ヤバい格好ですけど!w
「うん、ちょっと失敗したかなって僕も思ったんだ」
そう言って立城は腰を上げた。居間を出てどこかに行ってしまう。だがすぐに立城は戻ってきた。その手にはジーンズがぶら下がっている。
「これね。僕のなんだけど」
説明しつつ立城はジーンズに足を通した。腰まで引っ張り上げて真也を呼ぶ。真也は渋々立城の腰の辺りを見た。
「股上がね。合わないんだよ。男物だと」
「ほらみろ。だからわざわざ女になるこたなかっただろが」
ジーンズのウエスト部分は余っている。女性になった立城のウエストが細すぎるのだ。そして股上は立城が言った通り合っていない。無理にボタンを留めれば恐らく股間に縫い目が相当食い込むだろう。
……無理に留めたら濡れるかな。ぼんやりとそんなことを考えてから真也は慌てて頭を振った。浮かんだ妄想を頭からたたき出す。
「なにしてるの?」
「い、いや、ちょっとな。それよりさっさと戻れよ、男に」
渋い顔で言いながら真也は紅茶のカップを口につけた。立城が困ったように唇に指を当てて軽く呻く。
「うーん。初めてだからかな。力が戻るまで一週間くらいかかりそうなんだよね」
「ぶっ!」
思わず紅茶を噴いてしまってから真也は慌てて口許を袖で拭った。真新しいシャツの袖が紅茶に染まる。困ったように笑って立城がタオルを取って来る。差し出されたタオルで口許を拭いつつ真也は声を荒らげた。
「まさかそれ、戻れないとか言わないよな!?」
「だから、一週間すれば戻れるってば」
苦笑しつつ立城は答えてジーンズを脱ぎ始めた。また何も着けない足が露になる。拷問か、と言いかけて真也は慌てて口をつぐんだ。ぶかぶかのシャツの裾から出ている足が妙に気になるのは何故だろう。広く開いた襟元に時折覗く肩はやけに細く、抱きしめれば壊れてしまいそうだ。ジーンズを畳む立城をぼんやりと眺めながら真也は深々とため息をついた。
さっきから股間がやけにきつい。その理由も真也ははっきりと理解していた。
んなことある筈ねえだろうが。何度もそう自分に言い聞かせてみるのだが、現実はそう簡単には覆らない。一緒に茶を飲んでいる間も、隣り合ってのんびりとテレビを観ている間も真也は立城のことが嫌に気になっていた。立城がシャツ一枚という格好でうろうろしているのもその原因かも知れない。だが悶々とする真也とは対照的に立城はいつもの通りの態度だ。昨晩の美鈴のように抱いて欲しそうな雰囲気を漂わせてはいない。ごく当り前の日常を過ごしているといった感だ。
くっそ、何で俺がこんなこと考えなきゃなんねんだよ。半ば八つ当たり気味なことを考えながら真也は頭をかきむしった。夕食の準備があるからと立城がキッチンに行った間に、殆ど逃げるようにして自室に入ったのだ。低く呻きながら頭を抱えてみるが一向に考えがまとまらない。だが油断すると不埒な妄想が次から次にわいてくるのだ。
シャツ脱がせたらどんな感じかな。触ったらどうかな。どんな反応するんだろ。手触りとか形とか確かめてみたいよな。そんな考えが浮かぶたびに真也は意味のない声を上げて頭をかきむしった。
やがて悶々とすることにも疲れ果て、真也は身体を引きずるようにして自室を出た。とりあえずの欲求として腹が減ったのだ。そういえば昼も食べていない気がする。ぼんやりと考えながらキッチンに入った真也はそこで硬直した。
「あ、ごめんね。もう少しで出来るから」
気配を感じたのだろう。振り返った立城が微笑みを浮かべて言う。だが真也は何も答えることが出来ず、ただ立城を凝視していた。
これは裸エプロンより強力かも知れない。
立城は男物のシャツ一枚の上にエプロンをつけていた。調味料をシンク台の下から取り出すために屈むのだが、その度にシャツの裾から太股が覗く。男物で丈も長いため、見えるか見えないかという際どいところでシャツの裾がひらひらしているのだ。
「待ってね。いま、三枚におろしてるから」
真也の切羽詰った状況とは裏腹に、立城はのんびりと鼻歌を歌いながら魚をおろしている。真也は無言で立城に近づいた。背後に立って立城の肩を見下ろす。
「……もしかして誘ってるのか?」
「いたっ!」
声をかけた途端、立城が声を上げる。持ち上げた立城の指は包丁の先で切れていた。
「あ、悪い」
「もう。変なこと言うから手が滑ったじゃない。ええと、ばんそうこうは……」
困ったように言いながら立城が水道で傷付いた手をすすぐ。真也は立城の代わりに救急箱を取りに行った。
左手の薬指に切り傷が出来ている。真也は無言で立城の指にばんそうこうを巻きつけた。ありがと、と小声で立城が礼を言う。だがそれを真也は聞いていなかった。ばんそうこうを貼った立城の左手を握ったまま、俯く。
「ど、どうしたの? もしかしてすごくおなかが空いてるとか?」
ごめんね手間取って。すぐに作るから。そんな立城の声を無視して真也は手を強く引いた。よろけた立城がすっぽりと腕の中におさまる。
「ちょっと、真也!?」
「煩い。そんなかっこしてるお前が悪い」
「で、でも、ほら。記憶はこの間もらったばかりだし」
慌てたように言いながら腕の中で立城が身をよじる。立城が言ったように、定期的に真也の記憶は立城に写されている。それは立城が外には出られない姿をしているからなのだが、その際に立城は真也に口づけをしているのだ。触れるだけのものなのだが、それが一番効率がいいからというのが立城の弁だ。
ズボン系の股上サイズは男性物と女性物では違います。
女性物は長めに取ってあるというか、ウエストまでが長いというか?