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エンゲージリング 19
四日目の朝、真也は昨晩遅く帰宅したにも関わらず早く目が覚めた。白い日差しの入る窓を見つめて目を細める。昨日とは打って変わって空は快晴だ。真也はレースのカーテン越しに雲一つない空をしばし見つめた。
のろのろと枕元に手をやる。目覚し時計をつかんで文字盤を読む。七時前。嫌に早く目が覚めたなと苦笑しつつ真也はベッドを降りた。昨晩、立城を起こさないように気をつけて戻ってきたつもりではあるが、ひょっとしたら物音で目を覚ましたかも知れない。昨日の晩に戻ってきた格好のまま、真也はキッチンに向かった。
「あ、起きたの? 随分と早いじゃない」
立城はこれまでと同じようにシャツ一枚にエプロンといういでたちで真也を迎えた。適当に返事をしつつダイニングテーブルにつく。タイミング良く立城が真也に紅茶を差し出した。
「ちょっと待っててね。フレンチトーストとサラダとスープでいい?」
「目玉焼きつけて」
「了解」
中途になっていた料理を再開しに立城が流しに向かう。どうやら今朝はフルーツサラダがついてくるらしい。立城はティスプーンで丸くメロンをくりぬいてはボールに移している。ボールの中にはヨーグルトが入っており、所々に赤いものが見える。苺かな、と呟いて真也はテーブルに置かれていた新聞を取った。
いつものように向かい合って食事をとる。平静を装ってはいても真也は少し焦っていた。だが身体は正直で、真也は空腹感に負けていつの間にかいつもの量をぺろりと平らげてしまった。五枚目のフレンチトーストを口に運びつつ、真也はちらりと立城を伺った。立城は早々に食事を済ませ、のんびりと紅茶を飲んでいる。
食事を終えた真也は食後の茶もそこそこに立城をリビングに引っ張った。怪訝そうな顔をしつつも立城は文句を言わずについてくる。
「どうしたの、一体」
リビングに所在なげに佇む立城を振り返った真也は大きな箱を抱えていた。あらかじめリビングのソファに置いていたのだ。不思議そうな顔で立城が箱と真也を見比べる。真也は無言で立城の手に箱を押し付けた。
「なに、これ」
両腕に箱を抱えたまま、立城が戸惑いの視線を真也に送る。だが真也は何も言わずに立城に顎をしゃくってみせた。何も言われなくても開けろという意味は理解出来たのだろう。立城は困惑気味に真也に視線を送った後、ソファに箱を下ろして包みを開け始めた。
手触りのよい柔らかな薄紙を開くと、隅に控え目な文字で店名の入った紙箱が現れる。丁寧にテープを剥ぎ取る立城の指の動きを真也はじっと見下ろしていた。自然と顔が緩み、口許に笑みが浮かぶ。床に膝をついて箱に手をかけていた立城が、蓋を取ったところで動きを止めた。目を見張って真也を振り仰ぐ。
「これって……」
「いいから見てみろって」
機嫌よく笑みながら真也は箱を顎でさし示した。立城が恐る恐るといった態でワンピースを取り上げる。立ち上がって胸元にそれをあてがった立城がようやく破顔した。
「僕に?」
「他に誰がいるよ。俺はそっちの趣味はねんだよ」
胸にあてがわれているだけで、藤色のワンピースは立城に似合っていることがよく判る。真也は呆れた顔を作りつつも立城に着るように言った。小さく頷いた立城がその場でシャツを脱ぎ始める。全裸になったところで真也は声をかけた。
「っと待った。これ忘れてた」
ソファの上にあった紙の袋を取り上げる。不思議そうに首を傾げた立城の手に袋を押し付け、真也はソファに腰を下ろした。ワンピースを見てすっかり安心していたのだろう。立城は腕にワンピースをかけて袋を開き始めた。袋の口を覗いて目をしばたたかせる。真也は笑いながら傍に立つ立城を見た。
「んな驚くようなもんか? 下着だよ、下着」
戸惑う立城の手から袋をひったくり、真也は中身をソファの上に広げてみせた。ブラジャーとストッキング、ガーターベルトを並べる。眉を寄せて下着を見下ろしていた立城がふと訊ねた。
「これ、真也が買ったの?」
そう言いながら立城がブラジャーを取る。タグをめくって値札を探しているらしい。が、プレゼント用にと包装を頼んだため、値札はあらかじめ外されている。真也はそのことを説明しつつ、ストッキングを手に取った。つけられたタグを丁寧に取り去る。立城は困ったように笑いつつも下着を着け始めた。ブラジャーを着け、ガーターベルトとストッキングを着ける。ワンピースに合わせた下着は立城によく似合っていた。
「てっきり遊びに出かけたのかと思ったのに」
どうやら昨日、出かけたことは知っているらしい。そのことに苦笑しながら真也は改めてワンピースを立城に差し出した。
「全部、お見通しかよ。相変わらず」
離れていても相手がどこで何をしているのかが判る。それは幼い頃から真也が聞かされていたことだった。立城はその気がなくとも真也の行動を透かし見てしまうらしい。最初は奇妙に思っていた真也も、立城のそんな特性にいつの間にか慣れてしまった。
「うん。麗花さんとホテルにいたでしょ?」
事もなげに立城が告げる。真也は喉の奥で笑って肩を竦めた。
「なんだ。妬いてんのか?」
「なに言ってるの?」
呆れたように返して立城はワンピースを着始めた。すんなりとしたデザインのワンピースはまるであつらえたように立城の身体にぴったりと合っている。それを見た真也は訝りに眉を寄せた。麗花と立城の身体はサイズが多少違う。麗花の比べると立城の乳房は少し小さい。ウエストもヒップも立城の方が細いのだ。なのになぜかワンピースは測ったように立城に合っている。
真也の行動は立城には丸見えなのです。