これをデートというかは判りませんが!
あ、エロシーンはありません。
「実は服を見立ててもらいたいんですよね」
「服? ああ、ひょっとしてこの間の子?」
納得顔で麗花が問う。真也はしばし言われている意味が判らなかった。だが記憶を辿って理解する。違う、と手を振って真也は言葉を継いだ。
「この間のとは別。ええと」
説明しようと真也は手をテーブルの上に出した。ふむふむと言いながら麗花が身を乗り出す。だがそこで二人の注文した紅茶が運ばれてくる。話を一時中断し、真也はティカップを取った。麗花はストローの袋を破って氷の入ったグラスをかき混ぜる。
「胸がこのくらい、ウエストがこのくらい、ヒップが」
カップを置いた真也はそう言いながら手で立城の体型を示してみせた。真也の手の動きを見ていた麗花が呆れた顔になる。
「それじゃ判んないわよお。具体的な数字は?」
「サイズ?」
「……他に何があるのよー。もう、真也君ってばお茶目ねー」
くすくすと笑いながら麗花がグラスを取る。真也は眉を寄せてこめかみをかいた。具体的にサイズを示せと言われても実際に立城のサイズを測ったことはない。うーん、と呻いた真也に麗花は悪戯っぽく笑みかけた。
「私と比較しなさいよ。私と」
「でも麗花さん、サイズ変わってない?」
ためらいもなく訊いた真也の頭を麗花が指で小突く。真也は額を押さえて苦笑いした。どうやら麗花は以前と体型がほぼ変わっていないらしい。なるほど、と頷いて真也はカップを傾けた。
のんびりと茶を飲んでいる間に外はすっかり夜になっていた。夕飯をと言いかけた真也を制して麗花が立ち上がる。
「とりあえず先にお店に行きましょ。閉まっちゃうから」
「あ、はい」
言われるままに真也は伝票に手を伸ばした。だがつかむ寸前に麗花がそれをさらう。怪訝に思いながら顔を上げた真也に麗花は片目を閉じてみせた。
「ここは払うわ。真也君にはこれから派手に出費してもらうから」
「うっわ。やっぱ?」
笑いながら真也は麗花と共に街に戻った。麗花は自然に真也の腕に腕を絡めてくる。真也は麗花に歩調を合わせてゆっくりと街を歩いた。人の波を器用に避ける。麗花も慣れたもので真也にすがりながら向かってくる人々を避けた。
麗花が指差した店先で真也は眉を寄せた。俺はちょっと、と遠慮しかけた真也の腕を強く引いて麗花が店に入る。真也は半ば引きずられるようにして下着店に入った。当然のごとく、店内に男性の姿はない。
「だーいじょうぶよお。堂々としてなさいよ。私が一緒なんだし」
「何で下着? 俺、服を頼んだと思うんだけど」
困惑しつつ真也は出来るだけ店内の客と目を合わせないようにしていた。麗花がそんな真也の背を叩いてけらけらと笑う。こういう時の麗花は容赦がない。大丈夫大丈夫と言いながら手にしていた下着を真也の手に無理やり押し付ける。閉口した真也はしかめっ面で麗花を横目に見た。
「やっぱりねー。女の子の服なら下着とコーディネートすべきだと思うのね」
「だからって俺にわざわざ渡すことないじゃん」
呆れ半分でぼやいた真也に麗花が笑いかける。真也は手にしていたブラジャーを麗花に差し出した。フリルのついた愛らしいデザインのブラジャーを麗花が真也の目の前にぶら下げる。
「これ、嫌い?」
「い、いや、そうじゃなくって。麗花さんに任せますってば」
ふんわりとした膨らみのあるブラジャーのカップから目を逸らし、真也は言葉を濁した。麗花がにやにやと笑う。
「今さら下着ごときで恥ずかしがるようなこともないでしょうに」
「頼むよ、もう」
まさか下着の中身を想像してしまったとも言えず、真也は仏頂面でそう言った。淡いピンク色の下着を身につけた立城の姿をついつい想像してしまったのだ。柔らかな乳房をブラジャー越しに触れたらどうなるのだろう。ぼんやりと麗花の姿を目で追いながらそんなことを考える。一度、頭から追い出した幻想が再び思い浮かび、真也は慌てて頭を振った。
麗花は楽しそうに店内に飾られた下着の間を歩く。真也はポケットに手を突っ込んでその後ろをついて歩いた。傍目には中のいい姉弟が買物に来ているように見えるだろうか。だが真也は気が気ではなかった。油断すると麗花が目の前に下着を突き出しては笑う。
「ねえねえ。これは?」
「いや、それはちょっと派手な気が」
思わず素直に感想を述べてから真也は口を押さえた。ほうほう、と言いながら麗花が頷く。片手に持っていたブラジャーを元の位置に戻し、麗花は真也の肩を強めに叩いた。
「何となくその女の子のこと、判ってきたわ。真也君にしてはめっずらしくおとなしそうな感じねー」
「大人しい……かなあ。どうだろう」
困り果てた末に真也はそう答えた。麗花が人の悪い笑い方をしながら次の下着を手に取る。
「下着のデザインで女のタイプってわかるもん?」
からかわれる前に真也は麗花にそう訊ねた。あらあ、と意外そうに声を上げて麗花が振り返る。
「真也君でも判らないの? 今まで散々、脱が」
ごく普通の声で言いかけた麗花の口を慌てて塞ぐ。真也は麗花の口を手で押さえて周囲を見回した。幸い、誰も気にしてはいないらしい。ほっと息を吐いて真也は麗花を睨んだ。
「頼むよ、ほんとに。勘弁してよ」
「変なところで真面目ねー」
ひとしきり笑いつつも麗花は判ったと頷いてみせた。
昭和の話、ということは。
実はこの話の数年後に『冥界への案内人』がきます。
同い年くらいなのですw