デカパイエルフに産まれたからにはエッチな目に逢いに行く。 作:伊倉米磁
◆◇◆◇ベルナデット◆◇◆◇
「早く処分しろ! 死にたいのか!」
薄暗い資料室で幹部と共に裏帳簿をどんどん切り刻み、処理を続ける。
媚薬の輸出その他もろもろの証拠はごく一部の人間だけで管理していたため、それだけで一苦労だ。
偉い人はいつどんな我が儘を言いだすか分からなかったから、リスク承知で『現物』も幾つか持っていたのが災いした。
ギルドがローパー養殖現場を押さえたと聞いた時は完全に終わったと思ったが、まだ踏み込んで来ないという事は輸出の詳細は掴んでいない。
ここでシラを切ればどうにか首が繋がるはずだ。
(それにしても、ペットの雌犬のトイレの躾けがなってないせいで死ぬ目を見るとはね……)
ギルドに潜り込ませていたスパイから聞いたが、本当に笑えない冗談だ。
切り抜けたとしても確実に広告塔を失う……ウチのせいじゃないという話が通れば、女冒険者支援の名誉だけは守れるかもしれない。
灰からも辿れないように切り刻み、薬品でインクと筆跡を溶かす。
薬品は後でさらにバレないように処理しなければならないが、とにかくシラを切る材料だけは整えねばならない。
媚薬処理は専門知識が必要なので、あちらもヘマをしていないと良いが。
「商会長ベルナデット! 禁制品の取引により連行する! そこに居るのは分かっているぞ! 貴様は完全に包囲されている!」
やはり……一縷の望みなど最初から無かったらしい。
「クソッ!」
ギルドもバカではない。やると言ったら必ずやる。
そしてここで捕まれば、確実に私は『あの方』の手の者に始末される。
それも、並々ならぬ苦痛を受けたうえで。
「…………」
「しょ、商会長! ど、どうすれば……!」
「う、ウワァァァ! 俺は逃げるぞ!」
本来なら止めなければならないが。もうどうでも良かった。
「逃げて苦痛と共に暗殺されるか、ここで焼け死ぬか……選びな」
いうが早いか、裏にかかわる数人の幹部たちはみな逃げていく。
女だてらに、一代で大都市のそこそこ影響力のある商会長。
上出来な人生と他人は言うかもしれないが。
「クソ、クソクソ……! ああ! クソッたれ!」
もっともっと。のし上がりたかった。誰にも見下される事のない高みへ至りたかった。
若いころに味わった屈辱の数々がどうのこうの、もう思い出す気にもならないが。
「フン……駄犬の飼い主として、糞の後始末くらいはしておこうか……」
懐からオイルライターを取り出し、最終手段である焼却用の仕掛けに点火する。
これで何もかも燃える。
あの方との取引の痕跡も、オルガが貴族に元クランメンバーを売った風にウチの人身売買を脚色してあった帳簿も。
いざというときに雌犬に罪を擦り付けられるようにと準備しておいたんだが……サービスにこれも切り刻んで薬品に沈める。
「ハッ、最後の最後で世話を焼いてやるなんて、私も大した善人だね」
答える奴はもう誰もいない。
ギルドは既に屋敷へ踏み込んでいるようだが、もう遅い。
あっという間に部屋中を炎が包み、棚も帳簿も、私の体も燃え行く。
苦痛にのたうち回りながら……思い切りこの世に呪詛をまき散らしながら……腹立たしい生を終えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ケティちゅわん……♥」
とりあえずイかせてみてから、ステイシーはケティに良く懐いた。
「あー……好き……♥」
「うんうん、ありがとうね♥」
なんだかさっきと全く違って眼もキラキラしているし、多分良い事なのでケティも裸で抱き合ったまま頭を撫でてあげる。
「それで、もうちょっと話を聞いて良い?」
「はいっ♥ なんでも聞いてください♥」
「えっと……ステイシーはオルガとかの様子は知ってる?」
「うーん、私は一日中引きこもってたんで顔も合わせてないですけど、そのぉ……聞こえてくるんですよね。オナニーの声が」
病院で身体の洗浄はしてもらったが……やはり後遺症はあるらしい。
オルガは特にイき声が大きいから分かってしまうとか。
こういうのは確かに病院の人間に見られるより自宅で発散したほうがマシだろうが……
そこに鬱が混じると余計悪化しそうだ。
「うーん、やっぱりちょっと強引でも顔を見た方が良いかなあ」
「……ええ、そう思います。それに、リーダーは……知らなきゃいけない、と思います。メンバーの状況を……」
ステイシーの顔が曇る。
「そういえば、外に出てる人もいるんだよね?」
「はい。私も買い出しに行った帰りにチラッと見たんですが……」
以前はあれほど高慢だった子が、男になれなれしく肩を抱かれて顔を赤くしていたという。
「身体が疼いた所に色々ヤられちゃったのかも……私が言えれば良いんですけど、前からクランで同期とは仲良くなかったんで……」
ステイシーの見たものと、さっき会った時の嫌そうな顔で招き入れてくれた態度が違和感なく合わさる。
「あの子も、私に助けを求めてたのかもね。……ゴメンねステイシー。そろそろ行かなきゃ」
「うう……名残惜しいですけど、リーダー達をお願いします、ケティちゃん」
いじらしくケティの指先を摘まんで目を潤ませるステイシーに、ケティが囁く。
「大丈夫? もう一度おっぱい吸う?」
「おんぎゃ♥」
10秒チュウチュウ吸う位でステイシーは我慢してくれた。
「ここがリーダーの部屋です。多分中に居ると思います」
キリッとした顔で2階のオルガの部屋まで案内してくれたステイシーが去ると、ケティとミラはドアをノックする。
「オルガー! お見舞いにきたよー!」
待ってみるが、辺りは静まり返っている。
他の人から行った方が良いかと思い始めたころ、ドアが開いた。
「……よぉ……」
目の下にはクマが出来、唇もカサカサのひどい顔をしたオルガだった。
「大丈夫? ちゃんと食べないと身体に悪いよ?」
「あぁ……なんか食欲無いんだ……」
相当重症らしいオルガに、ケティとミラは目を見合わせて再び役割分担する事にした。
「その様子じゃ部屋も散らかってるよね? 片づけてあげる」
「いや……いいって……」
嫌がりはしているが、力が弱すぎる。
ミラは足音を殺してその場を離れ、ケティはオルガの部屋に押し入った。
部屋の中は濃厚なマン臭がして、ベッドには大きな染みがついて黄ばんでさえいた。
「おっ、ゴブリンバイブにローパーバイブ。使ってくれたんだ♥」
エロダンジョンのドロップであるバイブ達はよく使い込まれたようで、愛液を吸って媚薬にする機能の名残である艶やかな表面はケティの見覚えのあるソレだった。
「ハッ……笑えよ……こんな時に引きこもってマンズリこいてるアタシをよ……」
「私は何かあっても無くても毎日この位オナニーするよ」
「……お前はそういう奴だったな……」
自嘲する気力も無くなったのか、オルガがどっかりと椅子に座る。
ケティも机を挟んで向かい合って座り、しばらく部屋に無音が満ちた。
「分かってんだよ……今こそしっかりしなきゃって……でも……皆をこんな目に遭わせて、今更……」
「私はステイシーに案内してもらってここに来たの」
オルガの手が、ギュッと握られる。
「それに、その前に会った金髪ロングの人も嫌そうだったけど家に入れてくれたよ。皆、オルガを頼ってるんだよ」
「アタシだって……怖い。外に出るのは嫌だよ。世の中、ろくでもない事ばっかりだ」
「でもオナニーは気持ちいいから激しくするんでしょ?」
「ぐっ……!」
「1階のステイシーが言ってたよ、オルガのオナニーの声がおっきいって。多分外を歩いてる人にも聞こえたんじゃない?」
「おぉい!? そんなにデカかったか!?」
耐えきれずにオルガが涙目でケティを睨んでくる。
「だったらなおさら、2度と表歩けねえよ……!」
「大丈夫だって、私も救助隊の冒険者の前でローパーとセックスして、その後救助隊の皆ともセックスしてるから」
「お前も何やってんだよ!?」
疲労困憊で叫んだオルガが、フラつきながら頭を抱える。
「ああ、くそ……腹減ってるんだからデカい声出させんな……」
「あ、お腹空いた? ミラ、入って来て」
集中力が落ちたオルガは気づかなかったようだが、ミラは少し前からケティに見える位置で様子を伺っていた。
「お邪魔します。さ、オルガさん。簡単だけどホットミルクとパンとジャムを持ってきたわ」
オルガは無言で、鼻をすすりながら飲んで食べた。
食べ終わる頃には少し顔に生気が戻って来ていた。
「すまねえ、お前ら……」
「その言葉は私たちよりクランメンバーに言ってあげて」
ミラは微笑みながらそう言うと、食器をまとめてから部屋を掃除し始める。
「い、いや、後で自分でやるから」
さすがにオナニー三昧の痕跡を弄られるのは居たたまれないのかオルガが狼狽え始めるが、ケティは伸ばしたその手を取った。
「それよりクランの若い子が大変みたいだから、今から行ってあげて欲しいの」
ステイシーから聞いた外の噂話と、クランメンバーが外で男とセックスしているかもしれない話をする。
「なん……っだと!? ふざけやがって……!」
一瞬にしてオルガの目にギラついた光が戻り、力強く立ち上がった。
「長い金髪で若手? 誰だ……?」
「ビール飲んでるポスターに写ってた子だと思う。今は部屋にいると思うよ」
ケティの言葉で特定できたのか、オルガが外へすっ飛んでいく。
2階の廊下にまで騒ぐ声が聴こえてきたので、きっともう大丈夫だろうとミラと微笑みあった。
「私は掃除と洗濯をするから、ケティは他の人に会いに行ってきて」
ミラの言葉通り、次はヴィオラに会いに行く。
「あー、ケティ? いらっしゃーい♪」
あっけなくドアを開けてくれたのは、赤ら顔で酒ビンを持ったヴィオラだった。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないわよ、まったく。まあ立ち話もなんだから入ってよ」
ヴィオラの部屋は一応普通だった。床に転がる酒瓶以外は。
「ええと……若い子が外で……」
「あー、ヤりに行ってるんでしょ? ……まあ良いんじゃない? 身体が疼くのも分かるしさ」
どぽぽ、とコップに酒を注ぎ、また飲み干す。
「ま、直接の責任は無いだろうけど……大分自業自得なとこあるし。オルガみたいに助けなきゃーなんて思わないわよ、今更」
酒臭い吐息と共に吐き捨てるように言い、また飲む。
「私も、もうこの町じゃ宣伝の仕事なんか来ないわね……いや、娼館の宣伝とかならあるかも?」
そこまでやるつもりはないけど、とケラケラ笑う。
「ヴィオラは……このクランに思い入れはないの?」
「思い入れ、か。どっかで聞いてるかもしれないけど、10年前同じ日にレイプされて泣いて帰ったオルガとアンと私が、なんとなく一緒に居ただけの事よ。こうなっちゃもう誰もラザロに残ろうなんて思わないだろうし、クランも自然に消滅して終わりでしょ」
――そんなこと言うなよ! アタシは! そんなお前らを守りたいんだよ!
ちょうどドアの向こうからオルガの声が聞こえてくる。
「オルガはそう思ってないみたいだよ」
ケティが言うと、ヴィオラは苦笑した。