リンくんの寝室は、前回よりも少し片付いていた。
旅行鞄は隅に畳まれ、机の周りにはスケッチブックが整頓されて置かれている。
リンくんは寝室に入って扉を閉めたところで、ボクの腕を解放した。
「……で、どうすりゃいいんだ」
ボクはベッドの前に足を進めて、扉の脇に佇んだままのリンくんを振り返った。
「どうにでもしていいんですよ。道具を使うなら取ってきますし、魔法陣を使うなら今ここで描きます」
「道具って何」
「鞭とか縄とか手錠とか」
「いらねぇ」
「あ、気持ちよくなれるお薬もありますよ」
「体に悪そうだな」
「良くはないですね」
顔をしかめるリンくんに、うんうんと頷きながら靴を脱いでベッドの上に上がって座り込む。リンくんは険しい表情のまま、ベッドに近付いてきた。
「お前は……」
「なんでしょう?」
「……やったことあんの。その、鞭とか手錠とか」
「プレイ用の鞭は、服の上からだとそんなに痛くないですよ?」
鞭でぶたれたことはあるし、娼婦のおねーさんたちに縄や手錠をかける側もやったことがある。
ボクが首をかしげると、リンくんは唇を硬く噛み締めた。
「リンくん、早くこっち来てください」
掛け布団の上に座り込んで呼ぶと、リンくんは暗い表情のままベッドの上に移動し、ボクに手を伸ばした。
「リンくん?」
両手で、ぎゅっとボクの体を抱きしめる。
「……目ぇ離すんじゃなかった。お前の家が大変なのは、分かってたのに」
耳元で囁かれ、ボクは目を泳がせた。
なんだかとてつもなく勘違いされている気がする。
「リンくん、リンくん。深く考えすぎです」
リンくんの背中を叩いて、にっこりと笑いかける。
「済んだことは仕方ないですし、未来のことを考えましょう。ボクとどんなプレイをしたいですか? ボクは、子種を中に出してくれれば何をされてもいいですよ」
「……そうだな」
リンくんが腕を緩めて、力を抜いて笑った。うーん、と首をかしげる。
「何って言われてもなぁ……普通でいいよ、普通で」
「普通の子作りエッチですね!」
「うん」
リンくんが笑うと、ボクも嬉しくなる。
「じゃあ、普通にやりましょう!」
「あぁ」
リンくんが、ぐい、とボクの体を引き寄せたので、ボクは慌ててリンくんの唇を手で覆った。
「…………おい」
「なんでしょう」
「この手は何だ」
「あのですね、リンくん」
ボクは僅かにリンくんから体を話して滔々と語った。
「初めてのキスは、本当に好きな人とした方がいいそうですよ?」
娼婦のおねーさんの受け売りである。
リンくんは眉間に皺を寄せた。
「お前、誰か惚れた相手がいるのか」
「いえ、ボクは別に……でもリンくんは先ほど好きな相手がいると」
「問題ない」
リンくんはボクの手首を掴んでボクの体を引き寄せると、強引に唇を重ねた。
こういう時は目を閉じるのが作法と聞いていたので、反射的に目を閉じる。
暫く経ってもリンくんが動こうとしないので、目を開くと、距離が近すぎてぼやけたリンくんの顔がそこにあった。リンくんも目を閉じているようだったので、また目を閉じる。
心臓の鼓動が指先まで響くのを感じながら、そういえばこれがファーストキスなんだなぁ、とボクはのんびり思った。
五分にも十分にも一時間にも思える沈黙の中、リンくんはようやくボクから唇を離した。ほぅ、と息を吐く姿はエッチだった。
「レイ」
「……なんでしょう」
脈拍数の上がった体を抱きしめ、息を整えるボクを見て、リンくんは目を細めた。
「もっかい、キスしていいか」
「どうぞ」
「ありがとう」
キスは別に、そこまで感謝されることでもないと思うのだけど。
リンくんはボクの火照る体を抱き寄せて、再度唇を合わせた。
「ん……」
布の擦れる幽かな音が寝室に響き、ボクは体を震わせた。耳まで赤くしたボクを見て、リンくんは小さく息を吐いた。
「レイ、口開けられる?」
リンくんの言葉に、ボクは頷いた。口を小さく開けると、リンくんの舌が口の中に入り込んで、ボクの歯を舐め、舌をつついた。ボクは慌てて身を引いた。
「レイ、嫌だった?」
「い、いやでは、ないですけど」
リンくんの服をぎゅっと握った。頬が熱くて、どうしてだか、リンくんの顔を見ることができない。
「あの、無理しなくていいですからね」
「無理?」
「ボクは、その……本当に、子種をいただければいいので。こんなに優しくする必要はないというか、そういうのは本命の方に取っておくというか」
「レイは、俺の好きにしろって言った」
リンくんはボクの頬に軽くキスをして笑った。
「だったら、俺が好きなように抱いていいだろ」
「それはそうなんですけれど」
リンくんは、更にボクと唇を合わせて、舌を絡めながら、ボクの腰に手を這わせた。
「リンくん……?」
リンくんの手がズボンの中からシャツを引っ張り出そうと動くのを見て、ボクは声をかけた。
「あの、脱ぎましょうか?」
「脱がせたい。駄目か?」
リンくんの言葉に、ボクは首を横に振った。
「キミの好きなようにしてください」
リンくんは了承するように、またボクと唇を重ねた。唾液で湿った唇が、ちゅ、と音を立てた。
ボクがどうしたらいいか分からず固まっていると、リンくんの手が服の中に侵入し、腰をなぞった。
「レイ、気持ちいい?」
「……いえ、別に」
多少は体が火照ってはいるが、だからと言って男子の間で回し読みされる娯楽小説のように『あぁん、らめぇ、気持ちいぃ』と喘ぎはしないのである。あれはフィクション。いや魔法陣なり薬なりを使えば似たような状態にはなるが。
そのあたりはリンくんも知っているようで、ボクの体を撫でながら小さな声で「まぁそうだよな」と呟いた。
「どっか好きなところある?」
「好きなところ?」
「触られたいところとか、気持ちよくなれるところとか」
「あぁ、性感帯ですか」
リンくんの言葉に頷く。
「あぁいうのは個人差が激しいと言いますからね。まぁでも、挿入すれば誰でも気持ちよくなるんじゃないですか?」
娼婦のおねーさんたちも、だいたいそんな感じだったし。
ボクの適当な言葉に、リンくんは首を傾げた。
「……何で伝聞系?」
「どこが気持ちいいとかよく分からなくて」
「なるほど?」
リンくんは「難しいな」と呟きながら、シャツのボタンを外しつつ、ボクの体をまさぐった。
「あの、本当に、そこまで真面目にやらなくていいですからね。ボクは子種さえ貰えれば別に気持ちよくなる必要はないので」
「レイ、この胸のやつ何」
リンくんがボクの胸に巻かれた布を指で触った。
「あー……」
ボクは一旦ベッドの上に座り直し、乱れたシャツを脱いだ。上半身に身に着けたのは、胸にぐるぐると巻いた布だけになる。
「この布は、胸を潰すためのものです。ほら、ボクは『男の子』なので胸が膨らんでは困るでしょう? 平らな胸を維持するために、できるだけ食べないようにしたり、寝ている間も胸を潰す布を巻いたり、色々としていたのですよ」
「それで芸術院のころよく倒れてたのか……」
「お陰様で成人してもぺったんこ、服の上から胸を揉まれても女と疑われたことはありません」
ボクが無い胸を張ると、リンくんは不機嫌そうに唇を曲げた。
「外せ」
ボクは首を傾げた。
「これ、一回外すと付けなおすのが面倒なので、できるだけ外したくないのですが」
「不健康だ」
「……リンくん、もしかしてボクの胸を揉みたいのですか?」
無言で、リンくんは耳を赤くした。
「正気ですか? ガリガリですよ? 揉むほどの胸はありません。まだリンくんの胸の方が大きいと思います」
「うるせぇ」
「まぁ、それがリンくんの望みだと言うなら外しますけれど」
一回見れば諦めもつくだろう。
留め金を外して、きつく巻いた布をくるくると外す。露わになった肌を見て、リンくんは顔を歪めた。
「……布の跡がついてる」
「だから言ったでしょう、見ない方がいいと」
リンくんは、布の跡が残る肌を指で撫でた。そのまま、手のひらで包み込むように胸を触る。ボクが予想した通り、揉むほどの胸はなかった。リンくんがぎゅっと手のひらに力を込めたので、ボクは悲鳴をあげた。
「痛いです!」
「ご、ごめん」
リンくんは慌てて手を離した。ボクは唇を尖らせた。
「触ってもいいですけど、痛めつけたいなら予告してください」
「いや……加減が分からなくて……」
肩を落とすリンくんの手を、ボクは自分の胸へと導いた。
「大きな胸を揉みたかったら、娼館に連絡しますので、いつでも言ってくださいね」
「そういうのはいらん」
リンくんはボクの胸に触れながら言った。
リンくんはどうやらボクの胸に興味津々だったが、ボクの方は手持ち無沙汰である。ボクが顔を寄せると、リンくんは手で胸に触れながら唇を何度も重ねてくれた。ボクの胸を包み込むように撫で、鎖骨の下から腹の上までを何度も行き来する熱い手のひらに、ボクは申し訳ない気持ちになった。
「リンくん、リンくんはどこか触られたいところなどありませんか」
「いい。いらん」
「でも……」
さきほどから太ももに熱いものが当たっているのである。
手を伸ばしてズボンごしにちょっと触れると、リンくんの体がびくりと反応した。
リンくんは慌ててボクの腕を引き離すと、強い口調で言った。
「お前は何もするな」
「はい」
そういうプレイをご要望らしい。
リンくんはボクを仰向けに寝かせて、腕を片手で頭上に抑え込むと、もう片方の手でボクの乳首をつまんだ。
「気持ちいいか」
「……えーと、普通?」
「そうか」
リンくんは真面目に頷くと、乳首を捏ねながら何かを考えているようだった。
「……リンくん、何を考えているんですか?」
「いや……」
「喘げばよいのですか? じゃあ今から喘ぎますね! やらぁ、そこらめぇ、感じちゃうのぉ」
「やめろ。萎える」
娼婦の皆様を真似てエッチな声を上げたらリンくんに嫌がられた。お気に召さなかったらしい。
まぁリンくんの<直観>スキルは大抵の嘘も見抜いちゃうしなぁ、とボクはリンくんに胸を弄られながら思った。リンくんは、暫くの間、難しい顔でボクの乳首をつまんだりひっぱったりしていた。
ボクは適当なところでリンくんの腕を叩いた。
「リンくん、こういうのは素質もあると言いますし、ボクが不感症なのかもしれません。仕方ないですよ」
「そうだな……」
リンくんはボクの胸に口元を寄せ、舌で乳首を舐めた。濡れた感触に、一瞬妙な感覚が体をよぎったが、それがどのようなものかはよく分からなかった。
「レイ、気持ちいいか?」
「……よく分からないです」
ボクに気を使ってくれるリンくんに申し訳なさを覚えながら、ボクは先に進むことを提案した。
「あの、リンくん。服を脱ぎませんか? 直接肌を合わせたら何か変わるかもしれません」
ボクは上半身が裸だが、リンくんは服を着たままだ。ボクの最終目標は中に出してもらうことなので、上半身だけ裸でもなんの意味もないのである。
リンくんは素直に同意して、ボクたちは服を脱いで全裸になった。ボクはリンくんの体を見た。やっぱり胸はリンくんの方が大きい気がする。
「リンくんって意外と筋肉ありますよね……」
「お前が細すぎるんだ」
リンくんはボクを押し倒しながら、ボクにまたキスをした。唇を開けると舌が入り込んでくる。リンくんは片手で体重を支えながら、もう片方の手でボクの胸を撫でた。
「レイ」
「んっ、」
キスの合間に名前を呼ばれる。リンくんの青い瞳が、優しく細められた。
「レイ」
「リンくん……?」
リンくんの声があまりに優しいので、ボクは気恥ずかしくなって顔をそむけた。
「リンくん、下は触らないのですか」
「……触るけど」
「では、触ってください」
リンくんが体を離したのに合わせて、ボクは仰向けになったまま、足を大きく開き、太ももを両手で固定した。いわゆる『くぱぁのポーズ』というやつである。
「リンくん……えっと……」
おねーさんたちはいつもどう言ってたっけ?
ボクは忘れてしまいたい記憶の中から、慌ててエッチな語彙を拾い上げた。
「リンくんの……お、大きな肉棒を、ボクのおまんこに入れて、白い熱いのを、びゅーびゅー中出し、して、ください……?」
リンくんはボクに覆いかぶさったまま、手で顔を覆った。
「お前はどこでそういう言葉を覚えてきたんだ」
「え、間違えましたか? えっとじゃあ……ボクの子宮を、リンくんの精子で、いっぱいになるまで種付けしてください、とか」
「もういい何も言うな」
リンくんは、深々と息を吐いた。エッチな言葉で相手を煽ることを、言葉責めと言うらしいが、リンくんはボクの言葉責めはお気に召さなかったようである。どうすればリンくんが喜んでくれるのだろう、と足を開いたまま考えていたら、リンくんがボクの割れ目を指でなぞった。乾いた感触に、リンくんは眉根を寄せた。
「……全然濡れてないな」
「そうでしょうか? 奥の方は濡れていますよ」
ほらほらここ、と狭い割れ目を頑張って指で広げてみせると、リンくんは「そういうもんか」とあっさり頷いた。リンくんの手が、ボクの太ももを開くように撫でる。
「入れるぞ」
「はい」
了承の返事を返す。
性器への挿入は数日前に経験済みだ。あの時はボクが上に乗ったため、なかなか苦労したが、既に処女膜は貫通済みのはずである。今回はリンくんが丁寧にあちこち触ってくれたし、きっと気持ちいいはずだ。
リンくんの性器が、ボクの割れ目に触れる。
ぐっと体重がかけられた。
「狭……」
リンくんが、何かに耐えるように大きく息を吐いたが、ボクの内心は大混乱である。
え、何これ。前より大きい気がするんですけど。
前の時は入っていなかったんじゃないかと思うくらい凄い。いや多分マジで入っていなかった。そこ絶対ダメでしょ、無理でしょ、という隙間にリンくんのモノが入り込もうとしているのである。ミチミチである。奥は確かに多少濡れているのだが、その前の乾いたところで既にきつい。リンくんのものが濡れているので辛うじて痛くはない、嘘、めっちゃ痛い。だがリンくんが嬉しそうに目を細めるのでボクからは何も言うことはできない。苦悶の声が出そうになり、ボクは慌てて口元を抑えた。
リンくんはボクの様子に気が付き、荒い息を吐きながらボクに問いかけた。
「……レイ? どうした?」
「…………ぁ、っ、」
「……………………大丈夫か?」
「ぁ、いっ、だ、だいじょぶ、ですっ」
リンくんが一瞬動きを止めたので、ボクは悲鳴のような声を上げて叫んだ。
「ぬかないで!」
リンくんは目を見開いた。ボクは布団を掴んで、歯を嚙み締めた。
「……おく、いれて」
「レイ、お前まさか」
「リンくん、おねが、いっ」
リンくんは再び細く長く息を吐いた。観念するように目を閉じ、また開くと、ボクに体重をかけてのしかかる。
狭い狭い場所に、深く深く、楔を穿つ。
ふーっ、とリンくんが息を吐いた。ボクの太ももに手をかけ、体を割り入れるように体重をかける。
「……ぁ、っ、」
ちょっと体勢が変わるだけで、ボクの入り口が大きく擦れる。
「レイ、大丈夫か」
「ん、リンく、っ、……きもち、い?」
「あぁ、すげぇ、いいよ」
「リンく、ぜん、ぶ、はいった……?」
「まだ半分」
「うそぉ……」
股関節をいっぱいに開き、泣きそうになっているボクに、リンくんは優しく口づけた。
「レイ。息をしろ。力抜け」
ボクはシーツから手を離して、リンくんの背中に腕を回した。はふはふと息を吐く。
「リンくん、っ、リンくん。ね、ぜんぶ、はいった?」
「あとちょっと」
「んっ……」
リンくんが胸を撫で、ボクの耳元や首筋に唇を落とす。痛いのか気持ちいいのかは分からなかった。ボクの体はリンくんのものを受け止めるのに精一杯で、それ以外のことなんて頭になかった。
口の中にたまった唾を飲み込み、リンくんの背中に必死でしがみついていると、何かのタイミングでリンくんが大きく息を吐いた。
「レイ。全部入った」
「あ……」
ほうっと息を吐く。必死で開いていた太ももから力を抜き、だらりとベッドの上に投げ出す。ボクが抱きつく腕の力を抜くと、リンくんはボクの唇にキスをした。
「ん。よく頑張ったな」
よしよし、と頭を撫でられ、ボクはほっ、と笑った。ボクからもリンくんの唇に吸いついてから、ボクは両手と両足でギュッとリンくんの体にしがみついた。繋がった部分が擦れて、リンくんが深々と息を吐く。
「レイ」
リンくんがボクを見た。リンくんの瞳はギラギラと輝いていて、欲情しているんだなぁと思った。
「リンくん、きもちい?」
「あぁ、すげーいい……」
「よかったぁ」
ボクがくすくす笑うと、リンくんはまた深く息を吐いてボクにキスをした。この人、めちゃくちゃキスをしてくる。キスが好きなんだろうか。
何度目かわからないくらい唇を重ねていると、リンくんが小さく腰を動かした。
「レイ」
「や、っ……」
リンくんの腰にしがみつく足の強さを強めると、リンくんは困ったように目じりを下げた。
「……そろそろ動いていいか」
「あっ、ん」
「痛いか?」
リンくんの質問に、「……ちょっとだけ」と小さな声で答える。
「そうか」
リンくんはぐっと奥歯を噛んだ。
「レイ」
また、唇を合わせる。リンくんはボクの胸を撫でたり、乳首を捏ねたり、唇や首元や鎖骨に吸いついたりしたが、繋がった部分はきついままだった。
「リンくん」
「ごめん、レイ、ちょっとだけ」
リンくんが腰を揺らし、ボクは慌ててリンくんの体にしがみついた。
「あ、リンくん、リンくん」
「レイ、っ、」
「リンくん、なか、中にちょうだい、リンくん」
リンくんがぎゅう、とボクの熱い体を抱きしめた。
リンくんは、ボクが頼んだ通り、きちんと中に出してくれた。