「っさいわね、このッ……くっ、そ、力強ッ……」
「無様ねェ、スズ。すっごく無様。あんたみたいなヤツを、口だけって言うのよ?」
「ルーシィさんもそう無駄に煽らないでください! 人が2人居れば頭のレベルに差ができてしまうのはしょうがないじゃないですか! 明らかに自分より劣る人のことを見下す必要はないでしょう!?」
「「…………」」
相変わらずフォローしているのかしていないのか分からないルビーの発言に、ルーシィもスズも毒気抜かれた様子。ルビーの力から逃れようとしていたスズは溜め息と共に力を抜き、ルーシィも表情から力が抜ける。
ルーシィは、組織の構成員に投票を頼まずとも、素で生徒会に入れるポテンシャルがある優等生だ。勉強の成績だって、2年生の中ではテンコとタメを張るレベル。言ってしまえば学年トップの常連だ。直接的な戦闘力があまり無いことが、分かりやすい彼女の欠点だと言える。
対してスズは、実力主義な統治委員会だからこそ委員長をやれているだけだと言える。成績だって、あまり授業に出ていない飂熾冘巫髏の生徒とすらも大差無い程度には悪い。戦闘特化だと言える彼女のスペックだが、それさえ、攻撃力が時間経過で指数関数的に伸びる特性があってのもの。
要は、それほどまでに対称的な2人なのである。そんな2人の相性があまり良くないのは、ある意味当然と言えるのかもしれない。
「はあ、まるで話になんない。スズのこと脳筋だの直情的だのとは思ってたけど、まさか、ここまでの単細胞だとは思わなかったよ」
「こっちのセリフよ、レイコまで迎えてるってのにンな搦手とかそんなに用意する必要あんの?」
「策は十重二十重に用意しておくべきだからね」
「ふーん……?」
「──言っとくけどさ。今回の戦争、飂熾冘巫髏は技術開発部と手を組んでるからね。だから、スズ。リンコ先輩……技術開発部に頼るのはやめてよね」
「言われなくたって頼らないってーの。吸血鬼化をさせるにも統治委員会くらいの人数だったらルビー1人で事足りるようだし。そうなんでしょう?」
「はい。1人2回とかになれば少し難しいですが、1人1回くらいなら……まぁ、大丈夫です」
「気になったんだけど、吸血鬼の身体に慣れさせる訓練は? しなくていいの? 素の体とはかなりの性能差があるから、慣れさせといた方がいいよ?」
「それくらい私でも想定済みよ。今日やってたあのバリケード作業は、その訓練も兼ねてたの。だから大丈夫ってワ・ケ♪」
「……まぁ、スズがそれでいいんならいいか」
「何よ、また何か言いたげねェ?」
「もういいよ。感情任せに発言しても無駄だしね」
「あ〜ら、やっと分かったのねェ? これで私も、いちいち反論しなくて済ムグッ」
「いいから先輩は黙ってください」
「ムグゥ……」
相変わらずの言葉の応酬に、生徒会室に集う生徒総勢8名は、その殆どが胃を痛めていた。
スズは現役の七天魔、一方ルーシィも飂熾冘巫髏でさえなければ今も七天魔だったはずなのだから、そんな2人が衝突すれば、再建したばかりの学園もタダでは済まない。
議長であるリエは、誰より頭も胃も痛めていた。そして、これまで散々ルーシィの強かさに煮え湯を飲まされてきた&スズよりも冷静に物事を見られるリエだからこそ、彼女の抱く懸念点が気になった。
「その、ルーシィさんが懸念しているというのは、具体的にどのような点でしょう? 場合によっては先生とも協議の上で対策を講じたいと思いますが」
「まず第一に、戦力差。ハドマ学園の全校生徒と、大決戦後も残ってる飂熾冘巫髏の各部隊の構成員を足しても、1300人にもならない。一方で、敵の方は少なくとも1000人……下手したら1500人は有り得る見込みだよ。戦力差が酷いと思わない?」
「だとしても、数百人程度の差なのでは?」
「そうだよ? それに『
「ならば尚更──」
「でもッ! その
ルーシィの言葉にリエの表情が凍りつく。当然、議長とて全員の戦闘力を把握しているワケではないものの──それでも、嫌でも察せる事がある。
1000人居るからと、全員が戦えるワケではない。
対して、
「……前線に出る生徒達に、倍以上の人数との戦闘を委ねるしかない……と?」
「そーゆーこと。加えて、純粋な吸血鬼は4分の1程度。残り4分の3は急造の吸血鬼。発汗や流血で吸血鬼化が解除される事も考えると『数的有利』はあんまり計算に入れない方がイイと思わない?」
「……確かに……そうだとは思いますが……」
「『が』?」
「本番を明日──もとい
窓の外を見ると、殆ど満月のような小望月は黒い空の中で煌々と輝いている。時刻は既に天井を迎えいつの間にやら開戦当日を迎えていた。
屋上の方からは、ボルトを打ち込むような音に、コンクリなどを砕く音、重い金属音に軽い金属音、様々な音が重なって聞こえてくる。こうして会議をするにも、窓を閉めなければ声が聞こえない程だ。
「地雷の設置箇所やらコッチの部隊の動かし方は、リンコ先輩と相談して決めた。なるべく最大効率で動かすようにはしてるけど──ぶっちゃけそれ以上できる事は特に無いと思う。ありきたりな言い方になるけど、それぞれがベストを尽くすしかないよ。他にやりようは無いってくらい考え抜いた上でね」
「『楽観視するな』と……そういう事ですわね」
「そ。『吸血鬼を増やしたから勝てるでしょ』とか
『こっちには〇〇が居るし』みたいな考えはダメ。スケバン側には、伝説のスケバンが居るの。士気はめちゃくちゃ高い。こうなると厄介だよ。本当に、死に物狂いで襲い掛かってくるだろうからね」
「……つっても、スケバン界の有名人が居るくらいでそんなに士気が上がるモンなのかしらね?」
「潜入してるアガリからの報告によると、バイブスアゲアゲどころか、アブないモノでもキメてるのか疑いたくなるくらいハイになってる……ってさ」
「潜入させてんの!? じゃあどこから敵が来るか分かるじゃないのよ! わざわざ学校を地雷で囲むような真似して……!!」
「潜入させてるのは『本隊』に、って話。向こうも部隊を分けてるのか、それかヘルメット団みたいに支部があるのか──しきりに連絡を取り合っている様子はあるものの、ボスこと栗浜アケミの周辺には数人くらいしか居ないみたいよ。居場所は、極秘のルートで掴んだんだけどね」
「人数多いだけあって、情報網は凄いわよね……」
「情報は武器であり盾よ。逃走ルート確保とかにも使えるからね」
これまでに幾度もの逃走を成功させたルーシィが言うから、余計に説得力が増すというものである。
──その後、東の空が白く染まる頃まで少女達は議論に議論を重ね、綿密に作戦を練った上で本番を迎える事にしたのである。
◆
会議終了後、第2校舎の屋上にて────。
「……久しぶりだね、ルーちゃん」
「『久しぶり』? ついさっきまで生徒会室で一緒だったでしょ」
「ううん。……2人きりで話すのが、さ」
「…………」
「……ずっと、聞きたかった事があったんだ。前に、ヴァンパイア・ロードと戦った時にでも聞ければ、良かったんだけど……そんな空気じゃなかったし」
「……何?」
屋上の柵に手を置き、白く染まっていく東の空を真っ直ぐに見据えながら、レイコの方を振り返りもせず、ルーシィは言葉を返す。
その様子にどこか刺々しいモノを感じながらも、レイコは震える手でスカートを掴み、必死に言葉を絞り出す。
「ごめっ……ごめん、なさい……」
「…………何が?」
「勝手に
「……別に。元はと言えば、失楽園への復讐の為に、この組織を立ち上げたんだ。解消されたとはいえ、ゲヘナ学園との併合を実現させたあの時──組織の存在意義は失ったも同然。飂熾冘巫髏大決戦なんて呼ばれてるあの抗争も、クロノの進言を利用した、ただの鬱憤晴らしでしかない。……だから、いいの。もう……いいんだ」
早口でレイコの言葉を否定するルーシィ。しかしその早口が、逆に、レイコには彼女に対する怒りを滲ませているように感じさせてしまう。
ルーシィはよく頭が回る生徒だ。頭が回る者は、得てして言葉が長く早くなりがちである。それだけ脳の処理速度が優秀だからとか、そんな真偽不明な俗説などもあるくらいには、大体共通して見られる特徴だ。
レイコもそれくらいなら知っている。だからこそ余計に、ルーシィはそれだけ自分への怒り、憎しみなどを募らせているのでは……そう感じてしまった。
「でも……でもっ!」
「?」
「でもルーちゃん、こっち見てくれない……!」
「……!」
「クロノの言葉通りにトリニティに戦争を仕掛けるルーちゃんが見てらんなくて、抜けたけど──!! ルーちゃんが嫌いになったとかじゃなくて、ただ、止めたくて……ルーちゃんを止めたくてっ……!!」
「だったら何で謝んの?」
「……え?」
「……トリニティとの全面戦争を始めようとする私を止めたくて、当時の飂熾冘巫髏を抜けたんでしょ。レイコなりに考えてそうしたんでしょ? だったら謝る必要なんか無いよ。あんたは正しい事をした。なのに……なのに、何で謝るの……?」
「だってっ……ルーちゃんとは、ずっと一緒で……! なのに、一緒に、居られなくなっちゃって……ッ」
「だから何なのよ。それで私に謝っちゃったら──レイコの『ルーシィを止めたい』っていう想いを、自分で否定することになっちゃうのよ……?」
ようやく振り返ってレイコと目を合わせた彼女の目には、薄らと涙が滲んでいた。
ルーシィは、レイコが飂熾冘巫髏を抜けた当時、その事を悲しんでいた。いや「寂しがっていた」の表現の方が幾分か正しいだろうか。
ルーシィにとってレイコは自分を「ルーちゃん」などと呼び慕ってくれる、妹分だったのだ。そんな可愛い可愛い妹分が、理由はどうあれ自分の意思で自分から離れていったのだ。寂しがりこそすれど、レイコが思うように恨みなどはしていなかった。
「……レイコはさ。自分で考えて、ずっと従ってきた私の間違いを正そうとしてくれたの。それってさ、レイコの成長を喜ぶべき事であって、怒ったりするような事じゃないんだよ?」
「でも……ずっと、私の目、見てくんなくて……っ」
「あー……それは、ほら。私って、何気に負けず嫌いじゃん……?」
「? うん……スズとのやり取り見れば分かるよ」
「だからさ。レイコに『ルーシィは間違ってる』と言われるのが、悔しかったというか──私も私で、トリニティと戦う事を選んだ以上、引き下がれないというか……そんな風に思ってたんだ」
「……ルーちゃん……」
「私こそごめん。……ごめんなさい、
「ッ!!」
以前からの呼び方に、戻った。
これまでも、名前呼びは普通にあった。それでも2人は、互いをあだ名で呼び合うことが多かった。
大決戦以降は、組織を抜けたせいで顔を合わせる機会も減り、会ったとしてもレイコから歩み寄りを見せるだけで、ルーシィはそれを拒絶していた。
その蟠りが、遂に、氷解したのだった。
「いいよ、ルーちゃん……ルーちゃんッ……!」
「ありがとう、レーちゃん……!」
飛び付くように抱きついてきたレイコを、グッとどうにか受け止め、2人はこの仲直りのハグを以て完全に和解を果たした────。
「……なんか、良い匂いするね」
「
「だね。でも……ん? 甘い匂いの他に……豚骨?」
「ラーメン……餃子っぽい匂い、するような……」
「嘘でしょ? めちゃくちゃ早朝なんですけど……。ラーメンだとして、誰向けのラーメン……??」
「そんな事はどーでもいーじゃん、ルーちゃんっ! 味見ついでにさ、景気付けにアスカ達のラーメン、食べにイッちゃいますかぁっ!」
「そーだね、行ってみよ!」