※この作品はR-18です。

「先生!もっとあたしらに構って!」   作:アキラゼミ

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第16話:開戦、ハドマ学園vsスケバン

 

 PM6:55────開戦5分前。ハドマ学園の校門前には、三重もの地雷地帯を乗り越えてきた、千人単位で人数を揃えるスケバン達が居た。

 その先頭には、明らかに異彩を放つ1人の少女。サラシを胸に巻いた筋肉の塊とすら形容できそうな圧倒的な筋肉──優しそうな雰囲気を演出するその垂れ目とは、表情と胴体から得られる外見の印象が全くの真逆である。

 配置につくようにと放送が入ってから校門で待機していたレイコは、一目見て察した。この女こそが今回の抗争の首謀者、栗浜アケミであると。

 

「ハドマ学園、綺麗な学園ですわね。ええ、とても綺麗。すぐに見る影もなくなりますけれど」

 

「開戦まであと5分はあるよ? 反社のスケバンのクセに、時間は守るんだね?」

 

「約束の5分前には行動しておく。世の常ですわ」

 

「はっ、よく言うよ。伝説のスケバンとか言われたアンタが、世の常を語るか」

 

「ふふっ、あなたこそ。飂熾冘巫髏の副総長として活動していた時は、随分と荒れていたそうですね? そんなあなたが、今や学園側に立とうとは……」

 

「私が誰か、知ってんの?」

 

「『スケバン部隊』に所属していた者から。まさか生徒会に入るとは思いませんでしたけれど」

 

「それはマジ同意。いくら推薦されたとはいえ私が生徒会とか。人生ってのは、分かんないモンだね」

 

「本当に。心から同意しますわ」

 

「……つーか、なんで生徒会に入ったの知ってんの? スケバン部隊も知らないハズだよ」

 

「言っておりませんでしたか。私のアジトの近くを嗅ぎ回っていた鼠を1匹──引っ捕らえて、尋問をさせて頂きました。今は私のアジトにてぐっすりと眠っておりますわ、良い子は寝る(・・・・・・)時間(・・)ですもの」

 

「まさか……アガリ……ッ!?」

 

 レイコの困惑に呼応するようにハドマ学園陣営がざわめく。瞬間、バケツリレーのように話が後方に伝わり、アガリに潜入を指示していたルーシィは、彼女のスマホに電話を掛ける……が、繋がらない。

 ただし、そのまま素直に留守電に繋がった辺り、電源が入ってなかったり、スマホが壊されていたりという事は無さそうである。

 

「そうそう──飂熾冘巫髏の保有する戦力のうち、とびきり厄介な部隊が存在すると聞いていまして。確か、そう……『吸血鬼部隊』とか?」

 

「────ッ!」

 

「ですから私、この抗争をするにあたって、不器用ながらも『勉強』してみたんですのよ? あなた方吸血鬼にまつわる伝承、伝説、逸話というモノを」

 

「フンッ、私達ですら自分のルーツを知るのに苦戦したんだけどね。その程度で何か得られたかな?」

 

「『心臓を杭で打たれると死ぬ』とか。まぁ尤も、そんな事をされれば誰であれ死ぬと思いますがね。私ですら、心の臓をそのまま潰されれば、気合いが尽きると同時に死に至ると思いますけれど……」

 

「ククッ……くふっ、くくくくっ……! 脳ミソまで筋肉で出来てんのかな? この筋肉ダルマァ!!」

 

「なんですって?」

 

「その『心臓を杭で打たれると死ぬ』っつーのは、私ら吸血鬼はそれくらいしないと死なないっつー、タフさを示す伝承(・・・・・・・・)なんだよッッ!! キヴォトスで最強のタンクと言や吸血鬼の誰かだ! 残念ながら私はアタッカーだから、タンクにゃなれないけど! それでも、並のタンクよかずっとタフだよッ!!」

 

「面白いですわね。掛かってきなさい──吸血鬼のお嬢さん。吸血鬼の誇るタフネスもあなたの誇りも全て! 私の拳が打ち砕いてあげましょうッ!!」

 

「抜かせ、筋肉ゴリラぁッ!! ──」

 

「お待ちなさい」

 

 拳を握り距離を詰めようとする両者の間に、突如割り込む純白のロリータ衣装を纏った少女。目線の高さはアケミとあまり変わらず、見上げるばかりのレイコと違って堂々と正面から見据えている。

 

「……初めまして、栗浜アケミさん」

 

「……あなたは?」

 

「ハドマ学園生徒会・失楽園(ダイモニオン・ソサエティー)の議長を務めております、我猛(がもう)リエと申します。遅ればせながら、挨拶に参りました」

 

 童話のプリンセスのように、スカートの先を摘み軽く持ち上げ、膝を折って礼をする。その端麗さに素直に見惚れる者──鼻で笑う者などスケバン達の反応は様々であった。

 しかし少なくともアケミはそれを見て逆に警戒を強めたし、拳をより固く、硬く、堅く握った。

 

「あら。あらあらあら。ふふ、まるで私兵のようにテロ組織を擁するハドマ学園の議長さんでしたか」

 

「お恥ずかしながら、私も自分の部下と思っていた彼女達に反逆された立場でしてね。ですから互いの立場的には、大差無いのですわ。──で、1つ提案なのですけど」

 

「お答えさせていただきましょう、ノーであると」

 

「うふふ、せっかちなお方ですわね。開戦まであと2分はありますから、ティーブレイクでもいかが? 我が校の有志が、回復アイテムとして屋台なんかも用意していますのよ? ラーメンにお寿司、まさによりどりみどりですわね」

 

「結構です。私を慕ってくださる彼女達を、暴力で不当に支配した──その事実があるだけでも、私が飂熾冘巫髏、そしてそれを擁するハドマ学園に拳を向ける理由になるのです。そんな敵からの施しを、この私が素直に受けるとでも?」

 

「受けて頂きますわ、力ずくでもね」

 

「面白いですわ。なら、いいでしょう。どうしてもそうしたいと仰るのであれば、私を、力で従わせてごらんなさい」

 

「元よりそのつもりですわ」

 

 PM7:00ジャスト。ハドマ学園の屋上より、機械の駆動音が何重にも発生。それと同時に学園を囲む塀、そして統治委員会の生徒が積み上げていたバリケードが爆発四散。

 飂熾冘巫髏レッドウィンター部隊が仕掛けていた時限爆弾が炸裂し塀を破壊してしまったのである。

 

「開戦だァァッッ!!!」

 

 誰かがそう叫んだ。壊れた塀の瓦礫を乗り越え、スケバン達が全方位からハドマ学園敷地内に一気になだれ込んできた。

 校庭にて控えていた生徒達、そして既に持ち場に着いていた生徒達は応戦を開始。ボス2人が互いに睨み合う中で、あちこちで戦闘が勃発していた。

 

「ちょっとリエ!? コイツと戦うの私だから!」

 

「レイコさんはまず、他の方を倒してくださいな」

 

「あ゙ぁ゙!? なんでよ!」

 

「その方が、皆さんを助ける事に繋がります」

 

「!」

 

「それは、私にはできない事です。あなただから、頼める事なのですよ」

 

「〜〜〜〜〜〜〜ッッ、負けんじゃあないわよ!! オイ、筋肉ダルマ! 言っとくけど、リエに負けるようでは私には勝てないわよッ、私の方がリエより強いんだからねッ!!」

 

 そう大声で吐き捨て、レイコはその場から飛──否、跳んで(・・・)、姿を消した。

 それをリエとアケミは黙って見送り、彼女の姿が見えなくなってから、再び向かい合った……。

 

 ◆

 

「────って言うんだよ、マジ信じらんないッ! アケミ(アイツ)と闘(ヤ)り合いたかったのにぃッ!」

 

「あーうん、そうなのね。まぁそれはそれとして、レーちゃんは第1校舎(こっち)の屋上に行ってくれる?」

 

「は!? ルーちゃんも何言ってんの!? 校庭(ここ)で雑魚同士が闘り合ってるんだから私も参戦するよ! リエもそれが狙いだったんでしょ!?」

 

「だとしても、レーちゃんが最前線で動くのなら、ハドマ学園勢力の戦力が尽きてきた頃だよ。もしも今すぐ動いたら、敵味方問わず大変な事になるよ。そうなれば、奥からドンドンなだれ込んでくる分、スケバンに有利に働く事になる。分かるでしょ?」

 

「う……なら屋上なんかに行ってどうすればいいの? リンコの『兵器』があるって聞いてるよ……?」

 

「今、飂熾冘巫髏と技術開発部は協定を結んでる。ハドマ学園とは別に部活単位でより綿密に(・・・・・)──ね。リンコ達が元は飂熾冘巫髏だった事を抜きにしてもその方が動きやすいと踏んだからよ」

 

「……? それが?」

 

「まず補佐してやって。何をすればいいかは行けば分かるから。そんでもって、レーちゃんが動くのはその補佐を完遂してから──且つ、マトイが学園に現着してから、よ。後はマトイに従って動いてね。トリニティ部隊A・Bは後ろからアイツらを叩く。レーちゃんにはそっちをお願いしたいわ。クロノの部隊にユウナ、マトイの部隊にレーちゃんが加わる感じの布陣でお願いね」

 

「はぁっ!? なんで私がマトイに従わなくちゃあならないのよ!?」

 

「『マトイに従うというルーシィ(わたし)の指示』に従う、これならどう?」

 

「……ならヨシ!!」

 

(生徒会に入っても単純さは変わらないか……)

 

 昇降口──ハドマ学園勢力にとっての最後方にて構えているルーシィに指示を受けたレイコは、窓の枠を足場にしてダイレクトに屋上へと駆け上がる。

 タイマンできなかった悔しさは雑魚にぶつける。そしてそれすらも終わったらリエとアケミの戦闘に乱入してやる、という自己中心な野望を胸に秘め、最速で屋上へと到達した。

 屋上では技術開発部の生徒が何やら重そうな物を運搬したり、ヘッドセットを装備した生徒がPCをカチャカチャと操作していた。

 屋上に来れば分かる、ルーシィのその言葉を信じここまで来たが一向に何をすればいいか分からず、指示役ができそうなリンコを探そうとするが。

 

「遅いよ、レイコ。タイマンキャンセルでそんなにゴネるとは思わなかったよ」

 

「あ゙?」

 

 振り返れば、機械の翼のような物を背中に備えたテンコが居た。その物言いに対し、浮かんだ青筋をまるで隠そうともしないのは、いつもの事である。

 

「ルーシィから言われて来たんでしょ? ちょっと手伝ってよ、発射台さん」

 

「発射台ィ? つーか何よそれ、何かのコスプレ? リュックみたいに背負ってるけど……」

 

「反重力浮遊機構『アストラル・ウィング』ッ!! 遂に実戦に投入よ……!」

 

「……反重力だったら、アストラルじゃなくてアンチグラビティとかなんじゃ……?」

 

「ロマンが無いなぁ〜。レイコ、あんたはいつからそんな超現実主義者になったの?」

 

「そんなんじゃないわ。んで? テンコ1人で運用できるだろうに、なんで私の力が必要なワケ?」

 

「コレの名前を聞いて分からない?」

 

「?」

 

「これはあくまでも浮遊(・・)の為の装備。飛行するにはろくに使えない」

 

「なっ……フワフワと浮かぶだけってコト? はぁ? マジならとんだポンコツじゃないのよ!?」

 

「正確には『浮遊がメイン故に移動の為の推進力が体重移動しか無く、体重移動だと加速までに極めて時間が掛かる』……なんだけどね」

 

「変わんねーわよ!」

 

「まぁそうなんだけど。でもちんたら浮遊しながら加速を待ってたら、燃料が無駄になる。──だからそこでアンタ(・・・)なのよ、レイコ」

 

 再三になるが──レイコは怪力の持ち主である。彼女達《吸血鬼》はどういうワケだか素で力が強い傾向にあるが、レイコはその中でも一際目立つ。

 だから、推進力を必要とするテンコを投げろと。

 つまり「投げる=発射」である。私をブン投げる発射台になれと、テンコは言っている。

 

「あーはん。理解したよ。それ(・・)も含めて、テンコはリエとも協議済みってワケだ?」

 

「先生が議長を説得したんだ。『レイコにアケミの相手をやらせるのは戦力的に不利だ』って。だからそれが上手くいけばレイコの手が空くし、それならついでにあんたの手ェ貸してもらおうと思ってね」

 

「先生が? チッ、意味わかんない、私とアケミのタイマン邪魔しやがって……!」

 

「でも、私からすれば大差ないと思うんだけどね。議長も雑魚狩りは得意な方だし。──先生は多分、ボス──栗浜アケミのメンツを保つ為に、わざと、ハドマ学園のボスである議長に、前線に立たせたんじゃないかな」

 

「──下っ端とボスの戦いじゃなくて、ボス同士の対決なら、負けても顔が立つだろ……って?」

 

「じゃないかなって話ね。先生が実際に『アケミの顔を立てる為にリエが戦って』とか言ってる場面を聞いたワケでもないし、あのスケベ先生がそこまで考えてるとは思えないけど……」

 

「……フンッ。だとしても気に食わないわ」

 

「まぁ、議長が負ければ次はレイコだろうからさ。そんな怒らないでおいてよ」

 

「……アンタ、割と薄情よね。一応リエはボスよ?」

 

「だから? 私はただ、私と姉さんの兵器を実戦で試せて、後は学園を乗っ取られなければ──つまり抗争に最終的に勝てれば、誰が勝とうが負けようが関係ないってスタンスだから。議長が負けようとも関係ない。議長が負けたら(・・・・・・・)この抗争は終わるの?(・・・・・・・・・・)」

 

「ッ……」

 

 無論、リエもただの一兵卒として参戦している。故に、リエがアケミに負けようとも、ハドマ学園が乗っ取られるワケではなく、まして抗争そのものに負けた事を示すワケでもない。

 理屈ではそうだ。理屈の上ではテンコの言う事が正しい。しかしレイコは、彼女の唱えるその言説にどこか薄ら寒い何かを感じずにはいられなかった。

 

「……アンタはやっぱり、リンコの妹だよ」

 

「……? 当然でしょ?」

 

「……」

 

「無駄話はいいから早く私を投げて。角度は30度、南、つまり校門方面へ向かっての斜方投射で。目標初速はおよそ50メーターパーセック……」

 

「私は投球マシンじゃないのよ! ンな調整なんてできないから、さっさとブッ飛べやァッ!!」

 

「きゃあっ!?」

 

 目標の初速を遥かに超越する速度で投げ出されたテンコは、空中で慌てて姿勢を整え、飛行を開始。速度を調整しつつ、ポケットから取り出したらしい爆弾を次々に投下していく……。

 

「『テンコ(兵装)』ってか。……そんで次は……」

 

「あ、レイコぉ。テンコブッ飛ばして手ェ空いた? そんならトロッコ運ぶの手伝ってよ」

 

「これ割と重くてさ〜」

 

「……レイアにレイラ……あんたら、前線(まえ)に出(いか)ないで何やってんの……?」

 

「見ての通り、屋上担当は思いのほか力作業でさ。補佐の人員じゃ役に立たなかったから交代したの。だから今、私達の代わりに前線に出てる中に屋上(コッチ)で働く予定だった奴らも居るよ」

 

「そいつらサポートメインでしょ。ろくに戦えずに負け確定じゃん、性能的に。あんたらの配置って、最前線だったでしょ? 吸血鬼部隊だった連中も、一時的に吸血鬼になった連中も最前線だし……」

 

「まぁ時間稼ぎにはなるからさ?」

 

「リンコ部長も思い切ったよね〜」

 

「……その本人はどこ行ってんのよ?」

 

「追加のトロッコを用意してるよ。だけど戦場にはアンドロイドリンコが行ってる」

 

「戦闘すらもリモートの時代かぁ〜。あ、リモートではないのか、一応アレは自立稼動だから……」

 

「アンドロイドなんてドローンと同じ。見た目と、ちょっとした性能が違うくらいの差しかないしさ。そんな事よりトロッコ運んでよね。内側のレールに置いて。あとは機械制御で簡単に発射できるから」

 

「トロッコなんて発射して……って、何コレ……?」

 

「TNTトロッコ。着弾と同時に大爆発だよ」

 

「とんだ攻城兵器ね」

 

「今やってるのは篭城戦だけどね」

 

「ハッ、言えてる」

 

 その後しばらく、彼女は技術開発部の面々と共にTNTトロッコ運搬を補佐していた。彼女にとって次なる戦場がやってくるのは、もう少し先である。

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