デカパイエルフに産まれたからにはエッチな目に逢いに行く。 作:伊倉米磁
「おおっ……!」
台座から垂直に半透明の隔壁が上がっていき、完全に区切られたと思ったら外の光景がぼんやりとにじむ。
判別がつかなくなったと思った瞬間にはにじみが薄れ、別の光景が広がっていた。
「ここは……1階なのかな」
隔壁が消えて歩き出したケティが見渡す。
結構広めの空間には、同じ装置がいくつも整然と並び、さっきまでのボス部屋と同じくらいの広さがあった。
「多分、そうなのでしょうね。これは……10階ごとのワープ装置がすべてあるんじゃないかしら」
数えてみると、48個。
「500階にもワープ装置あるんだ」
30階から10階刻みに用意されているとして、計算上そうなる。
500階には最強のモンスターが居る、とナンナは言ったが、慣れたプレイヤーは当たり前のように狩っていたのかもしれない。
しかし今のエロダンジョンは客が少なすぎて省エネ状態のため、51階以降に立ち入る事はできない。
「エロダンジョンにお客さんを呼ばないと、生殺しだあ……」
「こんな場所が賑わったら世の中どうなってしまうか……」
ミラが呆れのため息を吐くが、ケティとしては何としても人を……エロ部分を楽しんでイキまくってくれる人を呼ばねばならない。
今後のことを改めて意識しつつ、扉から外に出た。
「お帰りなさいませ、ケティ様、ミラ様。30階制覇、おめでとうございます」
当然ダンジョンで起こったことを理解しているナンナがにこやかな笑顔で出迎えてくれた。
「んへへ、ありがとう、ナンナさん。まあこれからもう一回戻って続きをやるつもりだけどね」
「そうでしたか。どうぞ、お楽しみになってください」
いったん戦利品を売りにギルドへ立ち寄り、バックパックを空にして戻る。
ダンジョンに入ってから、ケティがふと気づいた。
「そうだ、まだお昼食べてなかったね」
「そういえば、そうね……ずいぶん順調だったから食べる暇もなかったわ」
「それでしたら、テーブルと椅子をご用意いたしましょうか?」
ということで、ダンジョンのロビーで食べることになった。
「おおー、ふかふかだ」
「本当、見た目は石みたいなのに」
前に座った椅子は低反発クッションのように吸い付く質感だったが、今回はふかふかのソファを出してもらい、ローテーブルにバスケットを置いてカツサンドを頬張る。
ナンナは向かいに立っていたので、ケティがソファをポンポンやって隣に座らせた。
「あむあむ……ナンナさん、ダンジョンの階層を増やすには、あとどのくらいの人が必要なの?」
「えっ? あ、ああ、そうですねえ……維持できるかどうか、ということになりますから、3日に1度程度潜って、少なくとも1度絶頂する方が……あと30人は必要ですね」
結構必要だった。
「30人かー。まあそうだよね。団体さんが必要だよね……」
もちろん、ケティとミラが毎日潜って1日に10回以上絶頂するのも良いかもしれないが、それ以外のことができない生活になるし10階追加しただけで打ち止めになってしまう。
外から団体客を定着させなければどうしようもない。
「ケティ様、当店のことを考えてくださるのはうれしいですが、あまりご無理なさらぬよう……」
そう言って、ナンナは少し寂しそうに笑った。
「もぐもぐ……でもゆくゆくは500階まで行きたいし。まあ気長に待っててください。なんか考えるので!」
「ふふ……はい、お待ちしていますね」
ケティのエロダンジョンにかける情熱が伝わったのか、ナンナの笑顔も柔らかいものに変わるのだった。
そして、30階に戻る。
「さてさて、次はどうなってるかなー」
次の階層を覗くことなく帰ってしまったので、これが初お目見えだ。
階段を降りきると、まぶしさに目を細める。
「……わあ」
打ち寄せる波、しぶきは潮の臭いを伴っている。
「海?」
遅れてやってきたミラも、目を丸くしている。
そう、31階に広がっているのは岩礁だった。
黒茶色の岩が点々と続き、ざざん、と波が洗う。青空に太陽がまぶしく輝いていた。
「すごいなあ……これ、深さはどのくらいあるんだろう」
階段のある場所は塔になっていて、横を見るとあたかも海がずっと続いているかのように見えるが……魔力の刃を伸ばしてみると壁に当たる。
となると、上も下も壁で区切られているのだろう。
「海に引きずり込まれたらおしまいでしょうね……気を付けて進まないと」
ミラが顔をしかめながら言った。
ケティにとっては窒息しながらのセックスというのも少し興味はあるが……今は早く潜ってミラのためのアイテムを手に入れるのが目的なので、おとなしく頷いておいた。
「じゃ、さっさと進みますかあ……」
まずは真上に向かって魔力の刃を伸ばす。限界の20メートル伸ばしても天井に触れることはなかった。
「上から見てみるから、ちょっと待ってて」
「ええ、お願いね」
この階層も、探そうと思えばエッチなイベントがたくさんあるのだろうが……それをすべて無視して下り階段を目指そうという方針だ。
改めて見るとこんなに広かったのか、というくらいに1階層は広く、天井付近まで行ってようやく探し出せる位に遠いところにあった。
すたっと地面に降りてきてミラに説明する。
「結構遠いところにあるみたい。あと大きな岩とか、上の階層とは違う感じの木が生えてる所もあったよ」
まあヤシの木とかの南国系なのだが、森から出たばかりのケティが知っているのも不自然かなと思いボカしておいた。
「色んな魔物が潜んでそうね。注意して行きましょう」
「うんっ! 今度はどんなチンポが待ってるかなー♥」
急いで進むことは進むが、後のことを考えてチンポを物色するくらいは良いよねとケティは笑顔で進みだした。
そして、岩礁を進む事しばらく。
海をジャンプで超えたケティの真下から、ざぶんと何かが飛び出した。
「おっと」
咄嗟に足裏から風を噴射して相手を押しのけつつ上に逃れる。
下から出てきたのは、鱗を持つ人型の生き物……半魚人とでもいうべき魔物だった。
「サハギンッ! 注意して、モリを投げてくるわ!」
ミラの知っている魔物だったのか、注意が飛ぶ。
ケティも真下を槍で突こうとしていたが、サハギンは身を翻して深くに潜って去っていった。
「ありゃ、逃げちゃったね」
「そうね……でも、それはそれで厄介ね」
影から付け狙ってきたり、仲間を呼んできたりするかもしれない。
ケティ達はわざわざ高く飛び上がりつつ岩礁を早めに抜けるしかなかった。
しばらく行くと、大きな陸地と呼べる岩場にたどり着く。
といっても平地ではなく凸凹としていて見通しも悪い。ヤシの林もちらほらと緑を見せ始めていた。
「えっと、階段はもう少し左のほうだね」
進路を少し左に曲げ、2人は階段目指して進み始めた。
しばらくは何もなく、照り付ける日差しの暑さに不快感を覚えながら進む。
「左ッ!」
突然ミラの鋭い声がして、左を見ると鋭いモリが飛んできていた。
ガッ、と胸に突き刺さる軌道だったそれを掴んで止める。
くるん、と回し、サハギン以上の速度で投げ返す。サハギンは水に沈んでそれを躱し、モリは岩場にぽっかりと空いた穴の壁に突き刺さった。
刺さったモリを回収するために手を出してくるかと思ったが、普通に撤退したようだ。
魔力の霧での索敵はやっていたが、飛び道具相手だと速すぎて知覚したときには手遅れになることもある。その実例だった。
「ふう……岩だけになったと思ったけど、下には穴が開いてるんだね」
風を圧縮した玉を放り込んで水を派手に巻き上げ、もう魔物が居ないことを確かめてから近づいて覗き込んでみる。
凸凹した岩場だと思っていたが、よく見ると穴が開いていて塩水が満ちている。周りの水場とつながっているのだろう。
見渡しても見えるようなものではないが、まず間違いなく似たような穴が幾つもあって、穴同士が繋がっているはずだ。
「なるほど……結構面倒そうな地形だね」
「そうねえ、走ったら落ちてしまうかもしれないし、慎重に抜けるしかないわね……地図も書きづらいし。ちょっと待っててね」
ケティは頷いた。迷路ならば交差点などを抑えればそれなりに見れるものになるが、ここは単なる開けた岩場だ。
ミラが胸元から取り出した手帳に簡単な地図を描くのを、周辺を警戒しながら待つ。
そこからは淡々と、階段を目指して進んだ。
サハギン達は倒されないようにモリを投げつけるとすぐ逃げてしまうのでドロップも渋く、かなり嫌な階層だ。
しかしだからこそ、倒したときに良いものが手に入るのでは? という期待もしつつ、岩場に空いた分かりづらい穴を把握しつつ進む。
しばらく歩くと、ヤシの林に差し掛かった。
地面は岩から土に変わっていて、サハギンが飛び出すような穴もなさそうだ。
とはいえ、魔物が潜んでいるであろうことは間違いなく、ケティ達は警戒しながら進んだ。
ちらりと上を見ると、ちゃんとヤシの実が幾つも実っていた。
「ねえ、ミラ。この実も持ち帰ったら売れるかな?」
「ん? 売れると思うわよ。ダンジョンの植物も定期的に採取依頼とか出るのが普通だったから。……まあ、誰も売ったことがないだろうから、これがどの程度の価値があるのかは分からないけどね」
とりあえず、ケティは魔力の刃を伸ばしてヤシの実を落とした。
ぱし、と小気味いい音を立ててキャッチし、上のほうにV字に切れ込みを入れて中を見る。
(ココナツジュースって、前世ではあまり好きではなかったような気がするけど)
ケティの前世のぼんやりとした常識が、ヤシの実の中身がどうなっているかと味の感想を持っている。
ダンジョンの中で水分補給できるのは良いが、美味しくないなら適当にその辺に捨てるか、と思いつつそっと切り離した部分を持ち上げた。
ふわりとトロピカルな甘い香りが漂ってくる。多分飲んでも大丈夫なのではないか、と意を決してヤシの実を傾け、口にちょろろろ、とココナツジュースを流し込んだ。
「んく、んく……ぷは、美味しい!」
記憶では薄いスポーツドリンクにどこか油の気配が漂う微妙な飲み物だったが、このココナツジュースは牛乳のように濃厚で甘さもしっかりと感じる。
「……大丈夫、ケティ? このダンジョンの植物だし、また媚薬効果とかあるんじゃないの?」
「そうかも。まあそうなったらモンスターとセックスして休憩だね」
サハギンというファンタジー生物のチンポがどうなっているかという興味もあるし、それも悪くはなかったのだが……幸か不幸か、ヤシの実は単に美味しいだけだった。
飲み干した後で中の果肉も食べる。ミラに勧めると、渋りながらも一口食べた後は美味しそうに平らげていた。
魔物が近づいてくるかと警戒していたが、特に何の気配もない。
魔術の水で口と手を洗って階段への移動を再開すると、ヤシの林の奥でカリカリカリ……と何かを齧るような音が聞こえてきた。
「おっ、ようやくモンスターだね」
この階層では一匹も倒せていないため、新しいドロップアイテム欲しさにケティが覗きに行く。
ミラも不意打ちできるようならとケティに付いていった。
ヤシの幹に隠れながら音の発生源を覗き込むと……
「あれ……何?」
ミラが首を傾げた。