※この作品はR-18です。

ユー・アー・マイ・スペシャル   作:グリム・グリルグリン・グリーングリップ

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 呪術廻戦アニメ第44話、素晴らしかったですね。「クギサキ…」で泣き、「ブラザー!」で笑い、「ミワ…」で泣き、「ブラザー!!」で笑う。最高だぁ…




























 そして今回のオホ声は控えめです




03 よし

 

 

 

 7.

 

 

 

 枷場菜々子(はさばななこ)には、物心がつく前からそれ(・・)が見えていた。それ(・・)は不定形で様々な大きさを持ち、村の鬱々とした雰囲気の墓場で目にすることがあれば廃屋の物陰や時に木々の葉っぱの裏側に見かけることもあって、常に行動を共にしていた双子の妹である枷場美々子(はさばみみこ)にも同じように見えていた。

 そんな自分たちには不思議な「ちから」があって、それはどうやら自分たちの内側に宿っているらしいということを朧気ながらに理解して、物心がつくようになるとそれ(・・)が村の人には見えないことを知り、やがて他の人には「ちから」も無いことを知った。

 

 “他の人には見えないものが見えて”、“他の人には真似できないちからがある”ということがどんな意味を持つのかを理解したときには、双子の周囲のほとんどは「敵」になっていた。

 

 村にとって不気味な異物である双子は、村の幼い希少な子供たちの格好の標的となった。水をかけられる。外で干していたものを汚される。してもいないことをしたと言って悪評を撒かれ、大勢の前で怒鳴られながら叩かれる。

 枷場菜々子たちの母親は、よく言って聞かせますので、と村長に平謝りしては、疲れ切った声音で双子を咎めた。それ(・・)が見えない母は双子を庇わなかった。父には、生まれてこの方そもそも会ったことが無かった。

 

 複数人に押さえ付けられて泥水を飲まされそうになった時、枷場菜々子は無意識に「ちから」を使って反撃した。

 大人も子供も揃って双子を糾弾した。腕の折れた子供の親が怒鳴り込んできた。玄関先で土下座している母。親たちが帰ると、母が双子を見た。瘦せ細った身体。落ち窪んだ眼窩。痩せこけた頬。色艶を失った黒髪。

 

 なんでなの? 母が呟くように言った。なんで、こんなことするの?

 先に手を出したのはあいつら(・・・・)だよ。双子は叫ぶように言い返した。悪いのはあっち(・・・)だよ、おかあさん。わたしたち、がまんしてたんだよ。ずっとたたかれてたのに。がまんしてたんだよ。分かってほしくて、泣きながら訴えた。

 

 ぽつりと母が言った。そのまま殴られてればよかったじゃない。

 

 次の日、母が倒れた。

 

 母は寝たきりになり、呼びかけにも応えなくなり、ぼんやりと天井を眺めているだけになった。

 

 やがて、母は死んだ。眠るように死んでいるのを、双子が発見した。揺り動かしたときに触れた身体は冷たく、布団には死臭が籠っていた。

 外では、燦々と蝉が鳴いていた。

 

 子供だけで生活することは難しかった。食事を恵んでもらうために、村人に頼らざるを得なかった。

 見殺しにするのには抵抗があったのか、食事は得られるようになった。日に一度だけ。決して多くはない。もらおうとするたびに、陰口を叩かれた。頼み方が気に食わないと、手をあげられた。

 家に持ち帰り、二人で食べる。咀嚼する音だけが響く。会話はない。

 

 横になる。二人で母の布団に潜り込む。向かい合うようにして眠る。

 

 妹の(あざ)のある寝顔を見つめながら、不意に枷場菜々子は、目頭が熱くなるのを抑えきれなくなる。

 

 どこにも居場所がない。誰も私たちを助けてくれない。誰も私たちの言葉を信じようとしてくれない。

 

 鼻をすすり、喉を震わせ、それでも妹に悟られないよう、枷場菜々子は懸命に目をつむる。

 

 いつのまにか、枷場菜々子の呼吸は穏やかになっている。うっすらと瞳を開けていた枷場美々子は、姉が寝息を立てていることを確認すると、気づかれないように目を閉じる。

 

 闇。

 

 夏の終わりが近づく頃、村から死人が出た。

 

 すぐに双子が疑われた。いつぞやの悪評のように、まるで身に覚えのない話だった。誰にも話を聞いてもらえず、檻の中に閉じ込められた。

 

 昨日から何も食べていない。身体は傷だらけだった。

 

 そんなときに、その男は現れた。

 

 

「これは、なんですか」

 

 

 村長に連れられて来たその男が、双子を見下ろしていた。

 

 この二人は頭がおかしい。不思議な力で村人を襲うのです。村長が、男に訴えるように言った。一連の事件の原因はこの子供たちなのでしょう?

 

「違います。原因は別です。それも先ほど、私が取り除きました。この子たちは――」

 

 私の孫もこの二人に殺されかけたんですよ。付き添いの女が、男の言葉を遮った。

 遮られた男は、表情を変えないまま双子を見やると、「そうなの?」と平坦な声で訊いた。

 

 枷場菜々子は、かぶりを振った。「ちがう、それはあっちが、」枯れかけの声で答えようとして。

 

 黙りなさい化物め! 女が激高した。あなた達の親もそうだった、やはり赤子の内に殺しておくべきだった!

 

「……あーあ」

 

 露骨なため息が、水を差した。何がおかしいんですか! 女が叫ぶと、男がわらった。

 

「もう喋らないでいいぞ、ババア(・・・)

 

 低い声で言った男の傍らに、「それ」が生じたのは同時だった。突如として何もない空間に現れた「それ」は、女に飛び掛かると頭頂から爪先までもを呑み込み、その身体を軽々と宙に浮かび上がらせた。

 

「耳障りが過ぎる」

 

 ■■■! ■■■■!! いきなり呼吸ができなくなった女は、全身を呑み込んだ「それ」のなかで必死の形相で藻掻くが。そもそも「それ」が何であるのかすら分かってないため、藻掻くことしかできていない。

 

 枷場菜々子の目には、女を持ち上げる「それ」が見えていた。枷場美々子の視線も「それ」を追っており、驚愕に染まっている。

 「それ」は透明のようでいて月明かりに透かされると完全な透明ではなく、水のように不定形でありながら水とは異なる性質を持っていて。

 「それ」が宙を踊るが如く虚空を滑る様子は――女の藻掻き苦しむ姿すら一瞬忘れて、双子が魅入ってしまうほどに、とても美しく見えた。

 

 ■■■■! 村長が叫び声を上げる。それよりも早く、非術師には不可視の「それ」が、村長の顔面にべたり(・・・)と張り付いた。男の呪力によって操作される油体(ゆうたい)は、双子にとって恐怖と嫌悪の象徴であった村長の身体を芋虫のように転がすと、その口腔に侵入して一切の発言と行動を封じた。

 

「死にはしない。どの程度の圧力なら人は壊れるのか……人が窒息するまでに掛かる時間は何秒か、その辺りの境目(ライン)は、あなた方よりも私のほうがよく知っている。だから、少し黙っててくれ」

 

 這い蹲って鼻息を荒くする村長に、冷然と微笑んだ男が、そっと檻の鍵穴に触れた。油体が鍵穴に入り込むと一秒もかからずに開錠され、檻が開かれる。

 

 男が入ってくると、枷場菜々子はとっさに妹を抱き寄せた。

 

 男はゆっくり屈み、視線を双子と同じ高さを合わせると、穏やかな口調で言った。

 

「大丈夫。俺は君たちの敵じゃない」

 

 背後で、女を覆い包んでいた油体が解かれた。派手な音を立てて崩れ落ち、白目を剥いて失神している。

 

「安心していい。あいつらはもう何もできない。君たちを傷つけることもしない。もちろん、俺もね」

 

 男の眼差しは、優しかった。

 

「話せる?」

 

 二人は、同時に頷いた。

 

「君たち、名前は?」

 

 顔を見合わせる。

 

「はさばななこ」

「みみこ」

 

「……枷場(はさば)?」

 

 やはり、同時に頷く。

 

「そうか。菜々子ちゃんと、美々子ちゃんか」

 

 いい名前だね、と呟きつつも。男は相変わらず芋虫になっている村長をちらと一瞥すると、ため息をついた。「ちなみになんだけど、君たちのお母さんの名前は――」

 

 男が口にする。それは確かに、双子の母親と一致していた。

 

「確定か。……そういえば、自己紹介がまだだったね。俺は――」

 

 男は名乗り終えると、少し困ったような笑みを浮かべた。「どうも、君たちのご両親の、遠い親戚。らしい」

 

「しんせき?」

 

「血の繋がりのある人ってこと。急に言われても驚くよな、俺も二重の意味で驚いてる。ところで菜々子ちゃんたちは、どうしてここ(・・)に?」

 

 何があったんだ。その質問に、双子はわかる範囲で答えていった。村で虐められていたこと。母親が死んだこと。村で変死体が出たこと。事件の犯人として閉じ込められていたこと。「焦らなくていい。ゆっくりでいいから」相槌を打つ男の態度は、たとえ拙い言葉であっても、返答が詰まってしまったときでも穏やかなままでいて、声音も極力二人を怖がらせないように意識されていた。

 

 優しい眼差しも、あたたかい言葉も、最後に向けられたのはいつだったか思い出せないくらいに久しぶりであった双子は、戸惑いながらも、次第に男に対する警戒と緊張を解いてゆく。

 だからこそ最後に訊かれた言葉にも、頷くことが出来た。

 

「確認なんだけど。見えてるよね(・・・・・・)?」

 

 男の人差し指の上では、油体が螺旋状に動いていた。

 

「だよな。わかった、それじゃあ――」

 

 ちょっとごめんよ。そう男は断ってから、枷場菜々子の腕に触れた。

 途端に男の指先から、あたたかで心地よいものが流れ込むと、みるみるうちに傷だらけだった腕の痛みが消え、痣が引いていった。顔や足にも触れ、それらの云われなき暴力の痕跡を治癒すると、男は同じように枷場美々子にも〈反転術式〉を施してゆく。

 

「これで、動けるかな」

 

 一瞬で怪我が治った。そんな絵本に出てくる魔法のような現象に、びっくりして双子が顔を見合わせていると、男が立ち上がった。

 

「まほう?」

 

「似たようなものかな。じゃあ、行こうか」

 

「いくって」

 

「こんなじめついた(・・・・・)ところにいつまでも居たくないだろう? 俺もこんなやつらを見た後で、君らを置き去りにするわけにはいかないし」

 

 男は振り返ると、恐怖で目が飛び出しかけている村長と女の頭を無造作に鷲掴んだ瞬間、全身から、空気が震撼するほどの「ちから」を漲らせた。

 死の危機に瀕して一時的に呪力が見えていた村長が、断末魔めいたくぐもった悲鳴を上げるが。男は気にしたふうもなく、慣れた手つきで実行に移してゆく。

 

「よし」

 

 絶大な「ちから」の放出が収まると、完全に意識を手放した村長と女が、ごとりと床に転がった。記憶野の一点(ピンポイント)に呪力を流し込むことで、非術師に限られるが一定期間の記憶を大した後遺症も残さずに破壊するという絶技の意味を、双子は一片も理解していなかったが。

 

 立ち上がれど、まだ檻の中にいた双子に向けて、男が手を差し出した。

 

「……いいの?」

 

「もちろん」

 

 扉は開かれている。

 

「安心していい。俺は、君たちを助けに来たんだ」

 

 男は、最後の一歩を踏み出せずにいる双子に、静かに微笑んで言った。

 

 顔を見合わせると。頷き合って。

 恐る〃々、双子は檻の外へと出た。

 

 檻の外に出て。どこか夢のなかにいるような、ふわふわとした気持ちになりながら、もう一度、男のことを見上げて。

 

 おずおずと、差し伸べられた大きな掌を握った。

 

「ここにはしばらく戻れない。必要なものがあるなら、取っておいで」

 

 それから、枷場菜々子と枷場美々子は男に言われて自宅に寄った。二人が持ち出したものは、しかし何もなかった。家は双子が閉じ込められたあとに荒らされたのか窓ガラスが割られ、引き出しは引っ繰り返され、古い写真や母の遺品なども、庭に置かれたドラム缶の中で灰になっていた。

 

「いいのか、何も持たないで?」

 

「「うん」」

 

 忌々しい記憶の巣。悪意に晒され続けた日々。それでも、自分たちの家だった。荒らされた今となっては、面影くらいしか残っていないが。

 同時に、ここに戻ることはもうないのだと思った。これで、お別れなのだと。

 

「それは?」

 

 男が取り出したものを見て、枷場菜々子が訊いた。

 

宿儺(すくな)の指。さっき拾ったんだ」

 

 あまりの気味悪さに、枷場美々子が男のジャケットの裾をぎゅっと握る。「まあ、見てて楽しいモンでもないよな」男は苦笑しながら、それ(・・)を村の入り口にちょこんと置いた。

 

「元々この村に封じられていたみたいだから、勝手に持ち出すわけにもいかないだろ? 胸糞悪かったし、俺としてはどっちに転んでもいい。運試しってところかな」

 

 村の外へと通じる道を歩き出す。三人で手を繋ぎ、横に広がって。誰からも咎められず、誰に馬鹿にされることも無い。

 途中で森を疾走する呪霊に襲われもしたが。それも男が一瞬で祓ってしまった。

 

 今のってなに? わたしにもできる? 枷場菜々子が興味津々で問いかけている傍らで、枷場美々子は、すっかり遠ざかった村へと続く道を振り返った。

 

「みみこ?」

 

 いつも張りつめていた姉の顔には、弾んだ笑みが浮かんでいる。枷場美々子はかぶりを振り、自然と口端を緩めた。

 

 ばいばい、おかあさん。心のなかで、そっと告げる。

 

 振り返ることは、もうしなかった。

 

 

 

 8.

 

 

 

 追跡者たちから庇うように、大きな身体に抱き締められている。

 ああこれは昔の夢だな、と家入硝子(いえいりしょうこ)はすぐに気が付いた。

 

 誰にでも過去はある。障害者福祉の発展を世界中に広めたヘレン・ケラーは、幼少期から視覚と聴覚の重複障害を抱えていた。女性で最初のノーベル賞を二度も受賞したマリ・キュリーは、差別が根強い時代の貧しい家庭に生まれたが、勉強と研究の末に夫と共にラジウムを発見した。

 いにしえの由緒正しき名家に生を受け、周囲とは隔絶した比類なき才能を誇る傲慢クソガキな性格に育った男がいれば、一方では平凡な仮面の下に想像を絶する手札を隠し、いかなる敵対者をも圧倒し得る反則級の計り知れぬ実力を秘める男もいる。生まれ落ちた時代は関係ない。誰しもが、人それぞれの事情を抱えている。

 

 かつての追憶。物心がつく頃には籠の鳥として生かされてきた、他者を癒すことが出来る特別な能力(ちから)を持つ少女も、そうだった。

 ただし組織が混乱する最中に出会ったのは、それまで自身の周囲にいた監視役や世話係や信者たちの誰とも異なる性質を持つ、裏社会の悪党(アウトロー)で。

 

 ――「今日があんたらの命日ってわけだ。盛大に祝ってやるよ」

 ――「イワッテヤルヨー」

 ――「俺の真似か、それ?」

 

 ――「取引だと。御三家は脳にまで糞が詰まってんのか、今してるところだろうがよ。俺たちを追うのを諦める、そしたら引き換えにあんたらを見逃してやる。これが取引の条件だ。嫌なら断ったっていいんだぜ。俺はあんたらが死んで業界がどうなろうが知ったこっちゃねえんだ。むしろ腐ったクソが掃けたほうが、世の為ヒトの為かもしれねえしなあ」

 ――「さすがはおじさん。口悪いね、どっちが悪役かわかんないよ」

 ――「…この状況でよくそんな茶々入れられるな。おまえ、すごいよ」

 

 ――「嘘じゃない。死なねえよ、おまえは」

 ――「むりだよ。できるわけない」

 ――「いいや出来るね。舐めて貰っちゃ困る。おまえの前にいるのは、とびっきり(・・・・・)の腕利きで、“最強”だって倒した男なんだぜ。守ってみせるさ、硝子」

 

 ワケありガールと最凶ヒットマンの凸凹コンビが逃避行する少女漫画(ティーンコミック)みたいな展開が繰り広げられるのを、家入硝子は心の敏感で繊細な部分が夢の中なのにむずむずして堪らなくなるのを感じながら、時系列を無視した進行で再体験してゆく。

 

 ――「最後くらい、お兄さんって言えよ」

 ――「やだ」

 ――「泣いてんのか?」

 ――「泣いてないし」

 

 ――「ねえおじさん」

 ――「うん?」

 ――「……………やっぱ、なんでもない」

 ――「顔赤くなってるぞ」

 ――「……っ、ニヤニヤすんなっ」

 

 あれれれ私ってこのときそんな(ハズ)いやり取りしてましたっけ、と平静を装いながら随所に突っ込んだりしていると、場面(シーン)が突然ホテルに切り替わった。

 

 追跡の目を逃れるために泊まった部屋で、タイミング悪く脱衣所の扉を開けてしまい、シャワー上がりの男と目が合ってしまう。鍛えられた上腕二頭筋と着痩せする逞しい胸板に刻まれた数々の傷跡、吸い付きたくなるような首筋と色気を感じざるを得ない魅惑的な鎖骨のライン、武骨で大きくて温かい手のひら、そして臨戦態勢前だというのに目を見張るほど巨大な……一物(イチモツ)

 

 場面が飛ぶと、次の瞬間には、裸の男に押し倒されている。

 

 ――「どうせ死ぬんだったらさ、一度くらいシテみたいじゃん。それで、……それなら、ハジメテはおじさんがいい」

 

 二人してベッドに倒れ込み、至近距離で見つめ合いながら。瞳に互いだけを映し合いながら、言葉を交わす。

 

 いいのかという男の問いに、はにかんだ笑みをした少女(じぶん)が、慎ましく口づけを返した。

 

 ――「奪ってよ、私を」

 

 あれれれれれれれこれってもしかして明晰夢というか淫夢とかのそれ方向のやつなのでは??

 ダウナーな表面の反応の下で実は取り乱している家入硝子の目と鼻の先で、生まれたままの姿になると、赤裸々な行為が始められてしまう。

 

 ちゅ…♡♡ ちゅぱ♡♡ んちゅ♡♡ んむっ♡♡ ちゅぷ…♡♡

 

 唇を触れ合わせる。未成熟の肉体が豊潤の姿へと開花し始める時期、こどもとおとなのあいだ(モラトリアム)という階段を上り出した一三歳の時分の少女は、目をつむり、こわごわと手探りするような調子で唇を交わしてゆく。

 

 夢中で押し付けていると、途中で息が苦しくなり、その様子を男からくすくす笑われたりしながらも、徐々に息継ぎのコツがわかるようになると、今度は好奇心に従っておそるおそる舌を入れてみる。舌はすぐに絡め取られ、その刺激は少女にとって著しい羞恥と未知の快感を伴っていて、頬に激しい熱を感じながらも、少女は男に導かれるように粘膜を深く絡ませ合うと、より淫らな水音を奏でる、大人のキスへと引きずり込まれてゆく。

 

 接吻の合間に、男の手が少女の膨らみかけの乳房に触れた。(つぼみ)を愛でるように撫ぜられ、びくっ♡♡と反応してしまう。耳元でからかうように囁かれる。頬をますます赤らめて「まじヘンタイ」とか「クズロリコン」やら言い返すが、その抗議はキスで甘く塞がれ、儚い抵抗も容易く溶かされてしまう。柔肌をなぞる指先は艶めかしく、感度と期待は否応なく高められてゆき、ゆっくりと肌を滑っていた指が、ついに(へそ)の下、足の付け根、既に湿り気を帯びる淡い茂みへと触れた。

 

 んんっ♡♡ やっ…待って…♡♡

 

 媚びた声。弱々しく、不安と興奮の見え隠れする、取り繕えない、自分のとは思えないほど媚びた雌の声が漏れてしまって。まだ前戯でしかないのに、これ以上ないくらいに恥ずかしくなる。けれど男は薄く笑うだけで、まるで意に介さず、クリトリスを刺激し始める。

 キスや胸を触られている時よりも「いやらしいことをしている」背徳感が段違いに大きくて、生々しい快感がより強い興奮に結び付けられてゆき、罵倒している余裕なんて当然無くなると、その余裕の無さを見越したように、次第に指の動きが速められてゆく。

 

 筋肉が硬直し、乳頭がぴん♡と勃ち、太腿がびくびく♡♡痙攣し始め、全神経にガクがくがくっ♡♡♡と震えが伝播する。

 

 んんん~~~~っ♡♡♡♡とひときわ嬌声を(こら)えきれなくなった瞬間、ぷしっ♡♡♡♡と弾ける水音を聞き、浮遊感にも似た制御不能の快楽に放り出され――数秒間、息が止まった。

 

 …んぁ”……っ♡♡ …ォ”…ホ…っ♡♡ ……ォ”…♡♡ ……ぁ”……っ…♡♡

 

 凄まじい絶頂が尾を引き、ぴく…ぴく…♡♡と身体には余韻が響いている。自慰でオーガズムを迎えた経験がなく、ましてや気持ち良過ぎて潮を噴くなどそんなもんAVの演出とか脚色だろと思っていた少女は、ようやく快楽から帰ってくると、男と目が合った。

 

 ちゅ…♡♡ んむっ♡♡ あむ…♡♡ れろ…♡♡ んむっ♡♡ ……ちゅ…♡♡

 

 キスされる。まだ陶然としていた少女に、余裕然と男が微笑んでいる。キスして欲しそうな顔してたから。心の内を見透かしたように言われ、少女は屈辱感が燃え上がるのを感じ、出来うる限りの表情筋を動員して男を睨みつけようとして、失敗した。

 

 ぷいと顔をそむける。

 

 ――「やだ…こっち、見んなし……」

 

 

 そして鬼畜な男に脚を開かされ、あれよあれよとほぐれ切った穴ぼこに、イチモツが押し当てられて――

 

 

「………、」

 

 何時の間にか、場面(シーン)が切り替わっている。

 

 天井。柄が変わり、見覚えのあるものになっている。カーテンの色も、テーブルも。間取りも。

 

 というか、跳ね起きる。

 

「―――、」

 

 場所を確認する。

 

 ベッドの上だった。しかしホテルではない。

 

 自分の部屋だ。そして自分ひとりしかいない。

 

「…………はあー」

 

 家入硝子は。

 起き抜けに珍しく真顔になり、朝一番だというのにため息をつき、ベッドから降りようとして。途中であることに気づき、動きを止めた。

 

「……さいあく」

 

 パジャマの中が、なんかじっとりと濡れている。

 

「もうまじ最悪。むりなんだけど」

 

 ぶつぶつ毒づきながら、家入硝子は汚れたショーツとパジャマを洗濯機に入れた。

 

 寮部屋のシャワーで寝汗を洗い落とし、換気扇を回すと、がたがた動いている洗濯機に寄りかかりながら、煙草をくわえた。ブラはつけておらず、新しく出したショーツしか履いていないが、ふと、かつてよりも、しっかりと膨らんだ胸が目に入った。

 

 なんとなしに、揉んでみる。むにむに。もにゅもにゅ。持ち上げたり、寄せてみたり。昔と比べたら、明らかにたわわに実った乳房。如実に変化した、女としての特徴に富んだ肢体を見下ろす。

 

「――は、」

 

 急に馬鹿らしくなり、家入硝子はニヒルな笑みを浮かべた。

 

「めんどくせー」

 

 換気扇の回る音と、洗濯機の動く音を聞きながら、しばらく紫煙を吐き続けた。

 

 

 

 9.

 

 

 

 まったくもって、予期せぬことだった。

 

 今学期も終わりを間近に控え、残り数回となった授業を終えると、自分以外には二人しかないクラスメイトの馬鹿話に呆れて廊下に出たところで、雪が降っていることに気が付いた。

 道理で寒いはずだと、雪のちらつく窓を横目に角を曲がろうとしたとき、家入硝子の視界に、担任である夜蛾正道が誰かと立ち話している姿が飛び込んできた。

 

 その人物の両脇には小学生くらいの女児二人が引っ付いていて、女児は夜蛾正道のコワモテな顔つきに少し怯えながらも、保護者らしきその人物になだめられつつ、何か受け答えをしている。

 

 家入硝子は、その男(・・・)に見覚えがあった。

 

「え」

 

 というか、今朝方の夢(・・・・・)で見た顔だった。

 

 

「――おじさん?」

 

 

 

 

 10.

 

 

 

 まったくもって、予期せぬことだった。 

 

 つまらないし意味があるとも思えない授業を終え、親友の夏油傑とくだらない話に興じつつ。そういや自販機のラインナップが新しくなったって話だから見に行こうぜと廊下に出たところで、「うおー、さびー」「雪降ってるよ、悟」曲がり角で、家入硝子が立ち尽くしているのが見えた。

 

「なにしてんだ、あいつ?」

 

「なんだろうね」

 

 夏油傑と一緒に、肩越しに曲がり角を覗き込む。「おーい、なにしてんの? ツチノコの大群でもいた?」

 

 そして。

 夜蛾正道と話している、その男(・・・)を目にした瞬間――

 

 

 

 五条悟の脳内に、存在しないはずの記憶(・・・・・・・・・・)が、溢れ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






・坂本 … 猿どもにオシオキした。新しい義娘(かぞく)が増えた。

・枷場菜々子 … 本作では姉になった。救われた。おとうさん、ダイスキ…♡

・枷場美々子 … 本作では妹になった。救われた。おとうさん、ダイスキ…♡

・猿の村 … 呪霊においしく頂かれた。派遣された呪霊操術の使い手にマモレナカッタ敗北を刻み込んだ。

・呪霊操術の使い手 … 守護るべき人々の醜悪な側面を知らずに済んだ。闇堕ちの機会を失った。依然ストレスがマッハ。

・家入硝子 … 原作の素性が不明なので過去を超絶爆盛された。一三歳の夏、生涯忘れられない冒険をした。なお夢は夢に過ぎないので現在も処女()






・最強のクソガキ … 瞬間 脳内に溢れ出した 存在しないはずの記憶――























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