最弱の魔族「趣味は読書、好きな食べ物は特にないです。」 作:夢馬
実はこの魔族は魔族の本質に近づいています。研究者気質なのは魔族らしいですね。
昨夜はあまり気持ちよく眠れなかった。あのクソ男のせいだ。
今日はどこにも出ずに家でゆっくり読書でもしようと思う。読んでない本が沢山あるんだし。
私が読書に目覚めたのは、確かこの街に侵入して、物色ながら観光していると、街の中央付近に大きな図書館があったからだ。
私はそこで初めて本というものに触れた。
レンガでずっしりと建てられたその建物のエントランスはなんなく通行できた。まぁ、私の角は髪にほとんど隠れているからだと思う。
入ってみると、そこには様々な色の背表紙、厚さを持った本が1度に見渡せないぐらいに広がっていた。
私は見知らぬ土地の中の見知らぬ、壮大な世界にすこし怖気付きながら館内をふらふらと回ると、あることを不思議に思った。
私は文字を知らなかったはずなのに、なぜか背表紙に書かれている文字を読めたのだ。
確か私は『エルフの勇者と古の魔王』という本をおもむろに手に取ったことを覚えている。そして、中をペラペラと捲ってみても、ページの文字をスラスラと読めた。
なんでかはわからなかったが、それよりもわからないことは、私がなぜ文字が「文字」だとわかったのかだ。
...私は以前から、「誰か」の思考が「私」の思考に入ってきているよう感覚があった。それは他の魔族から、私の思考が変だと言われたから間違いないように思える。ある魔族は興味深そうな目でこちらを凝視してきたけれど。
不思議に思って、私はそこで、手に取った本を片っ端から呼んでみた。
幼児向けの絵本、小説、大人向けの小説や、そして魔法書などを何十冊も読んでいたら、ある男が私に声をかけてきた。
「こんにちは。この辺では見ない顔ですが、本に興味があるのですか?」
私はとりあえず「はい」と伝えた。するとその男は私がこの街の者ではないことを知っていた如く、次々に街の外の者が本を借りる方法を教えてくれた。
「この街に住んでいて、住所を教えてくだされば、本をお貸しすることができます。あとは、ご職業などをこの紙に書いてくれればいいですよ。」
「住所は...ない。年齢はわからない、職にもついていない。」
「住所はない、ですか...わかりました。では、どこか住む予定のところはありませんか?」
「ない」
「そうですか...あの、もし宜しければ、私が紹介しましょうか?」
「なぜ、そこまでしてくれるの?」
「あぁ、すみません。いや、数時間前から熱心に様々な本を読んでいるのを見てしまって...貴方みたいな人がここをより利用してくださるのが、こちらとしても幸福といいますか...」
「そう。じゃあ紹介して。どこでもいいわ。」
「はい!では、私も住所把握することになりますし、本、ぜひ借りていってくださいね。で、住所の方は...」
と、確かこんな感じの会話があって、今の住所と趣味を見つけられたから、あの男には感謝している。私を襲わないし。
あまり、魔族の私が公権力の中枢がある街の中央をふらつくのはあまりよろしくないことだと気づいてからは、こっそりと週になんどかはそこに行って、男と読んだ本について話している。なかなか楽しい時間だ。
そんな訳で、私は読書家になってしまった。
人間の感情に満ちた小説は、魔族の私にとっていい教材になったし、人間の知性と努力に満ちた魔法書などは、私が生きていくための技術を磨くために役にたった。魔法の研鑽に役に立たなかったことは無かったし、私の新たな趣味に魔法探しが加わった。
健やかな朝に、本を読んでたら、扉を叩く音がした。
本を机に置いて、扉を開けると中年の女がそこにいた。
「あんたかい?新しくこの部屋を借りる女ってのは?」
「はい」
「お金あるんだろうね?ここはあまりいい土地じゃないけれど、それなりには貰うよ。」
私は適当な返事をして扉を閉めて考えた。
お金の問題か。住所を借りれてもそのためにお金が必要らしい。身体を売るにも、私の特性のせいでまともな事にならなそうだし、何よりも、男とあれをするのは嫌悪感があった。筋力とか持久力とかも人並みだし、そもそも私は女の姿をしているので肉体労働には向いていないし...
私は閃いた。私の家の近くは貧困区域だ。そこには怪我や病気で苦しむ人が多くいるのを私はこれでもかと見てきた。あの馬鹿な人たちを相手に商売をすれば、魔族であることを上手く隠せて稼げるのでは?と。
それから私は、図書館から「回復」や「医療」に関する魔法などの本を借りてどんどん読んで行った。
他の「火を噴く魔法」とか「雷を落とす魔法」とかよりも、私なこちらの魔法が適していたのか、私はどんどんと技術を上げていった。
その間、家賃の催促とかはなかったから、あの男が払っておいていたのかもしれない。
...こんど、なにかお返しした方がいいのかもしれない。私の読んだ本に、受けた恩は返すべきものと書いてあったはず。
そして今日、ある程度、回復魔法を叩き込んで自分なりの改良などを加えたあと、私はすぐ貧困区域に向かってそこで商売を始めた。
「怪我、病気で困っている人いませんか〜!報酬さえあれば、どんな病気でも治してみせますよ〜!」
とまぁ、こんなことをして宣伝していたのだが、治安の悪いところで若い女がそんなことをしていたので、当然、襲われた。
正直、驚いた。人間の雄は確かに私を襲うけれど、昼間から人目がつく場所で私に腰をうちつけ初めたのだから。
この状態になると、雄は満足するまで交尾するのをやめない。その間、本当に一言も喋らないし、無防備なので、私はつくづく馬鹿だなぁと思う。しかも、何よりも気持ち悪い。
でも、私の存在がこの地区に知れるきっかけとなったから良かったのかもしれない。
私が犯されている間に、周りに沢山の男の人がやってきたからだ。その中には、今にも死にそうな老人や、皮膚が赤い穴だらけの中年もいたが、私を普通に襲ってきた。あるものは股のものを私の口に突っ込んできたりした。
その間に私は、実験と宣伝をしようと思って、男たちに回復魔法をかけていた。
「傷口が閉じる魔法」、「炎症をおさえる魔法」、「肌に潤いを持たせる魔法」とか、大怪我さえ治る「聖なる光の魔法」などを次々と私はかけていった。
男たちは交尾に夢中で、そのことに気づいていないようだが、正気に戻ったとき、大変驚くだろう。
最悪なことに、
私はあの貧困区域で、交尾をしたら健康になれる、と評判になった。
最悪だ。でも、お金や食糧を持ってきてくれるのは嬉しかった。
この雑魚魔族が、朝に読んでいた本は『悪徳な聖職者の手法』みたいな本でしょうね。
人間らしいと思っている人がいるかもしれませんが、こいつ、単に人を殺すという衝動が極めて薄い魔族ですし、研究者気質なのか、魔族の存在自体の研究をしていますから、つくづく変な魔族ですよ。
普通、犯されるのって凄い嫌なこと、二度と体験したくないことですけど、こいつ特になんとも思っていないですし。ただ嫌悪感があるというだけです。
雑魚魔族は、結局、スラム街の男全員と交尾することになります。
やったね。