エロシーンはまだありません。シャワーは浴びてます。
エンゲージリング 30
用意されたものを前にして真也はごくりとつばを飲んだ。何と言うことはないただのマッサージゼリーなのだが、その時の真也の目にはそれがいつもと違って見えた。低く呻いて振り返る。背後に立っているのは立城だ。
「何で爪きり……」
「とりあえず先にお風呂に入ろうか。清潔にしないとね」
何でもないことのように告げて立城がバスルームに向かう。真也は途惑いつつも立城の後を追って寝室を出た。
六日目の朝は二人とも早くに目を覚ました。しばらく互いの身体を触りあってからベッドを降りる。この日は珍しく真也も朝食の準備を手伝った。手持ち無沙汰で仕方なかったこともある。真也は立城に言われるままにレタスを剥いた。
朝食はやけに豪華だった。ご飯に納豆、焼き魚、刺身に野菜サラダに豆腐とわかめの味噌汁。海苔の佃煮、鰯の梅煮、とろろいもの三杯酢和え。とどめに肉じゃがまで出された真也はさすがに唖然とした。
多すぎないか、これ。そう言った真也に立城がにっこりと笑いかける。いつもより余計に体力を消耗する筈だから、というのが立城の弁だった。短時間でそれだけの料理をこしらえてしまう立城の腕前には正直、感心はする。だが立城の顔には昨日見たためらいの色はどこにもない。結局、真也は促されるままにテーブルにつき、朝食を味わった。
だが不思議なもので、多すぎると思っていた真也自身が先に朝食を平らげた。どうやら成長期に入った身体には思った以上の食料が入るらしい。
ため息をついて真也は服を脱いだ。食事の後、立城に言われて寝室に赴いた真也は出されたものを見て絶句したのだ。いつの間にか立城は手にマッサージゼリーと爪きりを持っていた。
「なんでお前があんなもん持ってるんだよ」
半ば呆れながら真也はぼやいた。既にシャツを脱いでバスルームの扉に手をかけていた立城が肩越しに振り返る。
「たしなみでしょ?」
「い、いや、そーかも知れないが」
だがそれを使う機会はこれまでなかったのではないか。そう訊きかけて真也は口をつぐんだ。大体、どこで購入したというのだろう。普段の買物も殆ど特別に配達してもらっているのだ。真也がよく行くマーケットの若奥様がサービスと称してしてくれているのだが、さすがにその女性にそんなものを買いに行かせた訳ではないだろう。通信販売かな、と適当に見当をつけて、真也はそれ以上は立城に訊かなかった。
浴槽には湯が張られている。湯気のたちこめるバスルームに入った真也はまず最初に身体を洗うためにシャワーの前に座った。隣では立城がのんびりと髪を洗っている。
「なあ。その色ってそろそろ落とさねえ?」
「ん? もう飽きた?」
苦笑しながら立城がシャンプーのついた髪を両手に挟んで泡立てる。しばし口ごもってから真也は低く小さな声で言った。
「あの髪、好きなんだよ。けっこう」
言ってから真也はそっぽを向いた。立城は髪を洗っていた手を止め、その後、ぷっと吹き出した。
「んだよ! 笑うことねえだろ」
恥ずかしさと情けなさに落ち込みながら真也は乱暴にシャワーのコックを捻った。まだ温まっていないシャワーを頭からもろに被ってしまう。
「つめたっ!」
「もう、なにしてるの」
呆れたように笑いながら立城がシャワーのヘッドを動かす。横にずれた水流に手を入れて温度を確認し、改めて真也はシャワーを浴びた。髪を流した立城が苦笑しつつ視線を真也に向ける。
「いや、判ってるって。染髪料落とすには専用の何かがいるんだろ?」
だからちょっと言ってみただけだ。そう呟いた真也は何気なく立城を見て息を飲んだ。立城がにっこりと笑って首を横に振っているのだ。
「出来るよ。もうかなり力は戻っているしね。その程度のことなら」
「お、おい」
真也が止めるより早く立城は自分の額に人差し指と中指をあてた。紫の淡い光が立城の身体を包む。その直後、硝子の砕けるような音がバスルームに響いた。
「これでいいかな?」
立城の髪はあっという間に元の色に戻った。バスルームのタイルに落ちた茶色の粉末がシャワーの水流に乗って流されていく。真也は唖然として立城を指差した。
「さすがに消すのは無理だったから飛ばしてみたんだけど……」
まずかったかな。そう続けて立城が視線をさげる。真也は無言で立城の視線の先を目で追った。水の流れに押されて茶色の粉末は渦を巻いて排水口へ消えていく。その様は溶けない絵の具が水に巻き込まれていくようで、それが何故か嫌に心に残った。
二人で浴槽に入って身体を伸ばす。風呂から出た二人は真っ直ぐに寝室に向かった。身体をほぐすためにマッサージをしよう、と言い出した立城に従って真也はベッドに寝転んだ。うつ伏せになって枕を腕に抱えて顎の下に入れる。
「でも何でマッサージ? 別に俺、どこも凝って」
「そう?」
横になった真也のバスローブを剥がし取りながら立城が答える。真也は頷いて首を回して立城を横目に見た。脱がせたローブを畳んでベッドの縁に置く。それから立城はおもむろに真也の腰に跨った。
「考えてみろよ。俺の年で凝るわけねえだろが」
「ふうん」
風呂上りで温まった立城の手が真也の肩に触れ、軽く力を込める。その瞬間、真也は息を飲んで目を見張った。猛烈な痛みに襲われる。
「いてえ!」
何度か立城が肩を握った時、真也は悲鳴じみた声をあげた。枕を抱える腕に自然と力がこもる。
「凝りに年齢は関係ないよ。ほら、力抜いて」
「いてえってば! ちょ、ちょっと」
手加減してくれ、と頼もうとした矢先に強い痛みが走る。肩から肘を通って指先まで痺れが駆け抜ける。真也は声にならない悲鳴を上げて枕に突っ伏した。
これ、次とかBL警報が必要なのかな……?(汗)
え、でも身体は女性なわけで……?
でもやられるのは真也の方だから……???(汗)