デカパイエルフに産まれたからにはエッチな目に逢いに行く。 作:伊倉米磁
魔物にはボスという概念がある。ゴブリンに対し大きなボスゴブリンが、スライムにもボススライムが居る。
魔物や魔人の中には自らの身体を魔力に置き換え、身体のサイズを変えるものが居るらしい。
師匠曰く、人間でも原理的には可能らしいが、エルフ始め魔力に親和性のある種族でなければ寝てる間に形が崩れて死ぬだろう、とのことだ。
とにかく、そういったアレコレで大きくて強い魔物を『ボス』と付けて呼ぶ文化がある。
遠くに見えるゴーレムは、多分最初から大きく作られていると思うが……その文化に倣ってミラはボス格と呼んだのだろう。
「うーん、他に敵も居ないみたいだし、今日はもう帰ろっか」
「え? 良いの?」
これまでの好戦的な態度からボスゴーレムにも突っかかっていくと思っていたのか、ミラが意外そうな顔をする。
「うん。今日は大量だったし、ちょっとナンナさんにも聞いておきたいことがあるから」
ということで、遠く離れたゴーレムがこちらに襲いかかってこない内に帰ることにした。
14階。
洋館ダンジョンを逆に進まなければ帰れないのを思い出してケティはゲンナリしていた。
「ねえ、これ飛び込んでみようよ」
深部側からは、遠回りで魔物も多い道と、比較的近道の媚薬縄が渡されている奈落を越える道がある。
その奈落を見てケティが何気なしに言った。
「えっ!? い、嫌よ、死ぬかも知れないのよ?」
「いーや、私はこのエロダンジョンを信じる。死なないというからには死なないはず!」
既に、ケティはスライムとサソリに媚薬を使われて犯されている。
エロダンジョンに悪意があるのなら、現時点で依存症とかになってダンジョンに取り込まれて終わっているだろう。
500階のうちの20階にもたどり着かないのに結構な財宝を手に入れている以上は、本気で信じて利用できるものを利用した方がいい。
そんな事をミラに熱弁し、渋々ながら奈落に落ちる了承を得た。
「ありがと、ミラ!」
「もし死んでしまったら、寝覚めが悪いどころじゃないし……私はおばあちゃんだから、付き合う位はしてあげないとね」
そんな事を言って死ぬかも知れない行為に付き合ってくれるミラの手を、ケティはしっかりと握った。
「ま、大丈夫だと思うけどね」
「そう願うわ、本当に」
足元1メートル下、水面のように満ちている暗黒に向かって、2人は飛び降りた。
「っは!」
「う、ここは……」
奈落に飲まれると共に意識が遠のいた時は死を覚悟したが、もちろん死ななかった。
見覚えのある黒い建材で出来た部屋に、2人で手を繋いで立っている。
「1階の控室ね」
10メートル四方程度の、壁際にロッカーが並んだ部屋だった。ロッカーの切れ目にはドアがある。
「来たことあるの?」
「昨日、着替えに入った部屋よ」
ミラに言われ、ケティはそう言えば出る前に部屋に入っていた、と思い出す。
「じゃあ1階に来れたんだ。服や荷物とかも変わってないね」
バックパックを揺らして重さを確かめるが、特に変わった感じはない。
灰色のローブの中身を覗いても、確かに魔法少女服のままだ。ステータスオープンでエロステータスを覗いても変わったことはない。
「おおー、やっぱり大丈夫だね。しかし、落ちるだけで即1階に来るの、ある意味厳しいな……」
ケティがもにゅんと腕組みをして考え込んだ。
(29階とかに奈落があったら、落ちたら相当悔しいだろうなあ)
帰り道に出来るのは嬉しいが、攻略している時には落ちないように注意しなければならないだろう。
「あのドアが出口?」
ケティが黒い建材に切れ目とドアノブが付いた所を指さして訊くと、ミラは反対側を指差す。
「いいえ、あの木のドアが出口の目印よ。黒いドアも、裏側は木になってるわ」
迷わないようにしてくれているらしい。2人はそっと手を離し、連れ立って歩き出した。
「あ、ナンナさーん」
すぐそこがエロダンジョンのエントランスなので、ケティが笑顔でナンナに手を振る。
「おかえりなさいませ」
ナンナはニッコリと柔らかく微笑んでケティを迎えた。
それを見て、ミラは内心で驚く。
(あんな親しげな笑顔が出来るのね)
ケティの言うように害のない存在だとしたら、悪いことをしたかもしれない……と思いつつ付いていった。
「すみません、質問なんですけど、20階のボスゴーレムって倒してもまた復活しますか?」
「え? ええ、大丈夫ですよ。パーティメンバーが同じですと3日ほど出現しなくなりますが、その後また出現します」
「良かったー、後からゴーレムとセックス出来なくなったら心残りになっちゃいますからね」
これがエロ同人RPGなら一度しか戦えないエロモンスターとは回想ルームで再戦できる所だが……エロダンジョンでも問題なく配慮されているようだ。
「うふふ、さすがケティシュ様、良くご理解していらっしゃいます」
ナンナはケティのエロのツボを抑えた発言を聞いて上機嫌に笑顔を浮かべた。
そういえば、とケティは疑問に思っていたことを口にする。
「ところで、20階までに媚薬罠はあるし女モンスターが3種しか居なかったんですが……1000年前の人って、男でもアナルを犯されて楽しむのがメインだったんですか?」
ピシィ、とナンナの笑みにヒビが入る。
「ちっ、違いますよ!? ああっ、ケティシュ様は私達の文化を理解してくださっていると思っていたのに! そのような誤解を受けていただなんて!」
よよよ、と泣き崩れ女の子座りしてしまうナンナにケティが歩み寄り、そっと抱きしめる。
もちろんナンナは立体映像なので触れることは出来ないが、頭を撫でるとスミレ色の髪が一本に至るまで繊細に揺れた。
「すみません、1000年前なら普通なのかと思って。どういう事情なのか教えてくれますか?」
「ううっ、ありがとうございますぅ……」
メソメソと泣きながらも、ケティにノッて抱きしめ返してくれるナンナ。
その顔はケティの大きな胸に押し付けられているかのように頬が自然に歪んでいる。
(ちゃんとコリジョン判定している……)
技術力の高さに内心感動しつつも、イチャイチャと小芝居を続けた。
「……本来、当店はダンジョン部分だけで完結するようには出来て居ないのです。1000年前、滅びを迎える前にはあの出入り口の外には沢山の関連店舗が並んでおりました……」
ナンナはケティの胸の中でポツポツと語ってくれた。
『天国への下り階段』という店は、山一つ……とその地下をエロダンジョンとして使った巨大テーマパークだ。
ランドマークでもあるエロダンジョンを取り巻くように、まずは宿泊施設とレストラン街が。
ダンジョンで手に入るアイテムを金でもある程度買える売店、ダンジョンプレイヤー同士での交換を円滑にする取引所。
さらにはまるで冒険者ギルドのように、同行者を店側から提供するサービスもあった。
初心者程度の腕しか無いものからベテランまで、老若男女取り揃えていたそれこそが、基本サービスの一つ。
「このコンパニオン制度により、男性のお客様はお好みの女性とダンジョンにパーティで入る事が出来ました。凛々しい女剣士がアナルで喘いだり、無口ロリ魔法使いが触手で恥ずかしがりながら絶頂したり……それを眺めて楽しむもよし、媚薬で発情した彼女たちとしっぽり休憩するもよし……男性が楽しむのは主にそういったプレイだったのです」
「なるほどぉー」
媚薬縄でショートカットなど、明らかに女性を狙い撃ちした仕掛けが多いのは、やはり女性を狙っていたという事だった。
媚薬であったまった男女がダンジョンの中で……というシチュエーションを、種類の豊富なコンパニオンと出来るとなれば無限に楽しめそうだ。
「ああ……そう、ですね……もう、外には施設が……でしたら、ケティシュ様にはお伝えしておかねばなりませんね」
ありがとうございます、とケティの腕を透過して立ち上がったナンナが、またテーブルを出してくれる。
「そちらの、ケティシュ様のパーティの方もどうぞ。当ダンジョンのシステムについてご説明させていただきます」
突如始まったケティとナンナのイチャつきをなんとも言えない目で見守っていたミラが、目を瞬きながら付いてくる。
テーブルにつくと、ナンナが向かい側に立って営業スマイルを浮かべた。
「では、ご説明させていただきます。こちら、本来であればダンジョンの外で専門スタッフがお伝えする所なのですが、諸事情により私からのご説明となりますこと、まずはお詫び申し上げます」
「あ、はい」
言われた所で、ケティには想像することしか出来ない。ナンナの少し寂しそうに見える営業スマイルを見つめながら、説明を聞いた。
・スキルオーブシステムについて。
エンチャントを10個以上所持した状態で1階に戻って来た時、スキルオーブ錬成が開放される。
エントランス近くの専用の部屋で、不要なエンチャントをダンジョンに返納し、ポイントを得ることが出来る。
ポイントで一定のコース料を支払うことでスキルオーブを装備欄に得られる。スキルオーブには1~9個のスキルが設定されている。
得られるオーブのスキルの個数、等級はコースによって変動するが、どのコースもランダム性がある。
スキルオーブシステムを解放後にドロップしたエンチャントにはオーブスロットが設定されており、スロット分のオーブを装着できる。
オーブを装着することでエンチャントと同様スキルが発動する。
・テイミングシステムについて。
ダンジョンで稀にドロップする『誓約の指輪』を手に入れて1階に戻ってくる事により、テイミングシステムが開放される。
指環をはめた手で魔物にトドメを刺すと、確率で魔物を指輪に封印出来る。トドメは手に持った武器でも良い。
一つの指輪に一つ魔物を封印できる。
封印した魔物は1階のテイミング室にて開放出来る。この時、魔物誕生時にランダムに設定された性格で擬似魂魄を得る。
擬似魂魄を得た魔物は、人間と同等の情動を得て、主人に服従し、愛情を示す。
魔物と交流、または性的に絶頂させ、満足させるとなつき度が向上する。なおエロダンジョンの魔物は例外なく性欲が強い。
なつき度が向上すると、ダンジョン内、ダンジョン外へと連れ出す許可が降りる。
セックスレスになるとなつき度が下がる。
テイミング室の外でなつき度が一定以下になると、指環に再封印される。
どちらも大きなシステムだった。さしあたって関係があるのはスキルオーブシステムの話だろう。
(お守り錬金って……コト!?)
良くも悪くも無限に遊べてしまいそうだ。このエロダンジョンであってもスキルガチャからは逃れられないらしい。
ナンナがミラの方に向き直る。
「そちらのお客様……お名前を伺ってよろしいでしょうか?」
「……カミーラです」
「カミーラ様は現在、9個のエンチャントをドロップしてらっしゃいますので、もうじきスキルオーブシステムが解禁されます。初めてご利用の際は、私から操作方法などご案内致しますので、どうぞお声がけください」
「え、ええ……そうさせて貰うわ」
まだナンナの事を信じきれていないのか、ミラの受け答えは硬いが……ひとまず友好的に接している。
その様子を見て微笑んだケティは、自分も質問することにした。
「テイミングシステムって、全種類の魔物が対象なんですか?」
「はい、全ての魔物が対象です。例えばボスゴーレムなどボスモンスター、500階にいる最強のモンスターであろうとも対象となります。ただし、確率は相応に低いものとなります」
「確率はどうやって決まるんですか?」
「種類ごとに固有の確率があり、スキルによっても増減します」
まだ影も形もないが、システム専用スキルみたいなものもあるらしい。
「ふむふむ……例えばゴブリンと和姦したり、フェアリーと仲良くしたり出来るんですね」
「はい、その通りでございます。以前の男性のお客様はコンパニオンに魔物と契約を頼み恋人プレイを鑑賞したり、女モンスターを私生活のお供にしたりと言ったご利用方法が人気でございました。本来であれば、ダンジョン外への持ち出しは法の手続きが必要なのですが……手続き先が1000年以上オフライン、ええと、音信不通ですので、お客様自身の責任に於いて持ち出し自由とさせて頂きます」
ちゃんと法制度が整えられていた事に驚くが、結構使いでのあるシステムかも知れない。
「指環への出し入れは、テイミング室の中でしか出来ないんですか?」
「いいえ、なつき度の条件を満たせばいつでもどこでも可能です。ただし、指環の中でも同じようになつき度は一定時間で下がる事にご注意ください」
「なるほど、なるほど……とりあえず今はこんなものかな。ありがとうございました、ナンナさん」
夢と希望の膨らむ話を色々聴いたものの、結局はまだ将来の展望でしかない。
先に進むモチベを得て、ケティはニコニコと笑っていた。しかし、ナンナは暗い顔をしている。
「それと、その……大変申し上げにくいのですが……現在、当ダンジョンは機能を制限中でして。51階より下は立入禁止状態となっております」
「ええっ!? どうして!?」
ケティとミラの前に立ったままのナンナは、肩をすぼめて小さくなって答える。
「ダンジョンは基本的にお客様からの魔力で運用を行っておりまして。1000年の時を越えるため、設備を不活性化させて省エネモードになったままなのです」
「不活性……ってことは、元に戻せるんですよね?」
「はい、もちろんでございます。ただ、そのぉ……現在のお客の入りを考えますと、すぐに拡張というわけには……」
ぐぬぬ、とケティは唸った。あまりにも世知辛い話だ。夢のようなエロダンジョンがここにあるというのに、本来の10分の1も楽しめないとは。
「これは本当に、お客を呼ばないと……」
とはいえ、まだ20階も攻略出来ていないのだし、遊び尽くしてから考えれば良いだろう。
それよりも……
「50階まで、という事は『エンチャントオーブ』とかは手にはいらないんでしょうか?」
『エンチャントオーブ』とは以前ナンナから聴いた、エンチャントを身体に上書きしてダンジョンの外へ持ち出せるようにするアイテムだ。
「それに付きましては問題ございません。現在の省エネ状態ですと、ダンジョンのジェネレータ出力が……ええと……ドロップ品は魔力から作成しておりますが、その魔力に余裕がございます。そのため、本来なら200階以降のドロップとなる『エンチャントオーブ』や『誓約の指輪』に付きましても、40~50階でのドロップとさせて頂いております」
「よかったぁ……」
横で聴いていたミラが首をかしげた。
「ねえ、『エンチャントオーブ』っていうのは?」
「んふふ……ミラが今やってるエンチャントを、本当に自分の体にできるアイテムだよ」
「なっ……!」
その意味が、分からない訳がない。不老。若返り。説明されずとも、この世界においても人類の夢だ。エルフのような長命種であっても例外ではないだろう。
「ねえ、ミラ。私ね、ミラと一緒にもっと冒険がしたい。だから……考えてみてほしいな」
絶句したままのミラの手を取って、ケティが目を見つめながら優しく言った。
俯いてしまったミラの手を引いて、ケティがダンジョンを出ていく。
ナンナは柔らかな微笑みで2人を見送るのだった。