デカパイエルフに産まれたからにはエッチな目に逢いに行く。 作:伊倉米磁
「何いってんだ、お前……俺が、たった今負けたの見てただろ……」
形の良い眉をしかめて、悔しげに顔を顰め拳を固めるジェシーに、ケティはそっと手を重ねた。
「でもこの階の他の魔物を倒せるんですよね? そうじゃなきゃ稼ぎになりませんから」
触れた時にびくん、と震えたものの、ジェシーはケティの手を振り払ったりはしない。
ケティの見た所、ジェシーは魔物に勝てない事を気に病んでいるようだ。
しかも他の魔物に勝てていて、アイアンメイデンに勝てないとなると、魔力の使い方が問題なのではないだろうか。
師匠が修行の最初の方に言っていたことだが、魔法の独学というのはこれでなかなか難しい。
実際、ケティも魔力の刃の鋭さを上げるために何年も剣とにらめっこしたり、魔力を霧状に放出するために師匠が出した魔法の水を使った霧の中で一日中集中したりといった特殊な修行をしてきた。
前世の、魔法が実在しない世の中でそんな修行をしたら狂人もいいところだ。いくらケティでも、確信もなくそんな行動は出来なかっただろう。
師匠が出来る所を見せてくれて、その指導に従っているからこそ効率的に習得できたということをケティは理解している。
ケティはエルフとして生まれついた時には魔力というものが良く分からず、師匠から言われてようやく『そう言えば産まれた時からこんな感じあったな』と理解した。
エルフは種族として魔力と親和性が高く、総じて魔法を使う才能があるとされる。そんなケティでも結構な歳月を費やして修行をしたのだ。
(ジェシー先輩は多分ヒューマンだよね……エンチャントで姿が変わってるんだろうけど)
ヒューマンが魔法を習おうと思ったら、それこそ親など家族に教えてもらうか、結構な金を積んで魔法使いを師につけるしかない。
だから底辺冒険者は魔力の扱いを理解していないし死にやすいのだ、と師匠は言った。
逆に、ミラが年老いてなお割と元気に戦闘しているのは魔力で身体を強化していればこそであり、確かな実力を感じさせる。
ジェシーは、長い葛藤を経てケティに向き直った。
「足を引っ張るかもしれんが……一緒に戦ってくれるか」
ケティはその返事を聞いて、ニッコリと笑った。
出たものは等分で山分けとして、とりあえずジェシーの倒せる魔物を狙おうという事になり、リビングドールの所へ行く。
「うおおおおっ!」
今回は見るなり毒矢を撃ってきたが、ジェシーは雄叫びを上げて正面から突っ込んだ。
毒矢はジェシーの構える片刃の戦斧に当たり、ぎぎぎん、と耳障りな音を立てながら弾かれていく。
矢を受ける衝撃に抗いながらもジェシーは力強く突進を続け、近づいた所でリビングドールが毒矢から腕のブレード攻撃に切り替えた所で、長柄の戦斧の突きが先にリビングドールの顔面にめり込んだ。
ケティのほうはジェシーが毒矢を弾いている間に他2体のリビングドールを魔力の刃で撹乱し、ジャンプで回避させた所を斬り裂いて仕留めていた。
「ふう……やっぱお前、強いな……」
「いやー、師匠が良かったので。それに、ジェシー先輩も豪快な戦法でしたね」
ケティの推察通り、ジェシーの戦いぶりは洗練されたものではなかった。
武器と自分の身体をとにかく強化して突っ込んでいくというのがお決まりなのだろう。
アイアンメイデンとは非常に相性の悪い戦い方だ。
「ジェシー先輩は魔法で遠距離攻撃とかしないんですか?」
「っ! う、うるせえな! 出来ねえんだよ!」
声を荒らげた返事は、怒気というよりも叱られるのを待つ子供のような哀しさがある。
「じゃあ、ちょっと一緒に練習してみます? 私も、炎を爆発させるやつはまだ覚えてなくて」
「なん、だと……? お前……魔法を教えるなんて、どれほどの金を……」
「良いんですよ。ジェシー先輩がこのダンジョンから居なくなっちゃうほうが、私には嫌なことですから」
現状、ミラとジェシーしかエロダンジョンを攻略する女性を見ていない。
ケティの趣味的にも、エロダンジョンの魔力リソースとしても、ジェシーが居なくなるのは避けなくてはならない。
「そんな事言われても、押し売りじゃ礼金なんか払えねえぞ」
「元からお金なんか取るつもりありませんよ」
「……なんなんだ、お前は……くそっ、訳分からねえ……」
そう言って、ジェシーは美しい夕焼け色の髪が乱れるのも構わずガリガリと頭を掻いた。
「じゃあ、せめてダンジョンで落ちた戦利品を……」
「別に良いですよ、元から山分けの予定ですよね?」
「だが、それじゃあ……」
(ここだっ)
ぴん、と来たケティはジェシーの顔を私近距離から覗き込む。
ケティは少女の体格で150センチ程度だが……さらに少し低い身長のジェシーは、迫られてのけぞった。
「じゃあ、後で私とエッチなことをしましょう。それが報酬です」
「ばっ!」
ニッコリ笑顔を浮かべたケティに、ぽっ、と頬を染めてしまうジェシー。
「だ、だからそういう事を女が言うなよ……!」
「んふふ、ジェシー先輩もちっちゃな女の子だし、女の子同士なら良いじゃないですか」
「…………!」
ぷに、と長乳を当ててくるケティの本気を悟って、ジェシーが更に顔を赤くする。
「ねえねえ、魔法教えてあげますからー♥」
「わっ! わかった! わかったから離れろ!」
ジェシーのひっくり返った声を聞いてクスクス笑いながらケティは一歩引いた。
「ん゛っ! で、本当に教えるつもりなんかよ?」
「もちろんですよ。多分ジェシー先輩は才能があるから、威力はさておき何か飛ばす位はすぐです」
「ホントかよ……まあ良いや、駄目で元々だ」
「じゃあ、魔物のこない所で練習しましょう!」
ケティが腕を組もうとすると恥ずかしがってジェシーが離れる。
小さな身体で早歩きするジェシーを追って、2人は下り階段前の広場へと歩きだした。
「ほら、もっと身体をくっつけて!」
「ほ、本当にこれ必要なんかよ!?」
棒立ちで手を伸ばすジェシーの後ろからケティが密着して抱きついている。
もちろん背中に長乳がむんにょりと押し付けられており、ジェシーは顔を赤らめていた。
「必要なんです! 身体の力を抜いて、自然に立ってもらわないと」
「わ、分かった……」
ジェシーは頑張って身体のこわばりを解き、右手だけをまっすぐ前に出した。
ケティは後ろから同じポーズでピッタリと密着し、精神を整える。ジェシーの綺麗なポニーテールが頬に当たるサラサラという感触も、今は遮断する。
「良いですか? 今からジェシー先輩の身体を通して私が魔力を放出しますから、その感覚を覚えてください。そしたら後は真似るだけなんで」
「簡単に言ってくれるよな……」
「ほらほら、出来ると思う所から魔法は始まるんですよ!」
ケティの言っているのは精神論ではあるが、特に魔力を使う事については本質そのものだ。
魔力を火に、水に、刃にするのは、ひとえに術者の精神の力なのだから。
そうこう言っている内に、ケティはジェシーを通して魔力を放出する。
思えば、師匠は最初から
ケティもそれに倣い、ジェシーの身体に淀みなく、無理なく魔力を流し、手のひらからガスのように魔力を出させる。
何の目的もない魔力は沸騰したヤカンの湯気よりも短い距離を進んで、ただ消えていく。
「うお……なんか、通ってる……」
「良いですよ、ちゃんと感じられてます。まずはそれを身体で覚えてください」
「お、おう……」
ケティの胸が思い切り押し付けられているのも忘れ、ジェシーは真剣な顔で自分の手から吹き出す白い霧を見つめていた。
10分ほどして。
「ふう……ひとまずこんな感じです。次は、自分で魔力を放出する感覚を再現してみてください」
「は? い、いきなりかよ?」
「魔力を使うには、イメージが重要なんです。逆に言えば、イメージさえ出来れば素人でもすぐ放出くらい出来ておかしくありません」
「うう……」
ツリ目でツリ眉のジェシーが自信なさげに目を細めて自分の手を見つめていると、なんだか可愛らしい。
「10分で出来なかったらまた私が感覚を教えます。後はもうやるだけですよ」
「わ、わかった……」
すう、はあ、とジェシーが深呼吸すると、白シャツに包まれた小さな胸が上下する。
手のひらを前に出して目を閉じて集中するジェシーを横目に、ケティも自分の練習を始めた。
(炎は出せるけど、爆発を上手いこと出来ないんだよなあ)
通常、火魔法を使う時には杖など道具を使う。
言うまでもなく、手のひらの直ぐ側で火を出したら火傷するから杖の先を魔法の起点にするためだ。
魔力で身体を強化していても炎の威力も強ければ同じことで、迂闊に使うと自爆する羽目になる。
ミラは小さな球を作り出してひょいと投げて爆破していたが、アレも慣れないケティが真似すれば威力が足りなくてショボい爆発になったり、魔力の殻が破れずそのまま消滅したり、投げる時に殻が破れて手元で自爆したりという結果になるだろう。
ケティとて素人ではない、個々の要素は今すぐ真似できるが、それを戦闘の時とっさに完璧にできるかというのが問題になる。
まずは、ついさっき思いつきでやった風の爆弾の比率を真似て炎を封じ込めてみる。
ひょい、と投げると、地面に落ちた拍子にぼわっと床に炎が広がった。
(出来たと言えば出来たけど、このイメージじゃ駄目だな)
これでは火炎瓶だ。温度変化に弱い魔物には効くかも知れないが、衝撃も熱も足りない。
もっと爆発のイメージが必要だ、と魔力球に封入するイメージをより鮮明にし、投げる。
パァン! と派手な音と閃光を上げて爆発した。
あまりの眩しさに瞑った目にも焼き付いてしまっている。
(これはこれですごく役に立ちそうだけど、攻撃には使えないな)
今欲しいのはアイアンメイデンを確殺出来る程度の攻撃魔法なので、フラッシュグレネードの練習は後回しにする。
魔力で自分の体を十分強化して、もし手元で爆発しても手がちぎれないように気をつけながら練習していると、あっという間に10分経った。
「おっと、どうです、先輩?」
「ぐっ……全然だめだ」
「じゃあもう一度ですね」
そう言うと、ケティはおもむろにローブを脱いだ。
ピンクと白の巨乳ミニスカワンピースが現れる。
「は、派手だな……」
「可愛いでしょう?」
ニコニコ笑いながら、さっきより遥かに感触が伝わりやすい状態でジェシーと身体を密着させた。
「うっ……」
照れているのか、ジェシーの顔が赤くなるのを間近で観察しつつ、むにゅもにゅと胸を押し付ける。
「さあ、集中してください」
ケティが脱いだのは確かに密着感を楽しむという目的もあるが、ジェシーの腕だけでなく、逆側の脇から心臓を通って腕から魔力を出す、そのためにより集中したかったからだ。
なんとなくの話だが、末端部よりは頭や心臓の方が魔力の流れに敏感な気がするので、感覚を掴むには良いはずだ。
◆◇◆◇ジェシー◆◇◆◇
「うおっ……」
ジェシーは今、立ちくらみのような、乗り物酔いの時のような、奇妙な目眩を感じている。
それは自分の身体の中に流れる魔力に他人の魔力が干渉する時に生じる反発で、心臓を直接撫でられるような、命の危機を感じる不快さを伴っていた。
しかしそれだけに、自分の中を流れる魔力をハッキリと感じるには十分な衝撃となってジェシーの心に刻まれる。
そして、ケティという小さな女の子に心臓を直接撫でられて生殺与奪を明け渡しているというこの状況に、ジェシーの身体は熱くなっていた。
(くそっ……集中しろ……)
エルフという圧倒的強者で、しかも
その状況が甘やかな支配を受けていると認識されてしまって、身体に押し付けられる胸の感触が酷く甘美なものに感じられてしまう。押し当てられる胸の、乳首が甘勃起しているのも鮮明に感じ取れる。
肉体強化も魔力放出も上手の相手に、もし押し倒されて組み伏せられてしまったら……という妄想が勝手に頭を満たし、股間が熱く潤んでくる。
(この女、なら……)
望めば、今すぐにでも気持ちよくしてくれる、そう思い視線を横にめぐらすと、美しいターコイズブルーのぱっちりとした瞳は真剣に前を向いていた。
(…………!!)
ぎり、と軋むほどに歯を食いしばり、心臓を撫でられる危機感を強く思う。
自分の身体の中に、自分のものでない魔力が流れる線を感じた。直線ではなく身体の流れやすい所をゆるく曲がりくねりながら、手のひらから外に出ていく。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「う、おおおっ!」
ケティは、ジェシーが自分で魔力を放出しようとしているのを感じてジェシーの身体から自分の魔力を抜いた。
今は問題にならないだろうが、体の中で魔力を反発させてしまうと内出血位は普通に起こる。
そして……
「ふぬぬっ……」
ふすー、とジェシーの手のひらから微かに魔力が漏れていた。
「おおっ! 出来てます! 出来てますよ先輩! もっと! それを維持して!」
身体を離し、ジェシーの集中を維持するよう声をかける。
しばらくして気疲れから腕をおろしたジェシーは、呆然と自分の手のひらを見つめていた。
「ほら、すぐ出来たでしょ?」
ケティが下から覗き込んで笑いかけると、ジェシーもニッと笑顔をみせてくれた。
「あ……ああ! 出来た……俺にも……魔法が、使えた……」
力なく開いていた手をギュッと握りしめ、顔をくしゃくしゃにして嗚咽を漏らすジェシー。
しばらく浸らせておいてあげようと、ケティも自分の練習に戻った。
ぼかんぼかんと爆発を繰り返し、調整が出来てきたかな、という所で振り向くと……ジェシーはまた手のひらから魔力を放出していた。
その後しばらく魔法の練習をして過ごした。