他の作品と連動している話なので、判らない方にはすみません(汗)
爪を切り揃えて丁寧に磨く。膝枕をしてもらいながら真也は大人しく爪きりを立城に任せていた。最初は自分で切ろうとしたのだが、不器用な手つきに呆れたのか立城が自分がするからと言ったのだ。
柔らかな膝の感触が心地いい。真也は言われるままに反対側の手を出すついでにするりと立城の乳房を撫でた。
「もうっ。危ないじゃない」
「わりぃわりぃ。目の前にあったからちょっとな」
唇を尖らせていた立城が困ったような笑みを浮かべる。真也は一緒になって笑ってから静かに目を閉じた。
紫の炎が脳裏に蘇る。全てを焼き尽くす炎の中で立城は静かに佇んでいた。吉良瀬の家と共に立城が死のうとしていることは明らかだった。せめて君だけはと立城が伸ばした手を真也は取らなかった。驚いた顔をした立城に怒鳴りつける。
お前を守ると決めた。お前さえいれば他には何も要らない。
あの時、どうして自分たちが助かったのかは今でもよく判らない。気がついたら立城の閉じ込められていた離れだけではなく、本家の屋敷も全て燃え尽きていた。瓦礫とすすが覆う地面の上に立城がぼんやりとした面持ちで立っていた。意識を取り戻した真也が真っ先にしたことは。
「思い出すと、俺も直情型だよなあ」
呟いてから真也はそっと目を開けた。立城が手を止めて不思議そうに真也を見つめる。視線を合わせて苦笑してから真也は何でもないと首を振った。
立城に殴りかかったのは、後にも先にもあの時だけだ。ぼんやりと立ち尽くしている立城に拳骨をかましたのだが、殴った真也自身、どうしてそんなに自分が怒っているのかをよく判っていなかった。ただ、立城に対して無性に腹が立ち、それと同じくらいの強さで寂しさを覚えた。
真也に打たれた立城は唖然としていた。殴られて赤くなった頬をのろのろと手で押さえる。真也はそこで堰を切ったように泣き出した。声を上げて泣きながら瓦礫の中にへたりこむ。
当時、立城と真也は十歳。あれからどうやってその場所を離れたのかを真也は今も思い出せない。気がついたら病院で立城と二人で警察官と向き合っていた。その時の立城が帽子を被っていたことが胸に強く残っている。そして立城の髪と瞳の色は無難な焦げ茶色になっていた。
結局、二人は奇跡的に生き残ったのだと周囲の大人たちは理解した。事情を話したのは主に立城だ。真也はあらかじめ立城に出来るだけ黙っているようにと言われたし、そうでなくとも自分から話をする気にはならなかった。
二人には莫大な資産と権力が遺された。だが立城は未だに当主の座につくことを拒んでいる。今のところは信用できる者に財産管理を任せているのだ。
「……なー。立城って吉良瀬の当主になる気、ねえの?」
「今でも事実上はその名前で呼ばれているけど……どうしたの、突然。久しぶりにそんなこと言い出して」
時折、立城が爪先に息を吹きかける。それを感じながら真也はじっと立城を見つめた。形のいいバストがバスローブの間から見え隠れしている。
「僕にはむかないよ。第一、学校にすら通っていない僕を世間がどれだけ信用するか」
「んなの、関係ねえだろ。勉強とか立城のが俺よりずっと得意じゃん」
即座に切り返した真也を立城が怪訝そうに見下ろす。だがしばしの後、立城は苦笑しながら首を横に振った。握っていた真也の指に自分の指を絡める。真也は立城の細い指の感触を確かめるように指を動かした。
「そんなことになったら僕は忙しくなるよ。こんな風に真也と一緒にいる時間もなくなるだろうね」
絡めた指を互いに動かす。真也はもう片方の腕を伸ばして立城の後頭部を捉えた。軽く力をこめると立城が身を屈める。
立城が今の姿でいる以上、当主として表に立つことは不可能だ。一時的には立城も人の姿に似せた姿をとることは出来る。だがそれをするには激しく体力を消耗してしまうのだ。そのことを真也は薄々知っていた。
ラベンダーの香りを深く吸い込みながら真也は手に力をこめた。触れ合うだけだった互いの唇が自然と開く。舌を絡めて深く口づけるとそれだけで頭の芯がぐらつくような快楽が生まれる。
双子として二人がこの世に生れ落ちた時、吉良瀬の家は大騒ぎになった。言い伝えが現実になってしまったのだと嘆く者、何故殺さなかったと怒り狂う者、そして唯一立城の将来を案じたのが当時の吉良瀬の当主だった二人の祖父だった。
神と鬼が蘇る。そう言われ続けてどれくらいの時が流れたのだろう。言い伝えは皮肉にも立城の容姿を鬼と言い表していた。生まれたばかりの立城は早々に母親から引き離され、一人離れに閉じ込められた。世話役の乳母が辛うじてついたが、その乳母にしても立城に愛情を注ぐことは決してなかった。決められた時間通りに乳を与え、おしめを取り替える。だがそんな乳母に対して立城は泣きも笑いもしてみせなかった。
それに対して真也は生まれた頃から神と誉めそやされていた。だが周囲の者たちが勝手につけた呼び方を真也は納得できなかった。何しろ真也は見た目にもごく普通な人間に過ぎなかったからだ。物心ついてしばらくしてもそれがどういう意味なのかわからず、真也は意味のない賞賛の言葉だと冷静に受け止めていた。言い伝えのことを聞いても実感など湧かない。何より真也は母親の胎で共にあった立城がどこに行ったのかだけを気にしていた。
やがて二人は巡り会う。真也は目を細めて立城の舌を強く吸った。口の中で立城が小さく呻く。濡れた髪を弄りながら真也は頭をずらした。片手で立城の内腿を探る。指先で小さなクリトリスを探りつつ、真也は唇をそっと離した。
大元の話を書き直せばいいんですけどね(棒