※この作品はR-18です。

エンゲージリング   作:伊駒辰葉

26 / 40
エロシーンはありません。


エンゲージリング 25

 新しいナプキンにつけかえ、ローターを再び仕込んでも立城はどこかぼんやりとしていた。時折、小さく呻きながら眉を寄せる立城の腰を抱き、真也はゆっくりと家路を辿った。

 

 いつもと同じバス、同じ道、同じ空の色なのに景色がやけに新鮮に見える。隣に座る立城を腕に抱き寄せながら真也は窓の外をじっと見つめていた。窓際に座る立城も窓の外に目を向けている。

 

 立城になら何をしても文句を言われない。だからこれまで真也は自分がいつになく熱心に立城を抱いていたのだと思っていた。晴れ晴れとした気分もそれが原因なのだと思った。他の女性には決してしない無体な真似も、相手が抵抗しないから出来るのだと思っていた。

 

「降りるぞ」

 

 マンションに程近いバス停の名がアナウンスされる。小さく頷いた立城を連れ立って真也はバスを降りた。冷たい風に目を細めつつゆっくりと歩く。真也は行きのような無茶な歩き方はしなかった。出来るだけ立城の歩調に合わせて静かに足を運ぶ。だがそれだけ立城を気遣いながらも真也はローターを抜くとは言わなかった。足取りのおぼつかない立城の腰をしっかりと抱えて進む。

 

 白いマンションは夕暮れの中で浮かんでいるように見える。少しずつ近くなるマンションを見ていた真也はふと人影に気がついた。二人の前を遮る形で誰かが小道に立ち塞がっている。遅れて立城も人影に気付いたらしい。立城の微かな震えを感じた手に力をこめ、真也はため息をついた。周囲を見回して小道の脇に寄り、備え付けのベンチに静かに立城を座らせる。戸惑い気味に視線を返した立城に苦笑し、真也は小声で言った。

 

「大人しくしてろ」

 

 真也はベンチに立城を残し、一人で人影に向かって行った。小道に立ち塞がっていたのは美鈴だった。腕組みをして鋭く真也を睨んでいる。

 

 恐らく取り繕うことは幾らでも出来たのだろう。美鈴は真也のことをとても好いていたし、そのことを真也自身もよく知っていた。相手のことを好きであるが故に脈絡もなく懐疑的になり、嫉妬の念を燃やすことも可能だろうが、逆に言えば盲目的に相手の言葉を信じることも可能だ。どちらをより信じたいかで思い方は変わる。これまでの経験から、真也はその気になれば美鈴に上手く言い訳することも可能だと知っていた。

 

「さっきの人、なに?」

 

 怒りを露にし、美鈴は低く不機嫌な声で問うた。美鈴の怒りが激しいことは言われなくても判る。だが真也は即答を避け、憮然と美鈴を睨み返した。優しいイメージを持つ立城とは異なり、真也がその気で睨むと表情は自然と鋭くなる。顔見知りのクラスメイトの男子生徒が機嫌の悪い真也をやたらと怖がる所以だ。例に漏れず、睨まれた美鈴が怯んだように表情を強張らせる。

 

「何でもいいだろ? 別に。大崎に関係あんのかよ」

 

 美鈴が目を吊り上げて歯を食いしばる。憤る美鈴とは裏腹に真也の応対は実に素っ気ない。それが余計に美鈴の癇に障ったのだろう。真也と歩いていたのが誰かを執拗に問う。だが真也は頑として口を割らなかった。

 

 しばらく押し問答を続けた後、美鈴は苛々と頭をかいて真也に一歩近づいた。

 

「ただの友達ってことはないわよねっ。あんなに仲良さそうに歩いてたものっ」

 

 傍を過ぎるマンションの住人も気にせず美鈴が半ば叫ぶように言う。真也は眉を潜めてじっと美鈴を見下ろした。無意識のうちに怒りが顔に出る。

 

「何だと?」

 

 真也は低い声でそう問い返した。美鈴が唇を噛んでそっぽを向く。自分でもまずいことを言ったと感じたのだろう。美鈴は真也を見ようとはしない。だがそれでも美鈴は自分から言葉を継いだ。

 

「いちゃいちゃしながら歩いてたでしょ! いやらしいったら!」

 

 やけくそ気味に喚いた美鈴をじっと見下ろす。自分でも気付かないうちに真也は目を細めていた。怒りの表情が静かに消える。真也は冷ややかに美鈴を眺めながら唇を歪めた。

 

「……つけたんだな?」

 

 感情のない声にびくりと美鈴が身体を震わせる。それまでの怒りの形相が一転して泣きそうに歪む。目を潤ませて美鈴が恐る恐る真也を見る。だが真也は美鈴の態度が豹変しても冷静だった。

 

「悪趣味だな、お前。わざわざ先回りしたのか」

「だっ、だって!」

 

 我慢出来ないという素振りで美鈴が泣き始める。涙を流しながら切々と自分の感情をぶつけてくる美鈴は、真也にとってさして興味はわかなかった。関係を修復しようという意欲もわかない。やれやれと肩を竦めて真也は深く息をついた。




さすがに喧嘩になるよね!w
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。