あれ!? 短編じゃないですかね、これ。
すみません、連載中にしておきます(汗)
エンゲージリング 10
一日目の夕食のおかずの一品の予定だったさんまの刺身は蒲焼に変更になった。だが元々、立城の料理の腕前はかなりのものだ。刺身から蒲焼に変わったところで美味いことには違いない。フォローのつもりで言った真也の言葉に立城は恨めしそうにため息をついた。
一度、欲求に身を任せてしまった真也に迷いはなかった。何しろ立城は相変わらずの格好で家の中を歩き回っているのだ。それで欲情するなという方が無理に決まっている。そう確信しながら真也は何度か立城に訊ねた。
「なあ。ついでだからかんっぺきに穴開けようぜ」
「遠慮するよ。真也って容赦がなさそうだし」
そんなやり取りを朝から繰り返し、一時間したところで真也の我慢の限界が訪れた。それが二日目の始まりだった。
「まだ傷が塞がってないのに!」
ソファに押さえ込んだ立城は一晩たったからなのか、前の日とは別人のように元気に暴れる。真也はだが強引に身体で立城を押さえつけた。ソファに倒れた立城が手足を振り回してもがく。
「嫌だったら!」
「んな、遠慮することねえだろ。それに」
真也はにやりと笑って立城の股間に手を這わせた。それまで暴れていた立城の動きがぴたりと止まる。息を飲んだ立城に笑いかけながら真也は陰唇の周辺を指でなぞった。
「しっかり濡らしてんじゃん。大丈夫だって。ちゃんと女にしてやっから」
「そっ、そういう問題じゃなくて! あっ、どさくさに紛れて何してるの!?」
喚く立城の口を唇で塞ぎ、真也はあらかじめ指に挟んでおいたチョコレートを膣口に差し込んだ。直径三センチほどの球のチョコレートを膣口に挟んだまま頭をずらす。膣の奥深くに異物が入ることを恐れたのか、立城は真也を睨みつけてはいるが暴れるのをやめている。
「心配しなくても全部舐めるし」
「……兄弟とか男同士とか、そういうことは気にしないの? 真也は」
既に諦めたのだろう。ため息混じりに言って立城は大人しく足を開いた。瞼を手で覆って天井を仰ぐ。真也はそんな立城を鼻で笑ってチョコレートに口をつけた。
その日の夜、とうとう立城は降参の意を示した。
「判った。もう抵抗はしないよ。その代わり、元の姿に戻る時に君の記憶を僕にうつしてもいいかな」
その日も朝から幾たびも交わった。ベッドに疲れた身体を横たえて言った立城に真也は苦笑した。記憶を写すのはいつものことだ。今さら、何をわざわざ訊ねる必要があるのだろう。真也は気軽に立城に頷いてみせた。
三日目。
「真也。電話だよ」
同じベッドで眠っていた真也は立城の声で目を覚ました。差し出された受話器を寝ぼけながら取る。横たわったままで耳にあてがうと聞き慣れた声が聞こえてきた。美鈴だ。
「あー? 何だよ、こんな朝っぱらから」
『もうお昼よ?』
言われるままに時計を見る。よほど昨日は疲れていたらしい。美鈴の言う通り、時計は十二時過ぎを示していた。
『それよりっ。さっきの電話の人、なに!?』
どうやら用件よりそちらが気になっているらしい。美鈴の声は少し尖っている。欠伸をしながら真也は頭をかいた。寝室からはいつの間にか立城の姿が消えている。どうやら気を遣ってくれたらしい。
「言ったろ? 兄貴がいるって」
『何言ってるのよっ。女の人の』
「ボイスチェンジャーとか知らねえの? 大崎って」
そう言って笑うと電話の向こうで美鈴が黙る。真也の言うことを全部は信用していないようだが、一応は機嫌も直ったらしい。面倒だなあ、と思いつつも真也はしばらく美鈴の話に付き合った。どうやら街外れに今度新しく出来た遊園地に行きたいというのが電話の主な用件らしい。
「あー……悪い。明日は俺、ちょっと無理だ」
『えーっ。だってゆかちゃんとかも来るって言ってたのにー。彼氏みせあいこするって約束したんだからあ』
鼻にかかった甘え声を聞きながら真也はそっとため息をついた。だから何で俺の承諾なしで勝手に決めるんだよ。それにゆかちゃんって誰だ。不服と疑問を胸のうちに隠して真也は再度、詫びた。不満の声を上げる美鈴に適当に言葉を返し電話を切る。切った電話に向かって真也はため息をついた。
「誰が誰の彼氏だ」
「普通に考えたら彼女が真也を彼氏と思うのは当たり前なんじゃないの?」
呆れたように言いながら立城がドアを開ける。不満一杯の顔で電話を睨んでいた真也は立城を横目に見て力なく笑った。
「行ってあげたら? 春休み中なんだし、用事はないでしょ?」
高校の準備はもう出来てるしね。当り前の顔をして言った立城を真也は横目に睨んだ。ベッドのシーツを剥ぎ取りにかかった立城の手首をつかまえる。
「きっちり穴開けるんだろ」
「もう血は出ないと思うよ。痛みはあるけど」
二日目の交わりの折にも立城は出血した。回を重ねるごとに出血量は少なくなってはいたが、まだ相当に痛むらしい。涼しい顔で言ってのけた立城を見ながら真也は喉の奥で笑った。
「んだから、ちゃんと気持ち良くなるまでするっつったろが」
「ちょ……まだ洗濯の途中なんだってば」
だがそう言いつつも立城は抵抗らしい抵抗はしない。大人しく真也に引っ張られるままにベッドに手をつく。真也は寝転んだまま、立城を引き寄せた。倒れてきた立城を胸にしっかりと抱きとめる。
三日目になってもやっぱり立城は初日と同じように男物のシャツを一枚着ている。どうせ脱ぐんだから着なきゃいいじゃん。真也がそう言うたびに立城は困ったように笑うのだ。シャツ越しに立城を弄りつつ真也は目を閉じた。立城の身体からはほんのりと花の香りが漂っている。芳香剤のような鋭い匂いではない。かと言って天然のポプリのような濃厚な香りでもない。自然な、本当に野に咲く花のような穏やかな香りが立城の身体から漂っているのだ。
ラベンダー、かな。どこかで嗅いだ事のある香りを思い出しながら真也は深く息を吸った。
真也鬼畜説。