「魂の座」というシリーズものに出てきた登場人物の番外編のような話です。
一応、Q&Aは入れておきます。
基本、エロ話ですが、ここにはエロシーンはありません。
エンゲージリング 1
樹齢何年かな。ぼんやりと考えながら真也は大きな桜の木を見上げた。海際のこの街の桜は他のところより少し早く咲く。花を咲かせ始めた桜を眺めていた真也は人の気配を感じて振り返った。友達との別れを済ませたのだろう。目の周りを赤くした美鈴が歩いてくる。真也は片手を上げて美鈴に合図を送った。だが最初から美鈴は真也のことに気がついていたようだ。迷うことなく桜の木の下に近寄る。
「もういいのか?」
顎をしゃくって真也は美鈴の後ろにたむろしている女子生徒たちを示した。卒業式が済んだというのに、相変わらずグランドには人の固まりがあちこちに出来ている。生徒たちの間には保護者の姿も見える。真也は一通りグランドを眺めてから美鈴を見やった。美鈴はつられたように真也の視線を追ってから微かに笑った。
「うん。春休みの間に会う約束もしたし」
「ふうん」
中学を卒業したら別れ別れになる友達が多いことを真也は先に美鈴から聞いていた。だがしばらくは一緒に遊んだりもするようだ。卒業証書の入った筒で肩を軽く叩きながら真也は歩き出した。
今日限りにこの学校ともお別れか。真也は美鈴の話を聞きながら何とはなく心の中で呟いてみた。だが特に感動はない。
真也の通っていた私立学校は市の端に位置している。小高い丘の上にある中学校にはなだらかな坂道がついており、その道からは海が遠くに見える。夜景も綺麗だという噂はあるが、真也はこれまで一度もその夜景を目にしたことがない。中学校に上る坂道は学校の敷地内にあり、私道のために夜間は侵入禁止になってしまうからだ。一度だけ美鈴に誘われて夜中に坂の下まで来た程度だ。
「ねえ、ボタン、どしたの?」
話を中断して美鈴が真也の胸元を覗く。真也はああと笑って筒で背後を指した。
「持ってかれた」
「全部?」
「気付いたらなくなってたな、全部」
拗ねた横顔に笑いかけながら真也は指で制服をつまんだ。黒い学生服は見るも無残にボタンの全てがなくなっている。卒業式の後、教室の外に呼び出されたかと思ったら女子生徒に囲まれた。止める間もなかったな、と真也は美鈴に説明した。だが美鈴はまだ唇を尖らせている。
「何だよ。別に俺のせいじゃないだろが」
「……相変わらずおもてになることで」
厭味のつもりなのか美鈴がにっこりと笑いながら言う。真也は別に、と呟いてそっぽを向いた。
美鈴と付き合い始めて一ヶ月。高校受験もものともせず、美鈴が真也に告白したのがそのきっかけだ。当時のことをふと思い出して真也はつい笑いたくなった。美鈴は失恋する覚悟で告白したらしい。今でも時折、美鈴はその時のことについて語る。だが真也は美鈴がどんなにつぶさに説明してみせても、その手の類の心情がまるで理解出来なかった。
別に暇だし。今は他に女いないし。じゃあ付き合ってもいいかな。その程度の考えで付き合い始めたことを、真也は今も美鈴に言っていない。言えば美鈴が激怒するのは目に見えている。
中学生になった頃から真也はやたらと女性にもてるようになった。それまで隔絶された生活をしていたために、最初は真也も面白がって女性と付き合っていた。最初に声をかけてきたのは女子大生だったか。だが何歳も年上の女性と付き合っても、その挙句に童貞を喪失しても真也は大して思うことはなかった。結局、最初の女性とはうやむやの内に別れることになった。それでも真也はさして寂しいとも思わず、その女性に自分から声をかけようとも思わなかった。
自分の容姿が他人の目にどう映るのかを真也は嫌というほどよく知っていた。何しろ家に戻れば自分とそっくりな双子の兄がいるのだ。だが性格の違いからなのか、顔の造作は同じでも二人の雰囲気はまるで違う。それでも自分がどんな顔をしているのかだけは兄を見ていればよく判る。それ故に女性によく声をかけられても真也は疑問に思ったことがない。
まあ、寄ってくるもんを無碍にすることもないだろうし。そう考えてから真也はふと美鈴を見た。まだ拗ねているのか美鈴はちらちらと真也を伺いつつも唇を尖らせたままだ。
美鈴は恐らくクラスでも男子生徒に人気があったのだろう。二人が付き合うことになったと知ったクラスメイトの中でも特に男子生徒たちは大騒ぎをしていた。尤も、卒業間近ということで顔を合わせることも少なかったのだが。
「そういえばさあ。隣のクラスの西野さんって」
「あ?」
唐突に言われて真也は眉を寄せて不機嫌な声を返した。すると美鈴が横目に真也を見ながら物言いたそうな顔になる。しばし考えてから真也はため息をついた。
「ラブレター持ってきた奴だっけ? あんま、覚えてねえけど」
頭をかきながら真也は答えた。美鈴がそうそう、と頷く。
「どうなったの? それって。あたし、吉良瀬くんがどうしたか聞いてないんだけど」
別にいいだろ、どうだって。反射的にそう言いかけて真也は口をつぐんだ。美鈴の手が微かに震えている。もしかしたら緊張しているのかも知れない。ここで正直に言えばどんな顔をするのだろう。お前の方が顔がまともだったから断った。真也は心の中でだけ正直に言ってから苦笑を浮かべた。
「どうもしない。読めないって返しただけ」
「……ほんとに?」
坂道を車が走っていく。卒業式に列席した保護者たちの車だ。真也は走る車を見ながら頷いた。
「疑り深いな。そんなに気になるなら自分で確かめればいいだろが」
素っ気なく言った真也に驚いたのか、美鈴が目を見張って足を止める。面倒だなあと心の底で呟きながら真也は振り返った。よほど涙腺が緩くなっているのか美鈴は今にも泣き出しそうな顔をしている。海風に揺れるセーラー服のスカーフをしばし見つめてから真也は無言で腕を伸ばした。俯きかけていた美鈴の手を強引に取る。
「今さらそんなことどうでもいいだろ。それとも怖くなったか?」
「べっ、別に怖くなんて」
焦ったように言い返す美鈴の手を取ったまま、真也はまた歩き出した。坂道をゆっくりと下る真也の歩調に合わせて美鈴も歩き出す。手を繋いだまま真也は振り返って笑った。
「卒業記念になんて、大崎も古風な女だよな」
「そんな……つもりじゃ」
それまで泣きそうになっていた美鈴が真っ赤になって周囲を慌ただしく伺う。誰かに聞かれていやしないかと不安になったのだ。ころころと変わる美鈴の表情を面白く思いながら真也は続けた。
「でも家ってのは却下な。後で大騒ぎになるの、目に見えてっし」
「どうして?」
小声で美鈴が訊き返す。これだから、と笑いながら真也は美鈴の頭からつま先までを一瞥した。幼さは少し残っているが割合に整った顔立ち。長い髪はポニーテールにされている。細い首から胸に至るラインは丸みを帯びており、それなりにバストにもサイズがあることが知れる。細い腰、肉付きの薄い足。観察する意味で順繰りに見つめていた真也の頭を美鈴が小突いた。
「いて」
「もうっ、そんな風に見ないでよっ」
膨れ面をした美鈴が不満そうに言う。だがそう言いながらも美鈴の声には期待が含まれているのが判る。真也はにやにやと笑いながら美鈴の耳元に口を寄せた。
「旅行することになってるんだろ? じゃ、泊まりでいいよな?」
真っ赤になってうろたえた美鈴が視線を泳がせる。念を押した真也に美鈴は小さく頷いてみせた。
立城の初回エロの話ですw
立城というか、ゆか(略