デカパイエルフに産まれたからにはエッチな目に逢いに行く。 作:伊倉米磁
北東のサブゲートと言っても、歴史あるラザロのダンジョンには小さな出入り口は無数にある。
小さく分かりにくい洞穴は大抵魔物の巣になっているので、定期的に問答無用で入口から炎を流し込み付近の生き物を死滅させるため、冒険者はまず使わない。
朝からゾロゾロと他の冒険者たちが出入りしている、まさに北東のサブゲートと呼ばれる大きな洞窟に入っていく。
ケティは魔法で暗闇に照明を作ることが出来るが、壁や天井には薄く発光する苔が生えているので必要ない位だった。
空気苔も完備されて息苦しくもなく、人通りも多いのでモンスターと行き会う事もない。
とはいえ分岐を何回も繰り返すうちに他の人間の姿は無くなり、饐えた獣臭が漂い始めた。
「お、ようやくモンスターとかが出るかな?」
「ずいぶん深くまで人が多く歩いてるのね。これがサブであと3つのサブとメインまであるなんて……大きいダンジョンには本当に人が多いわ」
「んへへ、エロダンジョンにスカウトする相手が多くてありがたいね。ミラ、目的地まであとどのくらい?」
ケティが頭上に照明を出し、昼間のような明るさでミラが地図を読む。
「今この分岐だから……あと1時間位歩くわね」
「下り坂とはいえ、横にもそんな広いんだねえ」
発光苔があるとはいえ、ここはもう魔物の巣だ。
ケティは臨戦態勢として頭上の照明を天井付近に持ち上げて光量を上げ、魔力をガス状に放散して動体反応を探りながら進む。
ミラもケティのこうした技量は師匠ゆずりの真面目なものだと良くわかっているので、信頼してケティの反対方向に視線を向けて探りながら付いて行った。
途切れることなく魔法を使い続け、1時間後には地図の場所に到着する。
「ここだよね?」
「ええ。まあ目撃証言が多いって話だから、付近一帯って事だけど」
耳を澄ませても、こちらを伺うような獣の気配しか感じない。
「よし、じゃあここは……」
ケティが手のひらを地面に水平に向けると、そこからピンク色の液体がドプドプと溢れ出る。
「それは何を?」
ミラに見せたことが無かったので首を傾げている。
「これもガスにするのと同じような感じかな。魔力のまま液体にして、地面にしみこませるの」
粘液だからかと思ったが、液体は地面に水たまりを作ってもケティの手のひらと繋がったままだ。
「……うん。地面が振動してる。近くを移動してる……」
「はあ。本当に何でもできるわね、ケティは。先輩として恥ずかしい位だわ」
「んへへ、師匠が良いから♪ さて、それじゃ……こういうのはどうかな?」
ニヤリと笑うと、ミラも足の裏に異常を感じ取った。
「ちょっとケティ? 何したの?」
「地面をぶわーっと振動させたんだよ。かなり煩いから、逃げるか、あるいは……」
ケティの視線が壁の方に向き、だんだんと床へ下がっていく。
ミラも察したので杖を構えてケティと1歩離れた。
「よし、私のとこから来るよ! 合わせて!」
ミラが銀の杖を掲げて集中を始め、ケティが突如飛びのくと、
「GUAAAAAAAAAAAAA!!!」
声というより筒の身体から放たれる息で全身が鳴動しているような音を立て、人間を丸のみ出来そうなミミズ型の魔物が床から飛び出した。
「ふっ!」
ミラの杖から細く伸びた魔力線が、先端でぶわっと膨らんで薄青いクッションのようにダンジョンワームの行く手を阻む。
ずぶ、と円筒の口に沿って生えた牙がクッションに突き立てられるが、反対側の壁に押し付けられても辛うじて持ちこたえ、一瞬ダンジョンワームの動きが完全に止まる。
「そぉい!」
ケティが掛け声とともに魔力の刃を振り下ろすと、人間の亀頭のようになったダンジョンワームの頭からすぐの所を輪切りにした。
ブシャ、と緑の血が噴き出し、辺りに生臭い血の臭いが充満する。
「はあ、エロダンジョンと違って、普通の魔物は切ると臭いんだよね」
「当たり前です。さあ、早く血抜きするわよ」
天井にケティが作ったくさびを打ち込み、丈夫な紐を通してダンジョンワームの死骸を吊るす。
尻尾も先端部分を輪切りにして両方から血を出した。
ダンジョンワームは長さもなかなかあり、ケティとミラを一飲みする事さえできそうだ。
「エロダンジョンのボスゴーレムとかも丸のみにしてくるけど、こういうワームこそ王道だよね」
「そんな王道はありませんっ。普通に消化されて死ぬだけでしょ」
エロ同人RPGの世界であれば飲み込まれた先で精液のプールに沈められたり触手責めにされたり、あるいは単純に全身を揉みくちゃにされて気持ちよくなったりするのだが。
悲しいかな、エロダンジョンの外の現実は捕食行動に快楽を伴ってはいないようだった。
「はあ、ヤられてもエッチな事がないなら、さっさと終わらせよ」
「その心がけ自体は褒められるんだけどね」
ダンジョン内で血の臭いを濃くし過ぎると面倒なので、ミラが魔法で床の土砂をめくって血を埋めていく。
血を抜き終わったら何とかとぐろを巻くように畳んでミラが背負う。
誘引行動が出来ない冒険者たちにはレアな魔物だがケティにとっては狩りやすいダンジョンワームは、こうして規定の3匹サクサク狩られてしまった。
むしろ大変なのは運搬だ。
ミラとケティが1匹ずつ背負い、そして2人に跨るようにもう1匹を背中に載せて来た道を1時間以上も入口まで歩かねばならない。
血の臭いに誘われた魔物がダンジョンワームを齧ろうと近寄ってくるのを感じていた。
カサカサ……とごく静かな足音に、ケティが背中の荷物を背負いなおして高さを確保する。
「よっ!」
バレエのように後ろに片足を伸ばし、爪先からピンク色の魔力の刃を生やして近づいてきた魔物……ラージラットというケティの上半身位ある大きなネズミの脳天を突き刺した。
ダンジョンに住まう割には臆病なケモノ達だが、こうして隙を見せると途端に襲い掛かってくる。
もっとも、ケティ達よりもラージラットの新鮮な死骸の方にまず群がって行くため暫くは距離を稼げる。
「上! 炸裂行くわよ!」
ミラの鋭い声と共に、天井が高くなった場所に潜んでいた大きなコウモリ……こちらは灰羽コウモリと呼ばれる魔物が何匹も群れでダンジョンワームの死骸に殺到する。
しかしミラがそっと前に伸ばした爪先に野球ボール大の淡く光る魔力球が現れ、足首だけで天井付近までリフティングするとパァン! と閃光と轟音を立てて破裂した。
「ギィィィィ!!!」
耳を聾する不快な鳴き声が響き飛行が乱れる。
ケティが頭上に伸ばした魔力線の先にある照明球、そこからさらに魔力の刃を針のように伸ばして1匹の胴を刺して墜落させると、新しい餌は暗闇の中に引きずり込まれてボリボリと貪られた。
ダンジョンワームがずり落ちないように気を付けながら、とにかく足早にその場を立ち去る。
そんな事を何回か繰り返すと、ようやく他の冒険者たちがうろつく領域へと戻って来れた。
「油断しないでね、ケティ。獲物を盗むとかとりあえず傷つけて嫌がらせする人が居ないとは限らないから」
全く気を緩めていないミラの声に、うんと返事をする。
ただ、別の意味で多くの冒険者たちがチラチラと視線を向けてくるのは必然だった。
ダンジョンワームを背負うケティは流水の鎧に包まれた長乳をユサユサ揺らし、ミラの美巨乳も前かがみでよく見える。
時折からかうように口笛が響き、ケティは吹いた男にニッコリと笑顔を返していた。
北東のサブゲート脇に拵えられたギルドの検品所にたどり着くまで、周囲を警戒しながら歩くのだった。