デカパイエルフに産まれたからにはエッチな目に逢いに行く。 作:伊倉米磁
「うおおおおお……!」
ケティシュはアーモンド型のパッチリした目を見開いて、感動に打ち震えていた。
「あれが……エロダンジョンの入り口……!」
遠目に見える、ちっぽけな洞窟と思しき黒い点。
それがエロダンジョンの入り口であると、渋るギルド職員から聞き出したケティシュは速攻で向かった。
山道は幾重にもつづら折りになったなだらかなもので、ちゃんと道が整備されている所に町で聞いた「稼ぎが良い」という言葉の信憑性を感じる。
もっとも、つづら折りになっている部分を足裏と背中から風を出す事で飛んで超えてきたので10分程度の道のりだった。
ここまで誰にも会っていないのは、人気がないのか日中は仕事をしているからなのか……そんな事はどうでもいいとばかり、キョロキョロと近くにあるはずのギルドの建物を探す。
「あった!」
飛んで近づいていくと、ダンジョン入り口の近くは平地になっておりギルドの建物もそこに建っていた。
風を切って墜落し、また足を前に出して腰の裏と足から風を吹かす事で砂利を撒き散らしながら軟着陸する。
だだだ、と駆け寄って、ちゃんとしたドアを開けて中に入った。
「ここのダンジョンに入りたいんですけど良いでしょうか!」
ケティシュの声が建物の中に響くが、職員が見当たらない。冒険者も居ない。
ややあって、パタパタと足音がしてカウンター向こうのドアが開いた。
「はいはい、何か呼びましたか?」
出てきたのは、金糸のような髪を腰まで伸ばし、シスターや牧師服を思わせる身体にピッタリ張り付く服を着た、美しい人だった。
目鼻立ちのスッと通った、金髪碧眼の美人。
(男の人……?)
声を聞いても、低く落ち着いた感じの優しい声という感じで性別が曖昧にしか分からない。
多分肩の骨格や喉元から男だろう……と思っても、色気をひしひしと感じる。
「あ、えと、この近くにあるダンジョンに入ろうと思って」
「え? 貴女が?」
口を半開きにしてそっと指先で抑える女性のような仕草も、とてもしっくりと来ていた。
「ダメ、でしょうか?」
「ああ、いえ、そんな事はありませんけど……ええと……あのダンジョンの事はご存知でしょうか?」
「男の人がお尻の穴を掘られたりするという話は聞きました」
エロダンジョンについにたどり着いたため、ケティシュも今までのような猫かぶりを止め始めていた。
美少女の顔から繰り出される何気ない下品な話題に、受付の美人さんのほうが白い頬を赤らめてしまう。
「は、ハイ、その通りで……特に女性ですと、その、そういう目に遭う、ダンジョンでして……貴女のようなお美しい方は止めておいたほうが良いかな、なんて……」
「やめるなんてとんでもない! ここに来るために旅に出たんです、私は!」
つい倒置法まで使って勢い込んでカウンターに身を乗り出し熱弁してしまった事に気づいたケティシュが、姿勢を正して咳払いする。
「それで、誰でも入って良いんですよね?」
「ええ。大丈夫です。ただ、冒険者の規則にある『検品の義務』はこの建物で済ませてください」
ケティシュは冒険者の冊子に書いてあった説明を思い出した。
ダンジョン内で得た物品は、必ず一度ギルドの査定を経る事。それを『検品の義務』と呼んでいる。
師匠によれば、危険な植物や魔法の道具の所在を把握するためらしい。
さらに冒険者はギルドにしかその物品を売ることが許されない。ギルド提携の武具店で装備に加工してもらうために持ち込むことが出来る程度だ。
売値の2割はギルドに持っていかれる。と言ってもギルドもまた所属する国に対し税を納めているのだろう。
そういう難しい事は薄っぺらい冊子には書かれていなかった。
「了解です! 他には何か注意点ありますか?」
目をキラキラさせて身を乗り出してくるケティシュに、受付さんがのけぞり気味になる。
「えっと、入り口で冒険者以外の人に話しかけられても無視して大丈夫です。あの、危なくなったら……体調が悪くなったりしたら、引き返してくださいね?」
受付さんはケティシュを心配そうに見つめながらも、自分の身体を抱くように腕を組み何かを堪えるようにゴクリと唾を飲んだ。
「はい、ご忠告ありがとうございます! じゃあ、行ってきます!」
色々と予想ができそうではあるが、もうケティシュの頭の中はエロダンジョンで一杯だったため、駆け出すようにギルドを飛び出した。
ギルドと洞窟がある、山の上のちょっとした広場を駆ける。
本当に単なる洞窟で、これがダンジョンの入り口なのかと頭の片隅で思いながら、とにかく突入する。
先が見通せないほどに暗いのかと思っていたが、単に入り口すぐで洞窟が曲がり道になっているだけだった。
「……え?」
エロダンジョンの入り口。そこにあったのは……
「お客様、ようこそいらっしゃいました! まずは当店の説明をお聞きください!!! お願いします!!!!」
黒く滑らかな石のような質感の建材。同じ材質の、床と一体化したカウンター。
そこに立っているのはカジノのディーラーのような、ベストを着たタイトスカートの巨乳美女だ。つやつやとしたスミレ色のボブカットが清潔感を醸し出している。
(エッチなお店の受付みたいだあ)
と、なんとなく思うが……顔の良さに反して必死さがすごい。
精一杯の営業スマイルなのに、今にも泣き顔になってしまいそうな気配を感じさせるから不思議だ。
どうしてそんなに必死なのかは分からないが、ケティシュにとっては渡りに船だった。
「えっと……ここは、エッチな事が起きるダンジョン、で合ってますか?」
ぱああっ、と謎の美女の笑顔が明るくなる。
「はいっ! その通りでございます! どなた様にも楽しんでいただける性の総合アミューズメント、それがこの『楽園への下り階段』なのでございます!」
思ったより洒落た名前が出てきて面食らっていると、受付美女は丁寧に腰を折ってケティシュに部屋の隅を手で示した。
「さあさあ、詳しくご説明致しますのでどうぞおかけになってください!」
にゅっ、と石の中からテーブルが浮き出てくる。
丸テーブルと一つのスツールだが、テーブルは円筒ではなく中央の細い足で天板を支えており、それなのに床には穴が全く開いていない。
(建材に魔法を? ギルドよりも更に技術力が桁違い……)
座ってみると、質感は石なのに低反発クッションのようなしっとりと吸い付く座り心地でケティシュの尻を楽しませてくれた。
「では早速ご説明させて頂きますね!」
対面に立ち、滔々と説明を始める美女。
とにかく話を追うことに集中し、ケティシュはエルフの尖った耳をぴくぴく揺らしながら聞き続けた。
(えっと……
・ここは想像通りのエッチなダンジョン
・入場無料だが気づかない程度に魔力を徴収される
・性的絶頂すると多く魔力を吸われる
・最深が地下500階ある本格派
・20階までは子供でも大丈夫な初心者区画
・それ以降は本物のダンジョンと遜色ないかそれ以上の難度で、プレイも激しくなる
・全階層において、致命傷や後遺症を負うことはない
・パーティの全員が倒れると入り口そばの部屋にワープする
・敵を倒して得た素材、装備は持ち帰り自由
・ただし、『エンチャント』の譲渡、持ち帰りは不可
・『エンチャント』とはダンジョン内でだけ適用される、身体を変化させる実体のない装備の事
・ダンジョンに入ると『ステータス画面』を開くことが出来、『エンチャント』の着脱が可能)
「『エンチャント』には、どういうものがあるんですか?」
なんとか情報を飲み下しつつ、ケティシュは内心かなり期待して質問した。
「そうですね、分かりやすいものを挙げると、『性器の性能が上がる』という感じですね。レアなものになると『少女の身体になる』ものとか、『筋骨隆々の大男になる』などがありますよ」
「身体に……なる?」
「はいっ! 当店は男性も女性も楽しめる施設でございますが……もう一方の性でも楽しみ尽くしたいという方に好評を頂いて……おりました」
最後が急に寂しそうになったが、ケティシュは驚きに目を丸くした。
「本当に性別ごと変えられるんですか!?」
「はい、もちろん! ただし、子供の身体であっても成長したりはしません。寿命が尽きる時まで子供のままです。人格は……脳ごと相応しく変わりますので、ホルモンバランスなどにより影響を受けはしますが、無理に変えられてしまうということはございません。あくまで自然に変わっていきます」
思ったよりかなりぶっ飛んでいる。あまりの隔絶した技術水準にケティシュは目をしばたいた。
「そんなに簡単に身体を変えられちゃうんですか?」
「簡単……というほどではございません。全身を換装するエンチャントはかなりのレアドロップですので。最近は2つしか見ておりませんね」
「ああ、やっぱりレアなんですね……じゃあ、それ以外はどんなものがありますか?」
ここは大事なので、早くエロダンジョンに行きたい所を頑張って我慢して質問した。
(ふむふむ……
・エンチャントというカテゴリ自体がレアドロップ。その中に更に等級がある
・メスガキボディ、サキュバスボディなど身体が全て変換されるものはレジェンダリー
・胸や舌や性器、子宮などの性感に関連する部位が変化するものはレア
・手足など直接性的でない部分が変化するものはアンコモン
・体臭や爪先、髪などファッションでしか無い部分はコモン
・装備品もそうだが、すべてのエンチャントには『スキル』が付属する
・ダンジョン深部で手に入る『エンチャントオーブ』を使う事でエンチャントを(所持スキルごと)自分の身体に上書きすることが出来、そうするとダンジョンを出ても効果が持続する)
・エンチャントを10個入手すると入り口近くの部屋で新たなシステムが開放される
「スキル? まさか……魔法とかを覚えられるんですか?」
「ええ、その通りでございます。『修練ダンジョン』にあるスキルはもちろん、当店オリジナルの性的スキルの数々が貴女を待っているのです!」
「し、修練ダンジョン?」
掘れば掘るほど情報が出てきて頭がパンクしそうになっているが……有用そうな情報なのでとにかく訊く。
「ええ。ご存知、ないのですね……」
受付の美女は少し寂しそうな顔をしたが、ニッコリと営業スマイルを浮かべて説明してくれた。
「修練ダンジョンとは、本物のダンジョンを模して人間が作り上げた戦闘技術者養成施設です。昔は沢山あったんですけどね……」
「どうして無くなってしまったんですか?」
「人間の文明は、1000年前に一度滅びたのです。当店はエロダンジョン最大手であり防衛機能も充実していましたのでシェルターを発動しましたが……その後1000年救助はなく、最近になってようやくお客様を迎える事が出来るようになった次第でして」
本当に、訊くほどにとんでもない情報が出てきてしまう。
(落ち着け……私はただ気持ちよくなりたいだけなんだ)
この我慢の時間も、最高の処女喪失の前フリだと言い聞かせ、受付の話に耳を傾けた。
「えっと、つまりこのお店の技術がすごく高度なのは……」
「はい。1000年前、人類が栄華を誇った時代の
そう言って胸を張る受付の顔は、とても誇らしげで……本当にこの店(?)を愛している事が伝わってくる。
「じゃあ、貴女は一体何者なんですか?」
「……お客様、私の身体に触れてみてください」
そう言ってテーブルの上に置かれた手を取ろうとして……すり抜けた。
「この身体は立体映像なのでございます。私は当店の管理AI、呼称は……『ナンナ』とお呼びください」
スミレ色のボブカットを揺らし、少し寂しそうに笑うベスト姿の巨乳美女は……正真正銘ダンジョンマスターだった。