「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「──リンコ先輩」
「ルーシィかな? どうしたの? ドンパチやりに行かなくていいの?」
「先輩こそ。アンドロイドリンコ、もう3人くらい爆散しちゃったよ? そろそろ、リンコ先輩本人の出番なんじゃない?」
「アハッ、ホント? もう4人中3人が爆散か〜、スケバンも中々やるね。質は悪くとも量はそれなりだからかな?」
「あと、最前線に出過ぎて回復できてない。なんか今回の戦闘、回復スポットを普段の倍の数は設けてあるみたいなんだけど、やけに
「仕方ないよ。支援系の生徒がやられたら回復する方法も無くなるんだから──戦場に出すとしたら、必然的に最後尾になる。
彼女の言う「誰かさん」が居ないから劣勢にまで追い込まれている。言葉にせずとも暗にそう伝えるリンコだが、ルーシィはそれを言われずともそれを戦場にて肌で感じ取っていた。
「本当は校庭の真ん中にも設置したかったけどね。まさか──まさか、殴り合いでも撃ち合いでもなく数で押し込んでくるとは思わなかったよ。おかげで回復スポットの増設も無理。全くさ、数の暴力って怖いね……先輩?」
「そーだね。『吸血鬼化計画』で増やした子達も、そろそろ戻る頃でしょ。流血、発汗、まぁその辺が重なって解除までの時間は早まってくるからね」
「それが問題だよね。つまり短期決戦にする必要があったんだ。なのに開始早々に押し込まれたせいでろくに敵の数を減らせず今に至っている。スズ達の防衛線もそろそろ限界だよ」
「TNTトロッコはどんな具合?」
「そっちはそろそろ弾が尽きるよ。あと、列車砲の準備してた」
「うーん、
「TNTトロッコを飛ばす地点を指示しながら下のスケバン共に攻撃してるよ。──あれは、何なの? あの機械の翼は……あんなの開発してたの?」
「どう? ドローンとかじゃなく本人が飛んだら、戦闘の概念が変わるでしょ♪」
「革命だよ。ビビって声も出なかった」
「ふふ、それは良かった♪」
飂熾冘巫髏を追う者があんなものを装備すれば、彼女達の逃げ場は、数える程度にまで減らされる。屋内に逃げようとその場所はバレてしまうワケだ。地下に逃げようとも、その入口がバレてしまう。
建物の中から外に逃げられるような地下道を用意しておく必要があるだろうが、そんな経路を何個も用意できているワケでもない。
こと「逃走」においては絶対の自信を持っているルーシィさえ、もし「意志を持って弾丸を回避する何か」が追跡してくるのなら────と、空を飛ぶテンコを見て身震いしたのだ。
ルーシィとて、ゲヘナ風紀委員会のモルモが空を飛ぶ事は知っている。幼馴染だから。逆に言えば、これまでずっとモルモしか居なかった。彼女以外が空を飛ぶからこそ、問題なのである。
リンコの頭脳もさることながら、技術開発部とは敵対できない──生唾を飲み込みつつ、ルーシィはそう心に決めていた。
「……それで、先生はどこなの?」
「……なんで私に聞くの?」
「とぼけないで。先輩ってば散々先生をコキ使って仕事させてたでしょーが」
「そんな〜。
「は? ……どういう意味?」
「んふふっ、冗談冗談♡」
「……」
──そう。戦闘が開始した現在、前日からハドマ学園に滞在していたハズのシャーレの先生は不在になっている。
この「ハドマ学園篭城戦」における全ての指揮をリエ、リンコの2人に任せてしまい自身は全く姿を見せなくなっているのだ。
行き先を知っている者もその2人である。だからルーシィは、ハドマ学園において公に指揮を執れる器であるリエとリンコ──未だに前線に出ていないリンコにアタリを付けて接触したのだった。
◆
「せっ、先生ッ!? 先生ってば!? 先生っ!!」
「何! 運転中だよっ! ヘルメット被った!?」
「被ってますし、先生が運転中なのは知ってます! 私達はどこに向かってるんですかっ!?」
「戦場に、だよっ!」
「
「
「ったく……スズ先輩を置いてきてるのに……!」
現在、レッドウィンター部隊が爆破して用意した坑道を、ある生徒を伴ってバイクで走行中である。
学園を囲っているスケバンの勢いは、俄然最初の嵐のような勢いを保ったまま。テンコの爆撃さえ、焼け石に水程度の効果しか発揮できていない。
恐らくは、TNTトロッコの残弾数も心許ない。そうなればリンコの列車砲を本格始動させるハズ。
しかしリンコの列車砲は、
リンコには「列車砲の使用は最終手段」と何度も何度も、それこそ口酸っぱく伝えたが──「学園に侵入されそうなら即使うよ」と返されてしまった。列車砲の使用はきっとスケバン達への脅しの意味も込めているのだろう。
侵入前に使用するのは当然だ。もし侵入されたら屋上の列車砲の制御権を奪取される可能性が極めて高くなるのだから。
だからこそ、私達はスケバンの包囲を回り込み、レイコ達の援護をする事でハドマ学園に押し寄せるスケバン達の
レイコやユウナなど飂熾冘巫髏関係者で指折りの強者が居ても尚、スケバン達の勢いは収まらない。レイコやユウナだけでは対処しきれないレベルの、圧倒的な物量だからだ。
『あー、あー。先生、聞こえてますかー?』
「っ! マフユ!? レティじゃないの!?」
『一緒に居るんで私が喋ってるだけです。メットの無線は生きていますねぇ、良かったです。えっと、学園から連れてきてくれました? それなりに強い生まれながらの吸血鬼さん』
「ああ、それなりどころかレイコの次に強い
『それは重畳。──えっと、まだ坑道を出ません? そんなに長い坑道でしたっけ? 3キロくらいしか掘ってない気がするんですけど……』
「暗くて狭いから運転怖いの! 舗装もされてない道なんだからっ! あとこれでもできる限り全力で飛ばしてるからねっ!?」
『……安全運転は構いませんよ? が、せめて、赤いランプが見えたら全力でフカしてください。
「はっ!? 180km/hまでしか出せなくない!?」
『奥の手を使わなければ、です。あとは、そこから飛んで私達に合流してくださいね。そして、私達が先生を護衛、援護しつつ、スケバンの海をモーセの如く掻き分け、レイコさんの所までお連れします。奥の手の使い方は──まぁ、バイクと一緒にメモを置いておきましたから、確認済みですね?』
「……レイコの位置は分かってる?」
『ええ。わざわざ捕捉するまでもなく。先生でも、これを見れば分かります。スケバンの海の中で──2ヶ所で、
マフユの言う2ヶ所というのはユウナとレイコが暴れている地点だろう。そして、この奥の手は──できる事なら、使いたくないものである。
「──あ。赤いランプ、見えましたよ。エンジン、アレが見えたらフカすんですよね?」
「うそっ!? ま、まだ見えないけど……」
「ただでさえ吸血鬼は目が良いですし、なにより、夜目が効くので……」
「あぁぁもうっ、200km/hだっけ? 出せるのかなこのバイクで……そんな速度……ッ!!」
彼女のメモに書いてあった……
ハドマ学園勢力が押され、まずい状況だと察したルーシィから連絡を受けたマフユが、私に、レイコではない更なる救援を求めてきたんだ。
生徒の求めには応えるのが
ルビーという援軍と私の指揮能力を以て後方からスケバン達を打ち倒していき、学園で篭城しているスズやテンコ──以下数百名の生徒達を援護する。
これが私の至上命令だ。
「私にはまだ合図のランプは見えないけど──もう加速するッ! もっと強く掴まって!」
「はいっ……!」
「ッ……」
学園の事は気にするな。前だけを見るんだ、私。
学園はリエとリンコに任せたんだ。学園の長と、ルーシィさえ認める頭脳の持ち主に任せた。だから私は──先生である私は、私にしかできない事を。
全力で、スケバンに抗う生徒達を補佐するんだ。
「く、う、ぅおっ、おおぉおおおぉぉっ!!」
加速する。加速する。80、90、110、130と──バイクの改造なんかはよく分からないが、かなりの改造が施されているのは素人でも分かる。だって、バイクのフォルムが私の知るものとはかなり大きく掛け離れているんだから……。
「ダメです、170も出てない……!」
「もっと強く掴まって……もっと加速するッ!!」
「ッ!?」
「赤のランプが見えた、行くよッ!!」
「はいッ!!」
スイッチを入れる。NOSのスイッチを。これを入れてしまえば凄まじい加速度に襲われる。あぁ、恐ろしい。ただの発進でさえ、急加速したら勝手に前輪が浮いてウィリー走行してしまうかもしれないだろうに────。
「うわああぁあああああぁぁぁっっ!!?」
「きゃああああああっっ!!」
赤いランプが見えた瞬間、NOSで急加速した。そして加速しきらぬまま、数秒で坑道を抜け切り、私達2人とバイクは空中へと投げ出され、そのまま地面に…………。
「ほいよっと!」
「「!?」」
道無き道を走り続けるバイクにぶら下がったまま投げ出された私達は、バイクごと、柔らかな衝撃に包まれた。思わず閉じてしまった目を開けると──柔らかな笑みを浮かべた少女が居た。
空中に飛び出したバイクを、そのまま受け止めたらしい。……空中で?
「先生ってば、思ったよりブッ飛ばしてきたね!」
「えっ、と……君は、確か……」
「ゲヘナ部隊幹部、古谷レティさん……ですね?」
「そういう君は、ハドマ統治委員会の副委員長!」
「ええ。統治委員会副委員長──零得ルビーです。先生からの指示で援護とやらに駆り出されまして。それで……援護とは、具体的に何をすれば……?」
「それについては私が。レティさん、ゲヘナ部隊に指示を。
「うんっ!」
レティが私達の乗ったバイクを降ろすと同時に、マフユも現れた。相変わらず、可愛らしいピンクのカーディガンを纏っている。制服姿も可愛らしいがカーディガンというワンポイントがあるだけで違うというものだ。……ってこんな時に私は何を……。
「時間がありませんのでね、単刀直入に言います。ルビーさんはレイコさんを吸血鬼化させるのです。それしかこの抗争に勝つ道はありません」
「……はぃ?」
「な、何を……レイコは、吸血鬼化させるまでもなく生まれついての……」
「思い出してください。ほんの数人の下僕を従えたとはいえほとんど単騎で私達を含むかなりの人数とやりあった……
「「……ッ!!」」
ゲマトリア、主にマエストロとゴルコンダによる吸血鬼研究の産物──ヴァンパイア・ロード。奴は数多の吸血鬼による「吸血鬼化」を受けて、膨大な強さを手にした。
マエストロ達の説明では、そうなる。理論上は、確かにそうなる。だが……。
「レイコに、バケモノになれと言うのかい?」
「いいえ。ヴァンパイア・ロードがああなったのは数を重ね過ぎたから。そして、元となる我が無いが故に、ああなったのです。だからこそ理性や人格と呼べるモノが存在しなかった。ただ作られた肉体にただ流し込まれただけの『力』……」
「元からの我が無かったからこそ──力に呑まれて自我を失ったように見えてただけ……ってこと?」
「ええ。元から無いのなら、後付けしない限り目に見えません。空気に色が無いように。本来のガスが無臭であるようにね。……そうでしょ?」
「……でも、もし副作用があったらレイコは」
「
「!!」
「いえね? 私は構わないんですよ? 私はレッドウィンターの生徒です。ハドマ学園には思い入れも何もありませんからね。ただ総長の通う学校という認識しかありませんから。
「…………」
「私達とゲヘナ部隊で、レイコさんが暴れてる方に誘導します。分かったら、さっさとバイクに乗って私達についてきてください」
「………………分かったよ」
もしレイコに負担や副作用があれば、その時は、私が引き受けよう。ウトナピシュティムの本船で、アリスの負担を引き受けたように。
これはきっと私にしかできないことだ。大丈夫。私には私の戦い方というものがある。私の戦い方、私の強さ。私の
リンコの列車砲は使わせない。計算上とはいえ、被害が大きすぎるのだ。校庭の中心に撃ち込んでも校庭が丸ごと吹っ飛ぶ規模だ。もし仮に、少しでも街中の方面に照準がズレた状態で撃ち込まれたら、その被害はとても予想ができないくらいの規模と、被害額になるだろう。
技術開発部の長、そして開発者の責任をリンコが背負う事になるかもしれない。そんな事は、先生の私が絶対にさせない。
その為にも、今すぐにレイコを援護して、ハドマ学園側の負担を少しでも無くしてやらねば。