ユー・アー・マイ・スペシャル 作:グリム・グリルグリン・グリーングリップ
4.
生まれて初めての東京に、浮かれてしまっていた感は否めない。
叔母さんに遊びにおいでと誘われて、弟たちにも行って来いよ姉ちゃんと後押しされて、いざゴールデンウィークを利用して遊びに行ったら、ゴメンね急に仕事はいっちゃってぇーとまさかのほったらかしに合うとは流石に思ってもみなかったけれど。
申し訳ない顔をした叔母さんから握らされた万札を手に、水族館で天空のオアシスを見たり、展望台で街を一望したり、博物館を巡ってなんとなく真理の断片を分かったような気になったり、おしゃれな有名カフェでどきどきしながら本格ラテ(本格ってなんだろう)を注文したりラテアートの写真を撮ってみたりと、おそるおそる一人で散策することになった池袋はキラキラとギラギラが混在していて――京都も密集感では負けていないけれど――首都なだけあって、とにもかくにも人と車の往来、あとは看板が多かった。
君かわいいね。ここら辺の子じゃないでしょ? 俺らと遊ぼうよ。
空が狭いなあ。そういえば東京には空が無い、と言ったのは誰だっただろう。宮沢賢治だっけ? 国語の授業で先生が話していたような気がする。ぜんぜん思い出せないけど。
ああそうだ、ポケモンセンターで弟たちの
ねえねえ無視されるとさあ、俺ら悲しくなっちゃうんだけど。そういうのよくないと思うなあ。
「いえ、ですから結構です」
そんなこと言わずにさあ。案内してあげるよ。いいとこ知ってるよ俺ら。
「いえ、間に合ってるので」
というか私、まだ中学生なので。軽薄が服を着て喋っているような男たちにそう拒絶を伝えると、男たちは大げさなリアクションを見せる。
マジ? うっそだあ、それはナイっしょ。だいじょーぶ、高校生でも入れる店あるし。俺らの行き着けンとこだし、顔パスで入れるよ。
もしかして怖がってる? 心配すんなって、俺らマジで優しいからさ。ほんとほんと。
目の前でべらべら喋りながら、それとなく男たちは道を塞ごうとしている。大通りから逸れてるけど近道っぽいからって安易に通るんじゃなかったな~~~~、と後悔しつつあった少女は、いい加減どうしたものかと考える。
一年前から武術を習い始めた少女には、男たちが隙だらけであることが見て取れる。大して鍛えてもいないようだし、振り切るのは簡単そうだった。ただ問題なのは、こんなのでも
「おい」
あ?
背後からの、声に。男たちが少女の後方に目をやり、少女も首だけ振り返った。
……あー、なに、君?
真っ黒なサングラスをした、少女が立っていた。高校生、それとも大学生? ボーイッシュな格好をした彼女を見て、次いで一つの事実に気づいた少女は、肌が粟立つのを感じた。
こんなに近くにいたのに、声を掛けられるまで
何者なの? 少女が驚愕と警戒を抱いていると、ボーイッシュな少女はフィンガーレスグローブをした手でサングラスを外し、少女たちを一瞥した。
おお美人、と目を開くほどの綺麗な素顔が現れる。黒みがかった緑色の髪をしていて、カワイイというよりもカッコいいタイプだった。
男たちもだらしなく顔を緩め、さっそく口説こうとするが。
お友達? へぇー、君も可愛いね。一緒に……、
「興味ねえな」
ンなこと言わないでさあ、俺らと……、
「目ン玉ついてんのかよ。興味ねえっつってんだろ、その子も。他を当たれよ、節穴ヤロー」
刃のような声音に、男たちの顔が引き攣った。ボーイッシュな少女はその間に少女のほうを見やると、促すように手招きする。隙を見て男たちの間を擦り抜け、ボーイッシュ少女の隣に駆け寄ると、男たちが目に見えて剣呑な表情になった。
あのさあ。急に横から現れて、なにふざけたこと抜かしてんの?
俺ら楽しくオハナシしてたんだよ、邪魔すんなや。邪魔するってのがどういうことか、わかってんのか?
「面白みのねえ会話しかしてなかっただろうが。口だけじゃなく目も耳も悪ぃんだな。新しいのと交換してもらえよ、その不良品の頭ごと」
えぇぇめちゃくちゃ煽るじゃんこの子ぉぉぉ。少女が別の意味でまた驚愕していると、不愉快を前面に押し出した顔で、男たちがにじり寄ってくる。
あんまナメたこと抜かしてるとさあ、ボサツって言われた俺でもキレちゃうよ、さすがに?
俺らキレたらさあ、女だろうがガキだろうが、ヤベエからな? マジで。
みんな泣いて謝んだからよ。
チョーシ乗んなよな、おい。
えぇぇぇどうしよこの子も守ったほうがいいのかな、と少女が悩んでいるうちに。チンピラ感を隠そうともしなくなった男の片方が、手を伸ばしてきた。
「泣いて謝った、ね。オマエらこそ、わかってんのか?」
伸ばされた手を、ボーイッシュ少女が
いきなり男が仰け反り、呻きながら膝を折り、アスファルトに顔面を強打した。
「え、」
何が起きた? 瞠目する少女とは対照的に、ボーイッシュ少女は冷ややかだった。サングラスを持ったまま空いていた二本の指で男の手首を器用に捻っていて、それ以外には特別なことは何もしていないように見える。にもかかわらず男は仰け反った姿勢で倒れ伏し、鼻血で路面を汚しながら、苦悶の声を上げ続けている。
てめえこのヤロォッ。最初から剥がれかけだった化けの皮を完全に脱ぎ捨てたもう一人の男が、バタフライナイフを取り出して叫んだ。ナメてんじゃあねえぞクソガキィッ。
ボーイッシュ少女は、手入れの為っていない鈍い銀色の輝きを鼻で
「つまんねえやつだな、オマエ」
男の手から一瞬で奪い取ったナイフを弄びながら、声を低くして言う。
「本当につまんねえやつだよ」
元ナイフ男が愕然とし、鼻血男が手首を股に挟んで泣き
この子、武術家だ。それも、とんでもなく強い。
ボーイッシュ少女はバタフライナイフをひゅんひゅん回して折り畳むと、見せつけるように両手で持ち、力を加えてゆく。
みしり、と軋む音がして。
「ほらよ」
「わかったよな」
視線を、折れたナイフとの間で行き来させた男の額には、脂汗が滲んでいる。男というだけで根拠の無い自信を持っていた男たちは、緊迫に縫い留められたように動けずにいる。
不意に。表の喧騒も、人の息吹も、なにもかもが一瞬しんと静まり返った。
「わかったよな」
もう一度。もう一段、低い声をして言った。
音が消えたと錯覚するほどの、重苦しい“圧”が路地裏を満たしている。呪力に依らずとも、動物の生存本能へ恐慌を強い得る空想ならざる非物質の害意。彼我の差を測れない人間にも理解できるほどの、直接は向けられていない少女でさえ凍えて青褪めるような剥き出しの
「
男たちは。
「声が小さくて聞こえねえよ」
がたがたと震えながら。何度も小刻みに頷きながら、わかりました、と男たちが声を掠れさせた。かたかたと黄ばんだエナメル質の歯を鳴らし、喉をもつれさせながら、わかりました、と
「次は無えぞ。――行けよ」
ボーイッシュ少女が殺気を収めても、男たちは直ぐには立ち上がれなかった。舌打ちが響くと、迷惑された側の少女が見ていて気の毒になるほどの怯えようで、まず元ナイフ男が抱えていた仲間を突き飛ばして逃げ出し、捨てられた男は立ち上がるのに失敗して二回すっ転ぶと、手首を庇いながら、一度だけボーイッシュ少女を振り返って幽霊と遭遇したような悲鳴を上げ、大通りの広いほうへと
「ったく。野良犬のほうがまだマシだ」
ボーイッシュ少女は折れたナイフを隅に蹴り飛ばすと、蹴り飛ばした先にいた
グローブに触れた蝿頭は、トラックに轢かれた風船のように爆散する。えっ、と思わず少女が声に出してしまうと、ボーイッシュ少女の双眸が少女を射抜いた。
「余計な手出しだったか?」
「え」
「さっさとやっちまえばいいのに、うだうだしてたもんだから、手が出ちまった。いらない手出しだったんなら、悪かったな」
「いえっ、そんな。ぜんぜん。あのっ、助かりました!」
「そう? まあ、ならいっか」
ボーイッシュ少女はサングラスを掛け直すと、さっさと歩き出してしまう。「あ待って、」少女は慌てて追いかけると、うわ近くで見るとやっぱり美人だなあとドキドキしながら隣に並んだ。
「あの、もしかしてなんですけど。
「ああ?」
「いま祓ったやつ……」
内心で期待しつつ、訊いてみると。予想に反して、怪訝な顔をされる。あれ、なにその反応。
「蝿頭……」
「ああ」
「………、」
「………、」
微妙な沈黙。なんだか噛み合っていないような空気になる。え、うそ私ってば勘違いしてる? もしかしてこの人って呪術師じゃない感じ? でもグローブは呪具だよね?
「呪術師、ですよね…?」
「ああ。そっちもだろ?」
「あっ、はいっ」
よ、よかったあぁぁぁ勘違いじゃなかった! まったく本人に呪力を感じないから一瞬早とちりだったかと思っちゃったけど。少女は安堵の息を吐き、呆れたようにしているボーイッシュ少女に笑いかけた。
「ですです、私も、いちおう呪術師でして。あ、
「禪院真希」
ゼンイン? どこかで聞いたことが有るような無いような。「禪院さんは――」
「真希でいい」
苗字キライなんだよ、と唾でも吐き捨てそうな顔をされたので。何か事情がありそうだと察した三輪霞は「真希さんは」と言い直し、きらきらと目を輝かせた。
「合気、習ってるんですか? さっきのって、合気ですよね?」
「まあな」
「めちゃくちゃ強いんですねっ」
「オマエも、何か習ってんだろ」
「分かるんですか?」
「合気って気づくくらいだし、重心が素人にしては据わってるからな」
おおおお~~~~なんだかすっごくプロっぽい評!
「そんなに珍しいか?」
「あっすいません」食いつき過ぎたかと失敗が
「ふーん」
「いちおう、〈シン・陰流〉を習ってます」
「門外不出のやつだろ。私も少しかじったよ」
「え、じゃあ同門ですか?」
「いんや。師匠に教えてもらった」
「……んん?」
ともあれ歩きながら、年嵩の近い女性呪術師と邂逅したことで興奮冷めやらない三輪霞は、一年前に〈シン・陰流〉の師範にスカウトされたことや、実家が貧乏なので将来は呪術師としての収入に期待していることなどを夢中で喋った。
三輪霞の根明な性格に触れた禪院真希も、自身には実は呪力が無いことや、それでも呪術師としていずれはムカつく実家を見返すために活動していることなどを明かし、当たり障りのない部分での境遇を教え合っていると、出会ったばかりの二人の仲は徐々に打ち解けていった。
ええっ、そのサングラスなんにも見えないじゃないですか。
遮光性一〇〇%だからな。クソバカ教師とダブるのはアレだけど、視界に頼り切らない鍛錬としては悪くねえんだ。
めちゃめちゃストイックだ~~~すご~~~~っ。
へえ、そりゃなんていうか、だいぶ個性的な叔母さんだな。それで一人で観光してたってわけか。
もうびっくりでしたよー、久しぶりに会ったのに、会って最初に言われたのが「ゴメン今日は面倒みれないわ」でしたからね。ふつう、いきなり知らない街に中学生の姪を放り出しますかねー、もう。
確かに、まんまおのぼりさんって感じだったもんな。
ですよねー。……あはは、お恥ずかしい。
でも中学生には見えねえな。高校生くらいには見える。
やっぱり周りの子よりも、背が高いからですかねー。
そういえば真希さんって、高専の人ですよね。東京校って、どんな感じなんですか?
そうだな。特級の教師が二人いて、蝶野正洋が学長やってて、あとパンダがいる。
パン――パンダ…です? ……パンダって、なにかの隠語ですか?
いや、文字通り。パンダがいる。あとパチカスと、舌ピアスも。
どういうこと?
オカシイよな。しかもパンダのやつ、普通に喋るし。
しゃべるの……!?
流暢な日本語でな。それに、パンダ・ジョークも言う。
パンダ・ジョークも……!?!?
下世話なこと訊いてもいいですか?
内容による。
呪術師って、ほんとのところはどれくらい稼げます?
あー、つってもな。ピンからキリまで色々あるだろ。上はそれこそ、一回で云百万、下手したら云千万いくこともあるだろうし。
ちなみに真希さんは…?
私の場合は師匠の付き添いだからな、なんともいえない。単独任務はまだ許されてねえし。
えっ。真希さん強いですよね?
まあなー。
ですよね……?
でもガキだからダメだって。
ガキって。いえでも真希さん、年齢――
十三。
え。
やっぱ勘違いしてたか。
え?
「ワタシ、マダ、一三歳」
「うそでしょ!?」
まさかの中学生、しかも年下ぁぁぁ~~~~!? 高校生かはたまた大学生くらいのオトナびた雰囲気を備えている禪院真希の衝撃の真実に、堪らず絶叫して周囲から白い眼を向けられたりしたけども。
盛大な勘違いを含めて会話は盛り上がり、やがて連絡先の交換が叶った三輪霞は翌日、禪院真希に東京を案内してもらえることになった。
「んじゃ、明日な」
「はいっ」
駅の改札口で手をぶんぶん振って別れ、その足で叔母の家に戻ると、叔母は仕事から帰宅していた。
今日はゴメンねぇーお詫びに美味しいケーキ買っておいたからねぇー。でもあんたイイ顔してるしぃーひょっとしてイイ出会いでもあったぁー? イケメンにナンパされたとかぁー?
叔母の鋭い指摘に、自身の醜態を思い出して羞恥に見舞われながらも。「……うんっ」三輪霞は、トラブルにこそ遭いはしたが“災い転じて”の実体験に恵まれたことを、照れ交じりに、そして少し鼻を高くして話し始めた。
「実は私ね、男の人たちに絡まれちゃって、困ってたらすっごくカッコよくてキレイな女の子が助けてくれたんだけど、その子ってばなんと私と同じ中学生で……」
なお翌日。集合場所に向かった三輪霞は、晴れ空の下で待っていた気まずげな禪院真希のみならず、面白がって彼女について来たという――「坂本菜々子でーす」「坂本美々子」――見ず知らずの二人(しかも呪術師)の姿に、面食らうことになったが。
「わりぃ、断り切れなくってさ。嫌だったら今からでもシバいて帰らせるけど」
「いえいえ、大丈夫です。三輪霞です、今日はよろしくお願いしますっ」
「よろしく」
「よろー」
新たに結んだ友人たちとの縁が、のちの三輪霞の人生に少なくない影響をもたらすことになろうとは知る由もないまま、楽しい観光の二日目が始まった。
「まっ、気楽に行こうよ。カスミっち」
「霞っち!?」
5.
はらはらと、雪が舞っている。
一面が銀世界だった。底冷えする冷気が満ち溢れ、季節外れにもほどがある冬景色の曇天を、白い女が浮遊している。
重力を無視して。白い着物を纏い、血の気の失せた
仮想怨霊:雪女。等級は一級、もしくはそれ以上か。
睫毛が凍り付きそうなほどに寒かった。低温現象は生得領域の標準機能であるらしく、術式が付与されていない〈未完成の領域〉とはいえ、呪力で強化していなければ身体が動けなくなるのは容易に想像がつく。
乱れかけていた息を意識して整え、丹田と脚に力を入れた。雪原をじかに踏まないよう呪具化した液体金属を脚に
「【
焦りを嚙み殺して。呟きと共に。一秒と掛けずに、掌に「無」から在り得ざる「かたち」を作り出す。
「【
三重の〈縛り〉と重いコストを支払って禪院真依が構築したのは、“
禪院真依はポンプアクション機構のようなフォアグリップを操作してエネルギー収束率を最大にし、
現代に存在しない未知の
■■■■■.
だが雪女はちぎれた肉をかろうじて繋ぐことで存在を保ち、まだ完全には消滅していない。呪いを振り絞るような声で怨嗟を吼えると、雪女の胸元に挿された氷花の破片が燐光を放ち、おどろおどろしい呪力で雪原を染めた。
その
「【MP.05GOLDEN】」
即座に“
それよりも一瞬速く、
吹雪が収まる兆候はなく、それどころか四方八方あらゆる場所の雪原が回転する球体に向かって吸い寄せられ、雪原を呑み込むほどに吹雪の渦は
「【
足元に散らばった空薬莢と〈MP.05GOLDEN〉が雪に透けるように消滅する。禪院真依は続けて〈Xショットガン〉のハンディサイズ版である〈Xガン〉を向けるものの、眼前には早くも
「
回避は間に合わないと悟った禪院真依は、咄嗟に足を止めて防御結界を構築した。
轟音。足場が鈍重に揺れ、鋭利な冷風と氷礫を受け止める結界が軋み哭く。
しかし決壊し切ることはなく、それで動揺し過ぎることも無かった。対領域効果や対必中効果に優れる〈シン・陰流:簡易領域〉と違って〈天座〉は呪力防御に特化させた結界であり、禪院真依の場合は強度を担保するために“一日の使用回数制限”と“結界成立から九秒後に崩壊する”縛りを組み込んでもいるため、最終的な決壊は発動時点で織り込み済みだった。
故に動揺している暇はなく、肝心なのは稼いだ九秒という時間で何をするのか、ということ。
白い息を吐く。深く息を吸う。吹き荒ぶ轟音を無視し、禪院真依は貴重な二秒を使って、熱くなりかけた思考を冷静にした。
状況を打開するためのアイデアを考える。アイデアを実現するための作戦を考える。作戦を成功させるための方法を考える。
目蓋を開いた。〈Xガン〉のモニターには、ロックオンした雪女が映っている。画面に表示された標的との距離は二〇メートル。射程圏外だったが。
残り時間は三秒。
禪院真依は心を無理やり奮い立たせるべく、自信にたっぷり満ちた姉がそうするように、口端を吊り上げた。
「〈
形態指定の命令により、ニーハイソックスさながらに脚に
「〈
流体力学に基づいた滑らかな動きで〈天座〉の外殻に張り付くように、内側からぴったり敷き詰めるように液体金属を変形させ、外光の入る隙間すらなく結合を強めた刹那。
〈天座〉が決壊し、同時に堰き止めていた冷風と氷礫が、成型したての防壁に降り注いだ。
猛然と打ち据えられる。激烈な破壊の音で耳朶をぶっ叩かれる。
できないはずはない。心のなかで呟く。やれない道理はない。だって私は、あの人の弟子なのだから。
真っ暗な移動式防壁のなかを、努めて冷静に〈Xガン〉のモニターを
命中した、炸裂したと確信した直後、待ちに待った時間が訪れる。
一瞬だけ。降り注ぐ攻撃が、綻ぶように薄まった。
「〈
防壁変形。途端に晒した全身に、冷風と氷礫が雪崩れ込んできた。
呪力強化して耐え凌ぐ。重い。鋭い。冷たい。泣きたい。それでも、耐えられないほどではない。
禪院真依の平行操作を受けた液体金属が、加圧されることで攻撃に最適な
狙った位置は、決して勘ではなかった。手元から既に〈Xガン〉は消えていたが。モニターには最後まで、雪女の正確な高度と方角が表示されていた。
■■■■■.
狙い放ち、突き穿った鋭杭が、嵐の間隙を突き抜けて空を貫く。
その穂先に、雪女が串刺しになっていた。
串刺しになりながらも、まだ
「【
高コストを支払って構築したのは、“
「【RORSCH MK-1】」
引金。直ぐには発射されず、二秒と少し、電子音のカウントが鳴る間はスコープに捉えておく必要がある。
思っただけだ。禪院真依の
雷光。
寸分と狂わず、発射された一撃が、核である氷花ごと
■■■■.
嘘偽りなく。今度こそ本当に消失反応を起こしながら、雪女の塵が、雪風に消えてゆく。
吹雪が止んだ。
生得領域が解除されると。侵入する前の、もとの
「―――」
光景の温度差に、張り詰めていた緊張が一気に緩んでしまう。禪院真依は膝をつくと、冷たい汗がどっと噴き出してくるのを感じながら、荒々しく肩を上下させた。
「お疲れ様」
傍らに、師である坂本が素知らぬ顔をして立っている。応える余裕はない。喘鳴が次第に鎮まってくると、渡されたハンカチで汗を拭い、次いで口をついて出たのは文句だった。
「……ちょっとくらい」
手助けしてくれてもよかったのでは?? ずっと見ていたのだし。
「本当にヤバくなったら手を出してたさ。でも現に、ひとりで切り抜けられただろう? まあまあ危ういところもあったけどな」
肩を竦めて言われる。まあまあヤバくなった時点で助けてほしかった、という禪院真依の叫びは、声にならなかった。選り好みしていられる状況でなかったとはいえ、高コストの呪具を連発し過ぎたせいで、大量に呪力を持っていかれてしまったので。
「一から十まで補助輪なしでやれたのは成長だ。最後に力尽きたのは頂けないが」
よくできました。微笑んだ坂本の手が、目元に触れた。
ぽかぽかするような正のエネルギーが、じんわりと流れ込んでくる。言葉にするのもしんどかった気分がゆるゆると楽になり、今度はすっぽりと掌で包み込むように、掠り傷だらけの手を握られた。冷え切っていた神経のこわばりが、心地よい熱で文句と一緒にやさしく溶かされてゆき、禪院真依は〈反転術式〉の感覚に身を委ねながら、ようやくほっと息をついた。
今日はもう呪具は作れそうにない。体力不足なのは指摘されるまでもなく、嫌というほどに自覚していた。
よしんば雪女を仕留めきれず戦闘が続いていたとして。一級呪霊相手に通用する〈RORSCH MK-1〉のような強力な
膨大な手間暇と面倒な下準備の末に“
「総評はあとでいいか。とりあえず、歩けるか?」
頷きを返すと、禪院真依はひとまず懐から試験管型の格納呪具を取り出し、
“
ぽすん、と抱き止められる。「難しいみたいだな」坂本は顔を覗き込むと、禪院真依の背中と膝裏に腕を入れて、横抱きに持ち上げた。俗に言うお姫様抱っこのまま、車を停めてあるところまで運ばれる。
「おじさま」
「うん?」
幸いにも、周りに見ている人間はいない。込み上げる恥ずかしさと、むずがゆさと、打算を交えながら。禪院真依は、おずおずと口にした。
「……ごほーびが欲しいです」
「どんな?」
「甘いもの」
「たとえば」
「原宿に、新しいクレープ屋ができたって」
「わかった。それくらいは正当な報酬だな」
やった。「なら、今からは?」
「今からは厳しいんじゃないか。動けないだろ」
「すぐに治ります。お腹すいちゃったの」
「急がなくても、クレープ屋は逃げないさ」
「今日がいいな。せっかくふたりっきりだから。だめ?」
ちょっと考えるような、沈黙のあとに。
「……いいよ」
よぉし。
「それと、おじさま」
「ああ」
「――キス、して?」
彼にしか聞かせない、甘えた声でオネダリすると。
ほんのり苦笑されたが。それは叶えられた。
季節外れの凍死体発見に端を発する呪霊事件は、そうして幕を下ろすことになった。
6.
蜜ばんだ吐息が弾んでいる。
…ん”っ♡♡ ぁ”っ♡♡ …ん…っ”ふ…っ♡♡
呪術高専東京校の医務室。重症患者や体調不良者のための清潔なベッドには、今は誰も寝ていない。
ぱんっ…ぱんっ♡♡ ぱんっ…ぱんっ♡♡
誰も立ち入れないよう、
「ぁ”…また…っ”♡♡ ~~~~~~~ん”ぅ”ぅ”ぅ”…っ♡♡♡♡」
壁に背中を押し付けながら。家入硝子は坂本の肩にしがみつき、びくびくびくっ♡♡と身体を痙攣させた。着衣のまま対面立位で繋がっている坂本は、官能に震える家入硝子の尻を持ち上げるように支え、ぎゅう~~~っ♡♡と締め付けられながら、彼女の紅潮した首筋に唇を這わせる。
はぁっ♡♡♡ はあっ♡♡ …んくっ……あむっ♡♡ はむっ…んぢゅっ♡♡ れろ…んちゅ…♡♡
ぶわり、と匂い立つフェロモンが坂本の鼻腔をくすぐる。交合を始めてから先にアクメしてばかりの家入硝子は、とろんと眼差しを蕩かしながら坂本の舌に執拗に吸い付き、坂本もくびれを抱き寄せると、挿入を維持した状態でより深く粘膜を混ぜ合わせてゆく。
お互いのシャツのボタンをキスを続けながら外してゆき、坂本は背中に手を回してホックを外すと、肘掛けに脱ぎ捨ててあるパンツや上着の傍に蒸れたブラを投げ置き、てらてらと光る唇を離した。
唾液の糸が、粘着いた橋を架けている。双眸を交わすと、どちらからともなく、ソファーに移った。
「ん…♡♡」
ごろんと寝転んだ家入硝子が、ぐっしょりと濡れたショーツを下ろし、くぱぁ♡♡と薄いマニキュアを塗った指先で
ぬるぬるに
オ”っ♡♡ …んむっ♡♡ あむっ♡♡ れろ…♡♡ んちゅ♡♡
律動に合わせてボリュームある乳房が嬌艶に踊り、ぱちゅっ♡♡と腰を打ち付けるたびに、クールな仮面を脱ぎ捨てた家入硝子が情熱的なベロちゅーを求めてくる。坂本は勃起した淫核に正のエネルギーを流しながらしこしこ指でコスり、ぷしっ♡♡と早漏れアクメするも懸命に絶頂をこらえようとしているオンナのハメ鳴き声によって欲求を高めてゆくと、途中で後ろから覆い被さるように体位を変えた。重たげにたわんでいる柔乳をもにゅっ♡♡ むにゅっ♡♡と揉みしだきつつ、そろそろ一回目の射精が近いことを耳元に囁く。
びくびく♡♡しながらナカ出し催促してくる家入硝子に口づけし、熱と汗を重ね合いながら、ソファーのスプリングを
ごちゅんっ♡♡ びゅるるる~~~~~っ♡♡♡
「―――――――――――オ”ォ”ッ”ッ”ッ”♡♡♡♡」
ぶしっ♡♡♡♡ ぶし―――っ♡♡♡♡
絶賛アクメ中のポルチオに、容赦なく吐精してゆく。亀頭と子宮口を密着させながら、びゅぶっ♡♡ びゅるるるっ♡♡ どぷぷぷ…っ♡♡と迸る
坂本に上から圧し掛かられている家入硝子は、押し寄せる熱々な奥イキ快楽に上肢と下肢をふるわせながらも、なんとか意識は手放さずに耐えている。
……ォ”…ォ”……ォ”ぉ”………ッ♡♡♡
ぬぽっ♡♡と引き抜くと、逆流した精液がぽたぽた滴った。几帳面に処理されていた陰毛を、半固形のオスオスしい白濁が汚している。
ソファーも、噴きまくった汁でびちゃびちゃになっていた。イチモツは剛強さを失っておらず、どうするか考えようとしたそのとき、ほとんど囁くような音量で家入硝子が呟いた。
聞き逃さなかった坂本は、家入硝子の身体を起こすと、要望通りに正面から抱きかかえた。対面座位になる。ずぷ…♡♡と挿れ直しはしたが、抽挿は止めていた。ひとしきり余韻が収まるまで、背中を撫でてやる。
首筋に吐息がかかった。腕のなかで家入硝子が身じろぎし、何も言わず、見上げてくる。自然と顔が近づき、舌を触れ合わせた。ずずず…♡♡と
ごくん、と白い喉が上下して。
「んっ♡♡ …いいよ、動いて」
そう言った家入硝子に、やれそうなのかと問いかければ。「トーゼンじゃん」と坂本の首に手を回し、胸板に乳房を押し付けて、あくまでも余裕そうな笑みを返してくる。
「ちゅーがくせいに手ぇ出すような…わるーいロリコンせーしは…今のうちに、ぜんぶ搾り取っておかなきゃだし…♡♡」
ナカに収まっているペニスがぴくっと反応してしまうと、家入硝子は恥じらいと刺激に赤らみながらも、ますます笑みを深めて、坂本の耳朶を震わせた。
「がまんしないでいいよ。…おじさん専用の、せーえき袋…♡♡ もっと…ざーめんでいっぱいにしろ…♡♡」
淫靡なゆーわくに、
泣いても止めねえからな。そう低い声で囁き返し、ぶるりとふるえた家入硝子の細腰を、
メスの性なる弱点へ、―――どちゅんっっ♡♡♡と捻じり込んで。思うがままに、行為を再開する。
お”っ♡♡ お”ぉ”ぉぉォォ~~~~~っ”っ♡♡♡♡
オホオホしい嬌声が途絶え、
壁紙にこびりつきそうな性臭を含んだ汚れや痕跡を隅々まで手早く片付けた坂本は、ベッドに寝かせ〈反転術式〉を施した家入硝子の頬を撫ぜると、目を覚ました彼女に別れを告げてから、医務室を後にした。
セダンに乗り、ラジオを掛ける。キャロル・キングの「スマックウォーター・ジャック」を流しているところを見つけ、赤信号に引っ掛かったとき、懐の携帯が鳴った。
発信者画面には、“与幸吉”の文字が表記されている。
・三輪霞 … ミーハー。初めての東京旅行でトラブルもあったが、新しい友人ができて満足。ところで、喋るパンダとはいったい…?
・叔母さん … B型。
・チンピラ … わからされた。へし折られた
・禪院真希 … すーぱーイケメンJC。
・禪院真依 … 一級呪霊相手に頑張った。切り札として【極ノ番】の構想を練っているが、あまり上手くいっていない。
・家入硝子 … チン負けアクメした。