※この作品はR-18です。

ユー・アー・マイ・スペシャル   作:グリム・グリルグリン・グリーングリップ

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 お久しぶりです。更新速度がだいぶ馬脚を露してきましたが、13話は文字数的に二話ぶんくらいあるので、楽しんで頂けると幸いです。

 あとようつべで「シドニアの騎士1期全12話」が2024年5月30日(木)まで無料公開されているので是非みてみて!(布教)
 (癖は強いけど)つよつよ主人公が人類存続のためにロボットに乗ってハーレムする話なので!




























13 お楽しみはこれからだ


 

 

 

 1.

 

 

 

 向かい合うように、喋っている。

 

「二人は、獄門疆(ごくもんきょう)という呪具を知っているか」

 

「知らね」

 

「聞いたことはありませんね」

 

「特級呪物だ。“生きた結界”の異名を持つ、とある男の成れの果て。呪い、人間、あらゆる存在を封印できるという触れ込みのな」

 

「あらゆるって、もうその時点で詐欺じゃん。僕がいるし。どーせ古いだけのカビ臭い呪物でしょ、それ」

 

「どうかな。平安時代の僧侶が元になってるって話だが。君のことも、あんがい封印できるかもしれないぜ」

 

「んなわけないっしょ」

 

「その獄門疆が、どうかしたんですか」

 

「一年前、マカオで()るオークションが開催されてね。()の世界でも有数の、招待状がなければいくら金を積もうと参加できない、由緒正しい秘密のオークションさ。そこに獄門疆が出品された」

 

「特級呪物がオークションに? 本当だとしたら、大問題では」

 

「確かに問題かもしれないが。本題はそれじゃない、突っつくのはまたの機会にしてくれ」

 

「わかりました。納得はしてませんが、ここだけの話、ということですね」

 

「僕は、別にどっちでもイイんだけど。んで、その呪物がどうしたって?」

 

「獄門疆っていうのは、その筋の人間にとっては垂涎の的でね。最終的には二人の人間が競り合い、二千万ドルで落札された。落札したのは、これまたその筋では有名な、表でも名の知れた富豪家の変人でね。過去には反魂香(はんごんこう)だったり、芭蕉扇(ばしょうせん)だったりを壮絶な競り合いの末に落札したこともあるらしい」

 

「偽物を掴まされることはないんですか」

 

「そこら辺は徹底してるんだろう。特にあの業界で商売する以上は、信用は何よりも担保されなくちゃいけない。看板を偽れば、とっくに潰されてるはずだ」

 

「そーゆーもんかね」

 

「そして、ここからが肝心なんだが。獄門疆を落札したその蒐集家(コレクター)は、オークションの一週間後に失踪している。それまで集めていたコレクションと一緒に」

 

「へえ」

 

「俺は、蒐集家(コレクター)は死んだものとみている。それで、犯人に心当たりがあってね」

 

「へえ、誰だよ?」

 

「名前を言っても信じられないだろう。説明も難しいしな。ただそいつ(・・・)は少なくとも、一〇〇年以上生きている呪詛師だ」

 

「マジで言ってる?」

 

「大マジだよ。そいつ(・・・)は人に寄生して、身体を乗っ取ることができるから、今は別の名前を使ってるだろうけどな」

 

「エイリアンかよ。キッショ」

 

「人の身体を乗っ取る術式、ですか。仮に、それが本当だとしても。なぜその話を?」

 

そいつ(・・・)がどうやら、日本に戻って来てるらしいからさ」

 

「オ゛ッエー」

 

「ひと月前、補助監督が高専忌庫から呪具を横流ししてた事件があっただろ」

 

「その件については、緘口令が敷かれていたはずですが」

 

「人の口に戸は立てられないって言うだろう。横流しされていた呪具のリストには、笛吹き男(パイドパイパー)の笛が含まれていた。これは去年の夏に福岡で起きた、集団失踪事件の現場から押収した呪具でね。だが以前は失踪した蒐集家(コレクター)の、蒐集品の一つでもあった」

 

「それは、つまり」

 

「ダブってる可能性は?」

 

「二つと無い逸品だそうだ」

 

「なんでそんな詳しいの、坂本さんは」

 

「消えたコレクションには懸賞金が掛けられていてね。こういうのは普通は見つからないんだけど、今回に限ってはそうじゃなかった。それで少し気になって調べたんだ。あとは、福岡の事件は俺が処理したから印象に残っていたってのもある」

 

「ふーん。呪具に足が生えて海を渡った、とかでもねえんなら。呪具を持ち込んだやつがいて、そいつは本当に日本で何か企んでるってわけ?」

 

「にわかには信じがたいな。そもそも、その蒐集家(コレクター)を殺害した犯人が、坂本さんの知る人物である証拠も話せないんでしょう?」

 

「ああ」

 

「おいおいおいおいオイオイオイオイ」

 

「最初に“これから話すことに嘘は含まない”って縛っただろう。まあ、俺の知る情報そのものが誤った内容である可能性も、ないわけじゃないが。信じてもいい確度の話さ」

 

「そうは言われても」

 

「肝心なことが分かんないままじゃん。つうか僕らにそれ教えて、どうしろって? せめて、その犯人の名前を言えよ」

 

「そうだな。それくらいは教えてもいいか。どこに()があるか分からないから、他言はするなよ」

 

「ええ」

 

「えー、どうすっかなあ」

 

「悟」

 

「はいはい。お口チャックね。僕りょーかい」

 

加茂憲倫(かものりとし)だ」

 

「は?」

 

「待ってください。それって、加茂家の」

 

史上最悪の呪術師(クソ・オブ・クソ)だろ。でも、……一〇〇年前から生きてるって、そゆこと?」

 

「当時とは違う人間に乗り換えてるだろうから、今は男か女かも分からないけどな。本体は間違いなく生きてるよ。俺は、こいつとは因縁があってね」

 

「因縁? ハリポタみたいな?」

 

「俺は、こいつのせいで呪詛師になったようなもんなんだ。だからずっと情報は探り続けていた。網に引っ掛かることはほとんど無いけどな。呪詛師絡みの幾つかの事件では、こいつが裏にいた痕跡がある」

 

「はぁー」

 

「もしかして前に坂本さんが言っていた、一族――」

 

「ついでだから。これも教えておこうか。君たちにも実は、因縁があるかもしれないってことを」

 

「なんだよ」

 

「仮に加茂憲倫であったモノのことを、“黒幕”と呼ぶが。“黒幕”は、星漿体:天内理子の殺害に関わっていた可能性がある」

 

「ぁぁ”?」

 

「―――、」

 

「“黒幕”の計画には、君たち“最強”が邪魔なんだな」

 

「どういうことです」

 

「“黒幕”は、君たちを狙っている。この時代を掻き回す(・・・・)ためにな。それ以上は、今は説明できない」

 

「ここまで話しといて、フザけてんの? 無理やり聞き出されたいわけ、おっさん?」

 

「悟」

 

「傑だってそうだろ。僕キライなんだよね、映画の序盤とかで主人公と一緒に緊急事態になったら意味深なセリフだけ残してそのまま退場しちゃうようなキャラ。時間ないから話せない? いや大事ならその場でさっさと話せよバァカ」

 

「順序ってもんがあるのさ。物事には、段階を踏むことでようやく意味を為すものもある」

 

「オセッキョウですかぁ~~~?」

 

「事を仕損じたくないんだよ。納得できない、不満だっていうのも分かる。だから、やろうって言うんなら、いいぜ。一方的に殴られるのは御免だが」

 

「坂本さん?」

 

「もともと今日は、そのつもりだった。どれだけやれるのかを肌感で知りたくてね。君がやる気になってくれたってんなら、ちょうどいい。――俺と戦おうか、五条悟君」

 

 場所を移そう。その言葉を機に、三人は陽光の下に立った。

 

 

「【闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え】」

 

 

 呪術高専東京校の運動場に、模擬戦闘用の高度な「帳」が下りてゆく。

 

 現代日本に三名しか存在しない特級呪術師:夏油傑が下ろした「帳」のなかで、同じく特級呪術師にして“最強”の称号を(ほしいまま)にする五条悟と、一介のフリーの呪術師である坂本が距離を開けて対峙している。

 同行していた禪院真依は家入硝子のもとにおり、戦闘も突然決まったことであったため、近くに生徒や職員といった見学者はいない。結界で外からは見えない環境になると、ジャケットを脱いでいた坂本は、笑みと共にネクタイを緩めた。

 

「こうして君とやり合うのは久しぶりだな。菜々子たちを連れてきたあの日以来だから、もう五年が経つのか」

 

「昔を懐かしむ年齢(とし)かよ。ジジイじゃん」

 

「そういう君は、少しもクソガキから成長しないな」

 

「あんだとコラ」

 

 軽口を叩きながらも、五条悟は移動した際に多少は冷えた頭で、緊張感の薄い相手を眺める。夏油傑が自身を守る堅牢な防御結界を敷いたのを一瞥すると、口端に好奇心を湛えて言った。

 

「死んでも知んないからね、おじいちゃん」

 

「相変わらずの減らず口だ。最初に君に土を付けたのが誰だったか、忘れちまったのか?」

 

「へえぇ。なら、あの時(・・・)と同じだ。先手は譲ってやるよ、挑戦者(チャレンジャー)

 

「そうか。なら、遠慮なく」

 

 気負いなく「烏枢沙摩明王」の掌印が組まれると、坂本から生じる術式発動直前の誤魔化し得ない“起こり”を感覚した夏油傑は、驚きに見開いた。

 

「“()()れ・(にく)(ただ)れ・(ほね)(くさ)れ”・“()って開顕(かいけん)(あた)うべし”」

 

 現出する膨大な呪力が、呪詞に導かれ荒ぶることなく一つの意思の下に束ねられてゆく。常ならば最高位の感知能力なくしては看破し難い隠形を解いたその呪力は、それが負の感情を源泉とするにしてもあまりにも不気味で(おぞ)ましく禍々しい気配を放っており、けれど(あおぐろ)い凪のように静かに、滑らかに術者の全身を呑み込んだ。

 

 

「【領域展開】――【無礙不尽曼荼羅(むげふじんまんだら)】」

 

 

 大前提として。〈領域展開〉とは“敵を術者の生得術式で満たした結界に閉じ込める”技術であり、これの目的は発動した時点で敵に対する“環境優位性”と“術式の必中必殺効果”を得ることにある。

 ところが坂本が発動した〈領域〉は、五条悟を外界から隔離し包囲しようとするでもなく、周辺の環境に作用したり、何らかの劇的な変化をもたらすようなことも無かった。

 

「ふうん」

 

 再出現した坂本に、外見上の変わりはない。不発したのか。夏油傑は、しかしすぐに思い直す。坂本の呪力に乱れはない。暴発したとかではない、それどころか。

 五条悟も。従来の大前提を覆す〈領域〉を前に、目隠しの下で爛々と〈六眼〉を輝かせ、喜悦を隠さなかった。

 

「自分の肉体を外殻にした〈領域〉……」

 

「【御堂幽鬼(みどうゆうき)】」

 

 顔色一つ変えずに、坂本は続いて何でもない素振りで、さくりと手首(・・)を斬り落とした。目を瞬かせた五条悟の前で、自切された二つの手首は地面に触れる寸前、手首そのものから噴き出した油体によって浮かび上がると、瞬く間に手首を核とする、今の坂本とそっくりな悍ましい呪力を纏う二つの分身(ヒトガタ)へと変化(へんげ)する。

 呪力の認識できない人間からすれば、綺麗な断面の手首が空中にぷかぷか浮いているとしか見えないスプラッターな光景だったが。

 

「悪いね、待ってもらって」

 

「おっさんが三人になったところで、どうにかできるって?」

 

「すぐにわかるさ」

 

 五条悟に微笑みかけ、失った手首を〈反転術式〉で二秒と掛けずに再生し終えると。坂本は、それじゃあ、と息を吐いた。

 

「やろうか」

 

 ルールは三つ。殺害は禁止。「帳」の破壊も禁止。どちらかが敗北宣言するまで続行。

 

「んじゃ、〈術式反転〉――」

 

 五条悟が、景気よく呪力を迸らせ。

 その指で、告げた。

 

「【赫】」

 

 

 

 2.

 

 

 空間が、赫く悲鳴する。

 

 反転した「無限」による衝撃波は、軋みながら敵を消し飛ばさんと奔るが。

 坂本は。当然のように〈赫〉を躱し、二発目が放たれるよりも速く彼我の距離を潰すと、猛然と正拳を繰り出した。

 正拳は、当然のように五条悟の「無限」を突破(・・)し、五条悟本体にも拳風を届かせる。特大で稠密な呪力の圧を掴んだ五条悟は、至近距離で向かい合い、互いの呼吸(いき)を耳に聞いて。

 にやりと笑い、拳を払いざま脚を蹴り上げるが、坂本の肘によって弾かれる。反動を利用した打撃で返答(カウンター)するも、それも水のように受け流される。

 

 (シュウ)、と風切り音が遅れて鳴り響き――

 

 超至近距離応酬(インファイト)が開始する。右。左。下。上。間断ない轟撃の連鎖。裏拳。踵。掌底。肘。靠撃。膝。手刀。

 すべてが前兆不明(ノーモーション)。坂本の連撃は一切の“起こり”無しに放たれ、軽いのに深く(・・)、一縷の無駄なく五条悟の芯部に響かせる。

 想像以上に、想定以上。

 重ェし速ェし読みづれェ。五条悟はしばし後手に回らざるを得なくなる。強化した肉体(フィジカル)で無理くり反撃するが、五条悟の打撃は地面ひいては空間へ巧みに受け流され――しかし捌く合間に並行して呪力を手繰り、坂本の背後に〈術式順転・蒼〉を作り出す。

 発生した「-1の虚構」が、背後から坂本を吸い込もうとするが。「蒼」の“起こり”を察した時点で坂本は五条悟の襟首を掴んで跳躍しており、作り出された「蒼」の収束範囲から離脱すると、砲丸のように投げ飛ばした。

 間合いが。

 開くよりも速く、足元に展開した〈無下限呪術〉によって空中着地(・・)した“最強”と同じように、坂本もまた当然のような顔をして全方位に足場を形成し、――転瞬/肉薄――、針のように細く一点集中した膂力を貫通した「無限」越しに届かせ、五条悟の皮膚を震わせる。

 

「は、」

 

 上腕骨に罅が入るも、即座に〈反転術式〉を施した。散開していた坂本の分身(ヒトガタ)たちが掌印(・・)を結んでいる。「赫」を放つにしろ「蒼」で吸い込むにしろ先ずは坂本を引き剝がそうとした五条悟は、今まさに夥しい拳雨を降らせている坂本が、まったく動きを落とさずに平然と呪詞を紡ぐのを聞いた。

 

「“()()れば(かれ)()り”・“()(しょう)ずれば(かれ)(しょう)ず”」

 

 分身(ヒトガタ)の呪力が波打ち、坂本の裏突きが五条悟の水月(みぞおち)に突き刺さる。

 

「【自在戯(じざいあじゃら)】」

 

 光。

 

「――はは、」

 

 五条悟は、思わず笑い声を上げた。肉体は、呪力で防御しているが。

 全身を炎に蝕まれた状態で(・・・・・・・・・・・・)、痛みと歓びに口角を吊り上げる。

 

 坂本も、笑っていた。

 

 燃え盛った状態で坂本を蹴り飛ばし、今度こそ双方の距離が開ける。追撃は無い。〈反転術式〉で焼け焦げた部分の肉を再生し終えた五条悟は、使い物にならなくなった目隠しを放り捨てると、愉快さに肩を揺らした。

 

「悪くないじゃん。準備してたんだ?」

 

「そう言わなかったか」

 

「言ったっけ?」

 

 攻防の最中、一度も「無限」は解いていなかった。つまりこれ(・・)が、坂本の〈無礙不尽曼荼羅〉なのだろう。〈領域〉は“あらゆる術式の中和”を可能とするから、外殻を肉体を覆うように構築したことで動く〈領域〉そのものと化した坂本は――“必中必殺効果”を縛るのと引き換えにでもしたのか――向上させた中和効果によって、五条悟を隔てる「無限」を突破するに至った。

 突破されたのは、夏油傑以外では実に五年ぶりになる。その際に〈領域展延〉という技術を身を以て、他ならぬ坂本の手によって体験させられている五条悟は、故にこそ坂本がこの場で〈展延〉を選ばなかった最たる理由である、宙を浮遊している分身(ヒトガタ)分身(ヒトガタ)が放った攻撃に興味を抱かずにはいられなかった。

 

「中和と同時に術式も使える。高級〈展延〉ってとこかな」

 

 〈空の領域〉で自身を液体のように包み込む〈領域展延〉は包み込むという仕様上、発動すると〈生得術式〉が使えなくなる割と深刻なデメリットを抱えているが。坂本の第二の〈領域展開〉は〈展延〉とは異なる原理で術式を中和しているため、通常通りに〈生得術式〉を運用できるのだろう。

 おまけにどうやら“〈領域〉は外からの攻撃に脆い”という対外条件を逆転させているらしく、“外からの攻撃に強い”〈領域〉を人型に凝縮して(まと)うことで、攻防一体の埒外な強度を構築していた。

 

「でも使いどころないでしょ、僕以外の相手だと。すっげー無駄じゃね?」

 

「そもそも君や“閉じない領域”対策に作ったんだ。手数は多いに越したことは無い」

 

「ふーん?」

 

 気が付くと。坂本が間近に移動しており、容赦ない打撃を叩き込まれている。やっぱ速過ぎ。流石に音速ほどじゃないけど一発が重過ぎるし、これ(・・)もうほぼゴリラだろ。繰り出される、一級術師でも下手に受ければ一撃で爆発四散しかねない熾烈さに「今度からおっさんのことマッハゴリラって呼ぼ」と内心で舌を巻きながら凌ぎ続け、それでも、五条悟は着実に攻略の糸口を探ってゆく。

 

 〈無礙不尽曼荼羅〉の弱点。というよりも特徴として、この術は〈展延〉と同様に中遠距離からは「無限」を中和できないのだろう。どういう負荷の配分をしているかまでは〈六眼〉では見抜けないが、坂本自身が術式で攻撃を仕掛けて来ないのは、たぶん〈領域〉の維持と術式の中和に意識を割いているからだ。

 それと、分身(ヒトガタ)が使った拡張術式。五条悟は、あの瞬間なにをされたのか分からなかった。本体の坂本が放ったのではないことは分かるが。ぴかっと視界が輝いた次の瞬間には、躱す間もなく身体が燃やされていた。威力は(五条悟にとっては)それほどでもないが、アレは〈六眼〉でも流れを見逃すほどの速度だった。

 

 さてどうしたもんかな。考えを巡らせるうちに、分身(ヒトガタ)が掌印を組み始めていた。分身(ヒトガタ)は常に距離を維持し、重力を無視した機動で動き回っているが、攻撃は放ってこない。アレらが狙ってくるのは、やはり「無限」が完全に中和された瞬間とみていい。

 坂本が、先ほどと同じ呪詞を口にする。発動する際の〈縛り〉なのか。いずれにせよ、もう一度、アレがくる。

 このままテキトーに放置して、殴り合いにちまちま(・・・・)刺し込まれるってのもウザったいしな。

 眼も慣れてきたし(・・・・・・・・)。五条悟は、なら、と思いついた策を実行する。

 

 防御に回している〈無下限呪術〉の強度を増幅させ、坂本の中和効果を一気に押し返す。「―――、」完全には押し返し切れないが、攻撃し続けている坂本の表情が、僅かに変化した。

 それこそが五条悟の狙い。中和に容量を割かせることで、拳打の雨に極小の隙を生じさせる。

 

「【蒼】」

 

 極小の隙を搔い潜り、空間と座標の圧縮で、分身(ヒトガタ)の眼前まで瞬間移動せしめた五条悟は。

 まずはこっちから叩く! 吸い込み反応を利用した拳撃を浴びせようとして。

 

 振り抜いた拳撃が、途端に鈍らされた。

 違和感。既視感のある、〈領域〉を押し返す時の初動に近い感触が分身(ヒトガタ)から発せられたがために、思わず面食らってしまう。

 五条悟の「無限」が、中和されていた。

 不意打ちのような理解。――これ(・・)って〈展延〉じゃん!

 分身(こっち)も〈展延〉使えんのかよ!

 

「【自在戯(じざいあじゃら)】」

 

 光が炸裂する。

 〈無礙不尽曼荼羅〉を(まと)うことで威力精度共に向上している〈油煎呪法〉の拡張術式が、五条悟を捕捉し、一瞬で爆ぜ尽くす。

 まともに受ければ一級術師でも原形が残らない火力だった。

 

「惜しかったね」

 

 まともに当たっていれば、だったが。

 

「分身が〈展延〉使えるとか。まー、ちょい驚いたけど」

 

 爆炎を内部から消し去り、分身(ヒトガタ)を「蒼」で消滅させた無傷の五条悟は、変わらぬ「不可侵」を纏ったまま、好戦的な視線を向けた。

 

「僕の〈無限〉は分身で削り切れるほど浅くねえんだよ」

 

「そうみたいだな」

 

「それとさ。光でしょ、今の攻撃。光を可燃性(・・・・・)に変えてる」

 

「……まだ二回しか見せてない、とっておきだったんだけどな。もう種に気づくのか」

 

「まあね、僕って天才だから。二回()視りゃわかるよ」

 

 分身(ヒトガタ)を破壊され、攻撃の絡繰りを暴かれてなお、坂本の表情に陰りは見られない。これくらいでは“最強”は倒せないと理解し切っている。そこには挑む側の諦めは無く、信頼にも似た、ある種の“熱”が込められている。

 その“熱”に当てられるように、五条悟の(ボルテージ)もまた、徐々に加圧されてゆく。

 

「他にある?」

 

「勿論。君を相手するのに、策がこれだけの訳ないだろ」

 

「だよね! ――じゃあ、みせてみろよ」

 

 ワクワクしながら言うと。坂本は、繰り広げられたジャンプ作品(ドラゴンボール)じみた空中格闘戦に呆気と感嘆の半々を抱いていた、唯一の観戦者へと呼びかけた。

 

「夏油君」

 

「あ、はい」

 

「悪いね、先に謝っとく」

 

 夏油傑が、呼ぶ声に遅れて反応すると。

 からりと笑って言った坂本に「え、」と問い返す暇もなく。

 

「【天網皆燼(てんもうかいじん)】」

 

 炎の嵐が、「帳」内に逆巻いた。

 視界を埋め尽くす、光。光。光――

 

 八〇〇〇平方メートルはある見渡す限りの空間で、「光」が狂い輝き、「帳」の温度が急上昇する。

 

 五条悟は「無限」で防御しながら、「光」のなかに身を置いたまま、五年前に見た坂本の術を朧気ながらに記憶から引っ張り出した。〈嗤笑蓮華(ししょうれんげ)〉。威力皆無と引き換えにあらゆる術師の視認空間を「光」で塗り潰す妨害特化型拡張術式。アレに似ている。だが、少し違う。

 何が狙いだ。どんな効果だ。解析しようとした五条悟の眼前に、坂本が接近していた。

 

 「帳」内は嵐に燃え続けている。眩い輝きは今も哭き続けている。蒸すような温度でも問題はない。脚。拳。視線を交わす。おいおい、ガッカリさせんなよ? そう思いかけたところで、五条悟は気づく。

 

 息ができない(・・・・・・)ことに。

 口に(・・)酸素が入ってきていない(・・・・・・・・・・・)ことに。

 

 まずい、と脳に警鐘が発せられる。理解した。相手の狙いを。眩く燃え続けている嵐の意味を。このオッサン、マジか。

 ぜんぶ火ィ点けやがったんだ、ここら一帯の空気(・・)に、自分もろとも!

 

「〈天網皆燼(てんもうかいじん)〉は」

 

 眼前の坂本ではない、炎の中からの、声。

 

「対象を一つ指定し、その対象以外には干渉できない〈縛り〉と引き換えに、対象だけは確実に焼き尽くす術式」

 

 破壊していなかった、もう一体の分身(ヒトガタ)が、愉しげな声をして明かす。

 

「俺が指定したのは、“〈帳〉に存在する大気中の酸素”だ」

 

 酸素が消えても真空では無いからこそ聞こえる、このタイミングでの術式効果の開示。

 

 無酸素状態。言わずもがな生物が生きていられない環境。しかしそこまでいかずとも、酸素欠乏空気と呼ばれるものがある。酸素濃度が一八パーセント未満の状態にある空気を指し、これを吸引すると大脳新皮質の機能低下を始めとする様々な障害が発生して数秒で意識を失い、無酸素環境と同様に状況次第では生物は容易く死へと至る。

 坂本が生み出したのはそれだ。幸いというべきか必然というべきか、五条悟はまだ気絶していない。大気中の酸素濃度が通常組成を欠いたために自動的に「無限」が透過を遮断したおかげで、酸欠酸素を吸入する事態は避けられている。

 呼吸を封じられたことに変わりは無かったが。五条悟は、呆れと感心を抱かずにはいられない。「帳」そのものに空気を遮断する機能は無い。「帳」は基本的に呪力にまつわるもの――人間・呪霊・呪物――のみにしか作用せず、仮に「帳」内の酸素がすべて焼き尽くされても外部から絶えず新鮮な空気が供給され続けるので、物理的密室環境でもない限りは無酸素状態など作れないはずだった。

 その問題を、坂本は力技で解決していた。目新しい方法でもなんでもない。ただ単純に“新鮮な空気が供給されたら片端から焼滅し続ける”というとんでもない脳筋焦土戦法で挑んできたことに、五条悟は稚気を刺激されてならなかった。

 

 貫手を肘鉄し反撃。坂本の攻撃が過熱する。皮膚に裂傷。血と汗が一瞬で蒸発する。分身(ヒトガタ)は掌印を組んだまま距離を保っている。何発か入れているが、坂本の〈無礙不尽曼荼羅〉は未だ健在で揺らぐ様子はない。さっそく現れる肉体の不調にむしろ喜悦を抱えながら、五条悟は出力を上げた。己の秘めた“熱”の高鳴りを自覚すると共に。

 分子レベルの精密制御なくしては成り立たない、ほとんどの生物にとって最悪の此の環境(フィールド)は、五条悟という“最強”の個に対しても例外ではない。あらゆるものを防御する「無限」であっても、存在しない「無」から酸素を生み出すことは出来ない――無呼吸(この)状態での激しい戦闘は、甘く見積もってあと数十秒が限度といったところだろう。

 時が経つほど状況は五条悟に不利に働く。坂本にも不利、と思うのは楽観だった。この環境(フィールド)を作り出した以上は何かしらの対策は取ってあるはずだし。あるいは自身を巻き込むことで、効果を上昇させている可能性も否定はできないが。

 

 夏油傑も、激変した環境(フィールド)の目論見に気づいた様子だった。防御結界のおかげで〈天網皆燼〉による酸素消滅はまだ起きておらずとも温度上昇に伴って「帳」内の気圧が変化し、既に結界の酸素は低気圧の「帳」側へ流れ始めている。予期せず巻き込まれて渋い顔をしている夏油傑に、五条悟は笑いたくなりながら。

 決断した。

 

 選んだのは、超短期決戦。呪力出力全開。〈反転術式〉全開。

 

 手加減は、不要。

 

 いくぜ。目で言った。

 

 猛打/「蒼」。

 蹴撃/「赫」。

 

 蒼眼をぎらつかせ、砂嵐のように焼かれ荒ぶ空間を呪力で軋み哭かせながら、五条悟は笑う。

 坂本も同じく。

 

 互いに笑いながら、思い切り殴り合う。

 

 光と「無限」の応用。五条悟は即興で虚像を四つ作り出し、坂本の動揺を誘う。僅かな反応の遅れを突いて「蒼」で地面に引き摺り落とし、破砕した瓦礫を投擲。即座に絶尽されるが、目くらましの合間に発生させた九つの「蒼」で坂本を包囲し、「無限」の“距離”に閉鎖して坂本を〈領域〉ごと破砕するのを狙う。

 

 【求得太平(ぐとくだびら)】。

 

 坂本の掌に生じた刀剣状の油体が「蒼」を斬り裂いた。五尺(ごしゃく)余りある〈求得太平〉――刀剣型〈展延〉――によって「蒼」を崩しざま包囲を脱すると、坂本は五条悟の背後に蹴撃と〈求得太平〉を叩き込む。

 〈領域〉による中和と〈展延〉による二重の異なる中和で呪力操作を乱された五条悟は、しかし瞬時に誤差を修正して至近距離から「赫」を射出、被弾させるが。

 

 【辿虚千景(てんこせんけい)】。

 

 吹き飛んだ坂本に大きなダメージはない。命中の寸前に「赫」の推進力が減衰させられたのを五条悟は〈六眼〉で視認し、初めて見る〈術式反転〉と思しきその性質を分析しながら攻撃を畳みかけてゆく。

 

 分身(ヒトガタ)の呪詞。無視してフェイントを織り交ぜつつ、坂本に渾身の踵落としを放つが。

 

 【自在戯(じざいあじゃら)】。

 

 受け止められる。構わなかった。五条悟は〈領域〉に「不可侵」を中和されながら――分身(ヒトガタ)の放つ〈自在戯〉の焼滅を強靭(フィジカル)で耐えながら、〈反転術式〉での治療もせずに「赫」を収斂させた。

 坂本が回避行動を取るが、「赫」が放たれた先にいるのは坂本ではない。五条悟が狙ったのは、分身(ヒトガタ)のほうこそであり。

 惜しくも「赫」を躱しきれなかった分身(ヒトガタ)が粉々になって消滅し、一対一になった五条悟は「蒼」で坂本を引き剥がすと、思いの丈のままに呪力を滾らせた。

 

 実のところ、無呼吸状態を続ける五条悟にはほとんど時間が残されていない。ここから挽回のために取れる選択肢といえば、もはや坂本の〈領域〉を破壊することで〈生得術式〉の焼き切れ(・・・・)を狙うくらいしかない。

 〈無礙不尽曼荼羅〉の強度は折紙付(おりがみつき)だった。五条悟も「よくぞまあここまで練り上げたもんだ」と拍手を送ってもいいくらいには認めている。呪力強化した打撃は通じず、「蒼」では削り切れず、「赫」でも貫けなかった。

 ならば、だ。それらを上回るほどの火力を――「(むらさき)」をぶつけるしかないっしょ!

 しくじれば、敗北の二文字は(まぬが)れない。それでも五条悟を突き動かすのは、可能という確信と高揚だった。

 着想(アイデア)は戦いのなかで既に()ている。分身による掌印/術師本体の呪詞による励起、あるいはその逆。即ち術式要素を分担し合一するという運用方法。

 

 掌印を組んだ。呪力の“起こり”。何かを察したように、坂本も掌印を結ぶ。鏡合わせのように互いに掌印を結んだ五条悟と坂本の間では、今しがた放った「蒼」が静止し、術式を継続している(・・・・・・・・・)

 

「【赫】」

 

 邪魔になる分身(ヒトガタ)は葬った。五条悟の発動した「赫」が、真っ直ぐ「蒼」に向かって放たれ――

 

 それに先んじて坂本は「赫」を刺激し炸裂させようとするが。光に可燃性を付与する〈自在戯〉では、発動の〈縛り〉である呪詞が間に合わない。

 〇.二秒の逡巡。そして。

 

「【辿虚千景(てんこせんけい)】」

 

 坂本は〈術式反転・辿虚千景〉によって“熱量存在(エネルギー)の否定空間”を前方に張り巡らせ、「赫」と「蒼」の衝突に備えた。

 

 無酸素領域〈天網皆燼〉展開から四一秒後。

 順転と反転、それぞれの「無限」をぶつけることによる仮想の質量が、産声を上げる。

 

「〈虚式〉、【(むらさき)】」

 

 解放。

 

 鳴動。

 震撃。

 

 白闇。

 

 

「―――――――」

 

 大地の激動が収まり、押し散らされた砂塵が宙を舞い、遠のいた音が戻ってくる。

 

 嵐が晴れていた。

 炎も消えていた。

 

 深く息を吸う音。

 

 校庭には、巨大隕石が落下したと主張しても過言ではないクレーターが幾つも抉られている。

 

 戦いは、終わっていた。

 

「………ぁああ~~~~っ空気うめェ。土砂降りで汚れを綺麗さっぱり洗い流したあとの朝焼けみたいな感じっていうの? 僕のイケメンな肺がウレシイウレシイって喜んでるよ」

 

 絶大な破壊を引き起こした張本人である五条悟は、自爆上等で発動した全方位「茈」のダメージを底無しの呪力量任せに〈反転術式〉で治療しながら、ご機嫌な視線を対面へやった。

 

「そっちもさ。遠隔の〈茈〉は初めてだし、指向性も絞れなかったしであんま余裕なかったとはいえ……よく耐えたね。まあまあやるじゃん」

 

 大きく息を荒げて。

 直撃でなかったとはいえ「茈」を被弾してなお〈無礙不尽曼荼羅〉を維持したまま(・・・・・・)でいた坂本は、顎先の汗を拭うと、遠くを見るように顔を上げてから、不敵にわらった。

 

「まあな」

 

「今回は五体満足かぁ。腕、落ちなくてよかったね」

 

「余計な世話だな、そりゃ」

 

「あれぇー。坂本さん、もしかして息あがってんの?」

 

「節穴が悪化してんぞ。眼科、連れてってやろうか?」

 

「キレてますぅ?」

 

「キレちゃいない」

 

 軽口を交わしながらも、五条悟の“熱”は冷めていない。

 

「んで。どうすんの、まだ続ける(・・・)?」

 

 坂本は。五条悟が「茈」を狙っていると察した時点で〈無礙不尽曼荼羅〉の決壊を回避するために、幾つかの拡張術式を「二四時間使用禁止にする」縛りを即興で結んでいた。炸裂直前には〈天網皆燼〉を解除することで余剰呪力を防御へと回し、土壇場で〈無礙不尽曼荼羅〉の要件を対衝撃用に変更する判断が功を奏したおかげで、外殻にダメージを負いながらも〈生得術式〉を焼き切らさず、続行(・・)できるだけの余力をまだ残していた。

 

「悟」

 

 そのことを〈六眼〉で嬉々として見抜き、熱の冷めやらぬ浮かれた状態にある五条悟に対して、棘を含んだ声をして言ったのは――全方位「茈」解放によって被害を被ったうちの一人である、夏油傑だった。

 咄嗟に〈呪霊操術〉下の「虹龍」に護らせることで「茈」を凌げたからよかったものの、防御結界と最高硬度を持つはずの呪力強化した「虹龍」をずたぼろ(・・・・)にされた夏油傑は、坂本が何か答えるよりも先に、じろりと戦犯を見やった。

 

「とりあえず言いたいことは色々あるが……君の負けだね」

 

「はあ? なんでっ?」

 

「“帳”」

 

「――あ」

 

 ルールその2。「帳」の破壊は禁止。

 

 なお現在、頭上には蒼穹が広がり、試合開始前に張られた「帳」は気持ちが良いほどに見る影も無くなっている。「茈」の余波で校舎東側の窓ガラスが軒並み砕け散り、そして「帳」が張られた段階で事態に気づくも特級呪術師からの飛び火を恐れて近づけなかった職員たちが、徐々に集まり始めてもいた。

 

「いやでもさ、あれくらいで壊れる“帳”なのが悪くね?」

 

「私のせいにするな。そもそも威力の高すぎる〈茈〉を〈領域〉内でもないのに使うのは――」

 

「そうか。俺の勝ちか」

 

「まだ負けてねえけど?? てかそれ言い出すんなら無酸素にするアレだってアウトでしょ。ソッコーで死んでるよ、僕以外の奴だったら」

 

「第一ラウンドは、俺の勝ちってわけだな」

 

 坂本の挑発めいた言葉に。「……へえ」盛り下がりかけていた五条悟の気分が、口角と共に吊り上がる。(特級呪術師のなかでは比較的)常識人である夏油傑は、一時間前には無かった凄まじく邪魔でバチボコに目立つクレーターを発見した高専学長・夜蛾正道がずかずか近づいてくるのを見やりながら、続行を決めてしまったらしい坂本と五条悟を見比べ、これ私が怒られるやつでは? と今更な溜息を吐いた。

 

「第二ラウンドだ、五条悟君。休憩は充分だろ?」

 

 お楽しみはこれからだ(・・・・・・・・・・)

 

「――上等ォ! ぜってぇ泣かす!」

 

 帝釈天の掌印を組んだ五条悟が、呪力を漲らせ、宣言する。

 

 

「【領域展開】――【無量空処】」

 

 

 空間を遮断する結界が五条悟と坂本だけを呑み込み、両者の姿が消える。

 

「傑、どういうことだっ」

 

 心労の色濃い夜蛾正道が全身を怒らせると、夏油傑はへらりと笑った。

 

「たまには悟にもガス抜きが必要でしょう」

 

「そういう問題ではない!」

 

「見解の相違ですね」

 

「坂本もいたのだろう、なにがどうして二人が……」

 

 聞き流しつつ、新たな「帳」を下ろしてゆく。傑ゥゥゥ、という学長の叫びを立入禁止の「帳」で阻むと、夏油傑は戦い始める前に坂本が告げた情報を想起した。

 

 ――「総監部と“黒幕”は繋がっている。俺が手札を晒すのは君ら二人だけにしておきたい」

 

「坂本さんも、あとで謝ってくださいよ」

 

 余熱を帯びる空気を扇ぎながら。〈領域〉に吞み込まれた二人に対して、多分な呆れと、微かな憧れと、僅かな嫉妬と、慚愧にも似たものを覚えながら呟く。

 

 五条悟は“最強”。それは彼が爆誕して以降の揺るがない呪術界の常識であり、親友である夏油傑にとっても認めざるを得ない紛れもない事実だ。にもかかわらず坂本は、夏油傑と違って恵まれた術式を持たないにもかかわらず“最強”の座に喰らいつくほどの戦いを演じてみせた。

 その理由の一つには、坂本の、普段は内に秘めている隠形を解いた際に(あらわ)れる不気味で悍ましく禍々しい呪力特性が関係しているのだろう。かつて外道の師に強いられた拷問じみた鍛錬の果てに成った(・・・)性質であり、「呪霊を喰わされる毎日」や「蠱毒で抽出した呪力の溶液槽が寝床だった」という彼の身の毛のよだつようなエピソードの数々は、視野狭窄に陥っていた学生時代の夏油傑の暗い価値観にも一石を投じた。

 

 恩がある。夏油傑が、教師の道を志すきっかけになった人物でもある。だからこそ、動かされる感情もある。

 元々強かったはずの坂本は、以前に戦ったときと比べても更なる研鑽を積んでいた。なぜ貪欲に強くなろうとするのか。過去に坂本が明かした目的は、旧態依然の呪術界に忸怩たるものを抱えている夏油傑にも共感できる内容だった。

 

 時代を掻き回そうとする“黒幕”がいるとして。来たるべき脅威に対抗し、守るべき仲間を助けるためにも。延々たる血みどろの路を斬り拓き、先頭に立ち続ける宿運(ほし)を負った親友を、一人にしないためにも。

 自分だけが現状に満足し、安穏としたままでいるべきではない。

 

「久々に、鍛錬に力を入れるか」

 

 夏油傑はしっとりと“熱”が灯るのを感じながら、眼前の〈領域〉を見据えた。

 

 

「【瞋雨天覿(じんうてんてき)】」

「うわ何それ意味わっかんねえキッショ!」

 

 一方〈無量空処〉の宇宙では、“最強”と挑戦者、二人の術師が被害を気にすることなく闘争に明け暮れていた。

 

「【塵砂変相(じんさへんそう)】」

「おお? いや僕には効かねえけど」

 

「【心猿破折(しんえんはしゃく)】」

「どういう心理状態で思いつくわけ?」

 

「【悪食菩薩(あくじきぼさつ)】」

「どういうジャンルなの?」

 

「【呪鎧討纏卍力(じゅがいとうてんばんりき)】」

「“すっげえワルの敵が使ってくるヤツ”じゃん、それぇ~~~~」

 

灼縄折半(しゃくじょうせっぱん)

恵業空言(えごうくうげん)

殲鎖抱戒(せんさほうかい)

背骨縁生(はいこつえんしょう)

這染貪修羅(しゃせんどんしゅら)

 

「【化楽転変(けらくてんぺん)】」

「!?!!!?????」

 

「【捺落満晶(ならかまんしょう)】」

「どしたー? さっきから似たようなもんばっかじゃん。ネタ尽きた?」

 

 破壊と煽りを振りまき合う最中。

 打撃との誤差〇.〇〇〇〇〇一秒以内に呪力が衝突した刹那。

 黒い雷(・・・)の如く、挑戦者の呪いが炸裂する。

 

「――久々だ。いいタイミングで出てくれるよ、〈黒閃〉」

「~~~ッ本当に、ワクワクさせてくれるよ、おっさん!」

 

魔訶四大崩照窟(まかしだいほうしょうくつ)

鏖衆裏辻行脚(おうしゅううらつじあんぎゃ)

 

「……三分経ったな」

 

「あん?」

 

「君と戦い始めてから三分経った。条件が満ちた、ということさ。〈縛り〉のな」

 

「おいおい」

 

「“一つの戦闘が三分を超過すること”、“相手か自分が〈領域〉を展開していること”、“拡張術式の八割を使用禁止にすること”。三つの条件を満たすことで、使えるようになる」

 

「おいおいオイオイオイ、これより()があんのかよ?」

 

「正真正銘の切り札だ。これで駄目なら、今日は俺の負けでいい」

 

 呪詞が詠われる。

 朗々と紡がれてゆく“起こり”を前に、“最強”の(ボルテージ)は、否応なく最高潮へと引き上げられる。

 

「悪くねえ……悪くねえよ、マジで。いいぜ、来いよ!」

 

「【極ノ番・―――」

 

 ■■の視座を持つ者にのみ解し得る、傲岸にして不遜なる冒涜的呪術が、ついに解き放たれて。

 

 

 世界が、罅割れるような音がした。

 

「は?」

 

 突如、〈無量空処〉が内側へ吸い込まれるように(・・・・・・・・・・・・)崩壊し、二つの影が出現する。

 

 帰還した五条悟は喘鳴し、呪力を枯渇(・・・・・)させながらも、歯を剥き出しにして笑っている。

 

 肩で息をする坂本は、薄皮一枚で繋いでいた〈無礙不尽曼荼羅〉をついに砕け散らせるも、同じように笑っていた。

 

 愕然とする夏油傑の前で、二人は同時に跳躍し――

 

 

 その後、高専校庭で行われた「模擬戦闘」の内容について、当事者たちが口を割ることは無かった。

 

 急な変化として、この日を境に五条悟の日課には自身の術式と向き合い直す時間が密かに加わり、もう一人の特級呪術師である夏油傑も同様に修練の機会を増やすようになったが。その理由が二人から語られることは、ついぞ無かった。

 

 

 

「ねえおじさま」

 

 高専から帰る道すがら。並んだ影が揺れ、片方が問いかける。

 

「おじさまって、男の人が好きなの?」

 

 予想もしなかったことを言われ、坂本は戸惑った。「いいや」俺は女好きだよ、よく(・・)知ってるだろ? そのまま声に出すと語弊を生みかねなかったので、口にはしなかったが。「どうしてそんなことを?」

 

「だっておじさま、あいつのこと、すごく嬉しそうに見てたもの。あいつに向けるときだけ、目の色が違うわ」

 

「そんなことないと思うけどな」

 

「硝子さんも、同じことを言ってた」

 

「硝子が?」

 

「おじさまにとって、あいつ(・・・)ってなんなの?」

 

 小学生の言うことではない。吹き出しそうになるも、禪院真依の見上げる顔が真剣だったため、坂本はわらうのを止めた。

 

「“借り”があるんだ。あっちは気にしちゃいないだろうけど、俺はそう思ってる。特別扱いして見えたのなら、そのせいかもな」

 

 どんな“借り”なのか、探るような気配もあったが。坂本は気にせず、セダンに乗り込んだ。

 

 車を出す。ラジオのチャンネルを回してゆくと、スクール・フード・パニッシュメントの「バタフライ・スイマー」を流しているところがあった。

 

 少し開けた窓から、初夏の風が入ってくる。助手席の禪院真依は、考え込むような横顔をしていたが、それ以上は何も訊いてこなかった。

 

 

 

 3.

 

 

 

 笛吹き男(パイドパイパー)の事件を坂本が覚えていたのには、それなりの理由がある。一仕事を終えたあの日の午後、現場を離れようとした坂本のもとに、高専にいた“禪院真依が禪院家に攫われた”という報せが飛び込んできたからだ。

 

 鍛錬の過程で、坂本が補助していたとはいえ、一級呪霊を討伐する功績を上げた。最大の問題であった〈天与呪縛〉も解け、禪院真依の呪力量は一級呪術師に相応しいものになった。

 同じ禪院なのだから連れて帰ることに何の問題がある。そう理屈をつけられ、引き留められなかったと高専から知らされた坂本は、帰り掛けにそのまま禪院家へ乗り込み、荒っぽい交渉のあと、禪院真依を取り戻した。

 のちに禪院直毘人から謝罪を受けた際には、他の男に(あて)がわれるくらいなら貰い受ける、という旨の言質を引き出させられてしまったが。そんな激動の一日だったからこそ、笛吹き男(パイドパイパー)の一件は坂本の印象に強く紐づけられていた。

 

 すり…♡♡ すり…♡♡

 

 禪院家当主である禪院直毘人へ切った啖呵に、嘘はない。やむを得なかったとはいえ、実をいえばその頃には坂本は、既に禪院真依との間に表沙汰にできない関係性を結ぶようになっていたからだ。

 

 発端は沖縄旅行だった。菅田真奈美とのセックスを覗き見られて以来、師弟関係に収まらない“男女の繋がり”を禪院真依から求められるようになった坂本は、いよいよ言葉ではどうにもならなくなったところで、見かねた菅田真奈美から説得を受けた。

 受け入れてあげたら、と。

 男尊女卑の風習が色濃い呪術界において、御三家での女の立場は間違いなく最底辺。術式の有無に関わらず陰険な連中しかいない風通しの悪い環境では女の人格が尊重されることはまずないし、良くて母体として大事にされるくらい。それなら、妻にしろ情婦にしろ、あなたのそばにいたほうがずっと幸せになれるわ、と。

 

 いくらなんでもガキだぞ。抗弁する坂本に対し、呪術師一族の生まれである菅田真奈美は、あくまで涼しげな顔だった。

 

 ――「だとしても、女よ。あの子も」

 

 年齢も二回り近く離れている。そもそもまだ小学生だろう。

 

 ――「すぐに大きくなるわ。大人になるなんて、あっという間よ?」

 

 反対するどころか、却って坂本をけしかけるようなことばかりを言って、菅田真奈美は禪院真依の願いを後押しした。

 

 ――「あなたのもの(・・)にしてしまう。大切ならね。それがあの子にとっても、きっと一番の支えになるわ」

 

 まあ、それだけで御の字とはいかないだろうけど。笑って、そんな不吉な予言もしていたが。

 

 坂本は。それから禪院真依と交渉(・・)を持つようになり、それでも“本番”だけは、高校生になるまではしないという条件を譲らなかった。理由はいくつかあったが、もっともな根拠として坂本のモノ(・・)は、子供を相手するには単純に大き過ぎるという点が挙げられた。一般人より頑強な術師といえども――今さら過ぎる倫理的な問題はさておき――カラダを壊しかねない危険性を無視してまでスるつもりは、流石に坂本側にはなかった。

 最初は不承不承だった禪院真依も、自分の顔より巨大に聳え立つそれと対面(・・)すると「デッッ…♡♡」と茹だった表情で納得し、ともあれ菅田真奈美の言った通り“繋がり”を持つようになると、その精神は次第に安定するようになった。

 

 一年後に禪院真依が攫われ、当主に言質を取られると、坂本と禪院真依の“繋がり”の強さは今や禪院家の知るところとなった。

 

 にゅる…っ♡♡ にゅぷっ…♡♡

 

 しかし坂本が禪院真依と交渉(・・)を持つようになると、禪院真依の変化を目ざとく見逃さなかった人物がいた。

 身近な例では、坂本の義娘である菜々子と美々子。そして、もう一人。

 

「師匠…♡♡」

 

 後にして思えば。一度手を出してしまえば、その結果なにがどう起きるのかも、菅田真奈美は当時から――坂本には見えないところまで――見透かしていたのかもしれない。

 

「なんか、ちがうこと考えてるだろ…ん”っ♡♡」

 

 甘さと不機嫌さを織り交ぜたような、熱帯びる声音に。寝室のベッドで足を広げていた坂本は、背中を預けるようにして坂本の又坐(またざ)にすっぽりと収まっている、声の主を見下ろした。

 

 禪院真希。袖なしのタンクトップ姿で、ブラはしておらず、ショーツは下ろしてある。髪は解き、じろりと幼い眼を尖らせているが、坂本の腕のなかの少女は、薄明かりの部屋でもわかるほどに頬を赤らめていた。

 

「今は私と、シテんだから…私のことだけ、考えろよ…ぁ”っ”♡♡」

 

 覆い被さるように、顔を近づける。不満を言おうとしている小さい唇を、やさしく塞いだ。

 

「ししょー……んむっ♡♡ ちゅ…♡♡」

 

 服の下から手を差し入れ、小学生としてはかなり発育の良い、まだ固さの残る乳房を手のひらで包みながら、もう片方の手では濡れそぼった秘部に指を這わせる。

 

  んちゅ♡♡ ちゅっ♡♡ んぢゅっ…ちゅむ…♡♡ れろ…♡♡ んく…っ♡♡

 

 舌を入れると、目を瞑った禪院真希が、ちろちろと吸い付くように動きを合わせてくる。坂本も粘液の擦れる音を立て、小さな舌を絡め取りながら、つぷ…っ♡♡と小さな膣口に中指を埋めると、じんわりと広げるように正のエネルギーを注いでゆく。

 指の腹で転がしていた乳頭が固く縮まり、汗ばんだ幼い首筋から、雫が谷間を伝って流れ落ちる。感度を引き上げるにつれ、反応が顕著になってゆく禪院真希は蜜壺を掻き混ぜる指が強くなると、ふるふるとかぶりを振り、掻き混ぜる指を押し止めようとした。

 

「…はあ…っ♡♡ …ししょー、それやば…♡♡ そこさわんの、ちょっとまって…♡♡」

 

 そう言いつつも、押し止める手に大した力は込められていない。脚を閉じようとしているものの、本気の抵抗でないのは火を見るより明らかであり。

 ぎゅう…♡♡と中指を締め付けられながら、坂本は禪院真希の髪の香りを感じつつ、彼女の耳元に唇を寄せた。低い声で、手をどかせるよう囁く。脳の中枢にじかに響くように。股を開け(・・・・)、と息を流し込む。

 

 禪院真希は「~~~~っ♡♡♡」びくっ♡♡♡と全身を震わせると、しがみつくように膣圧を強め、こわごわと脚の力を抜いた。入れ替わりに指の動きが激しくなると、呻くように濡れた息を乱し、懸命に坂本から与えられる快楽を、健気に受け入れようとしている。

 

 …あっ♡♡ あっ♡♡ あ”っ♡♡ あ”っっ♡♡♡ あ”―――っっ♡♡♡

 

 イけ(・・)。一気に正のエネルギーを流し込むと、がくがくっ♡♡♡♡と腰をヘコ震わせた禪院真希が、ぷしーっ♡♡と盛大な潮を噴いた。

 アクメ色のアーチが煌びやかに架かり、たぱたぱと降り注ぐメス汁で、シーツが水びだしになる。

 

 ~~~~~~っっ♡♡♡♡ ………~~~~~ふーっ♡♡ ふーっ♡♡ ふぅぅぅ…♡♡

 

 ぶわりと淫臭が室内に立ち籠め、ぴくっ♡♡ ぴくっ♡♡と絶頂の余韻に打たれている意識が戻ってくるまで、幼いからだを抱いていると。

 段々と坂本も、むくむくと情欲が呼び起こされるのを感じた。

 

 ――「うわまじでロリコンだったんだ」

 

 ふと脳裏に、ジト目で家入硝子に(なじ)られた記憶が蘇る。もう否定できないなと坂本が内心で苦笑していると、勃起の気配を感じ取った禪院真希が、へにゃりと相好を崩した。

 

「ししょー…今度は、わたしが…♡♡」

 

 坂本を押し倒し、上に跨ってシックスナインの体位になると、汗と愛液で太ももをてらてら濡らしている禪院真希は、坂本の股に屈むように顔を寄せ、…すんすんっ♡♡と鼻を鳴らした。

 

 ……ォ”ォ…っ♡♡♡ ししょーのチンポっ…♡♡♡ ~~~~~くっっっさぁぁぁ…♡♡♡

 

 びくびくびくびく♡♡♡と末端までふるわせた禪院真希は、鼻腔を突き抜ける猛烈な刺激臭に顔を背けるどころか、むしろカリ首に鼻先をじかに圧しつけた状態で更に「すんすんっ♡♡ すんすんっ♡♡」と深呼吸をし、そうしている間にも坂本に曝け出された幼い陰裂からは、だくだくと潤滑油が溢れ出てくる。

 

 ちゅっ♡♡ ちゅっ♡♡ んぢゅっ♡♡ …れぇろぉ………♡♡

 

 禪院真希がグロテスクでさえある亀頭に唇を落とし、先端から根元まで順に口づけしてから舌を這わせ始めると、坂本も眼前の丸みのある臀部を撫ぜ、生えかけの陰毛から滴らせているド湿り幼まんこ穴に指を挿れた。

 

 ちゅぷっ♡♡ ぢゅるるっ♡♡ はぷっ♡♡ ぢゅずるっ♡♡ ぢゅぞっ♡♡ じゅぞぞぞっ♡♡

 

 家入硝子に曰く。メスをおかしくする天然のごくあく媚薬(フェロモン)発生源であるイチモツを、禪院真希は恍惚(うっとり)としか形容できない艶めかしい吐息で咥え込み、滲み出す特濃なカウパー液をまんべんなく啜り呑み、舌と頬と手を遣って、媚めかしく奉仕する行為にますます没頭してゆく。

 熟練のそれには及ばずとも、小さなお口いっぱいに夢中になってペニスを頬張り、じゅっぽ♡♡ じゅっぽ♡♡と悦んで蕩けた頭を動かし、無意識にかねだる(・・・)ように蜜の伝う尻を振ってオスを挑発する絵図は言い逃れ不可避なほどに犯罪的であり――ところが特殊体質である坂本は、勃起こそすれど、悲しいかなそれだけでは射精に至ることは無い。

 

 負けず嫌いのきらいがある禪院真希は最低でも一回は坂本が射精しないと納得しないだろうと分かり切っている――しかも下手に気を遣うと不貞腐れる――ので、自身の快楽を獲得するためにも、坂本はド湿り幼まんこ穴を徹底的に弄りつつ、時には可愛らしい菊門にぬぽぬぽと指を突っ込んでみたりしながら、注ぎ込む正のエネルギーの比率を大きくした。

 

 んぅぅぅっ♡♡♡ ぶぢゅるっ♡♡ ぢゅちゅっ♡♡ ぢゅるぅぅっ♡♡ れぢゅっ♡♡ んちゅっ♡♡ ん”くっ♡♡

 

 禪院真希は。途中で何度も軽イキし、口腔に挿れたまま(むせ)ぶように頂きへ達し、ぶしーっ♡♡と坂本の腹を汚すほどのアクメ潮をぶちまけた頃にはカラダに張り付くのが鬱陶しくなったタンクトップを脱ぎ捨てると、度重なるオルガスムスで全身を汗だくにしながらも、坂本の発するつよつよフェロモンの過剰吸入も相まってフィジカルギフテッドといえど限界が近づき、それでも頑張ってフェラチオご奉仕を続けながら、坂本に懇願した。

 

「だせよ…っせーえき♡♡♡ …ししょーの…せーえき…ぃっ♡♡♡ ―――~~~~~っ♡♡♡」

 

 坂本も、込み上げてきていた快楽に身を任せると、最大化一歩手前の正エネルギーで禪院真希の急所を弾き、同時に絶頂を迎えた。

 

 びゅくびゅくびゅるるるぅうぅぅぅ~~~~~~~っっ♡♡♡♡

 

 びちゃっ♡♡♡♡ びしゃっ♡♡♡♡と腹部にアクメ潮を浴びながら、ふんだんに溜め込んでいたものを、弟子である小学生お口まんこに存分に吐精してゆく。

 量と勢いが強烈で受け止めきれず、ごぼっ♡♡ んぐっ♡♡と咽ながらも、何とか禪院真希は「ごく…っ♡♡ ごく…っ♡♡」と頑張って肚に収め終えると、気力を振り絞り、射精後のお掃除バキュームフェラに移った。

 

 …ぢゅっ♡♡ …れろぉっ♡♡ ぇろぇろぇろ♡♡ …………ちゅぱっ♡♡ ………ごくん…っ♡♡

 

 そうして綺麗になると、いよいよ疲れ果てた様子で、そのままうつ伏せに倒れ込んでしまう。

 

 坂本は朦朧としかけている禪院真希を横たえると、軽く触れ、声に出さずに呟いた。【一切即滅(いっさいそくめつ)】。油体が生じ、禪院真希の体表の汚れを僅かな時間で拭い取ると、同じように自身の身体やシーツや床や服に飛散した臭いも含めた汚れを分離させ、すべて音を立てずに焼失させる。

 

 枕に寝かせ、頬を撫ぜながら礼を言うと、禪院真希はにへら(・・・)と締まりの笑みを浮かべて、そのまま寝息を立て始めた。

 

 なんとなしに、その寝顔を見つめる。髪。眉。瞼。鼻。頬。唇。首筋。腕。乳房。腹。付根。尻。腿。手。脚。指。妹とよく似た身体。

 義娘たちとは違う身体。未成熟なからだを見下ろして。

 

 出そうになったため息を、坂本は抑え込んだ。プロラクチンホルモンの影響があるにしても、考えてしまう。

 

 ――「なにしてんだよ」

 

 妹の変化の理由を悟ったとき。

 

 禪院真希は、当然ながら坂本を問い詰めた。すると禪院真依は、あろうことか見せびらかすように坂本の舌に吸い付き、こういうことよ、お姉ちゃん、と勝ち誇るように微笑んだ。

 妹の行為にショックを受けていた禪院真希が、そのあと禪院真依と二人でどんな会話をしたのか、坂本は知る由もなかったが。

 責任を取れ、と言われた。

 

 ごまかすなよ。ふたりがシテるところを見てから、あたまがおかしくなりそうなんだよ。私をおかしく(・・・・)したセキニンがあんだろ。

 わたしにも。

 わたしにだって、真依と同じこと、しろよ。

 

 二人きりになると、(せき)切るように言った禪院真希を相手に、もはや坂本が取れる手段など一つしかなかった。

 

 その結果が、これ(・・)であり。そしてそれ(・・)だけに留まらなかった。

 菅田真奈美のせい(・・)にするつもりはないが。彼女は、果たしてどこまで見通していたのか。

 

 坂本は、不意に自分がいっぱしの善人のような憂いを抱いていることに気が付き、静かにわらった。

 

 明かりを消す。禪院真希にそっと毛布を掛け、闇に身をうずめる。

 

 

 夜は長く、眠りには遠いが、それには慣れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





◆補足 … “領域は「あらゆる術式の中和」を可能とする”の下りは原作10巻でメロンパンが独白しています。メロンパンほどの術師が言うのだからたぶん本当だと思います(恐らく“完全な術式の無効化”は難しいが“術式効果を無視してもOKなレベルに薄めたり”はできる)。
 今回の場合はバフ盛りオリ主が“最強”に大量デバフを押し付けることで突破しました。


・最強 … 最初こそ手加減していたが途中からは本気の状態で戦い、最終的に〈六眼〉でも理解し切れないアタオカ攻撃を喰らって底なしの呪力を枯渇させられた。本話の戦い以降、真面目に修行する時間がちょっと増えた。

・最強のマブダチの前髪の人 … 色々と複雑な想いを抱えているが、“黒幕”の存在を知った以上は闇堕ちしている暇などない。本話の戦いを見物以降、真面目に修行する時間を増やした。

・コワモテ先生 … ストレスがマッハ。

・坂本 … 天与呪縛+チートを本気で運用したのに競り負かされそうになり、最強の所以たるを知った。テンションが爆上がりし、なんか黒閃も出たが、勢い余って【極ノ番】を撃ち込んでしまい、それでも生存してみせた“最強”に内心で拍手喝采を送った。

・禪院真希 … 前話で意味深なクリフハンガーを担当した妹に先んじて、年少組最初の濡れ場デビューを飾った。勘違いすんな、私はマゾじゃねえ!(自己申告)。

・禪院真依 … 前話で意味深なクリフハンガーを担当したにもかかわらず、濡れ場デビューを姉に先んじられた。ゆうべはお楽しみでしたね、お姉ちゃん(笑顔)。

・家入硝子 … 坂本家の事情を知った際に「うわまじでロリコンだったんだ」となじったりしたが、「ロリコン…♡♡ ロリコンおじさん…っ♡♡」「んおぉぉッ♡♡ ロリコンちんぽにイカされる…っ♡♡」「…しょうがないなあ…♡♡」と仲良しチン煽りえっちをした末に、無事ワカラセ成敗された。



・獄門疆 … あらゆるものを封印できる特級呪物。日本国外にいくつか存在する“呪物封印の使命を与えられた一族”によって秘密裏に現代まで管理され続けていた。しかし一族の長が息絶えたのを機に、一族の古臭い慣習に嫌気が差していた身内が裏オークションへ出品したことで存在が発覚。危惧されていた通り、このたび“黒幕”の手へと渡ることになった。
















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