デカパイエルフに産まれたからにはエッチな目に逢いに行く。 作:伊倉米磁
「……おいおい、お前こんなところで……」
あまりのカミングアウトに、オルガさえもポカンと口を開けて目をしばたかせていた。
ヴィオラはその後ろでクスクスと密やかに笑っているが、すぐに『大丈夫なの?』という苦笑に変わる。
仕事の成果を認められ、上位冒険者一歩手前、『普通の冒険者』としては最高位の緑等級になったので、ケティは本性を現していく事にした。
「っはぁ……お前が変態女であってもな、あんまり大っぴらにやられちゃ困るぞ。他の女冒険者が同じように見られたらどうすんだ」
「それを言うなら、コレクトネス・クルセイダースの皆さんと同じに見られちゃってセックスのチャンスを逃したらどうしてくれるんですか」
ピキ、とオルガのこめかみに青筋が浮く。
「アタシらは遊びでこんな事してんじゃねえんだよ、同じ女として被害を減らそうとしてんだ」
「好きな付き合い方が出来ないのは私の被害です」
オルガとケティは睨み合ったまま周囲に緊張が満ち、ヴィオラとミラがはらはらと止めるかどうか迷っている。
「っっっしゃ!!!」
突如オルガが大声を出したので、周囲はついに殴り合いかと息をのんだ。
「こうしようぜ。ちょうどよく大物の討伐依頼が出てる。どっちが早く狩れるか勝負だ。ウチが勝ったらこの町で男漁りは辞めてもらう」
「私が勝ったら? 自由にするだけじゃ勝負する意味ないですよね?」
「当然、今後は文句言わねえし……アタシがお前の言う事を何でも聞いてやるよ。ま、後腐れのない奴で頼むわ」
青とはいえ、上位冒険者から格下の緑冒険者への勝負だが。
常識的には若い女に男漁りを辞めさせるのは無茶な話でも何でもないため、周囲も非常識な条件とはみなしていないようだ。
「良いですよ♥ 楽しみだなー♥」
ケティが勝ってオルガとセックスするつもりかとミラは思ったが、言葉でどうこう出来るとは思えずおさげで口元を隠した。
「んじゃ、これを受けるぜ! 良いよな、受付さんよ!」
いきなり大声で話を振られたギルド受付嬢は、それでもすぐに気を取り直した。
「えっ!? こほん……当事者間の問題には関知いたしません。『ガンバンジー』討伐は検品所に仕留めた魔物を早く持ち込んだ方が完了となります」
また知らない名前なのでミラを振り返ると、微かに頷いたので後で教えてもらう事にする。
「調べものもあるだろうから……正午に北東のサブゲート集合だ。そっからよーいドンだな」
ちゃんとオルガも配慮してくれているので、特に問題なくケティも頷いた。
「オラっ! 散れ散れ! 見せもんじゃねえぞ!」
とチンピラみたいな事を言って、周囲の男冒険者を散らしつつオルガとヴィオラは去って行った。
「んっふっふ、ようやくチャンスが回って来たね、ミラ♥」
「まあ、いつかはこうなる気がしてたわ……」
もはや諦めの境地という感じのミラだが、周囲の男たちが全員自分たちを好色な目で見ているのを感じ顔を赤くしていた。
「あっ、今忙しいから、また暇な時に声かけてくださいねっ♥」
ケティが普段より3割増しに媚びた甘ったるい声で周囲の男に愛想を振りまき、身じろぎで乳をぷるんぷるんと揺らす。
本当にヤれる女だと理解した周囲の視線が刺さるように降り注ぐ中、ミラの手を取ってルンルンとギルドの資料室へと歩いて行った。
ミラと図鑑の知識を併せ、ガンバンジー対策を練る。
「といっても、奇策を使ってくるような魔物ではないわ。大きくて硬くて速くて力が強い猿ね」
大物と言われるだけあって、ガンバンジーはなかなかの強敵らしかった。
まず容姿は体高3メートルはある巨大チンパンジー。
前腕は長く、ダンジョンの床や壁の岩を砕いて投擲もしてくる。
全身が丈夫な皮と、それを覆う岩のような鎧に覆われている。
依頼書によれば、そろそろ次世代のガンバンジーが育ち、縄張りを拡張しそうな動きがあるため狩ってくれとのこと。3匹までは報酬が出る。
「手先が器用だから鎧を作ってるって事?」
「いいえ……詳しく知らなかったけど、ダンジョンワームなんかの糞を食べて取り込んだ金属を全身から分泌して皮膚のように鎧を代謝すると書いてあるわね」
侵攻のためだけあって、ダンジョンにいる生き物はちゃんと組み合わせみたいなものは考えているらしい。
「ん-、でもまあ、ゴーレムも斬れたしその位なら行けるかも」
「そうね、ケティなら……でも、エロダンジョンの方のあの猿よりも素早いし、戦い方も洗練されてるから油断しないでね」
まあその辺りもエロダンジョンはガチではないという所か。
全500階のうちのたった21階にいる猿だし、そこまで強くても困ってしまう。
「それで結局、分かりやすい弱点とかはないんだね」
「そういう事ね。腕試しには相応しい相手よ」
図鑑には目撃地点のまとめなんかも書かれているが……
「これって……ねえ、ミラ」
見ていて思った事をミラに伝えた。
「あー……そうね。通じると思う」
「じゃあ、考えておくこととしてはさ……」
そうして、昼までの時間で勝負に勝つ方法を探るのだった。
勝負前にお腹いっぱい食べてもいられないので果物屋でバナナを買って食べ、北東のサブゲート前に行く。
そこにはもう人だかりが出来ていた。
「CCのリーダーオルガと、スキモノ美少女の対決だあ! 今ならスケベ女に賭ければ3倍帰ってくるぜ!」
「ギャハハ! それじゃどっちか分かんねーよ!」
当然のように賭けの対象になっている。
ケティは自分で言って回らなくてもスケベ女であることを広めてくれる胴元に感謝しつつ、腕を組んで仁王立ちで待っているオルガにニコニコ顔で近づいた。
周りの男冒険者はスケベな目で舐めまわすような視線を向け、CCの若手たちは睨みつけてくる。
その後ろで苦い顔をしている女たちはCCの古参なのだろう。
オルガの隣に立っているヴィオラの方が先に気づき、こちらに挨拶してくる。
先日より軽装のアンもそれで気づいて、ケティにぺこりと頭を下げた。
「こんにちは、ケティ。はぁ……だから挑発しないでって言ったのに」
「んへへ、すみません。まあせっかくだから胸を借りさせて貰いますね♪」
こんな時も調子を崩さないケティに、ヴィオラも緊張が抜けて笑顔になる。
「私は今回審判として手は出さないわ。貴女達の実力、楽しみにしてるわね」
そう言ってケティの肩をぽんと叩くと、アンと一緒に数歩前に行って振り返る。
「今回はオルガ対ケティとミラの2人組の勝負。標的を検品所に持ち込んだのが早い方が勝ち。
増えたから狩って欲しいって依頼だから、問題なく複数居るはずよ。
一応念押ししておくわね。勝負だからって互いの足を引っ張って傷つけるなんてのは論外よ。
お互いを狙って攻撃するとか、わざと魔物をけしかけるとか……その時点で反則負けにするから」
「私はケティとミラに、ヴィオラはオルガについて、反則とかを見張る。
時計もちゃんと持ってるから、反則の時間も分かる。
あと、皆に声かけたから今はガンバンジーの居場所まで人は居ないはず」
ヴィオラとアンから、勝負における注意事項が告げられる。
物見高く娯楽に飢えている冒険者達は、仕事など放りだして勝負を鑑賞することに決めたようだ。
「ああ、それでいい」
「分かりました」
審判役の2人がそれぞれの横に付き、時計を合わせる。
「まだ正午じゃないけど……もう初めて良いわよね?」
ケティとオルガが頷くと、ヴィオラが時計を見ながら声を上げた。
「3カウントで始めるわよ。3、2、1、スタート!」