デカパイエルフに産まれたからにはエッチな目に逢いに行く。 作:伊倉米磁
「さあ、40階のボスを倒そうか!」
「ええ。油断しないでね、ケティ」
荷物を置いて、身軽になった2人が40階の部屋へと入っていく。
海辺の浸食洞といった風情のロケーションで、足元は凸凹した岩場だ。
向かって右側の上方から光が漏れ、同じく右に波が打ち寄せる水場がある。
もちろん、実際には四角く切り取られた部屋の中でしかないが……水場のあたりまでは部屋の中であるはずだった。
ボスの姿が見えないが、41階に行く階段はともかく40階のワープ装置の部屋は黒っぽい岩壁の中に白の扉が見えている。
多分倒さないと開かないのだろう。
「ボスはどこだろ?」
「……ケティ、水の中に何かいる!」
ミラの鋭い声の忠告とともに、ザパァ! と水柱を立ち昇らせながら大きな影が2つ飛び出した。
「ギャギャッ!」
「ゲッゲッゲ!」
身長2メートルを超えるだろう大柄なサハギンだ。厳めしい魚の顔、開いた口からはサメのような鋭い歯が覗いている。
ぬめる体表から水を滴らせ、いかにもな笑い声を上げながら、手に持った太いモリを構えてこちらへにじり寄ってくる。
「あの体格で、さらに槍か……厄介ね」
「私が前に出て牽制するよ」
ここは広々としているので、剣を振り回すのにも不自由しない。
相手の槍より倍以上長く伸ばした魔力の刃を振りかぶり……
閃光のように蒼い帯が迫る。
咄嗟に横に跳んだ。
(ウォーターカッター!)
高圧水流を飛ばす魔法を槍の先端から出してきたようだ。
2人目のサハギンも避けたケティを狙っていたので、横っ飛びで低くなった姿勢から魔力の刃で穂先を弾いて狙いを上に反らした。
半端な間合いは不利と判断し、ケティが前へと跳ぶ。
槍の間合いの半歩外からコンパクトな斬撃を放った。
サハギンもケティから見て右に跳び、横薙ぎの斬撃を速度が乗り切る前に受ける。
その隙を突いてもう一匹のサハギンが槍を構えるも、ケティの後ろから飛んできたプチボムをぶつけられ、炎で体表をあぶられた。
「ギギィッ」
苦悶の声を上げる後衛サハギンをケティが魔力の槍で突く。
前衛サハギンは察知して止めようとする。
腕での突きに加え神速の伸長による魔力の槍が後衛サハギンの喉元に突き刺さった。
一歩遅れて、高圧水流が魔力の槍にぶち当てられて強く弾かれる。
「ギギャァァァ!!」
だが、刺さったままで弾かれてしまったので後衛サハギンの首の肉を大きく割いてしまっていた。
前衛サハギンが、後衛サハギンの首から噴き出す蒼い血を見た一瞬の隙にケティは魔力の槍を戻し、刃渡りが短い分切れ味の良い魔力の刃を形成する。
突きで伸ばした腕を戻すと同時に身体を前に進め、素早く刃を振りかぶると振り返った前衛サハギンに上段から切りつけた。
「ギッ……!」
間一髪のところで魔力の刃は防がれてしまったが、咄嗟のガードで体勢は崩れている。
ケティは相手が持ち直す前に力押しで下に押し付け、刃から逃れるべく前衛サハギンは膝をつく。
後衛サハギンは首を抑えながら槍を突き出そうとするが、ミラの鞭が脳天をしたたかに打ち据えて頭を陥没させ、そのまま魔力にほどけ消えていった。
残ったサハギンも動けないところをミラに思い切り攻撃され、ガードできなくなったところをケティに切り裂かれる。
「ふう……2体同時とはね。その分脆かったけど」
「そうね。あの水の魔術を連発されたら、もっと厄介だったわ」
速さと鋭さを兼ねた槍と水流を生かされていたら、もしかして初の全滅もあったかもしれないが……
「でも、ボスの魔物も仲間を気にしたりするんだねえ」
「意外と珍しくもないのよ? ただの獣ならまだしも、人型で知能も高いと仲間の死に動揺もするわ」
ふぅん、と呟きつつ、ケティはボスが消えた所に近寄った。
「おお……」
そこには、柄に銀細工の施された美しい槍……と、ドレスのように美しい軽装鎧が落ちている。
槍は放置して鎧を拾い上げる。
乳の下半分と胴回りを覆う金属部分のおかげで鎧だと分かるが、それ以外は絹のように光沢のある美しい布のようだ。
深い蒼から明るい水色まで、青のグラデーションで統一されている。
だが、残念ながら上半身の鎧だけのようだ。
「うーん、ボスにもシリーズ装備があるんだ。3日に1度しか倒せないのに」
布の部分を広げて着用したところを想像すると、水流を表現したかのようなヒラヒラした装飾のある、姫騎士のごとき流麗なデザインだ。
エロ専用みたいな踊り子や娼婦服、バニーみたいなのも良いがファンタジックな戦闘用衣装も良い。
名目上はエロ用ではない装備でセックスするというのも趣がある。
「後で定期的に狩りたいなあ」
「この槍もかなり良さそうね。売ったら高値が付きそう」
言われてようやく槍もみると、確かに綺麗な銀の槍だ。
穂先まで一体成型で、持ってみると恐らく中まで金属が詰まっているにもかかわらず軽い。
振ってみるとしなりはするが、軽く床を叩いた感じでは結構丈夫そうだ。
蛇女からドロップした槍より短く、魔力の通りはとてもスムーズ……どころか込めた魔力以上の力で魔力の槍を展開出来ている。
「お、すごい。魔力が増幅されてる?」
「……それ、相当な名品ね。冒険者の中でも上位の人たちが持つようなものよ」
真顔になったミラが槍をじっと覗き込む。
ミラが言うからにはそうなのだろうが、それにしても随分と早く上の方の人が持つようなものが出てきてしまった。
「エロダンジョンで割とすぐ出てくるものでも、現代じゃ貴重品かあ」
「古代の技術は、ほとんど失われたっていうし……本当に穴場なのね、このダンジョンは」
「でも、修練ダンジョン? っていうやつもどこかにはあるんでしょ?」
貴重なドロップアイテムをしまうべく、登り階段の鞄を回収しながら雑談した。
「多分ね。でも、少なくとも現役の時に聞いたことはなかったわ。トップクラスの冒険者たちは貴族とつながりを持って武器を調達している、みたいな話はあったから、多分そのダンジョン産だったのでしょうね」
「なるほどねえ。そうすると、エロダンジョンも潜る価値はかなりあるってワケか」
本来であれば貴族の権力が必要な装備が、自力で、割と簡単に手に入るとなれば……勧誘話のとっかかりとしては十分すぎるだろう。
「あ、もしかしてエロダンジョンで貴重なものが出るってばれたら貴族がここを独占しちゃう?」
「ううん……どうかしら。ギルドと提携している時点で、もう知ってると思うのよね。それに貴族が支配する
「えっ、そうなの?」
そういう土地の事情について、普通に世間知らずのケティはもう少し詳しく話を聞いておいた。
ミラの夫と息子は迷宮騎士という職業で、これは世界中でダンジョン出現の予兆をつかみ、魔界からの侵略の初動を防ぐという役割を担っている。
だからこそ全世界で歩調を合わせる必要があり、そのためには貴族が領地を支配するという旧態依然とした形式が邪魔だった。
各地を結ぶワープ装置を整備し、迷宮騎士の仕組みを整備するには統合政府という形で全世界を統一して管理する必要があったわけだ。
「なるほどねー。でも、そこまでしても貴族が残っているという事は……」
「ええ、貴族の領地に、修練ダンジョンなんかの貴重な古代遺跡が残っているのでしょうね」
世界の仕組みを垣間見て、ケティはほむほむと納得しながらワープ装置を起動させて1階に戻るのだった。
40階でボスサハギンを倒したことだし、さすがに疲れたので今日の探索は止めになった。
ギルドにドロップアイテムをすべて見せに行ったのだが、いつものピチピチ神父服を着たエッチなお兄さんもこの内容には真顔になった。
「これは……どのような経緯で手に入れられましたか?」
ギルドに来る前にミラと軽く相談したのだが、正直に報告した方が良いという。
冒険者にとってはギルドにドロップアイテムを報告すること自体が義務なので、黙っていた所で大っぴらに装備を使う事が出来ないし、経緯だけ黙秘してもエロダンジョンで手に入った事は隠せていないからだ。
そういう訳で40階のボスサハギンを倒したらドロップしたことを話す。
「……ご協力ありがとうございます。こちら、些少ですが情報提供料となります」
ギルドも当然、冒険者側の情報を一方的に搾取することはしない。
搾取すれば冒険者側も嘘をついたり商品を闇に流したりで対抗すると考えられ、長い目で見れば明らかに損だからだ。
もちろん、すでに長い歴史がありダンジョン探索で目新しいものが出るという事がほとんど無いので、情報料と言っても総額は知れているというのも大きいだろう。
ケティは受け取った革袋のずっしりとした重みを感じながら、
(これでエロダンジョンに人が増えるといいなー)
と思っていた。